第174話 お城をおねだりしたら、逆におねだりされた件 9月中旬

<<マ国首都 ハチマン>>


「おうい多比良。サイレンのバルバロ邸が日本人共々襲われたらしいぞ?」


カフェでイセと待ち合わせをしていたら、出会いから物騒な情報が。


「は? マジかよイセ。急いで戻らないと。転送で行ってくるか」


「いや、もう片付いたらしい。もう少しのんびりしていけや。魔石の鑑定くらい待ってからでもいいだろう」


イセは、立ち上がろうとしていた俺の向いの席にドカっと座る。


「え? 終わった? どうなったんだ?」


「勝ったらしいぞ。バルバロと日本人が」


少しほっとして、椅子に座り直す。


「そうか。そりゃ良かったが。その、怪我人とかは・・・」


「最初に人質に取られた数名が一時重傷だったらしいが、治ったらしい。それ以外は軽傷とのことじゃ」


「そっか。ここは生物魔術がある世界だった。じゃあ、安心してていいんだな。よし、まだまったりできる。今回もよく働いたし」


今、俺たちはマ国の首都ハチマンの魔王城近くのカフェでまったりしていた。


イセが魔王時代よく行っていたお店だとか。

おいしいケーキとか紅茶が堪能できる。ちなみに、今ここにいるのは俺とイセと、護衛のツツとジニィの4名だけだ。

未亡人部隊は解散。その他のクルーは買い物とか観光に出かけている。


「しかし、あれだけの魔石が集まるとはのう。さすがは多比良じゃ。それにあの艦載機の便利なことよ」


「空母級5連チャンとかだったからなぁ。ゾウさんも鬼ヤドカリも沢山いたし。でも、もう同じルートであれだけの大物連発はないんじゃないか?」


「そうかのう。山から下りてくる奴らを考えると、あと数回はいけるはずじゃ。艦載機の増産が届いたら、別の山やもう少しグ国の奥地を攻めてみようかと思っておる」


「ふむふむ。じゃあ、今回、今のファイター1機、マルチロール2機をそのまま売却。その後は、とりあえず同型機ファイター3機、マルチロール50機の発注でいいんだな。『魔王の魔道具』はなし。反重力発生装置は同等の質と数の魔石を提供すると」


「よいよい。その代わり、研究はさせて貰う。未だに仕組みが謎らしいが」


「研究されるのは売りに出した瞬間、仕方が無いことだろう。それからバズーカの件はよろしく」


「ふふ。分かっておる。ロングバレルは数がないからな。ジマー家のバズーカだったら数も揃う」


「これでこっちでも魔石ハントが進む。そういえばイセ。ちょっと聞いてみるんだけどさ」


「なんじゃ? 改まって」


「どこか未開の地にさ。自分達の城を造っていいものなのかな」


「ん? どういう意味じゃ? いやそのままの意味か。てっきりプロポーズかと・・・いや、そうだな。用途は? それから場所は? 規模は?」


「用途は、日本人帰還事業に関するための拠点だけど。その実、その周辺の散策の拠点でもある。場所は、バルバロから南に600キロくらいのとこ。周囲500キロは全く人間は住んでいない。そこに温泉が湧き出ててさ」


「なに? 日本人の拠点か。温泉なら、自分専用の秘密基地にすればよかろうに」


「ううん。実際快適な暮らしを考えると、小さすぎる秘密基地は効率が悪い気がするけど。まあ、温泉アナザルームもいいんだけど、ちゃんと日の光があって、生き物がいてって所も欲しくって」


