第187話 異世界発見の裏で 9月中旬

<<病院法人徳済会>>


「では、お前達、頼んだぞ。三角重工に着いたらこれを渡せ。そして、サイレンに着いたら『診療所』に行け。話は通してある。多恵はしばらく旅行だそうだからな」と、和装の老人は言った。


ここは、いわゆる徳済会病院の一室である。ここに比較的若い男女数名が呼ばれていた。

老人から紹介状を渡されるが、渡された医師達は少し戸惑いの表情を見せる。


「分かりました。ですが、本当にあるのでしょうか。異世界なんて。それに、こちらより高度な医療技術だなんて」


「異世界はあるという前提で物を考えろ。医療技術の高低は主観の問題に過ぎん。少なくとも、そこには自力で骨折を治せる何かと、アンチエイジングの技術がある。多恵からの伝聞だが、視力も戻るし歯根が残っていたら虫歯も元通り。感染症なども殆どないらしい。いや、性病にだけは気を付けろと言われている。異世界では性欲が上がるらしいからな」


「はい。やれるだけやってみます」


「お前達は夫婦だ。その辺も大丈夫だろう。ここで努力すれば、魔道医術の第一人者になれる。世界中がこの技術を欲しがり、あらゆる権力が頭を下げるだろう・・・では、行ってこい」



◇◇◇

<<三角系企業の朝食会議>>


ここには、とある企業のお偉いさん達が集結していた。いろんな三角系企業のトップ達。取り扱われる議題は多岐に渡るが、今は異世界ネタで持ちきりだった。もちろん、内容はトップシークレットだ。ブレスト的な会議でもあり、軽はずみな意見や私論であっても、何を発言してもいいのがこの会議の特徴だ。


親睦を深めるための目的もあり、朝食をいただきながらの会議である。


「まさか異世界が本当にあるとは。先駆けて我が社が異世界とパイプが持てる意味はとてつもなく大きい。極秘のはずなのに、移住者の希望が殺到しておる」


「そうですな。若返りの話もありますし。あちらに行っている人間も誰一人欠けていませんし、日本に帰りたいという人もごく僅か。おそらく文明水準も悪くなく、治安もいいのでしょう。入手した魔石とやらは、全く未知の物質でした。動物の骨や皮も今調べさせておりますが、少なくともこちらの世界にはいない生物のものだったらしいです」


「興味は尽きないか。代わりに要求されたのは、金属類と工作機械と酒か。なんとも欲のないことだ」


「当面の貿易は、向こうの国家が望む品目だけに絞っているそうです」


「もったいない。相手は石積の家しか建設できないような国家なんだろう? パソコンも自動車もない。金融で縛って少しずつ軍事力を派遣して、利権を我が物にすることも考えたらどうなんだ?」


「”異世界を舐めるな”異世界にいる高遠氏の忠告です。絶対に怒らせてはいけない人物もいる。よく考えろ『パラレル・ゲート』の鍵は、相手が握っている。おそらく、鍵を握るものが本当の強者だ」


「そうですな。今、我が社に『パラレル・ゲート』の入り口があるのは、別に我が社の実力ではない。相手が望んだからそうなっているだけだ。思い違いをしてはならない」


「しかし、政治家を動かしてあの事件を潰したでしょう? 今後物品の輸送と人の派遣を行うのなら、ある程度便宜を・・・」


「勘違いをするな。多比良城氏は、そもそもあの事件の主犯格ではない。それでは何故政治家を動かしてまで強引に事件を早期に終わらせたのか。それは、異世界にいる同胞のためを思っての事ではあるのだが、根本には、という本当の目的がある」


「多比良城こそ、真の最重要人物だ。このことは、もちろんトップシークレットだ。情報がうちから漏れたとなれば、信用を失う恐れがある」


「だが、多比良城氏も話の分かる男ではある。高遠氏からの情報によると、『企業を巻き込む以上ある程度の見返りは必要』という考えを持っているらしい。だからこそ、我々が世界に先駆けて、異世界貿易と人材派遣を始めることができるのだ」


「ならば、今後は・・・」


「ひとまず、異世界に行かせるのは少数からだ。出過ぎた真似をすると、世界から叩かれる。派手に動くのは日本国が異世界と外交を始めてからがベストだ。出来れば護送船団方式がいいが、今の政府にはあまり期待できないな」


