第188話 日本帰還編 エピローグ

<<サイレン>>


「じゃ、行こうか。オルティナ。発進!」


「了解しました。発進!」


俺の移動砦、改め軽空母がゆっくりと浮上する。


「この感じ、懐かしいわねぇ」


今回は徳済さんたちも一緒だ。


「徳済さんが乗るの、古城以来だっけ? あの時から少しレイアウト変えてるから」


「知ってるわよ・・・」


徳済さんは、窓の外を眺めながらこちらを見ずに返事をする。


ところで、世の中の女性には、子供が大きくなると自分が子供のようになる人がいる。


「温泉行きたい」


ああ、ここにも一人。


徳済さん、少しだけ性格が小娘になっている気がする。

だいたい、親元に帰った女性は、少し小娘になって帰ってくる。きっと、精一杯甘やかしてくれるからだろう。


「今回はのんびりするのよね?」


「そそ。タイガで補給兼観光で1泊。その次はバルバロに行って観光で1泊。その次未踏の地に入って魔石ハントしてメイクイーンに戻って1泊。その後はタイガとメイクイーンを魔石ハントしながら行ったり来たり」


「そう。楽しみね。ところで、温泉は?」


「メイクイーンの南に天然温泉がある。今回はそこに行くつもり。俺も少しハートを癒やしたい」


「ひょっとして日本から持ち込んだあの機材って、温泉か何か調べるつもり?」


「毒ガスが出ていないか調べるつもり」


この度、三角商会にお願いして硫化水素を調べる機材を手配していたりする。


「そう」


そう言いながら徳済さんはお酒のグラスを傾ける。本当に自由人だなこの人。今回はお友達の斉藤さんも一緒に来ている。ちなみに斉藤さんの娘さんは茜ちゃんといって、徳済さんの息子さんのガールフレンドだ。と、いうことは、今サイレンに残している中学生カップルは、フリーということだ。きっといろんな事をするに違いない。


「何? 何か言いたげね」


「いえいえ。何でもない。では、楽しい魔石ハントに出発!」


今回のクルーは、少し賑やかだ。


まず、元近衛兵4人に、1人ずつの女性の従者が付いた。いや、実家が付けたみたい。ただし、糸目はぼっちのまま。あいつは仕方が無い。その代わり船医が派遣されてきたけど。


こちらとしては、掃除と魔力の補給要員が増えたから助かっている。

この軽空母は、前回、50人以上も乗せたのだ。あの時に比べたら人口密度はまだまだ少ない。


それから、『出張料理人』の3人。

こいつらはバルバロ辺境伯家の移動砦の修理が済み、試験飛行が再開された後もサイレンに居座っていた。あまりにも居心地が良すぎたらしい。大将は日本人シェフが作る料理目当て。オキタは晶など友人達とのひととき。ノルンは日本人を襲うため。流石にそろそろ何か仕事をしたいということで、今回俺が雇った。ツアーの最後には、バルバロにリリースする予定にしている。


それから、冒険者パーティ『輜重隊』。彼らには、マルチロール艦載機1機を運用してもらう予定だ。もちろん、ラーとムーは厨房担当のままだけど。


で、もう一機のマルチロール。前回のイセとの合同魔石ハントでは、マルチロールは2機の運用で大きな功績を挙げている。十字砲火作戦だ。だから、今回はもう1パーティ、マルチロールを運用するようにした。

2機目には、出張料理人チーム、操縦者はオキタ、搭乗者はノルン。補佐は、徳済さんと斉藤さんがやりたがったので、交代で乗せることに。一応、随伴にフェイさんを付けているから大丈夫だろう。


それ以外のメンバーは、軽空母の運用に欠かせないヒューイ、それからマ国の連絡要員であるラムさんが乗っている。


・・・・


タイガでは伯爵本人から歓待を受けた。タイガ伯爵は日本人に対しとても好意的だ。ちなみに肉体接待は事前辞退した。今回は女性も多いし。


輸送艦の整備工場もみせてくれた。

まだ完成はしていないけど、すでに移動砦の輸送艦改装は始まっていた。とりあえず予備艦の2基がドック入りしていた。他の艦は予備艦と交換する形で順次改装を進めていくらしい。


