第225話 防衛隊の選抜と異世界入り 水政くんの新人歓迎会 10月中旬

<<清洋建設 特別室>>


「おはようございます。今日はいよいよ面談ですね」とベクトルさん。


「お久しぶりです。今日から復帰します」と言うのは、ツツ。今日からツツの復帰だ。人材のフィルター役として期待している。少しげっそり痩せている気がする。


「はい、おはようございます。すでに候補者を集めておりますが、少しご紹介させてください。警備会社の社長がいらしています」とベクトルさんが言って、人を紹介してくれる。


「○○警備保障です。異世界事業に参加させていただけるということで、飛んでまいりました。従業員も是非連れて行ってください。傷病保険などの問題もありますが、なあにリスクを取らないと何もできません。ご迷惑はおかけしませんので、何にでも使ってください」


ふむ。やはり、トップから挨拶され、宣言されると信頼してしまう。きっと大丈夫だろう。

冒険者ギルド関連もこの会社と相談しているみたいだし。


「では、早速防衛部隊の最終候補者達を呼びましょう」


まずは、防衛部隊からだ。楠木陰陽会の人は最後だ。


・・・


目の前に並んだ男女20人は、屈強そうな人ばかりだった。


そりゃ、異世界に行って恐竜やモンスターと戦おうという人達だ。腕に自信はあるのだろう。

経歴を見ると、ファーストキャリアが自衛隊、消防士、救急救命士、野球選手というものもある。


「自衛隊が多いんですね」


「そうですね。自衛隊も制服組は若い頃しかできませんから。現役時代に鍛われていますので、退職後も引く手あまたなんです」とはベクトルさん。


「重機の操縦免許とか持たれているので建設会社にも多いんですか」


「そうですね。警備会社にもゼネコンにも沢山います」


さて、ツツの顔を見ると、少し険しい。どうしようか。


「社長。一旦、外に出ていただいて、1~2名をずつ面接したいと思うのですが」と、ツツが言った。


「ええ、分かりました。全員一旦、外に出てくれないか」と、社長が直ぐに応じてくれた。


・・・


「どうしたんだ? ツツ」


防衛部隊候補者が全員退出したところで、俺が話を切り出した。


「う~ん。借金を抱えていらっしゃる方がいますね。女性に貢いでいるようです。それから、こちらとこちらの夫婦はフェイクですね」と、ツツがプロフィールの資料を見ながら言った。


「そうですか。実は、アドバイスに沿って、性的パートナーでの参加を推奨したんです。参加したいがために結婚したのでしょうか」とは警備会社の社長さん。


「いや、社長。結婚ではなくて、性的なパートナーと一緒に参加できる方を推奨したんですよね。それなら、付き合ってる男女でもいい訳です。日本の婚姻関係とは、極論別に性的関係が無くても、書類があればなれますからね」とツツが言った。


「借金持ちは論外として、今回は普通の職人では無く、武力を持たせるわけです。まあ、一般人も魔術が使える世界ですから、他人よりちょっとモンスターを倒す技術が上くらいの感じですがね。今回は慎重に行った方がいいのでは? 予定は10人だったのです。減らしてもいいですし」と、俺が一言。


「そうですか。もし、スパイが紛れ込んでいたとしたら申し分けありません。我々の不手際で」と警備会社の社長さん。


「いえ。今、どこの組織も異世界は興味津々でしょう。石積部隊の方も、早くから内定とか出さずに、合格したら直ぐに異世界に連れて行く方針でいきましょう。今はスパイでは無くても、スパイになってしまうかもしれませんから」


「分かりました。この5人は、面接で合理的な説明が出来ない場合は、不合格でかまいません。他のメンバーも面接次第で不合格にしてください」


・・・・


面接が始まった。

借金持ちはそのことを突っ込まれてしどろもどろになったので、その場で不合格。

借金している事自体はいいのだろうが、彼の借金額は、所得に対しかなり多かった。しかも、その借金の理由に嘘があるようだ。結局その弱さがあると、どこかで裏切られてしまう可能性がある。