「まあ、まずは、大量に失踪してしまった我々の仲間が、異世界で無事だったことを喜ぼう。仲間が異世界から帰ってきた。そして、日本人は日本に帰るということ、それを当然のごとく望んだ多比良城氏に感謝する。まずはそれを堅く認識しようではないか」


「そうですな。多比良城氏が同胞であることに感謝を。そして、誰一人欠けること無く帰ってきた、我が社の社員とその家族達を暖かく迎えたい。そして、それに寄り添った異世界の『日本人会』の功績に喝采を」


「あちらの国家も、同胞をちゃんと守ってくれていたようです。そういう国家であったことに感謝だな」


「うむ。今日はこの認識を共有できて良かった。では、また来週だな」



◇◇◇

<<高橋道場>>


高橋道場に、以前、桜子の事情聴取にやってきた警察官がやってきた。


「「師範、済みませんでしたぁ~~」」


2人は玄関の前で正座をし、その姿勢のまま深々と頭を下げる。


「まあよい。お前達も上から言われてやったことなんだろうて」


「はい。お嬢さんを疑うなんて。そんなお恐れ多いことを」


「分かれば良いのじゃ。まあ、婿殿を疑うのはかまわぬがの。田助、それから角力よ。しかし、お主らも妻と子。それから祖母が行方不明だっただろうに」


「いや、ばあちゃん達が一緒なら絶対に大丈夫ですから。全く心配していませんでした」


「そうですよ。手紙も読みました。家族の無事を確認しました」


「うむ。お前達だけに伝えるが、手紙類はこの道場でもやり取り可能だ。お前達も手紙を出したければ、ここまで持ってこい」


「え? さすが師範。いや、申し分けありません。八重さんとその旦那さんとお孫さんが異世界に行かれてたんでしたね」


「そうだな。その伝手でパイプができておる」大きな老人は不適な笑みを浮べる。


「なんと。異世界とのパイプですか。頼もしいです」


「ふむ。しかし、国はいつまで異世界の存在を否定し続ける気かのう。それに、ずさんで強引な捜査方針。過ちを認めぬ傲慢さ。マスコミを使った姑息な情報操作。娘の家の放火を防げなかっただけでなく、孫の実名と映像まで放映させておいておとがめ無しとはな。マスコミ各社は未だに謝罪も何も無し。逆に孫が傷つけたとして、傷害罪の告訴や器物破損の損害賠償を言ってきよった。ニヤニヤしながら示談を匂わせてな。恥知らずどもめ」と八重の実父は言うも、そこまで悔しそうにも怒っていそうにも見えない。


「マスコミや警察の捜査方法については、抗議されないのでしょうか。あいつらや警察はそういった圧がないと動きませんよ?」


「いや、よい。警察組織は一枚岩ではない。今回の事件は政治主導だろう。政府が変わればまた変わる。気にしてはおらん。マスコミに関しては、向こうから謝罪をしないことで、彼らが被る不利益の方が大きいだろう。あいつらは、異世界に渡った日本人達を敵に回した可能性がある。自主的に謝罪しない限り、おそらく異世界利権には食い込めぬ。これは、ことだ。マスコミは、旦那の敵である方がよいと言っておった。権力を集中させたくないのだと」


「そうですか・・・・よし、では師範。今日も一手お願いします。それから、出来れば桜子さんとも・・」


「娘は、今異世界に行こうかどうか悩んでおる。家も燃えてしまってショックだろうし。そっとしておいてやれ。そうだ。異世界から武者修行に来ておる者どもがおる。極秘ではあるが、お前達ならいいだろう。そいつらに、稽古を付けてやれ」


