第175話 オキタと邂逅 魔王の到着 9月中旬
<<サイレン 移動砦改め軽空母>>
寝泊まりしている軽空母で朝風呂を済ませて操舵室に行くと、クルーほぼ全員で朝食を取っているところだった。
「おはよう」
俺は、とりあえず一番手前にいたオルティナに挨拶する。
「おはようございます艦長。今日から私達は、少しお休みいただきますね。すぐに戻ってきますから」
「ああ、オルティナ。ゆっくりしておいで」
この話は以前に相談されていて承認していた。
色々と実家に報告とかがあるらしい。彼女達はずっと移動砦暮らしだったから、羽根を伸ばさせてやりたい。移動砦には糸目とフェイさんとヒューイが残るからセキュリティ的には大丈夫だろう。
「はい!」
「あの、旦那様! 朝食後はバルバロ邸ですよね。私もご一緒していいでしょうか」
「フラン。じゃあ、一緒に行こうか」
フランはバルバロ家出身だから、行き先が一緒。
朝食は軽空母で済ませ、俺とツツ、それからフランで一路バルバロ邸を目指す。
『ラボ』からバルバロ邸までは歩いて15分くらいだから、ポケェとしながら歩いていたら着く。
「フランさぁ。今回、バルバロも結構ケイヒンの土地とか利権をゲットしたんだろ?」
「はい。そうみたいですね」
フランは、少しくっせっ毛のあるブロンドを靡かせ嬉しそうに後ろをついてくる。
いや、本当に嬉しそうだ。
「いやさ、バルバロって人手不足って聞いたからどうなのかな」
「大丈夫です」
「そうかぁ大丈夫か・・」
「はい。うふふ・・旦那様・・・」
フランが何かおかしい。腕の裾を握ってきてとても嬉しそうにしている。
まあいっか。こいつが嬉しいのならこのままでいよう。
・・・
「おはよう。あ、綾子さんお久!」
「あ! こいつめ、帰って来たか。今晩は空けておきなさいよね。色々と話をしたいの」
「え? ああうん。了解、綾子さん」
その瞬間、奥からウサギがトッタトッタと跳ねてきて、俺の股間にダイブ。こいつは全く可愛いやつめ。
オキを抱っこしつつ、宴会場に通される。
といっても、俺、何のアポもしていない。ここに来ればなんとなく話が進むっていうか、そんなノリでここに来ていたりする。
「今、子供達は学校。久々に会ってあげなよ。だからさ、夕方までここにいて。いい?」
「分かった。綾子さん。ゆっくりする」
綾子さんなりのお節介らしい。ここはありがたく従っておこう。
「あっ! フランお姉様!」
廊下の先から誰かが出てくる。
「え? あ! ランス! ランスロッテ、お前こっちに来てたのか」
「はい! フランお姉様ぁ・・」
あれはランスロッテ。懐かしいな。
「あ!? おじさんですよね!? うれし~~~~~」
ランスが俺に突撃してくる。まるでウサギみたいだ。というか、今俺はオキを抱っこしてるんだけど。
ランスロッテは、俺の両手に抱えるウサギを気にしながら、両腕を首の後ろに回してチークキスをしてくれた。
うん、可愛い。
「おお、タビラ、久々だな。色々と話したいことはあるが。まずはゆっくりして欲しい」
ランスロッテの後ろからモルディが出てきた。
こいつは相変わらず。だけど、どこか頼もしいのだ。なんでだろうか。
「モルディ、お前とも久しぶりだな。ん!? どうした?」
モルディがそのまま近くまで寄ってきた。モルディのプライベードゾーンは俺も把握しているつもりだった。それがいきなりゾーン内に寄ってこられると、正直殴られるかと思ってしまう。
「わたしって、お前のストライクゾーンのどの辺だろうか」
「何言ってるんだ? モルディ・・・いや、そうだな。もちろんストライクだ。いや、ストライクのどの辺っていう質問なのか? そうだな。お前は、いや、うう~ん。どう答えればいいんだ?」
「そうだな・・お前に奥方がいなかったら、どうなんだ? 例えばの話だぞ?」
「そりゃお前よ。最初の仕事の時だったら、とっくにお前と
「そ、そうかぁ。では、私は間違ってはいなかったのだな。私は・・・」
モルディが俺の首に両腕を回す。ウサギのオキがトッタトッタと逃げていく。不穏な空気を読んだのだろう。
「ああ、そうだな、モルディ・・・お前は美人だし、世話になった」
「ふん!」
モルディにがしっと立ったまま抱きしめられる。モルディは俺と同じくらいの身長だから、かなりの迫力がある。
