第236話 4か国会談 真打 女の戦い 10月下旬

<<とあるシリーズ・ゲート>>


ここは、第1世界に設けられた『シリーズ・ゲート』。


トップ会談を行うためのホットラインとして、この度新設された、6第1世界用『シリーズ・ゲート』だ。


だが、今ここにいるのは4名の、それも全員女性である。


「さて、真打といこうか」


大きく胸元の開いたドレスを着た女性が、最初に口を開く。


静かで綺麗な声だが、少し低めで重厚感がある。

ボリュームのある髪をアップに束ねた凛とした女性。

少し吊り目がちだが、上品な顔立ち。まさに王者の風格がある。

ただ、髪の毛の色がピンクであった。


「あらあら。結局は全員女性なのね」


次に口を開いたのは、とても若い女性。いや、若く見える女性。

背が低く、小柄な体格である。髪はポニーテールの位置で無造作に束ねている。

庶民的な感じに見えるが、他の3人を前にしても全くひるんでいない。

彼女もやはり、女傑なのだろう。


「世の中は常に女性で回っている。私はそう思う」


3人目の女性は、褐色の肌に黒い髪。

長く垂らした前髪により、片方の目が隠れている。

第1世界では珍しく、大きめの装飾具を、二の腕や手首、首や頭に付けている。その装飾具は、何か呪術的な印象を受ける。

肉感的な体格をしており、民族衣装なのだろうか、布面積が少なく肌の露出が多い服に身を包んでいる。


「そうじゃ。統治システムの上では男がトップであるが、結局は女が強い。それでは始めよう」


4人目の女性は、議長でもないのに、あまりにも太い態度で会議をさっさと始めてしまう。

この女性のこめかみの上には、乳白色の2本の角が生えていた。


「議題は大きく2つ。ゲート利権とサイレンの兵器だ。『魔王の魔道具』やら異世界利権やらは本質ではない。まずはゲートについて、話をよいか、イセ」


最初の女性が低く、そして綺麗な声でそう言った。彼女が議長役だったようだ。


「そうだなエンプレス。『魔王の魔道具』は代替が無いわけではない。結局は長寿モンスターの魔石分しか造れないという制約もある。では、わしから話をしよう。まずは、多比良という日本人の話じゃ」


イセが日本人、多比良城についての説明を始める。

長い説明・・・奇跡の空間魔術、温泉アナザルーム、『パラレル・シリーズ・ゲート』の仕組み、そして、多比良城の人となりから、女性関係までの全てを。



・・・・


「そういうわけで、ヤツの空間魔術と平行魔術適正、それから奇跡的に繋がっていたえにしを利用して、『パラレル・ゲート』が創造できる。縁とは関係ないが、今ここにいる空間が『シリーズ・ゲート』じゃ」


「ふむ。『シリーズ・ゲート』自体は昔からあった。だが、ここまでの数を構築し、さらに維持できるということが素晴らしい。これが第1の奇跡だろう。さらにその上を行くのが『パラレル・ゲート』の奇跡。空間魔術研究はその珍しさから研究があまり進んでいなかった。数千年前に開発されたと言われる勇者召喚の儀から、ずっと進展していなかったのだ」と、エンプレスが言った。


「本当の、奇跡。その方は男性ですね?」と、褐色の女性が言った。


「ハトよ。無理に迫るものではないぞ」と、イセが言った。


「イセ、あなたがそれを言うの? あなた、に手を出したでしょう。まったくもう。あの子は私の後継者にして、さっさと引退したかったのに」と言って、小さな女性が顔をぷくっと膨らませて怒る。


「成り行きでな。すまんな、タマクローよ」と、イセは悪びれもせずに謝った。


タマクローと呼ばれた女性も本気で怒ってはいないようだ。

むしろ、ラメヒー王国がゲート利権に入り込む絶好の口実になると内心では喜んでいるのかもしれない。もしくは、単に幸せを掴めそうな自分の愛娘を思っての事かもしれない。一時期は諦めていた、自分の長女の、女としての幸せを。


「話を戻そう。ゲート利権をどうするか、それを決めたい。今日の趣旨はそれでよいのだな?」と、エンプレスが話を戻す。


「ああ、そういうことだ。ここの『シリーズ・ゲート』は、今後そのままゲート会議場として使用したいと考えている。ゲート関連では連絡を密にしておいた方がよいだろう」と、イセが返す。


「6つの扉は、ラメヒー王国、エンパイア、マ国、リン・ツポネス国、魔王。そしてタビラ氏という意味かしら」と、タマクローが言った。


「そうじゃ。この扉の数は増やせる。今は見切りで6にしている」


「彼を異世界に呼んだのはラメヒー王国。だけど、ラメヒー王国は彼の才能を見出すことができなかった。彼に気づいてゲートを創ったのはマ国。彼と男女の仲になっているのはマ国とラメヒー王国。さて、どうするのかしら」と、タマクローが周りの女性達を見渡して言った。


