第169話 輸送ギルド会議 ケイヒン伯爵の目論見 おっさんの今 オキタの大冒険 9月上旬

<<サイレン 6貴族家の会談>>


多比良城がマ国西方の魔石ハントに赴いていた頃、ここ、サイレンのタマクロー邸に、6人の貴族が集結していた。


タマクロー公爵家のティラネディーア、バルバロ辺境伯家のモルディベート。

それからサイレンのランカスター伯爵にブレブナー伯爵、タイガ伯爵にライン伯爵だ。


議題は、国から新たに与えられた移動砦の用途についてである。


今回の移動砦は、神聖グィネヴィア帝国の鹵獲品で、元々ラメヒー王国にあった石積型の重厚な移動砦より軽量で移動速度も出る。まあ、とある日本人のチートな移動砦ほどではない。

地上50mの高度を、時速150キロで航行できる程度の性能だ。ただし、商業用の運用形態としては、高度20m、速度は時速100キロくらいが現実的と思われた。それ以上のスピードを出すと、魔力の消費効率が悪くなるのが解ってきたからだ。


「さて、本日集まってもらったのは他でもない。タビラに例の魔道具を分けて貰った貴族家達を呼んでいる。今日は、それを組み込んだ移動砦の運用について話合いたい」


「ティラネディーア殿よ。最初に、アレを移動砦と呼ぶのは些か誤謬ごびゅうがあっていかん。名前を付けよう」


「ブレブナー伯爵殿。そこにこだわりなさるか。よいだろう。候補がおありかな?」


「まあ、単純に輸送艦。それでいいではないか。子機とはいえ、『魔王の魔道具』を取り付けた高速型移動砦を交易用に改装した移動砦。毎回そう言うわけにはいかぬだろう」


「そうだな。分かった。では、今の定義で、いわゆる輸送艦と呼ぼう。でだ、ここにいる者は全員その輸送艦を手に入れた。まだ改装は全て終わっていないがな」


「そうけろ。だが、改装は時間の問題けろ。ただ、今の輸送艦は軍用時代の名残があるけろ。出入り口は小さく外壁が重厚。ゆくゆくはもっと沢山の荷物を運べるようにしたいけろ」


「うむ。同意見だタイガ伯爵。今タイガ領で建造中のメンテ施設はそのためのものなのだろう?」


「それもあるけろ。それから、これは知り合いの日本人に聞いたけろ。荷物を運ぶための箱は統一しておけと。輸送艦で運んだ後の輸送も考えろと。確かにそうけろ。その箱の形の規格を決めて、それが積めるような構造に設計する予定けろ。それからその箱に合わせた反重力ベアリング竜車も設計するけろ」


「そうだなタイガ伯爵。オレも知り合いの日本人から貴重なアドバイスを貰った。それは、一度造ったインフラは中断できない、と言うことだ。だから、前回決めたお互いの縄張りを改めたい。それから、国にある残り2基の移動砦の購入と共同管理も提案する」


「ティラネディーア殿。詳しく話をしてくれないか?」


「ああ、一度こういう大量輸送を始めると、おそらく今までの小口のキャラバンは業態を変えざるを得ない。まあ、長距離の竜車などは廃業だろうな。そうなった時に、オレたちが何らかの理由で輸送を止めると社会にとても大きな影響を及ぼしてしまう。そうだろう?」


「そうだな。物流が止り最悪は餓えてしまう街が出るかもしれない。そうなると、我ら貴族家に批判が集まってしまうだろう」


「だから、だ。ランカスター伯爵。前回は、タイガなら、タイガとライン、ランカスターがサイレンとタイガといったように、交易路を独占するような構想を立てただろう? それを改めて、交易路が被るようにする」


「なるほど。例えばタイガ伯爵は、タイガ、ライン、サイレンの三角貿易。ブレブナーはそれの逆周り。そんなとこか?」


「そうだ。ランカスターは、サイレンとタイガ、それからバルバロとの三角貿易。バルバロはその逆周り」


「ラインは特殊でございますが、どういうお考えが?」


「確かにラインはマ国との貿易だから、相手さんの都合もある。だから、当面はマ国のスバル、それからサイレンを行き来してはどうだろうか。タマクローはラインとサイレンとケイヒンを想定する。少々ケイヒン側が手薄になるが、ここは陸路もしっかりしているから当面は大丈夫だろう。ただ、『魔王の魔道具』の子機は、どこかで親機から魔力を供給してもらう必要がある。それからメンテナンスも出てくるだろう」