輸送艦は、移動砦とは形が大きく異なっていた。


長靴で言うところの足の甲の部分が1段高くなっていた。

軽空母の飛行甲板の部分にフロアが追加されたような格好だ。

そこを新しい操舵室兼旅客スペースとし、元々の操舵室は貨物室にするらしい。

それから壁を1段薄くして燃費を改善させるとか。


輸送艦の壁には蜂の巣の様に穴がぼこぼこ空いている。

どうもあそこに貨物の入った箱を差し込む形にするみたいだ。まるで飛行機のガレージみたいと思った。

貨物を入れる箱は規格が統一されており、効率を上げてある。貨物のコンテナ化は、日本人の入れ知恵らしい。タイガ伯爵は彼なりに、色々と情報収集をしているようだ。


なお、この輸送艦を用いた輸送主体(輸送艦ギルドになるとか)は、基本的に輸送のみを行う。要は自分で貿易をするわけではない。コンテナを1回いくらで既存の行商人からお金を取って輸送してあげるわけだ。


富の独占は考えていないようだ。さすがは伝統貴族。この高速輸送は誰でも利用できるインフラになるらしい。


・・・・


次にバルバロに到着。


バルバロ辺境伯は、歓待に関しては無頓着らしく、挨拶はしたけど特に何もなし。

あの家もランスロッテがサイレンに出て、かなり閑散としていた。

結局、晩ご飯は大将とその弟子達が軽空母で振る舞ってくれた。


その後は近場で魔石ハントをして、メイクイーンへ。例のパン屋兼居酒屋で御飯を食べた。

ノーラさんは、相変わらずの美人だった。ノーラさんと徳済さんは早速仲良くなっていた。2人とも社交的だし気が合ったようだ。


・・・・


そして次の日。


「ここが天然温泉。いいところね」


「毒ガスも出ていなかったし。海と山と川があっていいところでしょ? 滝もあるし」


発見した海ベタの天然温泉付近に降り立っていた。

快晴で澄んだ空気。そして海からの潮風。とても気持ちがいい。


「山というか丘よね。滝になってて美しいわ・・・海の少し先には大きな島があるのね・・・あんた何やってるのよ?」


「ん? 模型の微修正。構想練ってたんだ」


俺は土魔術で造った3次元のジオラマを、現物の地形を見ながら微修正していた。


少し温泉と滝のある丘が近かったみたいだ。


「いつの間に・・・その形はまさか。いや、それ造るわけ? ここに?」


何を当たり前な当然なことを。


「そ。ロマンがあっていいでしょ?」


「・・・あんたねぇ・・・何考えてるのよ。日本人のための拠点って、あれ嘘だったの?」


「そんなわけないでしょ。ここ、温泉旅館にするつもりなんだ。眺めもよさそうだし」


「・・・じゃあ、その模型のここは?」


「ここは通潤橋。あそこの丘の滝から少し淡水を拝借しようかと」


「ここは? これ、半分水没してない?」


「ここは港湾。せっかくの海なんだし。岸壁と防波堤を作ろうかと」


「・・・勝手にしたら?」


徳済さんにあきれられてしまった。


「お、なんすか多比良さん。その模型」


輜重隊の峠さんがやってきた。


「あ、峠さん。このお城の素晴らしさに、徳済さんが理解を示してくれない。峠さんなら」


お城の模型を見せる。


「え? お城? あ、あれっすか!? いいですね。ここに大砲とか置くんでしょ?」


「そうそう。どこから攻め込まれても十字砲火が出来るっていう」


まるでいいじゃない」


徳済さんがとてもひどいことを言う。


「丸じゃロマンが足りない」


「ヒトデみたい」


「ひど! 五稜郭って呼んでくれ」



◇◇◇

<<サイレン 元ケイヒン倉庫群荷さばきヤード>>


「本当に、私らにこの移動砦、次期輸送艦を任せてくれるのかい」と、セーラー服の老婆が言った。


「そ。頑張って。でも、有事の際はこっちを手伝って」と、多比良八重が言った。


「分ってるぜ、姐さん。任せな」と、肩の筋肉が人の頭くらいあるタンクトップの女性が言った。


「いや~頼もしいなぁ。護衛や事務手続き要員として冒険者も乗るけど、やっぱり地元の人が乗った方が安心感がある」と、高遠氏が少し遠い目をして言った。


「それで、例の盟約は本当に大丈夫なのかい?」


「大丈夫。城さんは、ストライクゾーンが異常に広いから」


セーラー服の老婆はニヤッと笑って輸送艦の入り口から中に入って行く。その後ろにぽんこつやデラックス肥満や巨女が続く。