「リン・ツポネス国から出すオンナは、私です」と、ハトが言った。


それを受けて、他の3人がぎょっとする。


「ハトよ。お前はリン国の、国土の半分を治める支配者だろう。お前自らとは、ほとんど国を預けるようなものだ」と、エンプレスが驚きを隠せずに言った。


「マ国はイセだ。未婚の年頃で釣り合うのは、私くらいだろう。ラメヒー王国もタマクロー家の女性を出している」と、ハトが言った。


「ふむ。そうなるとエンパイアはどうするか。私が嫁ぐか? くははははは」と言って、豪快に笑う。冗談のつもりだったのだろう。だが、他の3人の女性はまったく笑えなかった。


「エンペラーと相談してみたらどうじゃ。マ国としては、ヤツとのパイプの大小で利権に差をつけるつもりはない。どちらかというと、ヤツを守り、支える仕組みが必要なのじゃ。その貢献具合ではないか? 差を付けるとしたらな」


「イセ。しかし、彼を籠の中の鳥にはしないのでしょう? 結局、一番優れたゲートを与えて遊ばせている」と、タマクローが言う。


「あいつは日本人じゃ。自由と民主主義を謳歌おうかし、平和教育を受けて育った戦闘民族。押さえつけ、詐取してはならぬ」と、イセが言った。


「彼が何に喜びを感じるか次第であろう。彼の保護に関しては、エンパイアも全面バックアップしよう。細部は後で詰めるとしても、このような優れた魔術を使用出来るのであれば、大概の無理は通るだろう」


「分ったエンプレス。ハト、そしてタマクローよ。マ国は富を独占するつもりは無い。ただでさえ『魔王の魔道具』で潤っているからな。ゲート利権は多比良10,マ国10、エンパイア10,ラメヒー5,リン国5と考えていたがな。ハトが結婚するとなるとどうだろう」


「国力的に、我が国がエンパイアの半分なのは妥当だ。後は、私が彼と結婚してしまえば、彼の持つ10の利権を回して貰える」と、ハトが言った。


「ラメヒー王国も同じ。もっと少なくてもいいくらい。だって、すでに我が国の国民が、多数彼の仲間になっているし、ゲート・キーを預けられている人物もいる。それに、うちは海外に出て、グレートゲームをやるつもりは無い」と、タマクローが言った。


「『パラレル・ゲート』は危険もはらむ。所有するのはいいが、実際の使用に関しては、この会議で調整していこうぞ」と、エンプレスが言った。


「分った。それからな、少し厄介な存在が発生している」と、イセが言った。


「分っている、イセ。嫁の存在であろう。時空化の巫女か。何千年ぶりの登場であろうか」と、エンプレスが言った。


「かつて国家存亡の危機に現われたと言われる伝説上の存在。前回はサイレンに出たとか? 運命を感じるわ。私達が呼んだ人達の中に、時空化の巫女がいるだなんて」と、タマクローが言った。


「ふむ。嫁は2代目らしいがな。今は勇者が眠っているために、詳しい話が聞けぬ。やれやれ、多比良が時空化の神子みこでなくて良かったわ。手が付けられぬ所だった・・・殺す以外にはな」と、イセがさらりと言った。


「そういう意味でも、この世界は幸せだ。その自動発動する時空化は、おそらく並行世界に記憶を移す魔法。タビラ・ジョウという最強の空間魔術士が、自由に魔術を放つ世界は、おそらく悪夢だっただろう。やはり、ヤツと私は結婚し、制御せねばならない」と、ハトが言った。


「まあ、ハトが言いたいことは分る。今この世界で生きる我々は、あくまでこの世界の住人で、彼ら勇者パーティがめちゃめちゃにしてきた世界とは、まさにパラレルだ。仮に巫女の言うゲームオーバー条件がこの世界で生じても、勇者と巫女の意識が別のパラレル・ワールドにコピーされて行くだけで、だろう」と、エンプレスが言った。


「エンプレスの言う通りね。今代の時空化の巫女が、このワールドに存在する人々にどれだけ愛着があるのか分らない。無理と思ってゲームリセットをしたとしても、そこに残される我々はおそらく。だからこそ、時空化の巫女は信頼できない」と、タマクローが言った。


「とはいえ、今回は特別うまくいっていると言っていた。今回で終わらせたい、諦めないともな。今は信頼するしか無かろう。とは言っても、もう未来は変り過ぎていて、細かな預言は無理だということじゃ。だが、最強のモンスターがやってくることは確実だろう。ヤツを、討伐する必要がある」と、イセが言った。