「ふん、温泉が欲しいだけではなかろう」


「そうだなぁ。ごめん。その場所に拠点を造るのは、ある意味母国日本へのプレゼント」


「そうだろうと思ったぞ。どれ、どんな構想じゃ? 時間もあるし、聞いてやるぞ」


「そうだなぁまず地図がこうな」


・・・


俺はノートの新しいページにバルバロ周辺の地図を書く。


ラメヒー王国周辺は、どことなくアフリカ大陸のエジプト付近に似ている。

ラメヒー王国がエジプトなら、俺が指し示したのはソマリア的な位置。


#作者注

筆者の近辺ノートに地図を投稿しておりますので、気になる方はご参照ください。

リンクが飛ばない方は、お手元のブラウザ若しくはアプリを操作して近況ノートにお進みください。


https://kakuyomu.jp/users/49ike/news/16816927861198811005


************************


「バルバロより南のここに、温泉が湧いている。近くに大きな河もあるし、海の少し沖にはそこそこ大きい島がある。とても日本人が好きそうな土地なんだよな。ここ。俺が思うに、だけど」


「ふむふむ。周りは確かに全て人類未踏の地じゃ。お主、分かっておるか? 飛行技術や『魔王の魔道具』が広まれば、人類の生存圏は飛躍的に伸びる。この位置はラメヒー王国に蓋をするようなものじゃ」


「まあ、ラメヒー王国とは数百キロもバッファゾーンがあるし。だいたい、ラメヒー王国には北の山脈の先の土地があるじゃん。ヘレナの西。ラメヒー王国は先にそこを開発するべきだ。国防的に。バルバロの南も殆ど手つかずだし。言い忘れたけど、ここを日本にプレゼントするのは日本国が『マ国やラメヒー王国の友好国になる』というのが前提の話。というか、基本は俺の城。俺の温泉のつもり。日本国には貸与か温泉以外の土地を売却か、交渉次第だけど」


ラメヒー王国の北部には、日本列島がすっぽり入ってしまうくらいの平野が未利用のままになっている。つい先日、そのせいでグ国の不法入国を許してしまったんだけど。


「ふむ。確かに南部に友好国が出来たら、穀倉地帯の守りはより盤石になる。それに、ここはよい位置だな。外洋に面しておるし。北の内海はもう利権でがんじがらめになりつつあるからな。対して南の外洋はほとんど未開じゃ」


「だろ? 今なら魚も海洋資源も取り放題。ここに拠点を置いておけば相当な国益になる」


「なるほどのう。しかし、ここから西に行ったら今度はマガライヒの首都に近くなる。では、この辺の海岸にマ国のお城も造ってくれぬか?」


「お!? では、いいのか? 俺がここを開発しても。ここの後なら別の所を開発してもいいし」


イセが示した位置は、仮に俺の拠点が拡張していった場合の西の先にあるから、万一、日本が大量の人を送り込んで街が膨張していっても、それに蓋をする位置にある。


まあ、そういうことなんだろう。遊んでもいいけど、やり過ぎるなと。


でもこれ、温泉の位置からイセがおねだりした城の位置までは1000キロ以上もある。しばらくは領土問題も起きないだろう。


「・・・一応、国王と魔王には伺いを立てよう。ここなら、お主が秘密裏に魔術を行使して大規模な土木事業をしても、敵対国にはばれぬだろう。やったもの勝ちだからな。土地開発は」


マ国もちゃっかり外海の方の拠点が出来てラッキーなのだろう。今は『シリーズ・ゲート』もあるから、多少遠くても問題は少ないだろうし。


「よし。頑張ろう。この周りは長寿モンスターが多そうだし。先に城郭造って、移動砦の基地にしてっと。温泉旅館を造って・・・うん。夢が広がるわ」


「そうか。よし。そろそろ鑑定が終わるかのう。一旦戻るか」


「了解」


・・・・


魔王城に戻ると、早速鑑定結果を見せてくれた。


「これが魔石のリストです」


「総数758個、千年物15個、700~900年物79個、500年前後150個、100~400年物365個、その他は100年未満か。前回の7倍以上。ずっと戦い続けていたからな。質の割合的には前回と同じくらいか?」


「758・・・わしらの5倍以上の効率だな。もうこれまでの方法には戻れぬ。魔石ハント部隊は全て空母に改装じゃ。艦載機も出来たものから順次届けてくれ」


「艦載機の件は了解。さてと、鑑定結果が出たところで、戻るか」


「ふむ。分け前の交渉とかはよいのか?」


「イセに任せる。あ、艦載機の分は別途にして欲しい」


「分かった。欲のないやつめ。この千年物一つでどれだけの価値があることやら。では、本当に2割でいいんだな。それから、100年未満の石は売却してストーンで受け取ると」