「じゃあ、楽しみにしておくぜ。ちゃんと処女はとっておくからよ」と、筋肉タンクトップが言った。


「じゃね、マダコちゃん」と言って、八重は小さく手を振った。


ケイヒン伯爵から追放された例の5人衆は、追放と同時に名前も無くなった。


それを『お買い得』と言って拾った八重は、独特のセンスで名付けを行っていた。


それぞれ、ぽんこつのハマグリ、金的巨女のオヒョウ、デラックス肥満のマンタ、筋肉だるまのマダコ、老婆船長のホヤと名付けられている。


本人達は特段嫌がる様子も無く、普通に受け入れているらしい。



◇◇◇

<<三角重工 日本本社>>


「へぇ~ここが日本なんだ」


「あ!? カテジナさん、出てきちゃったんですか?」と、高遠氏がぎょっとしながら言った。


「そうよ? タカトオ。だって暇なんだもん。あの中。ずっとあのしかめっ面のトカゲ女と一緒にいなきゃいけないし」と、膨れ顔でカテジナーテ・タマクローが言った。


「しかし、駄目ですよ?」


「うぇ~ん、タカトオのケチ!」


「可愛く言っても無駄です。戻りましょうね?」


カテジナーテタマクローは、25歳になるガイアの姉。もちろん、35歳の長女ティラネディーアよりは年下だ。

しかし、見た目は高校生くらいの少女に見える。


その、見た目高校生のカテジナさんが、高遠氏によって、元いたアナザルームに連行されていった。



◇◇◇

<<多比良八重の独白>>


さて、賽は投げられた。


多比良八重は、自宅で工作をしながら独り考え事をする。

今は10月中旬に開催されるアイドルの大型イベントのため、推しメン応援グッズをせっせとこしらえていた。


工作を行いながら、勇者活動のことを振り返る。

ここまでは、とほぼ同じ。


今回、異なるのは、イネコさんが旦那にナパームランスを授けたこと。それを古城の戦いで使用し見事に移動砦を撃破したこと、そして、自分がマ国に接近して、予言をしたことだけだ。


なので、前回と今が殆ど同じなのは当たり前だ。

今回、ナパームランスだけでは、マ国が神聖グィネヴィア帝国に大勝利するのは難しいと考えた。

なぜならば、前回は大規模な移動砦対移動砦戦が発生し、お互い大損害を受けつつ、だったからだ。


今回、マ国は魔道飛行機とナパームランスという移動砦に効果的なノウハウを手に入れはした。

しかし、飛行機の量産がどうも遅い。このままいっても、恐らくマ国の辛勝くらいなら可能だろう。だが、それではだめだ。


マ国には、可能な限り多くの移動砦を鹵獲してもらうのがベストだ。


ラメヒー王国に少しでも多くの戦力を派遣してもらうためには、神聖グィネヴィア帝国には戦争継続不可能程度までのダメージを負ってもらい、かつマ国陣営の戦力を増強させなければならない。


それから気になることもある。

前回は居なかった第3聖女の存在。


マ国は、例え死人でも頭部が残っていればその記憶を吸い出す技術がある。

もちろん、生きていれば、かなり完璧な記憶を取り出すことができる。


だから、マ国は第3聖女からほぼ完璧な情報を得ているはずだ。だが、ここに落とし穴がある気がする。


敵も馬鹿ではない。聖女が行方不明になっている時点で、その裏をかいてくる可能性もある。要は、第3聖女が知らされている以上の戦力を投入する恐れがあるのだ。

あの国はそれができるだけの規模がある。


なので、奥の手。チートスキル。前世? の記憶から知識を分け与えた。


それが自動車の改造。反重力発生装置を取り付けて、飛行機化させる方法を伝授した。自動車なんて、第2世界には捨てるほどあるのだから、短期間で大量の魔道飛行機を作ることができるだろう。

これで辛勝から勝利、出来れば大勝利を狙ってもらいたい。


さて、ここで、少し整理しよう。


このクソゲーを攻略するために必要なことと、その進捗状況。


①エロ鬼イセを旦那が落とす。コレはマ国を旦那の味方に付けるための必須条件。

②日本に帰る転移者600人の保護。その枠組みの構築。これは1人でも死んではいけないこのクソゲークリアのために必要なこと。

③ラメヒー王国のスタンピードの勝利。スタンピードに負けるとこのクソゲークリア後の異世界情勢がめちゃめちゃになる。負けてクリアしてしまうくらいなら、やり直した方がよい。ただ、これは遠回しにマ国の西部戦線勝利が必要条件になる。