「イセ、その話は報告で読んだ。十分あり得る話だろう。あの超兵器が復活することを予測して、我らのご先祖様達がそれに先手を打っていたということはな。それでな、倒し方は調べておいた。後で使いの者を行かせる。内容は私も読んだ。うまくやれば、倒せるだろう。だが、巫女殿が言うには最強のモンスターだけではないのだろう? 出てくるのは」と、エンプレスが言った。


「ああ、随伴兵が大量に出てくるらしいな。まあ、ラスボスさえ倒してしまえば脅威ではない。だが、ラスボス戦は勇者がそれに専念することになる。勇者以外の戦力も必要だろう」と、イセが言った。


「それこそ皆で協力する時です。時期は3月なんでしょう?」と、ハトが言った。


「そうじゃ、ハト」と、イセが言った。


「ああ、はい。ラスボスは解りました。今後調整しましょう。それで、バルバロ平野のスタンピードの件、『サイレンの兵器』はどうします? 増産を提案しますけど」と、タマクローが言った。


「うむ。マ国も増産に一票じゃ。国王の意思でもある」


「リン・ツポネス国も、増産を支持する。今回のスタンピードにも実戦配備すべきだ」


「そうだな。エンパイアも支持する。スタンピード対策の件もあるが、問題は第2世界に大量破壊兵器があることだ。戦力バランスを考えると、増産させておいた方がいいだろう」


「じゃ、増産せておくけど、少しだけ教えて。第2世界の核兵器は、第1世界に持ち込むことが可能かどうかなんだけど」と、タマクローがイセの方を向いて言った。


「魔王の計算では、普通は不可能だが、運が神がかり的に悪いことに、可能になる方法が一つだけあるとのことじゃ」


それを聞いたイセ以外の3人は、表情を変えない。予想していたのかもしれない。


「聞かせてイセ」とタマクローが言った。冷静な表情だ。


「多比良の温泉アナザルームのフル活用じゃ。最初に言っておくが、マ国は多比良の暗殺は大反対じゃ」


「エンパイアも暗殺は反対だ」


「リン・ツポネス国も反対する。なぜならば、ことも可能だからだ」


「そう・・・ラメヒー王国としては、貴方達の意思に従いましょう。それが、300年前からの盟約ですから」


そう言って、タマクローは少しだけ悲しい顔をした。


タマクローと呼ばれる女性は、正確にはタマクロー16世という。

本来タマクロー家は女系。だが、貴族制度の国際化に伴い、一応、男子を家長と認めている。

だが、あくまでタマクロー家は女系。もともと、遺伝的に女性が生まれることが多い家系であり、彼女の兄弟に男子は一人も居なかった。


なので、本来はラメヒー王家の第二王子であった人物が、タマクロー家に入り婿したのだ。

それが今代のタマクロー大公。現王の実の弟である。


そして、タマクローの名を正式に受け継ぐ彼女こそ、サイレンの真の支配者である。

ラメヒー王国という歪な国家にとっての、政治・経済中心巨大都市の、真のおさ

そして、サイレンに眠る兵器の管理者こそが彼女である。


まさに、4カ国同盟にとっての超重要人物なのである。


「これにて閉会しよう。それにしても、このアナザルームは良いな。防諜も完璧だ。会うのも一瞬。今後は異世界との外交に関しても、協議する場が増えるだろう。またここでまみえようぞ」と、エンプレスが少し機嫌良く言った。


エンパイアの実力者、エンプレスが閉幕を宣言する。

予断であるが、彼女の耳は尖っておらず、普通の耳であった。



◇◇◇

<<大使館>>


ここ、駐ラメヒー王国マ国大使館では、『シリーズ・ゲート』でエンパイアからやってきた文官が、イセが以前依頼した情報の調査結果について、報告を行っていた。


内容はずばり、『最強のモンスターの倒し方について』である。


「・・・と、いうことでございます」と、使いの文官が調査結果について説明した。


「これは・・・本当なのか?」と、イセが言った。少し疑っているようだ。


「はい。最強のモンスターとやらが、ヤツで間違いなければ。もちろん、この内容は古文書を根拠とするもの。これが絶対的に正しいとは限りません」


「そうか。さて、どうすっかのう・・・これは、八重に言いづらいなぁ」と、イセが言った。


「は、はあ」報告にやってきた文官は、生返事しか返すことができなかった。


「いや、お主のせいではないのぅ。こちらの話じゃ~」と、イセは少し上の空になる。


「わ、わかりました。それでは、私はこれにて」


そう言って、エンパイアの文官が帰っていく。触らぬ神に祟りなし。そんな感じの対応だ。


「ま、しばらく放置じゃ。言いやすそうな時に言おう」と、イセが独り言ちる。


どうやら、問題を後回しにしたようだ。

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