「いいぞ。今回、補給も人材も殆どそっち持ちだし」


ちなみに、500年物以上の魔石は、3割は魔王に魔道具化の報酬として渡す。

そうすると俺の手元には、千年物が2個、700~900年物が11個、500年前後が21個しか残らない。だけど、これって1週間未満の稼ぎなのだ。移動砦は1基しかもっていないし、沢山所有していてもしょうが無い。特に『魔王の魔道具(親機)』は、とても高価だけど、結局人数がいないと意味が無いのだ。まあ、こんなに取れるのって、今だけなんだろうけど。


「分かった。では、ラメヒー王国に帰ろう。そろそろ魔王もラメヒー王国に着くだろ。途中、国境門で入国手続きをする。わしとジニィ、ザギィも送って行ってくれ」


「了解。今から300キロで飛ばせば今日中に着くだろ。街があるルートを外せば速度を出しても問題ないし」


「剛毅じゃのう。200キロを越えると相当煩いのだがな」


「そのために風魔術士が乗っているんだろ? 帰りはもうモンスター狩らないし」



・・・・

<<サイレン>>


「着いた~」


ハチマンを飛び立ったのが14時過ぎ。王城に着いてイセ達を降ろしたのが19時過ぎ。今ようやく『ラボ』に着陸した。


「この艦で飛ばせばハチマンも近いな」


「そうですね。じゃあ我々は艦のメンテに入りますね。飛行甲板もずいぶんすり減ってしまって」


木材は生物魔術である程度修復出来るとはいえ、欠損部分までは修復できない。ウッドデッキの飛行甲板は、簡単に造れる代わりに、消耗も早かった。


「そうだな。これから日本人帰還事業が始まるから、しばらくは出ない。じっくりメンテと、それから皆もよく休んでくれ」


「はい」


とりあえずオルティナ達に指示を出しておく。

そうしてるうちに、屋敷からディーが出てきた。


「お帰り。少し遅かったな。サイレンではまたいろんな動きがあったぞ? もう遅いから、飯を食いながら少し話をしよう。今日はラボの皆も呼んでいる」


「了解。輜重隊はどうする?」


「うちらは家に帰りますよ。今日は多分、メカとか輸送とかの話があるでしょうから」


「そっか。糸目、お前も参加してくれ」


「了解」



・・・・

<<タマクロー邸>>


今回は加藤さんを交えて夕食会兼ミーティング開始。

ケイヒン騒乱の話を聞く。


「はぁ~~そんな事が。いや騒動があったという聞いていたけど。怪我人が少し出たくらいって聞いて安心したとこで思考停止していたな」


「かなり大規模な抗争だったみたいだぞ? 短期間で終わったが」


「それでですね。移動砦、いや、これから改装して輸送艦と呼ぶみたいですが、日本人が1基管理することになったらしく、その艦にも例の魔道具が欲しいと」


「いいよ。700年物くらいの『子機』なら今回補充してきたし。前回の鬼ヤドカリ分も残ってただろ。糸目、後で設置してやって」


「分かりましたわ」


「あのな、タビラ。後2基あるんだが・・・国から余っているヤツを買い取ってな。それもいいかな」


「しょうがないなぁ。まあいいぞ。2基くらいなら。この国のためになりそうだしな。その輸送構想」


「よっし! 助かるわぁ。これで10基体制でいける」


「まあ、持ちつ持たれつの話だったからな。消耗品でもないしいいぞ」


「ちょっとダーリン。本当にお人好しなんだから」


「いいんだよ。俺がずっと持っていても仕方がないだろう」


有力貴族には恩を売っておかないと。


「いや、まあ、そうですけど。もう少し細かい契約とか交わせばいいのに・・・まあ、そこがダーリンの良さか。そういえば、そろそろうちの移動砦にも早く名前を付けてください。不便です」