「そうかぁ・・・私は、お前の好みのタイプってことで、いいんだな?」
「ああ、それは否定できない」 「言葉遣ぃい!」
首と胸が物理的にとても苦しい。
「俺の好みのタイプは、モルディだ」
「あふん。分かった」
モルディは1回体をくねらせると、ちゃんと開放してくれた。
「さすがモルディ姉さん」「お姉さんが好みってことは、私も好みってことか・・・」
「あのぉ・・・私も少し似てると思うけど? いや、何でも無い」「んん?」
綾子さん、多分冗談で言ったんだろうけど、俺のノリが悪かったのか、すぐに赤くなって引っ込んでしまった。
恥ずかしいのか、厨房に戻ってから声が届く。
「朝食は~?」 「食べたぁ~」
「分かった~お茶持ってくるぅ~~~」
・・・
で、綾子さんと、俺とツツの3人で縁側に座り、お茶を飲みながらぼ~とする。ちなみに、ウサギのオキはまた戻って来て、俺の股間の上にいる。
モルディとフランとランスはどこかへ行ってしまった。
家族会議でもするのだろう。
「あれ? 俺、何でここに来たんだっけ。ツツ、覚えてる?」
ポケェと枯山水を眺めながら呟く。
「日本人帰還事業関連で、魔王様が来訪されるんでしょ?」
ツツも枯山水を向いて生返事。
「あ、そうだったな。ぼ~としてて忘れてたわ」
「確かにここのお庭は素晴らしいですが」
「じゃぁ。待ちってことかな?」
「そうだと思いますよ? 日本の方は色々と急ぎ過ぎですよ。作業が間に合わないこともあるんですから。そういう時はしっかり説明すれば解ってくれますって」
ツツがいいこと言うが、それが日本で通用するかどうかは・・・いや、ここは異世界だったな。
「そうだなツツ。俺が生き急いでいたわ。もう少しのんびり過ごすか」
枯山水を眺める。
「そういえばさぁ。綾子さん」
「なあに?」
「ケイヒンとの抗争ってどんなだったの?」
「そうねぇ。最初はここに襲撃があったのよ。エリオット君と高遠さんが血まみれになってて。私も頭に血が上っちゃってね。その時の人達はモルディさん達と倒したんだけど・・・」
「どうしたの?」
言いにくそうにしている綾子さんに向き直る。
「八重さんが・・・いや何でも無い」
「え? 嫁? 嫁がどうかしたの?」
「知らないのよね」
「知らないと思うけど、一体・・・」
「いや、一人倒したの。敵を」
「え? 誰を?」
「あなたのお嫁さん候補。スタングレネードで気絶させた後、ハンマーでボコボコにしていたわ」
「はい? いや、ケイヒン伯爵が
「まあ、そうね。でも八重さんって強かったのね」
「綾子さんも王城で見たでしょ? 俺がやられるとこ」
ぶちゃけ、嫁は相当強いと思うのだ。もともとスポーツ万能だったし。頭も良かったし。
「確かに見たけど。あなたが手加減していたのかと思ってた。まあ、その後は2班に分れて、私達はケイヒン殴り込み部隊に参加しちゃってて」
「殴り込み部隊て・・」
「今思うと物騒よね。私とシス、晶にルナ、それから助っ人で冒険者兼料理人のオキタちゃんで戦ったの」
「オキタ?」
「バルバロ家の移動砦に、料理人として仕事で乗ってた子がいて。晶ちゃんと知り合いだったみたい。今、移動砦が修理中だから、バルバロに帰れなくて。ここの世話になっているってわけ。今厨房で仕込みしてるわよ?」
「ちゃん付けってことは女の子なんだよな」
「そうよ。まだ若いんだから、手を出さないでよね」
「その子って双角族?」
気になったので矢継ぎ早に質問するが・・・
「そうみたいね。まだ角は短いけど。やけに気にしてるわね。どうしたの? そういえば、多恵さんも気にしてたっけ」
それって、イセの娘だろ。絶対に。
「ツツさんや」
「はい。そうですね。どうしましょうか」
「何? ツツさんの知り合い? 呼んでこようか?」
「そうですね。その前に・・・・」
ツツがメモ帳を取り出して何かを書き始める。
覗いてみるけど読めない。マ国語のようだ。
「これを渡してくれませんか? 後、怒ったりしないからこっちにおいでと伝えてください」
「本当に知り合いだったのね。同郷ってこと?」
「はい。親族である可能性が高いですね」
綾子さんはツツのメモを持って厨房に下がっていく。
・・・
「あ、あの、その・・・・オキタです。はい」