「「はい!」」


・・・・


警官2人が道着に着替え、通された先には異様な風体の者どもがいた。


2本の角を生やした男性が、弓を構え、的に狙いを付けている。

また、別の角を生やした男性は、青く輝く長刀のような武器を持って、別の女性と地稽古を行っている。防具も着けずに。


また、両肩が人の頭ほどもあるような筋肉質の女性が、サイと呼ばれる武器を使って、演舞を披露している。

合う道着が無かったのか、タンクトップ1枚だ。彼女は顔は可愛いので、意外とセクシーだった。


その演舞を見学している者どもも、とても異様だった。全員がセーラー服を着た女性。


巨女2名、デラックス肥満1名、そして老婆1名だ。


警官2人は、気合いを入れ直し、その一団に入っていた。



◇◇◇

<<アマビエ新党 党本部>>


アマビエ新党とは、地域政党「被害者を異世界から助ける会」と保守系国会議員政党「アマビエの党」が合併した政党である。

国家議員も数名抱え、某市で発生した600人失踪事件は異世界転移であるとずっと言い続けてきた組織でもある。


異世界転移した600人の残留家族達を支援するため、補助金の設立やカウンセラーの派遣などの取り組みを行った実績がある。


ここは、そう言った人達の党本部。


「やはり、私達は間違っていなかった」


「はい。批判されながらもずっとこの運動を続けて来た甲斐がありました。彼らを異世界から救い出してあげますとも」


「日本人会幹部の一人、高遠多恵さんね・・・彼女、私の知り合いなのよ。かつての盟友。今は私が与党を離党しちゃったから、どうなるか分からないけれども」


「今回、彼らが最初に頼ったのは外務省と言われています。悔しいですよね。我らはずっと彼らを助け出すために活動していたのに」


「腐らないで。私達は弱小政党でしかないのよ。それに、彼らは、日本人帰国に関してだけど、政治家には誰一人頼らなかった。これはひとえに政治不信だからよ。彼らとのアポイントは私が何とかする。皆は異世界の存在とその内容について議会で追及してちょうだい」


「もちろん。望むところです」


「多恵・・・今頃どうしているかしら」


永田町の女傑が動き出す。



◇◇◇

<<楠木陰陽会>>


楠木陰陽会とは、平安時代から続く陰陽道の流れを汲む宗教団体である。

信者は全国に数万人程度いる歴とした宗教法人である。

近年では映画やサブカルチャーの影響もあり、にわかに信者が増えていたりする。


この度の600人失踪事件の際には、自分たちの信者数名が行方不明となっていた事もあり、残留家族の支援などを行っていた。

また、高橋道場とは以前より関係を持っており、今回の600人失踪事件やその残留家族支援に際しても協力関係にあった。


ここは、そんな宗教団体での一幕。


「何を見ていらっしゃるのですか、楠木さん」


とある女性が、椅子に座り手紙を読んでいた背筋の良い男性に話しかける。


「いや、三角商会なるのものが、面会を申し込んできた。残留家族の支援を行っている我々と接触したいのだそうだ。しかし、異世界か・・・やはり、本当だったのだな」


「以前、高橋道場からも相談を受けていましたよね」


「ああ、高橋道場とは伝統武器の研究などで元々繋がりがあった。あちらも関係者が失踪しているからな。以前からやり取りはしていたんだが・・・」


「あの手紙ですか?」


「そうだな。以前、異世界転移の手紙を多比良八重さんから貰っていたんだ。にわかには信じられなかったが、それが真実になった。なれば、こちらに残る家族を保護するという話は受けてもいい。だが問題は・・・の予言の存在・・・さて、どうするか」


「予言ですか。『我らの聖地は異世界に出現する』でしたっけ。そのせいで過激派が多比良城氏の自宅跡を聖地とするべく活動を開始してしまって・・・」


「あいつらにも困ったものだ。残留家族の保護、特に多比良城氏の肉親達の保護か・・・これは直ぐに動いた方がいいだろう。嫌な予感がする。異世界の存在を知った強欲な者どもがどのような行動に出るか・・・よし、道場と改めて話をしよう。それから、三角商会の面会も承諾しようか」


