第359話 3月後の風景 南国でバカンス
<<日本、暖かい海の上>>
燦々と降り注ぐ太陽。白い砂に青い海。
俺は、優雅に椅子に座り、釣り糸を垂らしながら、テレビ番組を視聴していた。
ここは、いつかのように、移動砦の出口に設えた特設平場だ。その移動砦には、水産庁の旗が掲げられている。魚釣りする大義名分だ。
『降りてきました。専用のリムジンから、マ国のイセ大使が降りてきました。見てください、あの美しい黒髪、そして角。信じられないことに、彼女には私達と同じ、日本人の血が流れています。このことは、医学的に証明されているそうです。そのことと関係はあるのでしょうか、彼女の国、マガツヒ・マガライヒ魔道王国が、異世界の国家でまず最初に外交関係を結んだのは、日本国だということになります・・・』
俺は椅子に深く腰掛けながら、テレビ音声を聞いて一言、「平和だねぇ」と、呟く。
「そうですね。でも、まあ直ぐに忙しくなると思います」と、エンパイアの勇者ランさんが、にこやかに返す。人がリラックスしているのに、身も蓋もないことを言う。ちなみに、彼も、釣り糸を垂らしている。
ただ、彼の横にはパソコンがあって、何やら大量のコードが移動砦の入り口から伸びている。
彼は俺より少し年上で、黒髪の短髪だから、よく俺に似ていると言われるが、自分的にはそんなに似ていないと思う。何故か彼は俺と気が合うと感じているらしく、こうしてよく遊びに来るのだ。だが、別世界の俺の遺言? 嫁の記憶によると、俺とこの人は混ぜるな危険とのことだ。
一度、俺とこの人の2人でC国と全面戦争をして、第2世界を滅ぼしかけたらしいからな。もちろん核戦争が勃発して。
だけど、一緒に魚釣りをするくらいは良いだろう。平和的だし。
『イセ大使が、首相官邸に入っていきます。これから、日魔友好条約が結ばれる見通しです。これで、我が国日本が、他国に先駆けて異世界の国家と友好条約を結ぶことになります。このことは、魔力と名付けられた未知のエネルギーを・・・』
テレビでは、バシッとしたスーツを着込んだイセとジニィが、首相官邸に入っていく所が映されていた。
俺は、横目でテレビを見ながら、「まあ、俺はそこまで忙しくならないと思っているけど」と返した。
逆に、
先日、彼らのレポートを読んだが、元気に活動しているらしい。さっそく、R国の要人の愛人らに、次々と病気をうつしているらしい。意外に優秀だ。今のミスターパーフェクトは、異世界産の病気も持っているらしいからな。ほぼ最強だ。そして、その異世界産の病気を治す薬は、異世界にしかないという・・・
マンタは日本で歌手デビューが決まったし、オヒョウは軽空母の守護神として、学生冒険者達と一緒に魔石ハント。
最年長で何かと器用なホヤは、徳済さんのサポートをするようになっている。徳済さんは、病院や製薬利権、社交界対策など、政治の裏側の仕事をこなすフィクサーみたいになっているらしい。ホヤは徳済さんの護衛兼執事として彼女について回っている。
日本人怪人の素子とレイは、ほぼ
マダコだけが、俺の護衛として付いている。ツツがマ国のジマー領に戻ったので、今の俺の護衛はマダコだけだ。今、マダコは、俺の横であぐらを組んで大人しく水の中を眺めている。ここは透明度が素晴らしく、水中が普通に見える。
最初、半ば冗談で立ち上げた怪人会が、ここまで役に立つとはな・・・
「ねぇ~サンオイル塗ってぇ~。エロマッサージ好きでしょ」と、燦々とふりそそぐ太陽のもと、リクライニングを倒したビーチチェアに寝そべる美女が言った。ビキニ姿だ。背中を綺麗に焼くために、ビキニの紐を外している。
輝くような美人、スマートなスタイル。控えめだが、しっかりとした膨らみがあるお胸。くびれのある腰つき。そして、大人の美尻。なかなかぐっとくる人なのだ。
俺は、「はいはい。ユーレイさん」と言って、うつ伏せのユーレイさんにサンオイルを塗りたくる。
