第358話 それぞれの夜明け

<<中央広場、特設コンサート会場>>


ここ、五稜郭に設えられたコンサート会場では、昨晩、ぐっすり休んだ大きなマンタがスタンバイしていた。おむすびを食べながら。


マンタの歌は、流石に夜12時には一旦止められ、一晩休憩を入れたのだ。


そして朝、再び音楽が流されようとしていた。


「ではマンタさん、そのおむすびを食べたら、開始しますね」と、この会の主催者であるマンガ研究会メンバーが言った。


「分かった。でもよ、なんでラブソングなんだ?」と、マンタがおむすびを食いながら言った。


「それはね、日本人だから、よ」と、マンガ研究会メンバーが言った。少し悦に入っている。


マンタは、「ふうん。日本人は変わってるな。まあいっか。おれも、日本人と結婚したしな」と言って、にこりと笑った。


そして、イントロが流れる・・・朝の一発目は、ゆったりとろりとしたラブソングからのようだ。



・・・・

<<自衛隊病院>>


「けが人を早く!」と、徳済多恵が言った。


ばたばたと慌ただしく担架に乗せられた自衛隊員達が運ばれてくる。


「まったく、人の忠告を聞かないからだ」と、その横のモルディベートが言った。


「愚痴は後。今は手当!」と、徳済多恵が自衛隊員に生物魔術を使いながら言った。


「タエ殿。こいつら、命に別状はない。多少、手足がひどいことになっているようだが」と、モルディベートが言った。


自衛隊員の中には、手足が欠損しているものもいた。


「日本人的には大怪我よ。この際だから、魔術再生医療を片っ端から試してやる。ちぎれた部位も回収してあるようだし」と、徳済多恵が言った。


「やれやれ、恐竜を舐めるからだ。だから、移動砦を使えと言ったのに」と、モルディベートが言った。医者である彼女は、てきぱきと軽微な傷は速効で治し、ひどい傷は魔術で洗浄しつつ、止血を行っていた。