多比良一味に新たな仲間が加わった。



◇◇◇

<<東京のとある警察署>>


「あ、もう帰っていいよ」


「やっとですか。これでやっと活動できる。さて、霞ヶ関に行って、外務事務次官に会ってっと」


教頭はやっとのことで開放され、今警察署の出口から出てきたところである。


リリースされた教頭を待っていた人物が1人。

スキンヘッドでお目々がぱっちりの・・・


「・・・いや、教頭先生。もうそれはいいですから。帰りましょう」


「あ、貴方は確か小田原さんでしたっけ?」


「はいはいそうですね。貴方は人の名前を覚えるのも得意だし、子供の面倒見とかはいいのに。なんで児童売春なんてしたんですか・・・」


「いや、あれは貧困調査だ。と言うか、彼女は20歳と言ったのだ」


思った以上に元気そうな教頭をみて、スキンヘッドは少しほっとする。意外としぶとかったようだ。


「はいはい。戻りましょ。サイレンへ。尾行が付くと思うから、ちょっと変な道を通りますよ」



◇◇◇ 

<<サイレン ラボ>>


夜、俺たちはサイレンの『ラボ』にいた。イセとマ国の魔道具士を連れて。


「これが噂の『ラボ』か。雑多な感じじゃ」


「こら、イセ。今日はお忍びなんだからな」


「ふん。わかりゃせんわ。それで加藤殿はどちらかな?」


俺は、『ラボ』の敷地の端にあるガレージに案内する。

そこに加藤さんがいた。


「は、はい。加藤です」


さすがの加藤さんも、あまりにも態度が太いイセを見てびびっている。一応、事前に説明はしていたんだけど。


「緊張せずともよい。情けないことに、我らの技術ではお主らの造る魔道具は全く原理が分からぬと言うのじゃ。せっかくよい鉄鋼が手に入っても物が出来ないことにはどうしようもないからな。どうじゃ? 我々に技術を学ばせてくれないだろうか」


「恐れ多いことです。我らは設計思想もさることながら、その冶金技術も少々特殊なのです。職人のこだわりといいますか」


「今日はマ国の魔道具士も連れてきておる。よろしく頼むぞ」


・・・・


技術談義が始まる。正直、俺はよく分からない。

ただ、ここにもパソコンが持ち込まれている。初期の頃に比べると、かなり設備も充実しているようだ。


「凄いですね。これを手作業で造っているなんて」とマ国の魔道具士は言った。


「はい。ここの部分は職人でしか造れません。ここの造形が甘いとそのほかの部分もうまく動作しません」


「・・・やはり、すぐには無理か。だが。ここの工場は些かセキュリティに問題があるようだ。ラメヒー王国にあるのもな。この国は諜報が弱い。最近、敵国の間諜も大分減ってきてはいるようだが・・・加藤よ、艦載機を製作するのに必要な人数はどのくらいだ? いや、誰が造ることができる?」


「はい。私と、それから絶対に必要なものが他に3人います。後はある程度の技能と知識があるものが5名ほどいれば、製作は可能でしょう。もちろん材料があれば、ですが」


「そうか。新しく日本から仕入れた工作機械とは何をするものだ?」


「一番大きいヤツは、強度を調べるための物です。機体の安全性のために、基準を作ろうかと考えています。今は、鋼材の強度や品質すらも規格がありませんから。後は板厚を計ったり、亀裂を確認するような機材や、鋼材の表面を磨いたりするような細々したものですね」


「ふむ。加藤とその3名をマ国に引き抜きたい、と言ったら、あの娘が怒るかのぅ」と、イセは静かな声で呟いた。


「ここの職員は殆どがタマクローの縁者だからなぁ。冶金とか物作りが好きな人達らしい」


「・・・そうか。この国は、本来、物作りの国だったらしいからな」


「へぇ~~そうだったんだな」


まあ、ドワーフだからかな?