フェイク夫婦はかなり粘られたが、説明が嘘だったため不合格。性的パートナーですらなかったようだ。


こちらには、超優秀な嘘発見器ツツさんがいるのだ。


他は概ね合格。会社幹部の親族も結構いた。コネと言われればそうだが、身元がはっきりしているという利点もある。今回は能力主義より縁故主義でも仕方がないだろう。


それから、2名のアメリカ人がいた。ベクトル社からの派遣組だ。こちらは合格。あちらのエースエンジニアらしい。今回って防衛隊なんだけど、何故かエンジニア。まあ、防衛隊といいつつも、自己完結で何でもやならければいけないから、腕っ節が強ければいいというものではない。むしろコミュニケーション能力とかの方が重要だ。別にエンジニアが防衛部隊でもいい。


で、最後の2人。


戸籍上も夫婦。ツツが言うには性的なパートナーであることは間違いないとのことだが。

何か引っかかるらしい。


旦那のファーストキャリアはスタントマン。前歴は鳶職人。奥さんのファーストキャリアは何と格闘家。今は専業主婦。縁故採用ではあるらしいのだが。


「では、最後の2人をお願いします」と、ツツが言った。


2人が入ってくる。


「では、面接を始めます。貴方は再婚ですね。今の奥様とは、何時、結婚されましたか?」


「先月ですね」


「そうですか。他意はないのですが、異世界に行くと性欲が上がると言われています。なので、今回はパートナーがいらっしゃる方を優先しているのですが、お二人は性的なパートナーですか?」


「はい。もちろんです」


旦那の方が即答する。


「奥さんの方は?」


「はい」


恥ずかしそうな表情だ。

ツツは続ける。


「ところで、貴方の奥方は日本人ですか?」


「は? そうです」


「はい。私は日本人ですが?」


「そうですか。質問を変えましょう。貴方。旦那様の方は、他にパートナーはいらっしゃいますか?」


「ええ? いませんとも」


「そうですか」と言って、ツツはじっと男性の目を見つめる。


「はい? ええと、何か・・・」


「はい。結構です」


・・・


2人退席後、状況を聞く。


「ツツ、どうだった?」


「難しい判断ですが、不合格にしましょう。それでも当初予定の10人より3人多いですし」


「そっか。一応、理由を聞いてもいいか?」


「第2世界には、日本国以外にも黒い髪の方が多い国があるのでしょう?」


「そうですが、まさか?」


「うう~ん。彼が昨日、ベッドを共にした女性は隣の奥さんではありません。それに、言葉が違う気がしました。私はまだ日本語に慣れていないのですが、日本語ではない発音に思えました」


「なんと。まさか外国のスパイ?」


「そこまではわかりません。それに、私はあの2人が幸せそうには見えませんでした。奥さんの方の感情が何とも。言葉は悪いのですが、売春婦の人と接しているように感じました。性行為に関してドライというか」


「そうですか。彼らを紹介したものを含めて身元を当たらせましょう」と、警備会社の社長が言った。少し気を落としているような気がする。


しかし、最終選考者の3割が不合格とは。

最終選考だからこそ、俺もツツも素顔をさらしたというのに。少し見直した方がいいのかもしれない。

そして、前田さんや高遠さんのところにも、双角族を派遣した方がいいのかもと思った。今度相談しよう。


その後、楠木陰陽会の人とも面接をしたが、ツツは苦笑するばかりで全員合格してしまった。

ツツ曰く、『この人達はあなたを崇めています』だそうだ。なんだか怖い。俺が何をしたというのだろう。



・・・・

<<サイレン タマクロー邸>>


俺の『パラレル・ゲート』でぞろぞろと『ラボ』に泊めてある軽空母に転移する。

軽空母に荷物を置いて貰い、そのままタマクロー邸に移動する。入国手続きのためだ。


本来、俺の五稜郭にはラメヒー王国の入国許可は不要だが、彼らはまずはメイクイーンに言って魔術訓練を行う予定にしている。


人によってはサイレンに入る事もあるだろう。ということで、最初にラメヒー王国に入国させてしまうことにした。

ディーには事前に相談していたのだ。今、サイレンには特別に入国管理官が派遣されている。ほぼ俺達用だ。彼は日本人会からのプレゼント攻撃でほぼ陥落させている。検査なんてザルだ。