昨晩、航空モンスターを粗方倒し終わった後、動かなくなったクジラを近接目視するべく、自衛隊が特別チームを組んで、お城の外に出たのだ。


ところが、数百m先のクジラに到達する前に、夜行性の恐竜に狙われ、あえなく撤退するはめに。


今回の五稜郭戦では、モンスターからより、恐竜から受けた損害の方が大きい結果となってしまった。


「小田原さん、あなたは、魔力を調達して来て。中学生達から献魔してもらってもいいし」と、徳済多恵が治療を手伝っていた小田原亨に言った。


小田原亨は、土魔術士にして生物魔術も操る便利なやつなのだ。


彼は、お目々をぱっちりさせながら、学生達が多くいる宿場の方に移動していった。



・・・・

<<中学生達>>


「やったのか?」と、前田慶次が言った。


昨晩、中学生達は大人達に寝ろと言われ、24時前には床についた。

そして朝、みんなでぞろぞろと寝床から起きてみると、巨大なクジラは一晩中燃え続けたとみられ、今は砕かれた骨と皮と炭しか残っていない。


彼らが眺める先には、白く長い武器を持った緑の巨人が、佇んでいる。

先ほどまでは、その尖った武器で足下のクジラを突き刺していたのに、今はただじっと朝日に照らされていた。


「お前それ、フラグっていうんだぞ。ラスボスが復活したらどうすんだ」と、多比良志郎が突っ込む。


「流石に、アレはもう死んでいるんじゃないかな」と、その隣にいた木ノ葉加奈子が言った。


その時、「おお~い。クジラ死んだってさ。でも、まだお城の外に出てはいけないって」と、上級生の誰かが言った。


「やっと死んだのか。しかし凄かったな。バックドロップに空飛ぶパンチ。あの巨人も燃えながらずっと戦っていたし」と、前田慶次が言った。


「晶先輩とか、ずっと炎で攻撃してたもんな。凄かった~」と、多比良志郎が言った。


すかさず木ノ葉加奈子がジト目になるが、多比良志郎はどこ吹く風で、らんらんとカッコ良い先輩の勇姿を思い出していた。


「おおい! 学生は献魔に協力を。病院の魔力が足りない」と、先生が中学生に向けて言った。


学生達は、ぞろぞろと『魔王の魔道具』の方に集まって行く。


「行きましょっか」と、木ノ葉加奈子が言った。


中学生達に、日常が戻っていく。



・・・・

<<高校生達>>


「うっわ~えげつない。まだやってたのぉ?」と、ラメヒー王国の自称聖女、巨乳女子高生の龍造寺信子が言った。


彼らは、夜普通に寝て、朝起きたところのようだ。


「ねえ、ほら、純、クジラのやつ、もう炭になってんじゃん」と、龍造寺が言った。


「あ、ああ」と、純と呼ばれた男子は上の空。


龍造寺信子は、何かがおかしいと思いながら、純の目線を追うと、そこにはヤツがいた。


迷彩服と編み上げ靴に身を包み、日本刀を左手に持ち、じっとクジラの死骸を見つめている長身の女性・・・


「げ!? あいつ多比良じゃん。純、何みてんのよ!」と、龍造寺が言った。


「どうして、ここに・・・」と、純が言った。彼は、ラメヒー王国の勇者である島津純だ。


「どうしてって、あいつ、親のコネで参戦したんでしょ? 褒美でも貰うつもりかしらね」と、龍造寺が言った。


「でも・・・」と、純はその巨女に釘付けになる。


「でもじゃないでしょ。あなたね、昨日は私と3回もヤッておきながら、何別の女性を見つめてんの?」と、龍造寺。


「そういうわけじゃ・・・」と、島津純。


「まあ、とにかく、あいつがここにいるのは不思議なことじゃないの。だからね、彼女といるときに、別の女を見つめないの! 見苦しく見えるわよ」と、龍造寺が言った。


「あ・・・」


島津純が見つめていた女性は、突風の如く、どこかに飛んで行ってしまった。


「ふん、あなたはね、私くらいの女でちょうどいいの。あいつはやめておきなさい」と、龍造寺が腕を組みながら言った。



・・・・

<<冒険者達と居酒屋>>


クジラ死亡の報を受け、ここ冒険者達の詰め所は、一気に沸いていた。


「勝った! 俺たち、勝ったらしいぜ」と、冒険者の男性がハイテンションになる。彼らは、交代制で一晩中戦い続けてたのだ。


「見りゃ分かるでしょ。前田さんギルマスは自衛隊に打ち合わせ行ったし。今後の防衛方針についてだって」と、冒険者の女性が言った。


「そうだな。今後、俺たちゃ民間警備会社組と人類未踏の地に入るハンター組とに別れることになる。後は今のギルド組織がどういう形で残るかだな」と、冒険者の男性が言った。


「とりあえず暇だったらさ、居酒屋手伝ってきなよ。今日は昼間っから開店するらしいよ」と、冒険者の女性が言った。


「ういっす」



・・・

<<居酒屋>>


「ええ?? 自衛隊は自粛? そんな・・・飲むって言ってたじゃん」と、大量の食材を運んでいた小峰綾子が言った。


「申し分けありません。最後の最後に怪我人を出してしまいまして、我ら陸自は自粛します。ですが、メイクイーン義勇兵と空挺科達は遅れて参加するようです」と、陸上自衛隊の人が言った。