「ふむ。それで最初の話、国家が遊ばせている2基の移動砦の話になるわけですな」


「そうだ。この度、ラメヒー王国がマ国から、タビラの功績として譲り受けた移動砦は10基だ。それを伯爵家以上の貴族家に1基ずつ譲り渡し、王家でも1基確保していた。だが、ヘレナ伯爵が取り潰しになり、王家はあの古城戦で新たな最新鋭移動砦2基の鹵獲に成功したお陰で、最初の2基の移動砦が遊んでいる」


「もったいない話ですな。それを買い取るおつもりか?」


「そうだ。輸送艦は必ず定期的にドックに入れる必要がある。そうなると交易量が一時的にせよ減ってしまう。それを防ぐための予備艦にしたい。それから、ケイヒン航路の補強も考えているが、それならケイヒンを我々に誘えば? という話しも出てくるが、果たして・・・」


「なるほど。予備艦は賛成ですな・・・皆も同意見のようだな」


「当然けろ。同じ事を私も考えていたけろ。ドックはタイガの整備工場をよろしくけろ」


「後はケイヒンとルクセンがどう出るか、かな? 正直ルクセンは、これまで位置的な優位性の上にあぐらをかいてきたような連中だ。今回も何の反応も示していない」


「ルクセンは、この大規模高速の輸送艦交通網が出来上がれば、交易としては飛ばされてしまう街になるだろう。ただ、人口が多いから、途中寄って少し物資を落とす事はするだろうがな。これから何か産業を見つけねば、物を消費するだけの、富を吸われるだけの街に成り下がるだろう」


「そうだな。対してケイヒンは市民を食わすために多大な努力をしてきた領ではある。外国との貿易も行っておるし、ヘレナが国有化されてしまったから、ケイヒンの価値が上がっている」


ここで、今まで黙っていたバルバロ家のモルディベートが口を開く。


「話は変わるが、実は、ケイヒンの貴族からタビラの女性の好みを聞かれた」


「本当か? モルディ。それで、お前はどう答えたんだ?」


「もちろん『私だ』と言っておきました」


「おいおい。ケイヒン伯爵が本気にしたらどうするバルバロよ。女性の好みを聞くということは、つまりはそっち方面で取り入りたいということだろう」


「あいつの好みの中には、確実に私も入っている! あいつは、ストライクゾーンがかなり広い!」


モルディベートは熱弁を振るう。


「そ、そうだな。モルディ。確かに、あいつの周りにいる女性はタイプに一貫性がない」


「ちなみに、好みの服装はと答えておきました」


「そうなのか? 知らなかった・・・ま、まあ彼らがどう出るかは、まずは様子見だな。結局はタビラを通して『魔王の魔道具』を入手しなければ、ここのテーブルには立てない」


「そうだなティラネディーア殿。では、交易については、先ほどのルートで試運転を開始。輸送艦の改装は、タイガの整備工場が完成してから共通規格で行う。それから移動砦を2基追加の方向で国と交渉を行う。ルクセンとケイヒンは保留。そういうところかの」


「わかった。ではまた集まろう」



◇◇◇

<<ケイヒン伯爵 サイレン邸宅>>


ケイヒン伯爵は、伝統貴族で検討されている輸送ギルドに参加するべく、ここサイレンに入って情報収集に勤しんでいた。


「ケイヒン伯爵、タビラという日本人の情報を集めてきましたぞ」


「よし、ご苦労だった。あの伝統6貴族家が彼を利用して、一大輸送網を構築しようとしていることは分かっている。何としても我がケイヒンもその中にはいらねば、死活問題になる」


「そうでございます。彼ら伝統6貴族は一族から女性を差し出すことで、その恩恵に預かっておるようです」


「まったくエロいやつめ。他の日本人はビジネスライクに話ができるのに。やつは賄賂に女を差し出さねばならぬとはな。で? やつはどういう女性が好みだったのだ?」


「はい。まずはヤツが入り浸っているバルバロ邸の女主人モルディベート・バルバロにヒアリングしてきました」


「ほう。ずいぶん、内部に切り込んだな。して、結果は?」


「はい。ヤツの女の好みは自分であると」


「そうか。ヤツがバルバロ邸に入り浸っている理由はそこか。つくずくエロいヤツだ」


「まあまあ、分かり易くていいじゃないですか」


「そうだな、ん? モルディベート・・・モルディベート・・・どこかで聞いた事があるような」


「バルバロ家は夜会などは開かないし、参加もしませんからな。ご存じ無くても致し方ありませぬ」


「いや、そうではない。思い出したぞ! 従姉妹の同級生だ。確か目つきが悪いぽんこつで有名だったはずだ。そうか、ヤツめ、そういう年増が好みだったとはな。なるほど。ちょうど良い人物がおる。その従姉妹本人だ。彼女は当時、学園2代バカとしてモルディベート氏と双璧を成していた存在。しかも目つきが悪く、性格も最悪なので嫁の貰い手がおらず今だ独身なのだ」