「おう。タビラ。待っていたぜ。そいつらか。今回は多いな」と、後ろからディーの声が。


ディーがやってきたようだ。後ろには水政くんがいる。無事に就職できたのだろうか。


「ディー。手間を掛けさせてしまうな」


担当官が早速連れてきた人達の手続きを開始している。


「いや。お前の仲間達だろ。見てみたくてな。なかなか頼もしいじゃないか。今日の飯はどうするんだ? この人数だったら家には入らんな。なんだったら、レストランかどこかを貸し切ってやろうか?」


「飯は考えていなかったな。どうしよう。メイクイーン行きは明日だし、甘えていいか?」


今はまだお昼過ぎだ。どこかに予約すればどうとでもなるだろうが、ここは甘えておこう。


「おう。ミズマサの就職祝いを兼ねてな」


「ほう。就職決まったのか。おめでとう」


「ああ、多比良。おかげさまでな。ラメヒー王国外務卿付きの外交補佐官に就職できた。当面は異世界対応のために働く。なので、職場も『パラレル・ゲート』があるサイレンだ」と水政くんが言った。


「そっか。早く日本国と外交が持てたらいいがな」


「ああ。まずは衆議院選だな。これを機に異世界スクールを日本の国会に送り込もうという話もある。明日緊急会合があるから、お前も参加してくれ」


「まじか。会議か。明日はメイクイーンに行く予定にしているのに。まあ、『シリーズ・ゲート』で会議にだけ戻ってくればいいか。分った」


それから、軽く打ち合わせをして夜にレストランに集合することにして解散。


さっとオルティナ達と打ち合わせを行い、冒険者の手配等を指示しておく。その後、ツツと2人でバルバロ邸に行ってみることに。最近顔を出していなかったから、息子に会いに行こうと思った。


新参者達は、夜に合流することにして、軽空母に置いてきた。人数多すぎるし。

出歩かないようには言ってある。


「いらっしゃい。微妙に久しぶりね。誰か呼ぶ?」


バルバロ邸につくと、綾子さんが出迎えてくれた。


「いや、息子に会えるかもと思って来てみたんだけど。部活かな?」


「そうね。この時間は部活。どうしたの?」


「いや、少し時間が空いたから。来てみた」


「ふぅ~ん。今日はウサギ居ないわね、お茶持ってくるわ」


・・・・


綾子さんと縁側に座る。


「ねえ、今どうなっているの? 総裁戦が終わったら話が進むって思っていた人も多くって。それが徳済さんが選挙に出るという話が出て、なら自分もっていう人もいてね」


綾子さんも不安なんだろう。


「そうだなぁ。新しい総理は日本人会を敵視しているところがあって、日本人は全員帰国で日本人会の取り組みを引き継ぎたいと言ってるんだけど、そんなことを言われてもね」


「そう。こちらの事情とか考えていないって感じ?」


「そうかもしれない。多少大衆烏合的な考え方をしていて、テレビで目立とうとしている感じかな。政治家としての実力はあるらしんだけどね。結局はその思想がね。異世界の病気を第2世界に持ち込むなとか、俺たちが利益を独占しているとか、そういうことを言うんだ」


「そっかぁ。なら、衆議院選挙が終わるまではこのままかな」


「そうなるね。選挙の結果でもまた違ってくると思う」


「あなたは、選挙の結果がどうなっても帰らないんでしょう?」


帰らないというか、いつでも帰れるというか・・・


「俺は、今の生活と変わらないことをやっていそうだけどね。とりあえず、この国のスタンピードが終わるまでは、何とかしてあげたいと思っているけど」


「そっか。私も今の生活がいいなぁ」と、綾子さんが呟くように言った。声は小さいけど、本心なんだろう。


「せっかく実力で手に入れた生活だもんね」


俺は少し冗談っぽく言った。


「うん。日本にいたときはバイト三昧でやっと生活出来ているって感じで、ルナともなかなか会えなかったし、試合の応援とかにも行けなかった。今は不労所得もあるし、ルナとは毎日一緒に御飯が食べられるの。貯金も一財産出来そうだしね」