しばらく後、そこには数日前に写真で見たオキ本人がいた。
ツツの前に正座して縮こまっている。
「じゃあごゆっくり。私は仕事してくるね」
綾子さんは、世間は狭いわねぇ~なんて言いながら厨房に戻って行った。
「あの、あのメモは読みました。本当に母がそんなことを言ったのですか?」
「ああ、事実だ。だが、最初に言うことがあるんじゃないのか?」
怒らないって言ったはずなのに怒っているように見えるツツさん。大人って汚いよね。
「ごめんさない。ご迷惑をおかけしました」
オキタが素直に謝罪する。大人って本当に汚い。
「ふぅ~~~怒らないって言ったからね。これ以上は言わないけど、戻ったときにはちゃんと謝るんだよ」
「うん。分かっている・・・じゃあ、僕はしばらくはこのままオキタとして冒険者をやっていていいんだね?」
「それは少し語弊があるな。遊んでいいって言ってるんじゃない。やりたいことがあるなら頑張れって言っている」
「うん。僕は立派な料理人になる。そして冒険者にも。一緒にレストランやろうっていう話もあるんだ」
「そうか。目標に向かって頑張っているんなら、私からは何もない。今日のことはイセ様に伝えるが、おそらく実家からは何の連絡も、当然支援もないだろう」
「うん。支援してもらえる立場じゃない。運良く大将にも出会えたし。友達もできた。やっていける」
「ジマー家の名は私が預かっておく。これからは冒険者兼料理人見習いのオキタだ。だけど、いずれ立派になって、ジマー家の名を受け取りに来てくれ」
ツツは、最後に優しい顔をした。
「わかった。いっぱい特訓して、皆に料理を振る舞う」
「そうか。楽しみが増えたな。では、オキタちゃん? どうやってバルバロに行ったのか教えてくれるかな?」
「ええっとね。最初、マガライヒにいるお父さんに会いに行こうって思ったんだ」
「ああ、それは我々も考えた。マガライヒにも連絡を取っていたんだが」
「うん。でも、途中でリバーサーペントに食べられちゃった」
オキタちゃんは、『てへ』って感じの表情をする。
この子も母親に似て表情が豊かだ。それにとても素直。
「食べられたって。まあ無事だったんだから何も言わないけど・・・」
「それで、仮死の魔術と空気精製の魔術と毒の魔術と障壁の魔術を使って眠っていたら、川に流されてバルバロに着いたってわけ。あ、そのリバーサーペントは死んでた」
「まさかリバーサーペントのお腹に入っていたとは。そりゃ探しても見つからないな」
「本当にごめん。でもさ、そのお陰で大将と、それからノルンにも会えた。ある意味、晶さんやシスティーナと会えたのも家出のお陰かも」
「ノルン? ちょっと気になるんだけど、ひょっとしてノルンもサイレンにいる?」
「いるよ? ノルンは料理人じゃないからヒマしてて。毎日、日本人達にお酒奢って貰ってるみたい。気が合うみたいだよ? 日本人と」
あいつのことだ、どうせ一夫一婦制がある日本人をからかうか、襲って楽しんでいるんだろう。
いずれ捕まるんじゃなかろうか。もしくは奥さんに刺されるとか。
「料理人といえば、何料理を修行しているの?」
「今はお寿司を勉強しているんだ。ここでも結構振る舞ってるよ」
「ほほう。お寿司か」
「握ろっか? そろそろお昼だし。今は新鮮なお魚も入って来ているしね」
「じゃあ、いただこっかな」
オキタは元気よく厨房に引っ込んでいった。
・・・・
がらがらがら・・・・ただいまぁ~
ん? 玄関が開く音と、子供達の声が聞こえる。まだお昼過ぎだぞ。
庭を見ながらオキタが握ってくれた寿司を食っていたら、子供達が帰って来た。
「あ! おじさん、帰ってきたんだ」「おじさん、こんにちは」「あ、お父さん」
「おう、志郎。お前達どうしたんだ? 学校の時間だろ?」
「今日、もうすぐ魔王様がサイレンに着くんだって。日本人達は早退していいって。魔力も温存しておきなさいって。ここの陸上競技場に集合することになってて」
「ほう。もう着くのか」
「みたい。お昼前に王城を出たって」
「普通の移動砦だろうから、3時間かからないだろうな。お昼前王城なら後1時間少しで着くのか。どこに着くんだ? 飯食ったらディーのとこに行ってみるか」
「そうですね」
・・・・