「なるほど。しかし、バルバロ家以外を調査するとまた異なる現実が見えてきます。まず、タイガ家です。彼らが、ヤツに与えたオンナは巨女です」


「ほう。巨女か。おるぞ。我がケイヒン家にもな。最凶の巨女と呼ばれた伝説の女だ」


「ま、まさか伯爵、その方は・・・」


「うむ。私の姉だ。学園卒業後、近衛兵に憧れ上京。しかし、出会った王子が好みではなかったらしく金的攻撃を加えて近衛兵を首になり、そのまま嫁にも行かず家でごろごろしておる姉だ。年増でもあるしな。目付きももちろん悪い」


「なるほど。ヤツの所にいるタイガの娘、モルディベートの妹、それからランカスターとブレブナーの娘は、先日近衛兵を辞めました。一応、辞めた理由は、ヤツの元に派遣するためとの噂が流れておりますが、実の所は勇者に性的暴行を加えた罰で首になっております。そういった経歴もぴったりですな」


「なるほど。では、我が姉も候補だな。他に情報はあるか?」


「はい。ランカスターの娘は、ふっくらした女性です。その、おっぱいがとても大きい女性です。お尻なども少しふっくらしていて抱き心地抜群といったスタイルの女性です」


「ほほう。おるぞ。うってつけがな。私の別の姉の長女だ。彼女は米が大好きで毎日米ばかり大量消費しておるそうだ。そのせいかどうかは分からぬが、巨乳だ。乳以外も大きいがな。彼女は男性の理想が高すぎて、もう30も越えるというのに今だ独身だ。性格ももちろん悪い」


「そうでございますか。では、伯爵様の姪御さまも候補ですな。次ですが、ライン家は糸目の女性を出しております。彼女はエリートだったのですが、突如職場を辞めて何かとんでもない禁忌に触れて、記憶喪失の刑に処された凶状持ちだそうです。ちなみにそれが原因でライン家を除名の上追放されています。今では名前もなく、ただの『糸目』として生きています」


「なんだと!? おるぞおるぞ。我がケイヒン家にも凶状持ちがな。我が姉以上の凶状だ」


「ま、まさか、その方は・・・いや、口に出すのも禁止されているはずですが」


「・・・いや、あいつの刑期が明けたのだ。エンパイアの第3皇太子の妾として嫁いだはいいが、正妻と喧嘩して半殺しにし、意味不明な言葉を発しながらつぎつぎと近衛兵を倒して宮廷を闊歩。最後はエンプレスと一騎打ちになり、ようやくお縄についたのだ・・・我が娘よ」


「ぐう。おいたわしや。知り合いもいない彼の地で、一体どのような苦労をなさったのか。ですが、あの日本人の好みの女性の一人に、チーネクリス・バッファがおります。彼女は強制わいせつで強制労働の刑に処され、しかも筋肉質です」


「そうか。あいつは筋肉だるまだからな。エンプレスもよく倒せたなぁ、あいつを。エンパイアで強制戦闘奴隷刑に処されて今月で15年。帰ってくるのだ。あいつがな」


「なんと! そうだったのですか。うまくその日本人に押しつけることが出来たらいいですな。それから、最後の好みのタイプですが、これが少し難しい判断でして」


「どうした? お前にしては歯切れが悪いな」


「それが、ティラネディーア様である可能性があるのです」


「ほう。タマクローの姫か。確かにあの一族の女性は判断が難しい。少年が好きなのか。それとも小さな女性が好きなのか。若しくはその両方・・・いや、いたな。その両方を併せ持ったやつが。彼女はケイヒン3大悪女の一角だが、まあ、その日本人の性癖なら大丈夫だろう。きっと」


「ケイヒン3大悪女ですか。その方とは一体・・・」


「私の祖母上ばばうえの妹だ。ケイヒンは近年急成長した街だ。祖母上の時代はまだ海賊が跳躍跋扈した時代だったらしい。その時の私掠船の船長を務めていた人だ。当時は何でもやった、と聞いている。今はリン・ツポネスに行ったりエンパイアに渡ったりして、船を使って何かしているらしい。ちなみに、未だに独身だ」


