第200話 総裁戦の結果とアマビエ新党面会 9月下旬

<<サイレン タマクロー邸>>


プレ花火大会が終わった後、サイレンに戻るとディーから昼食に誘われてしまった。

久々にサシだ。お昼ご飯をタマクロー邸でいただく。


「10月1日はスタンピード討伐隊の結成式だからな。ガイアの晴れ舞台だから、絶対に予定を空けておけよ。前夜祭も軽くやるから、9月30日の夜はうちに来い」とディーが言った。


「分ってるって。当日はついでにオルティナ達も連れてこよう」


オルティナ達は近衛兵時代、ガイアと一緒に行動していたからな。


「おお、ガイアも喜ぶだろう。それから、これは速報なんだが、マ国が神聖グィネヴィア帝国との西部戦線で大勝利を収めたらしい。我が国にとっては喜ばしいことだ」


マ国が大勝利? イセはそんなこと言っていなかった気もするけど。単に艦載機を戦争に使ったとだけ。俺に気を使っているのだろうか。


「そうか。今回のスタンピード討伐戦はマ国と共同作戦らしいから、ますます楽勝だろうよ」


「そうだな。一応、マ国には別の1箇所にも転移門が出ていてな。ライン近辺の転移門にかかりっきりというわけにもいかないみたいだがな」


「ふぅ~ん。なあ、モンスターには空を飛ぶやつっているのか? 空母級以外で」


ちょっとだけ気になっていたことを聞いてみる。


「飛ぶの定義によるが、ホッパーというヤツがいるな。飛ぶというか跳ねるというか。10mくらいの巨大なバッタが頭突き攻撃してくる。それから、前回にはかなり特殊なヤツが出たんだ」


「特殊?」


巨大バッタの頭突き攻撃もかなり恐ろしいと思うけど。


「ああ、うちの移動砦部隊がダメージを負ったのは、そいつが原因だ。なんと空母型に巨人がしがみついていてな。そいつらが空から降ってきて、一気に距離を詰められてしまったんだ」


「まさかの空挺部隊。そんなのがいるのか」


「マシラと名付けられている。ただの巨人では無くて、かなりすばしっこかったらしい」


「そうなのか。ますます不思議だ。モンスター・・・」


モンスターには、スタンピードにしか出てこないヤツラもいる。


「それはそうとして、今日はどうするんだ? 久々のオフなんだろ?」


「オフってほどじゃない。一応、徳済さんの家に行って総裁戦の投票結果をテレビで見て、別室では徳済さんがアマビエ新党の人と面会するらしい。それまでは暇だから、お城のコンペデータでも見てようかなぁ」


「ふぅ~ん。まあ、ガイアの件はよろしく」


・・・・


ディーとの昼食会を終え、軽空母に行く。


今、加藤さんはマ国に行って居ないけど、他の人達と糸目がメンテ作業をしている。


元近衛兵4人組は、お休み中なのでここには居ない。


「あ、艦長、どうしたの? 忘れ物?」


糸目が作業を止めてこっちに来る。


「いや、パソコン見に来ただけ。食堂のハイカウンターで見よう」


祥子さんがショットバーのために設えたハイカウンター。ここにはコンセントを設置してある。電気は三角重工製の反重力モーター駆動タイプの発電機を持ち込んでおり、ノートパソコン数台くらいは楽々動く。


カウンターに座ってノートパソコンを開く。


今築城中の五稜郭は、中途半端に堀部分を掘って大量の石を運んだ時点でストップさせている。

清洋建設の社内コンペの結果を待っている状態だ。


現時点で集まっているアイディアをデータで貰っているので、内容をチェックする。

一応、こちらから提示した条件は、五角形であることと、隣の丘から落ちている滝からの取水、地盤のかさ上げ、温泉を利用した旅館、日本庭園、海側の1画は港湾施設など。


どの案もこの条件の基本はクリアしている。それ以外の部分は自由だから、どんな発想があってもいい。ただ、今回はあくまで人材を発掘するためのもの。設計を決定するものじゃない。