オキタたちに別れを告げて、一路ディーの家に向かう。息子ともう少し話をしたかったけど。
応対してくれたメイドさんがすぐにディーの所へ通してくれた。
「よう、来たか。魔王の到着のことだろ? 今、親父もゲート・キーパーを連れて移動砦でこっちに向かってるってさ」
「そっか。いよいよだな。日本人はバルバロ邸の庭に集合するって言ってるけど。どんな段取りか聞いてる?」
「お前が知らないのも妙だが。まあそんなもんか。親父の乗った移動砦は領主館の方に着くと聞いている。魔王の方は知らない。そして、『パラレル・ゲート』を創るのは明日って聞いてる」
ここにはスマホもメールも無いからな。
「そうか。じゃあ、バルバロ邸で待っておけばいいんだろうな。冒険者ギルドからも近いし」
「明日はオレも親父達と一緒に冒険者ギルドに行く予定だ。お前達の異世界転移がどんな顛末になるか気になってな」
「いいんじゃないか。魔王と会うのも久しぶりだろう」
「そうだな。あの時よりずいぶん元気になったんだろ?」
「そうだな。じゃあ、俺は陸上競技場に行ってみるか」
・・・・
そのまま陸上競技場の方に行くと、日本人会幹部達の顔があった。
「あ、多比良さん。いたいた。こっちにみんな揃ってるから」
「高遠さん、俺が最後だった? というか高遠さん、無事?」
「ああ、もう心配はいらないよ。すぐにモルディさんが治療してくれたしね。今回の件も支障はないよ」
陸上競技場の前で高遠さんに出会う。怪我はもうすっかり治ったみたいだ。
競技場の中には、すでに人が一杯いた。百人はいると思う。
「人、結構集まってますね。いつの間に」
「これから先生方と学生達も来る。サイレン以外に住んでいる日本人は残念だが参加できないけどな」
歩く先には徳済さんがいる。
「あ、来たわね。前田君はギルドにいるわ。魔王様の移動砦は衛兵さんと相談して、ここに泊めて貰うことになったわ」
「そっか。ディーに聞いたけど、ラメヒー王国側に伝わっている話としては、『パラレル・ゲート』の設置は明日なんだって」
「そう。どのみち、魔道具に魔力を貯めたり、ゲート・キーパーとの打ち合わせなんかがあるでしょうから、出発は明日がいいでしょうね」
「そっか。ところで教頭の準備はOK?」
「大丈夫よ。転移した後の段取りも全てレクチャーしてあるわ」
「準備万端か・・・・」
競技場に人がぞろぞろと入ってくる。子供達と、それから教師陣も見える。
クラス順に整列とかはしないみたいだ。
「いよいよね」「そうだね徳済さん」「商人としては少しわくわくしている」
「あはは、高遠さんも異世界エンジョイ勢みたいな言い方しますね」
・・・・
ここから待つこと30分超。そろそろ駄弁りのネタも尽きた頃に、衛兵さんが騎乗トカゲに乗ってやってくる。
「来たぞ~~~ここに通します!」
「うむ。いいぞ」
モルディが応対してくれる。というか、結構、日本人以外の見物人がいる。
魔王が珍しいんだろうか。
しばらく待つと、巨大な移動砦が、大通りからぬっと現われた。黒と赤の基調でカラーリングされている。
あれが魔王用の移動砦か。大きさは一般的なマ国の移動砦と違わない。ラメヒー王国のものより一回り小さく、俺の軽空母より一回り大きい。
「ねえ。あなたが出迎えてよ。お友達なんでしょ?」
「そうだけど、俺も魔王も人前は苦手なんだよ。俺が移動砦の中に入って予定とか聞いてこようか」
「それなら私も行くわよ」
魔王の移動砦がゆっくりと転進して競技場に近づいてくる。
固唾を飲み込んで待つ。
陸上競技場の中まで入ってきた。魔王の移動砦がグランドのど真ん中に静止して、その後ゆっくりと着陸する。
そして、移動砦の出口の扉が開かれる。
お? 出てくんの? あいつ。
見守っていると、中から魔王ではない人が2名ほど出てきた。
そして、さらに一人・・・中から魔王(?)が現われる。
「うぉおおお~~~~~~~~~魔王! あれが魔王かぁあああ~~~~~」
「魔王~~~」「すてきぃ~~~こっち向いてぇ~~~」「で、でけぇ、何だあの胸部装甲は!」
移動砦から出てきた人物・・・
それは、銀髪の、とんでもない巨乳の魔王の娘だった。
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