「よし。この『ラボ』の艦載機部門を空母化しよう」


「は? どういう意味だ?」


「マ国から高速型の移動砦を1基進呈する。魔道具士も10名ほど出そう」


「ひょっとして、その移動砦を空母に改修して、人と工作機械を載せて、専用工場にするのか?」


「その通り。納品の時にはそのままマ国に来ればいいし、飛行実験もそのままできる。パイロットの訓練も出来るだろう」


「ははは。パイロットに合わせたチューニングもその場で出来ますな」


「いや、加藤さん、これ本気の話だから」


「私はいいですよ。ですが、他の3人は、若手なのですが背の小さいおじさんみたいな方なんですよね。ディー様の許可がいると思います」


「なるほど。では、あいつの許可を貰えばいいんだな?」


なんか嫌な予感がするんだけど・・・



・・・・

<<その夜>>


「おらぁ! どうだ。いいって言ぇええ!」


「ぐっうううう。いい、いいいい~~」


「そうか。じゃあ行くぜぇえええ~~」


こいつらは、一体何をヤッているのか。


「でも、でもぉ~~うちにも何機か回してくれぇ~~」


「しょうが無いか。よょっしゃ! ではまわれぇ~~」


「きゃああ~~~~あ~~れ~~~」


温泉アナザルームに2人の絶叫が響き渡る。俺は温泉にぷかぷかと浮きながら満天の星を見上げ、ため息をついた。


これにて、『ラボ』艦載機部門と加藤さんは、空母に改修された移動砦で仕事をすることになった。


そして、タマクロー家にも艦載機を納品することに。


この、いわゆる艦載機。もしくは魔道飛行機、一体、どうなることやら。



◇◇◇

<<マ国 多比良八重の暗躍>>


多比良八重は、マ国のとある施設の応接室に座っていた。1人だ。人を待っているようだ。


しばらく待つと、細身で低身長のおっさんが入って来た。

おっさんの頭には角があり、角の形は頭部の両側から円弧を描くように生え、途中から先っぽがまっすぐになっている。

そう、この角の形は魔王と同じ。彼は魔族である。なお、かつて今代の魔王は、デブは種族的なものであると説明したが、それは嘘、若しくは言い訳だったようである。


この細身の男は、マ国の軍師。


マ国の軍事作戦に多大な影響力を持つ人物であり、先日、多比良八重からラムを通して面談を申し込んでいた。


「さて、あなたがあの神敵の奥方ですか。道場の件は助かっています。お陰で日本での協力者が出来ました。ところで、わざわざ私をご指名とか。一体何の用事が・・・」


軍師はにこやかに多比良八重に話かける。

それに対し、多比良八重は不適な笑みを浮べる。


「あなたの趣味はのぞき、奥さんの性○帯は奥の方。でも、あなたは短い。なので奥さんはいつも自分を慰めていて、あなたはいつも奥さんのそれジィを覗いている。お似合いのカップルね」


「はい? いや、いきなりそんな・・・何故知って・・・」


軍師は驚きの表情をする。


時空化じくうげって知ってる?」


「何? なんだと・・・では、お前は・・・」


「私の言うことを聞け。死にたく無かったらね」


「一体・・・何なのだ?」


軍師と多比良八重はしばらく相対したまま見つめ合う。お互い心の内を探り合っているようだ。


「あっちにある『自動車』。アレは、加藤さんが開発したバイクタイプより、簡単な加工で空が飛べるようになる。手っ取り早く、飛行機が量産できるということ」


「それで?」


軍師は早速表情を崩してしまう。少し、狼狽えているように見えた。


「欲しいんでしょう? 魔道飛行機。車は別に新車でなくてもいい。道場なら、廃車を集めるなんて簡単」


「あちらの文明の中で、自動車なら私も目を付けていた。飛行機化も試すだけならやぶさかではないが・・・何が目的だ?」


「もうすぐ、マ国に神聖グィネヴィア帝国が攻めて来る」


軍師は一瞬目を見開き、「その情報は我々も得ている」と言った。直ぐに冷静を取り戻したようだ。


「あなた達が辛勝では困る。大勝利でなきゃ。それに、第3聖女の捕獲は誤算だった。この件はイレギュラー。これは私からのお節介。相手の戦力が想定を上回る可能性がある。そこのとこ、よく考えておいて」


「ふむ・・・」


軍師はこれまでの自国の作戦内容を思い起こす。今の西部戦線の戦力は、第3聖女から抜いた記憶を元に決められている。少し、相手を見くびっているところはなかったか、相手の間抜けに期待しているところはないか、少し長考に入りそうになる自分を抑え、目の前の女性に向き合う。


「今度はちゃんと、自分たちで勝ってね。ユフイン戦線よりいい戦果を出して。うちの旦那をように」


多比良八重は、少しだけ挑発するかのような笑みを浮べる。


「ふむ」


軍師は、底知れないものを感じながらも、長考に入ってしまう。


その後、多比良八重は自動車を飛行機化させる方法、そのために必要な部品などを説明し、実家である道場への手紙を託し、立ち上がる。


「ま、待て! お前は、本当に・・・」


「そうね。もう一つ伝えておく。確認してみて」


そう言うと、多比良八重はそのまま、帰りの『シリーズ・ゲート』に入っていった。


「時空化の巫女・・・」


マ国の軍師は独り言ちることしか出来なかった。

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