だけど、イメージを確定させるのにはとても参考になる。


五稜郭の形も丸っこいのからとがったやつ、星形の外にも城壁があるようなやつ。色々こだわりがあって面白い。気合いを入れて必要な防波堤の大きさを想定で計算してあるものもある。

城内に騎馬に跨がった人の絵やら新撰組のはっぴを羽織った人やらが入っているものもあった。

城の外に向けてどーんと道路が整備してあるのもある。


さて、まずは滝からの取水。ローマ建築風、ギリシャ建築風。日本にある通潤橋みたいなヤツ。そんな中、俺のイメージぴったりの案があった。滝の水を全て奪わず、必要な分だけ通潤橋で取水する感じ。うん。ここはこのタイプの通潤橋に決まりだな。


次に温泉旅館。底層平屋から金閣寺っぽいのまである。

その中の一つにイメージにぴったりの物があった。

石積みの3階建てで、1階は広い宴会場と日本庭園、2階は客間と露天風呂。3階はそれより狭くなっており、客間と露天風呂が一体になっている。空中露天風呂か。きっと最高の景色だろう。


だが、あそこの湯量でこれはまかなえるのだろうか。最悪掘ればいいか。旅館は保留。


次に城内施設。

城内は旅館以外は全くイメージしていなかった。というか、食料生産のことを考えていなかったし、多くの人が生活する場として想定していなかった。漁業くらいはできるかもしれないけど。


港湾に泊っている船から荷物を運ぶ絵が描いてあるものがあった。海からの交易で食料をまかなっているイメージなのだろう。

城の外に田園が広がる絵もあった。確かにここの近くには大きめの川があるから、田んぼも造ろうと思えば造れるだろうけど。治水と灌漑が大変そうだ。


港湾から続く目抜き通りの左右に街が広がっているイメージ図もあった。


夢が膨らむ。ふと時計を見る。もう夕方近い。


「もうこんな時間か。そろそろ冒険者ギルドに行って皆と合流するか」と、後ろのツツに話かける。


「はい、分かりました」


PCをシャットダウンしてアイテムボックスにしまう。そして、ツツと一緒に冒険者ギルドへ。


・・・・


カラン!カララン!


冒険者ギルドを訪れる。


受付には前田さんの奥さんがいる。

パソコンで何やら作業していらっしゃる。ここにもすでに、発電機とパソコンが入っている。

冒険者の管理でもしているのだろうか。


「お疲れ様。徳済さんたちはもう2階?」


「お疲れ様です多比良さん。もう2階ですね。みなさん揃っているはずですよ」


「了解」


そのまま2階に上がってノックをすると、ギルマスの前田さんが開けてくれた。


そして、「いよ! 皆いるぜ」と前田さんが言った。


部屋には幹部3人の他にゲートキーパーの2人もいた。


「俺が最後かよ。じゃあ出発しよう」


・・・・


いつもの地下シアターに入ってテレビを付け、その瞬間を待つ。


「投票結果は・・・小石川議員!? 小石川議員が初回の投票で過半数を取りました。小石川総理の誕生です!」


テレビ画面に大きく『新総理 小石川議員』のテロップが。緊急ニュース速報でも流れる。


「ああ~~~。やっぱりね。しょうが無いか。当選回数的にも人気的にもね。メディアがプッシュしているのが不安だけど」とは徳済さん。


「異世界規制派だったっけ? この人」


「そうね。でも、ここまでは想定内。変な法律造られる前に何か手を打ちましょ。とりあえず、私は今からアマビエ新党の党首と会ってくるわ。ここの1階で、だけどね。じゃあ、行ってくるわ」


「いてら~」前田さんが陽気に見送る。


「さて」


俺はリモコンを手に取り、入力切り替えボタンを押すと、テレビ画面の半分が切り替わる。切り替わった画像には、この家の応接室が映っていた。今日はここからのぞき見する計画である。