途中、手が滑って指がビキニ水着の中に入ってしまうが、その程度では怒らないのがユーレイさんだ。
ユーレイさんは潜入捜査とか暗殺が専門だから、スタンピード戦の時は、こちらに関係無く第2世界で影働きをしていたらしい。
今はお暇を貰って、俺と一緒にバカンスだ。
ユーレイさんは、「今度は前」と言って、上半身に何も付けていない状態で仰向けになる。
うむ。ここには俺たちしかいないから、彼女も無防備なんだろう。
というかこの人、今は多分素顔だ。いいのだろうか。マ国の特殊部隊が素顔を晒していて。
俺は、ユーレイさんの前にもサンオイルを塗りたくる。軽くマッサージしながら。
「ふひぃ。私、もう影働きは引退するんだ」と、ユーレイさんが言った。
「え? 引退? どうすんの?」
「夜な夜な私とセック○しようよ。子供つくらなきゃ」と、ユーレイさんが目をつぶったまま言った。
子供って言ってもさ・・・でも、ユーレイさんがやると言ったら、本当にどこにでも出没してヤッて帰りそうだ。
「だって、タビラさん、ジニのやつと結婚したでしょ」と、ユーレイさんが少しだけ目を開けて言った。
「ああ、書類は出したみたいだけど」
あの後、意外と忙しくてジニィとはあまり会えていない。
ユーレイさんは、「私は書類どうでもいいから、子種頂戴? まあ、夜襲いに行くから」と言って、再び目をつぶる。
ううむ。ユーレイさんとジニィはライバル関係なんだろうか。聞きたいような聞きたくないような・・・
と、そこに、海で泳いでいた人物が、バシャバシャと音を立て、この特設平場に上がってくる。
その女性は水着姿で、「ふう。楽しかったぁ~気持ちいい~」と言った。俺もさっき泳いだが、ここは水が綺麗で下まで見える。魚が泳いでいる姿も見えて幻想的な気分になった。気持ちいいのは同感だ。
彼女は、チラリと仰向けに寝そべるユーレイさんを見て、「ねえ、もう泳がないの?」と言った。彼女のスタイルは、見事なペチャパイ、まるで小さなイカのようなロリ体型だ。こいつは一応、30歳らしいが、全く色気がない。
エンパイアの勇者が静かな笑みを浮べ、「どうぞカテジナさん」と言って、タオルを手渡した。
カテジナさんは、「ありがと、ランさん」と言ってタオルを受け取る。
と、そこに移動砦の階段からモルディが降りてきて、「おおうい、さっきの魚、刺身にしたぞ。やっぱり、南方の魚は、あんまりうまくないと思うんだ」と言った。モルディは相変わらずだな・・・
「さっきのって、青ヤガラか? やっぱりマズかったか?」と言って、刺身を1枚、モルディにあ~んしてもらう。ふむ。普通にうまいと思うけど。見た目はマズそうだったけど。
「あ、私にも」と、カテジナさんが言った。
モルディは、「お前は自分で食え。この穀潰しが」と言って、皿をカテジナさんの目の前に出す。
カテジナさんは、刺身を摘まみながら、「はいはい。ねえ、お姉様のついででいいんで、私も貰ってくださらない? おじさま」と、俺の方を向き、少し笑みを浮べて言った。これでも、色目を使っているらしい。
「無理」
「ひっど~い。なんで?」
「ペチャパイだから」
というか、この一族は、恋をしたら多少なりとも手足が伸びたり女性的な体付きになる。と、いうことは、こいつは誰にも恋をしていないことになる。要は、俺と結婚したいというのは保身のためだけであろう。
ある意味、俺に性的興味を示していないからこそ、今日、ここに安心して連れてきているところもあるけど。
こいつには、スタンピード戦勝記念で恩赦が与えられた。『サイレンの兵器』のキャリアとして任命されたという武功もあるため、その恩赦の手続きはすんなりいった。もはや、俺の魔道具の窃盗犯ということは、皆の記憶から遠ざかっている。