「ええ~。なんか中2病みたいで嫌なんだよなぁ。名前付けるの」


「でも、どう見ても移動砦じゃないでしょう。彼らは輸送艦と名乗るそうですし。うちのも何か名付けてください」


「じゃあ、軽空母」


「ケークーボ? うう~ん。どうなんでしょうね。それ」


「まあまあ、それとな。タビラ。艦載機の話なんだが。それってどういう物か聞いていいか?」


「そうだな。モンスター狩り用とはいえ、何時までも秘密にしない方がいいか」


「これはマ国も絡むことだ。一応、オレの一存に止めておく」


「あれは、簡単に言うと、移動砦を小さくして機動性を上げたものだ。練習すれば誰でも航空戦力になる。今回の魔石ハントで実戦証明もできた」


「やはりな。貴重な反重力魔術士がいなくても誰でも空が飛べる道具か。というか、まさか、材料さえあれば移動砦も造り出せるのか?」


「それは何とも。あれも原理はよく分からないんです。類似品なら造れるかもしれませんが」


そう答えるのは『ラボ』の加藤さん。


「移動砦は無理でも、艦載機を運用できる空飛ぶ飛行甲板は出来るんですよね?」


「あ、それなら出来ると思いますね。大きさ次第ですが。移動する時結構傾くんですよね。あれって」


「そうか。艦載機を売ってもらうわけにはいかないのか?」


「どうしようか。イセに相談・・う~む。今、イセから大量発注が入ってて。というか、艦載機は魔石が大量に要る。一番低スペックなヤツでも500年物が1つ、100年以上の物が4つ要るからな。軍用なら500年物は最低でも2つ。出来れば3つ。それに500年物の加工は魔王にしかできない。お金には換えられないだろう」


「そうか。やはり『魔王の魔道具』がネックとなるのか。いや、急がないと、年代物の魔石が全て刈り尽くされてしまう。今、我が国はあの鹵獲した2基で王城北の山岳地帯に入ってハントしようと計画しているがな」


実は今、魔王が本件についての論文を書いている。年代物の魔石の価値が広がるのも時間の問題だろう。もちろん、それを知るのは友好国のラメヒー王国とエンパイアとリン・ツポネス国のみ。だけど、魔石ハントには人手がいる。なので、いつまでも秘密にするのは難しいだろう。年代物のモンスター魔石がいつ全世界に広まってもおかしくない。


それに、マ国が情報を出すのも生存戦略の一環なんだろう。自分一人で富を独占したら、周りが敵だらけになる。逆に、情報をある程度出し、心臓部だけを秘密にしておけば、世界はマ国に多額の費用を献上することになるだろう。今でも俺の『魔王の魔道具』は、魔石払いだ。そうやってマ国は富を築いていくのだろう。


「やはりラメヒー王国の狩場は北か。南を攻めたのは正解だったな。それから、俺、サイレンのずっと南に城を築くことにした。結構離れたところに造るから迷惑は掛からないと思う」


「城? 人類未踏の地で距離が離れていたら、残念ながら止める事はできないな。しかも、その口ぶりなら、マ国も了承しているんだろう? まあ、出来たらオレを連れてってくれよ」


「いいぞ。なんたって海ベタに温泉が湧いてるとこだからな」


「まじか。いいなぁ。オレ、早く仕事引退したいなぁ・・・お前について行って、毎日朝日と夕日を眺めながら温泉とかよぉ・・・」


夕飯をつつきながら話をするが、ふと気になることが。


「ところで、今日の夕飯、魚が多くないか。しかも新鮮」


「お!? 気付いたか。今、輸送艦の試験飛行が始まってな。バルバロからの直通を試してる。商業ベースに乗れば継続されるはずだ」


「へぇ~すごいなぁ。国造りの黎明期って感じだ」


「ああ、そうだな。出来れば、お前もその国造りの瞬間に立ち会って欲しいものだがな」


ディーが少し悲しい顔をした。


きっと、俺はこの国の発展について、人ごとのように感じていたのかもしれない。ごめん。


だけどさ、俺は日本人なんだ・・・


懐かしい魚料理を口に運びながら、少ししんみりした。

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