綾子さんは、俺の冗談を本気で受け止めてそう言った。


「そっか。ここで手に入れたものを手放すなんて出来ないよなぁ・・・」


少ししんみりしてしまった。時間になったのでレストランに移動する。子供には会えず終い。



・・・・

<<レストラン 屋上フロア>>


「「「「かんぱ~い」」」」


人数が多いからか、立食パーティだった。


皆すでに、お互い打ち解けている。これから一緒に生活する仲だからな。仲良くやって欲しい。


「多比良。少しいいか」と言って、水政くんがやってきた。


「ほいほい」


「今回は、俺の就職や仲間の異世界行きがすんなりいったのはお前のお陰だ。お礼を言う」


「いえいえ」


「それでなぁ。こんなにこじれているのも、お前の家が燃えたのも根っこは日本国の捜査方針が強引だったからだ・・・俺は、対策本部の幹部だった。済まなかった」


水政くんが深々と頭を下げる。


「ま、一人の影響では無いと思う。今回は歯車のかみ合わせが悪すぎた。水政くん個人を恨んではいない」


個人的に恨みは、ノルンにホテルの部屋番号をリークした時点で晴らしたつもりである。


「そっか。そう言ってもらえるんなら救われる」


「どうしたんだよ。いきなり」


「いや、ずっとつっかえていたんだ。これですっきりした。これは、俺の精神衛生上必要なことだったんだ。いやな、官僚を辞めたら色々と楽しくなってしまってな。これも異世界効果なんだろうか。官僚のままだったら、絶対に謝罪なんてしなかっただろう」


「う~む。異世界のせいかどうかは分らないけど、生き生きしているようには見えるね。まあ、ここに来た人で日本に帰りたく無くなるって人は多い。いい国だろ?」


周りで馬鹿騒ぎしているディーがいる。陰陽会の八坂さんに無理矢理飲ませている。


そういえば、俺も新人の時には飲まされたもんだ。


ディーは新人には厳しいんだった。


「そうだな。俺は、最初は日本とラメヒー王国の橋渡しをしようと考えていたが、今は違う」と水政くんは何かを決意したような声を出す。


「違うのか?」


「ああ、違うね。ラメヒー王国の国益を最優先する。例え、日本が損をしようともな。もちろん、ラメヒー王国の次は日本国の事も考えるがな」


そういう水政くんは、すっきりした顔をしていた。


「それはいいことだな。当面は、選挙か」


「ああ。選挙の後はいよいよ外交が本格化する。はっきり言って、日本国がこれ以上うだうだするようだったら、先にアメリカと外交をした方がいいと思っている。この国は3月までにやることがあるからな」


「そうだな。スタンピードに負ける訳にはいかない」


男2人して柄にも無く頷き合う。


「こらぁ! なあに男同士でニヤニヤしてやがるんだ。オレも混ぜろ。そして飲め」


ディーがこっちに絡んできた。


「分りましたよ。ディー様。ソレではぁ! 水政勉、ストームさせていただきま~す!」


あ、それいかんヤツや。


「おおう、何だ?」 ディーも少し引いている。


水政くんがグラスになみなみと注がれていたお酒を一気に呷る。そして、大声で自己紹介。


「おらぁ! 次はお前だ多比良。お前は俺と同じ学校だろ? 飲め!」


同じ学校といっても小学校・・・


「おお、多比良様のストームが!」「いったれタビラ!」


ま、まじかぁ・・・


逃げられない雰囲気だ。だが、俺にはアレがある。一気飲みくらい大丈夫だろう。

だが、陰陽会過激派の女性から渡されたジョッキに注がれた液体は、琥珀色に輝いていた。これは、ウィスキー? せめてハイボールであってくれ・・・


渡される時に、「もし酔われても大丈夫です。私が介抱します」と、真顔で言われた。

1秒悩んだ末、ストームをしてしまった。

要は、一気飲みをして、自己紹介をした。遠くで歓声が聞こえた気がした。次はディーがストームをしていた。なかなかハードな飲み会が始まって仕舞った・・・


この後、さらに散々飲み過ぎて、陰陽会の女性にもみくちゃにされながらも記憶を無くし、朝目覚めた後は、久々の温泉アナザルームのお世話になった。

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