「ケイヒン家伝説の私掠船。あの方ですか。まだご存命だったんですね」


「うむ。30年前に合った時は、まだ少年のような姿をしていたからな。今でも多分、いけるだろう。他に情報はないか?」


「女性の好みは以上ですが。そういえば、女性に着て貰いたい服は『制服』らしいです」


「よし。金はいくらかかってもかまわん。ぽんこつの従姉妹、金的巨女の姉、米好きの姪、戦争奴隷明けの娘、元私掠船船長の祖母上の妹をヤツに会わせよう。全員制服を着せてな。早速三角商会に頼み込め!」


「はは!」



◇◇◇

<<とある日本人の会話>>


「ふがふが」


「左様でございますか」


「ふが」


「分かりました。ケイヒンですね。八重さんに相談しますよ」



◇◇◇

<<とある日本人の移動砦 早朝>>


「うっ、頭が痛い。しんど・・・水・・・・」


「・・・水ですかぁ。はいどうぞ。ふぁぁ~あ」


「水うめぇ。二日酔いのときの水ってなんでうまいんだろう」


「知りませんよう」


「あん? ジニィか、お前何やってんだ? その格好、うちの制服だろう。どこで手に入れたんだそれ」


制服といっても俺がしつらえたものじゃない。元近衛兵の女性陣がお揃いで仕立てたものだが。


「マシュリーちゃんに借りました。昨日は皆制服着てヤッてたじゃないですか。おじさんって、普段着より、制服を着ている時の方が見る目がいやらしいって。皆知っています、おじさんが制服好きなのは」


「いやいや何を言ってるんだ。え? 昨日俺って何やったの? というかなんでお前が俺のベッドにいるんだよ。上だけ着て下半身何もはいてないし」


「私もこっそり混じってたんです。皆で交代交代10パコずつしてたでしょ。全員この格好で。いや、マシュリーちゃんはお胸アピールで脱いでましたけど」


「は? 何だよその数字と単位は。あ痛てて。頭痛がひどい。今日も魔石ハントなのに。昨日イセのやつしこたま飲ませやがって」


「あの温泉に行ったらどうですか? 二日酔いくらい1発で治りますって。ところで、昨日誰でイッたか覚えていないんですか? 皆で賭けしていたのに。勝った人はご褒美にぃ・・・」


「聞きたくない聞きたくない。温泉行ってくるわ」


「温泉に入ったら記憶も戻りますよ。きっと」


「いや、記憶が戻らないように祈りながら入るから」


「おじさんのいけずぅ~。ちなみに、ご褒美はぁ、『朝まで2人っきり』です」


「知らん」


「いけずぅ~~」


とあるおっさんは、部屋の隅に扉を出し、そのままどこかへふらふらと消えていった。



◇◇◇

<<バルバロ領 出張料理人>>


カラン!カララン!


「いらっしゃい。あ、オキタちゃん。今日もクエストの確認?」


「はい。大将のお使いで」


冒険者ギルドに入って来た元気いっぱいのオキタは、早速クエストが貼ってある掲示板の前に行く。


「実はね。あなたたちにぴったりの緊急依頼が来てるの。そんなに悪くない条件よ」


「私たちに、ですか。それは?」


「依頼主はバルバロ辺境伯ね。それがなんと、移動砦の料理スタッフなのよ。短期の緊急依頼」


「へ? 移動砦? それは軍用だと思うんだけど。なんで民間に依頼が来るの?」


「私も詳しいことは知らないわ。だけど、この移動砦は輸送用とのことよ。そして、これは移動砦に就職するとかの話じゃなくて、緊急依頼。輸送試験って書いてあるわね」


「へぇ~。料理スタッフの依頼ならうちにぴったりだけど、この街を少し離れるんだ」


「そうだけど。予定ではサイレンまで行くみたい。それから帰りにタイガ、そしてバルバロに戻ってきて依頼終了。僅か数日の話よ」


「サイレン! 晶さんやシスティーナがいるところ!?」


「あら、晶ちゃんを知ってるの? そうね。彼女はバルバロ邸でお世話になっているから。行ったら会えるかもよ」


「そうなんだ。会いたいなぁ~。この間もお話していて楽しかったし。ここには歳の近い友人がいなくて」


「大将に頼んでみなさいよ。5泊くらいの旅よ。街中では行動自由って書いてあるしね」


「うん。相談してみる」


カラン!


オキタは走って冒険者ギルドを出て行った。


「ふぅ。若いっていいわねぇ~~」


お姉さんの呟きが響く。

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