「しょうが無いか。ルナぁ~100名分キャンセル」と、小峰綾子が厨房の奥にいる娘に言った。


「ええ~もう、晶さん達に手伝って貰ってるよ」と、ルナが言った。


厨房の奥には、玉城晶やその先輩、そのほか中学生メンバーが食材の下処理を始めていた。


「今日は軽空母メンバーも合流するんでしょ? 多めに準備しておいていいんじゃ?」と、一緒に下処理をしていた平祥子が言った。


「そうね、いっか。いざとなればマンタさんが食べるし」と、小峰綾子が言った。


その時、冒険者数名がやってきて、「こんちゃ~っす。今日、お昼から宴会やるんでしょ? 俺ら手が空いたから、何か手伝おっか? お、晶、ここにいたのか」と言った。


「あ、お疲れ様です。私ら中学生組は、休憩取った後は自由行動でいいって前田さんギルマスから。だからここに」と、晶が言った。


「よし、俺らも手伝うぜ」


晶は、「はい。でも調理は今キャンセルが出ましたから、作業の方はあまりなくて。なんで、土魔術で椅子とテーブルの方をお願いします」と言った。


「はいよ」と言って、冒険者達は外に出て行く。


五稜郭では、すでに平和な空気が流れていた。



◇◇◇

<<マ国軍旗艦シンクウ>>


俺に腕枕をしていたハトさんが、「では、私はこれで」と言って、ベッドを出て行く。少しだけベッドの温度が下がり、肌寒くなる。


ハトさんは、速攻で衣類を身に着ける。元々そんなにパーツがないからな。服を着終わると、ハトさんは、こちらをちらりと見つめ、そのまま静かに部屋を出て行く。


なお、イセは早朝に起きて、さっさと出て行ってしまった。まあ、あいつは忙しい身なのだ。

大きなベッドのある部屋に、ガイアと2人残される。


ガイアは、ベッドの隅でぐーすかと眠っている。


昨晩は代る代る1人1発ずつガイアに・・・というか本人も楽しそうにヤッていた。俺の体で自分に。ガイアの中身は当然俺。


ああ、また嫁が1人増えてしまった。まあ、これは仕方が無い。


核物質を盗み出したガイアを助けるには、こうするしかないだろう。いや、助けるためというか、ガイアとは不思議な縁があって、これも運命なのだと思うことにした。


こいつは、盗みは働いたが、別に裏切った訳ではない。これから、ガイアの処遇について、ラメヒー王国と何らかの会合が持たれるだろうが、俺の嫁なら、何とかなるだろう。

イセとハトさんがガイアを性的に巻き込んだのは、まさかガイアを助けるためではないだろうかとさえ思ってしまう。なので、ガイアはきっと大丈夫だ。


さあて。史上空前規模のスタンピードは、我ら人類側の勝利という形で、ほぼ終わった。ラスボスも、あの調子だと勝利しているだろう。というか、俺の魔力は昨晩からあまり増えていない。もちろん、自然増加分を除く。


つまりは、そういうことだろう。ラスボスから時空化によって運ばれてくる魔力が無くなったのだ。


ヤツは、もう死んでいると思われる。

まあ、ベッドから出て確認してみたら、直ぐに分かることなのだが・・・


ところで、これで死に戻りの呪いは解けたのだろうか。それとも、やっぱり3月が終わらないとだめなのか。


それはよく分からない。そのあたりは、八重達としっかり打ち合わせて、必要に応じ、今後も日本人600人達を守らないといけない。


全員生き残らないと、この物語りは終わらない。これは、そんな無理ゲーのはずだった。

だけど、終わってみれば、なかなか普通の物語・・・日本人達が集団で異世界転移し、魔術を身に付け、そして仲間達とともにラスボスを倒す物語り・・・

今の時代、こんな物語りもありふれているだろう。


ただ、まあ、これからが大変なのかもしれない。今までは、とりあえず3月のスタンピードと、ラスボス戦勝利に向けて突っ走ってきた。だけど、これからは現実に向き合う必要が出てくる。


まずは、沢山増えた嫁問題。それから、俺の異常な魔力量とゲート利権ばればれ問題。俺とノルンの空中セック○シーンが戦場のモニターで流されていた問題。なにやら第2世界の有力者と抗争状態にある問題。異世界帰り日本人が狙われる問題。C国との対立問題。R国の軍事侵攻問題。


それから、日米やG7国家プラスアルファで魔術利権を独占する策略・・・

そのような中で、俺と嫁は日本政府に肩入れしている。


これから、このような現実問題が待っている。


戦いは、これからだ。

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