・・・・


応接室にアマビエ新党党首が現われた。雨田美緒議員ご本人。現役の衆議院議員だ。

ちゃんと1人で来たようだ。


少し画像が粗いが、雨田議員は、徳済さんより少し背が高く、スレンダーな女性だった。

ヘアスタイルは、なんと前髪ぱっつんの名古屋巻き。

目がぱっちりしていて美人な部類だろう。


歳は徳済さんより少し下らしいから、俺と同じくらいのはずだ。

歳の割には若く見える。


『久しぶりね。美緒、元気してた?』と、徳済さんが最初に口を開く。


『私は元気よ。多恵。こちらこそ久しぶり。元気そうで何よりね。ところで、私がここに入るとこ、張っているカメラマンに撮られたわ。いいの?』と雨田議員が返す。


『別にいいわよ。私は何も困らない』


徳済さん自ら紅茶を入れてあげている。1対1で会う約束だから応接室には2人しかいない。


『紅茶ありがとう・・・しかし、話は本当だったのね。あなた、子供になってるわ』と、議員が少し目を細めて言った。


『どういう意味よ』


『お肌が綺麗ってこと。それって顔だけ? それとも全身?』


『全身よ。心はおばちゃんのままかもしれないけど』と言って、徳済さんが紅茶を口にする。


『あはは。まあいいわ。今回は帰還おめでとうというところかしら。そして指名手配の件は、行政府として謝罪させて貰うわ。ごめんなさい。あれはないわね』


『あれね、結局、告訴した弁護士って何者だったの? 不自然よね。多比良さんの名前が重要参考人として出て、一斉にメディアで取り上げられた瞬間のことだもの』


『野党として追及してもいいけど? でも、多分、政府の自作自演だろうから、全力でごまかすと思うわよ。証拠が出てきたとしても、時間が相当掛かると思う。下手すると国会が空転する』


『そう。動機は支持率?』


『そうだと思う。バカだと思うけど、あれだけテレビで流せばその多比良っていう人が悪い人で、政府は正義の味方というイメージができる。その後、身柄を拘束して事件を進展させたらどうとでもなると思っていたと思う。未だにメディアはやってるでしょ? 多比良悪人説。疑惑は深まるばかりって』


『そう考えると告訴を取り下げられたのも不自然ね』


『警察もとりあえず身柄さえ抑えれば何とでもなるって思ってたっぽい。でも、失敗して病院から大怒られされたみたい。それからとある重工系の会社からも。小田原と名乗る情報屋からもたらされた情報も重要だったみたいね。警察関係も一枚岩じゃない。政府の強引な捜査に辟易している人達もいるのよ』


『こちらから異世界で元気に暮らしてる人達の音声付きメッセージを渡したでしょ? それで結構傾いたんじゃないかと思うんだけど。元々何の証拠も無かった訳だし。で? 今日は何の話をするの? 異世界の話でもする? それとも昔話?』


『異世界の話と昔話は今度でいいわ。お酒でも飲んだ時にね。逆にあなたが教えてちょうだい。今日は、なんで私と会う気になったの? まさかそのお肌を自慢したかっただけってことはないんでしょう?』


『そっちから会いたいって言っておきながら・・・まあいいわ。これは与党へのけん制。私達に敵対したら野党を応援するぞっていうね』


『あら、本当に応援してくれてもいいのに。というか、もうすぐ日本政府はあなた達と敵対することになると思うわ。じゃあ、待っていたら、あなたは私の応援に来てくれるわけね』


『日本と敵対って、新総理の事を言っているの? 小石川氏が異世界規制派であることは知っていたけど、そういうこと?』


『そうよ。彼はC国の手先だもの。おそらく言いなりになって、異世界規制法を成立させようとするわ。その上で異世界にC国を引き入れる。みていなさい。おそらく、まずは国連を異世界に入れるとか言い出すわ』