そもそも、こいつを『サイレンの兵器』のキャリアにしたのは、実の母親で、その理由は恩赦を与え易くするための方策だったのだ。だから、本気で起爆させる気も無いのに、あの時、『サイレンの兵器』の準備段階を1レベル引き上げたんだと。全ては、娘の恩赦をゲットするため。そして、恩赦が与えられたあとは、俺に脳死の治療を依頼するつもりだったらしい。俺なら脳死状態でも治せると踏んでの判断だ。今回、そんな親心を知らないガイアが、焦って暴走してしまったのだから、笑えないのだが・・・
その後、徳済さんの協力を得て、温泉に浸けつつ、トモヨの精神感応の力で、本当に脳死状態を回復させたのだ。
だがこいつ、結構怪しい性格をしている。あまり信用しないようにしているし、結構邪険に扱っているのだが、何故かこうして俺について回るのだ。
カテジナさんは、これまで外の世界を知らない深窓の令嬢だったらしく、俺について回るのは結構楽しいらしい。おそらく、それは本心だ。なので、結局、彼女の好きにさせている。楽しそうにはしゃぐ人物を、周りに置いておくのも一興だ。なにより、精神衛生的にいいと思うし。
モルディは、自分でも刺身を摘まみながら、「というかな、そろそろ到着じゃないか? いいのか? 準備しなくて」と言った。
そろそろか・・・
俺は、テレビを外部接続の映像に切り替える。そこには、海上をゆったりと動く何かが映っていた。
「おお。そろそろ上陸だな」
それは、巨大なカタツムリ。海上に巨大なカタツムリ的な造形をした何かが映る。海抜1mくらいのところに浮かび、ゆっくりと北へ北へと進んでいる。
そこは、尖閣諸島の南部海域である。我が国固有の領土に向けて、今ゆっくりとカタツムリが進む。
もちろんだが、あいつは本当のカタツムリではない。マ国から貰った型遅れの移動砦動力ベースに、ラメヒー岩を貼り付けて艤装し、さらに直径20mくらいのドラムを取り付けたもの。そのドラムが巨大なカタツムリの甲羅に見えるのだが、それがなんのドラムかというと、それは『海底送水管』を巻き付けるためのもの。
要は、今の多比良軍は、尖閣諸島に上水道を引く工事を請け負っているのだ。
そして、今はその工事の真っ最中で、そろそろカタツムリ・・・海底送水管敷設用移動砦が尖閣諸島に到達するのだ。
なお、そのカタツムリは、完全遠隔操作であり、そのオペレーションルームがこのタマクローマークの小型移動砦というわけだ。その遠隔操作装置は、兵器メーカーに相談したら、あっという間に造ってくれた。
今、そのカタツムリは、隣のエンパイアの勇者が楽しそうに操作している。
そういうわけで、今の俺たちは、遠く離れた石垣島周辺のプライベートビーチで遊んでいると言うわけだ。
だがしかし、カタツムリが向かう島は、言わずと知れた厄介な隣人も領有を視聴している島。
そこに上水道を引くなど、もちろん面白いわけがなく、お船を大量に連れてやってきている。
なのだが、そのカタツムリの周りには、護衛として、大量の巨大浮遊物体が付いている。
その浮遊物体は、日本産の岩手。
その数80体。いや、80手? 80個なのか? とにかく、直径30mくらいある空飛ぶ手が、80個も随伴で飛んでいる。もちろん、全て遠隔操作だ。
こいつらは、普通の対艦ミサイルではびくともしない。最低でもバンカーバスター。一番確実なのは、核兵器の直撃だが、それ以外の攻撃はほぼ通用しない。
もちろん、対艦ミサイルを魔力が尽きるまで撃ち続けたら、破壊できないこともない。だが、俺の温泉とミサイルの備蓄量、どちらが上かな? と言う話だ。
そんなのが護衛で80個もいるのだから、相手も絶望だろう。
だから、きっと相手は何もしてこない。いや~平和だねぇ・・・
と、思いつつも、トモヨは温泉アナザルームでお留守番。まあ、保険だ。
仮に、ここに核ミサイルが撃ち込まれても、不思議な魔術で死にはしない。
なので、ここはきっと平和なのだ。
俺は、ちっとも釣れない釣りを諦め、気持ちよさそうに寝そべるユーレイさんをじっくりとマッサージするべく、彼女の真横に椅子を移動させた。
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