④ラスボスの倒し方。


で、その進捗条件だけど・・・


①は、うまくいっている感じ。なので、こちらからの積極介入は不要だろう。しばらく放置。

②は、今のところ順調。後は転移者600人が実際に帰国するときが本番だ。できれば、ラスボスを倒すまでは全員第1世界にいて欲しいのだが。

③は、西部戦線への介入結果次第だ。直接私や勇者パーティが戦争におもむくく訳にはいかない。ここは間接的にチート情報で支援する。

④は、そこまで急がない。最終工程だからだ。いずれどこかでイセや旦那に私の事を開示する必要がある。その時でいいと思う。おそらく、エンパイア辺りにその情報があるはずだ。


当面はそんなとこかな。


後は、いつ、私の情報を皆に知らせるか、だけど・・・


ひとまず、私が『時空化の巫女』だという事を、国の偉い人達に信じて貰えるかどうかに掛かっている。信じて貰えなかったら、タダの頭がおかしい人だ。


ひょっとすると、マ国が西部戦線に勝利、もしくはバルバロ平野に転移門が出た時点あたりで、向こうから接触があるかも知れない。


まあ、最低でもイセだけに私の情報を出せばいいか。

イセさえ味方に付けておけば、他はどうとでもなる気がするから。


ただ、マ国には暗殺や諜報に長けた一族がいる。城さんを一番コロコロしたヤツら。あの超不気味な連中。あいつらがどう動くかも注視せねばならない。


これからは、未だ見ぬ未来が待っている。さて~頑張るぞぉ~。



#次章の予告


異世界の存在が世界中に知れ渡った! だけど、日本政府は異世界施策に何も有効な手を打てず、のんきに総裁戦を開始する。

一方、異世界にいる日本人達は、離散家族との交流を開始し人心地。

だがしかし、日本国がおろおろしているうちに、海外勢力が蠢き出す。


多比良城は、そんな世知辛い世の中を忘れたかのように、自分の趣味に没頭する。

だが、欲をかいてお城の規模を大きくし過ぎてしまったために、開始1日で後悔する。

悩んだ多比良城は、日本の古巣、元職場の親会社を頼ることに。さて、築城はどうなって行くのか。


一方、マ国の西部戦線では、神聖グィネヴィア帝国の大規模な地上軍が結集しつつあった。

敵戦力が完全に整う前のタイミングで、マ国は魔道飛行機による奇襲攻撃を決意する。

マ国の敗北に終わった西部戦線で、ついに両国が激突!


『マ国vs神聖グィネヴィア帝国 西部戦線』乞うご期待。


10月1日はラメヒー王国のイベント、『スタンピード討伐隊結成式』が行われる。

結成式の後は出陣式として、移動砦のパレードも行われる予定である。

おっさん達は、知り合いのガイアの出陣式を見学するため、レストランの屋上を予約するが、前日の9月30日、バルバロ平野には・・・


時空化の巫女の予言は果たしてどうなったのか。


日本政府の異世界施策が完全に麻痺している中、まったく日本を無視するワケにもいかないということで、徳済多恵の知り合いの国会議員と多比良城の同級生の水政くんが異世界にやってくる。

異世界にいる日本人の様子を見せるためだ。


だが、同級生の水政くんは、600人失踪事件の捜査指揮を執ったとされる人物なわけで・・・

複雑な感情の中、多比良城は変態ノルンに彼が宿泊しているホテルと部屋番号をリークする。

水政くんvs変態ノルンのバトルが始まる。


スポーツの秋、文化の秋、お祭りの秋・・・

異世界に残った日本人達は、サイレンの地で自分たちの秋祭りを開催することに。


多比良城は、子供のスポーツ観賞にお仕事に接待にと大忙し。

『サイレン秋祭り』をお楽しみください。


日本国の総裁選が終わり、やっと新総理大臣との外交が始まる・・・と見せかけて、今度は衆議院の解散総選挙だ。

日本国は異世界施策なんてほったらかしで選挙モードに入る。


新総理は国民の人気取りのために異世界の日本人会幹部を呼び出し、メディアの前で吊し上げる。

ぶち切れた徳済さんが宣戦布告!


異世界施策が争点となる『衆議院総選挙』をお楽しみください。


そのほか、ハイブリッド兵器への道。怪人衆の鼓動。異世界4カ国会談。月の悪意。多比良八重の暗躍・・・など、それぞれのお話も進行します。


『第6章 日本国迷走編』


お楽しみに~

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