『・・・そんなにひどいの? 彼』


『もはやズブズブよ? 一族企業が何社もC国で商売しているの。そこの関連企業からの献金も凄い額よ。でもね、どこのメディアも全く追求しないの。不思議よね』


『なんてこったい。そんなことなら邪魔していれば良かったわ。甘く見てた・・・』


『今の与党は、最早保守政党ではないのよ。金の亡者か隠れ左翼。もうすぐ思い知るわ。あなたもこっちにいらっしゃい。深ぁ~い闇が見えるわよ』


『私は異世界でまったり楽しく暮らしたいの。闇なんかみたくないわ』


『・・・あなたに、私の同志達と支援者を紹介したいの。どう?』


『今の私はラメヒー王国日本人会の幹部なの。それは私だけの意見では決められないわね。ちょっと質問するけど。あなた達ってカルト関係者はいるの?』


『カルトの定義が何か知らないけど。神道系が支持母体の議員がいるのは確かよ。結構古い宗教団体だから、カルトではないと思うけど。でも、失踪した日本人が異世界にいるってずっと主張していたから、メディアではカルト扱いね。結局正しかったわけだけど』


『・・・多比良さんを教祖と崇め、自宅跡を聖地にしようとしている人達は?』


『組織の人間では無いわ。ただし、政治家として関係無い人とは言わない。多分、清き一票は入れてくれているはずだから』


『そう。あなた達って、地域政党と国会議員が合流したのよね。その辺の事情を教えて』


『まず、この街の県議員と市議が『日本人を異世界から助け出す会』を結成したの。実は、貴方達の失踪の瞬間って、結構目撃者がいたの。凄い光が見えたとか、その後誰もいなくなっていたとか』


『そういう情報は、週刊誌とかで読んだけど。あれって嘘っぽくなるのよね。で? 政府はそういった現象の目撃者は無視したと』


『そう。でも、これまでの常識では考えられないことが起こったわけで、異世界とはその象徴のような言葉だったのだけど。それでね、その会は、最初は小さな超党派の会だったけど、その後、政治家が失踪事件がらみで失言したり、異世界と言った瞬間言葉狩りにあって与党にいられなくなったり。結局、そうやってはじかれた人達が『異世界』というキーワードで集まって、『被害者を異世界から助ける会』という地域政党が立ち上がったの』


『美緒の場合は?』


『私の場合は、保守的な運動をしていたら、メディアに叩かれて与党にいられなくなって。私の小選挙区ってここでしょ? そのうち、神道系の人が合流してきたり、保守系が合流したりでアマビエの党を立ち上げて。結局、『日本人を異世界から助け出す会』と合流してアマビエ新党になったってわけ。今では国会議員7名を擁する立派な政党よ』


『なるほど。あなたの同志達と支援者に会うかどうかは、今後の報道と小石川氏の動き次第かしら』


『そう。慎重ね。一応、私も現役の国会議員。今日私が多恵に会ったってことが報道に出たら、色々と圧が掛かると思うけど? 一応、貴方は疑惑の渦中の人なのよ?』


『ええつと、疑惑とは?』


『日本人600人の拉致疑惑』


『ええつと、それって、メディアだけでは無く、行政府もそうなの? そのシナリオを諦めていないのって』


『まだ事件の捜査本部は解散されていないしね。疑惑を払拭したいんなら、逃げ回ってないで、出てきなさい』


『ふん。疑惑なんてどうでもいいけど、それをネタに法規制されるのは少し困る。何事も穏便に行きたいのよ。ま、大体分かったわ』


徳済さんは、コレで終了と言わんばかりに紅茶を呷る。


『今日の所は帰るわね。多恵、今度は多比良さんも紹介してね』


それを察したのか、雨田議員は潔く帰ることにしたようだ。


『約束はしかねるけど、また連絡するわ。じゃね』


・・・・


「お帰り」


「ただ今、疲れたわ。サイレンに戻りましょう」


徳済さんが少し疲れた顔で帰ってきた。


相手もなかなか強烈な人だった。

美容魔術や異世界利権には見向きもせずに、自分の主張と都合のいい情報だけを投下して去って行くとは。なかなかの女傑なのかもしれない。


これにて日本国の政治家との接触は完了。


ま、第2幕に期待するしかないか。というか、政治は徳済さん達に任せよう。

俺の出る幕はないわ。

俺は粛々とガイアの見送りでもしよう。

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