第168話 神聖グィネヴィア帝国での魔石ハント 9月上旬

<<ユフイン早朝 移動砦内部>>


「おはよ、オルティナ。昨日はゆっくり休めた?」


「はい。おかげさまで。以前来たときよりも楽しめましたわ」


朝食をユフイン夫人宅でいただいて、我が移動砦に戻ってきた。

体は朝に返してもらった。


「もう全員揃っています。いつでも行けます」


未亡人部隊も準備万端の様子。


「よし、乗り込んだら出発じゃ。まずは旧ユフイン戦線に行く。その後はいよいよグ国領に入って、山脈の西側を南下する。そのまま南下すればまたマ国領に入るからな」


「次からは移動砦に泊まるんだよな」


「そうじゃ。日が暮れる前にどこか目立たぬ場所を探し、そこで夜を過ごす」


「はい。私達クルーは2交代で休みを取ります」


「分かった。では、皆が乗り込んだら出発してくれ」



・・・・

<<移動砦屋上>>


「いた! あそこ、ゾウです!」


神聖グィネヴィア帝国領内に入って30分、何かを発見したのかヒューイが叫ぶ。

しかし、何? ゾウ?


「ゾウってあの鼻が長いゾウ?」


「そうですね。スタンピードの時には厄介なモンスターです」


「モンスターなんだ。動物ではなく。まあいっか。よし、発艦許可」


マンモス的なものなのだろうか。


「了解です。『ゾウ発見。11時。艦載機発艦せよ』」


ヒューイが通信を入れてくれる。


直後、下の飛行甲板が慌ただしくなる。

そして、移動砦が徐々に減速する。

出撃班はすでにハーネスを装備しているので、出撃にはそんなに時間が掛からなかった。


マルチロール3機が直ちに発艦する。輜重隊1機に未亡人隊2機だ。


「それじゃ!」


屋上から、お守り役であるジニィもファイターで出撃する。


「おお~みんな早い。手慣れてきたなぁ」


「そうですね。あ! もう砲撃しています。当ててるし。まあ、野良のゾウは良い的なんですがね。怖いのはスタンピードの突撃だけで」


移動砦との彼我の距離はまだ結構あるが、艦載機はゾウさんを射程内に収めたらしく、砲撃開始。


「そうなんだ。授業で習わなかったやつだな。今度ちゃんと勉強しようかな」


ゾウまでは距離があるのでサイズ感がよく分からないけど、かなり大きいのではないか。移動砦くらいの大きさかな?

マルチロール3機からバンバンと砲撃が開始される。

今回の大砲は、1機がロングバレルで、残り2機はジマー家所有のバズーカだ。

バズーカの使い勝手はロングバレルより短く、取り回しがいい。少し威力が落ちるみたいだけど。


「あ、もうしゅわ~ってなったな」


図体は大きいが防御力が無いのかな?


「そうですね。あっけない」


下の飛行甲板では歓声が上がっている。


戦闘終了を見届けた移動砦は、さらにスピードを落としてまっすぐ進む。

艦載機の着艦をしやすくするためだ。


運用開始から1日だというのに、あうんの呼吸が出来つつある。


・・・


「ただいまぁ~」


「おかえりジニィ。お疲れ」


「いや、あっけなかったですねぇ」


「鬼ヤドカリ発見! 大きいです!」


「無粋ですねぇ・・・」


・・・・


それから幾度となく出撃と帰還を繰り返し、獲得魔石の数を増やしていく。


辺りは見渡す限りの山と荒野。人の営みの痕跡なんて何もない空間が広がっている。


思えば遠くへ来たもんだ。


「何を黄昏れておるんじゃ。まったく」


屋上にイセがやってきた。


「いや、思えば遠くへ来たもんだって思ってた」


「言い得て妙な言葉だと思うが。それにしても順調じゃのう。ペースが早い」


「そっか。俺らの前回のハントの時より早いな。マルチロールの3機体制がいいいんだろうか」


あの時は移動砦屋上からも砲撃していたからな。魔石ハントの時は、移動砦は全く使用しないのが正解かもしれない。


「そうだな。あのマルチロール機で十字砲火して瞬殺。その後、2機は警戒、もう1機で魔石の回収。かなりの効率じゃ」


「みたいだな。俺達も真似しよう。予備も含めて4機か5機体制かなぁ」


「・・・あのなぁ。多比良、アレ、発注数を50機に増やしてくれ。もちろん、魔石はうち持ちじゃ」


「・・・まじかよ。加藤さんに相談だな」


「少し聞いてみるが、その加藤氏は日本に帰るのか?」


「いや、こちらにいたいみたいなことは言っていたらしい。奥さんと子供も全員一緒に来ているし。だけど、親族は日本にいるだろうし、一旦は帰るかも」


「そうか。うちの魔道具士に聞いたらな。あの艦載機、一体どういう仕組みであんなことができるのか全くわからぬらしい。情けないことだが、認めねばなるまい。うちでアレは造れない」


「まじか。でも仕組みは加藤さんもちゃんと理解しているかどうか分からんと思うけど」


「バカ言え。仕組みも知らずにこんなのが造れるか」


「う~ん。少し語弊があったかな。要は細かい原理が分かってなくても、こうすればこうなるっていう事が分かっていれば、何とかなるということで。うちらは第2世界のドローンというモノが存在していることを知っているから」


「分かるような分からぬような。よし、もう一度魔道士にげきを飛ばしてくる。まったくあいつらは泣き言ばかり言いよる。少しは日本人を見習えや」


「お、おい、イセ・・・」


イセはまたどこかに行ってしまった。俺、魔道具士さんに恨まれないだろうか。


・・・・


「おお~~い、空母がいるぞぉ~!」


屋上でぼ~としていたら、飛行甲板にいたフェイさんが叫ぶ。


「なに? どの大きさ? 場合によっては俺も出ないと。ヤツの大物は危険だし」


「あの山の上です!」


「上を取られてる感じか。こちらも上昇しておくか。それから距離を取るように飛行させてくれ」


「了解」


ヒューイがすぐに操舵室に伝える。すぐさま移動砦が旋回しながら上昇を開始する。


「どうした?」


イセが屋上にやってきた。


「空母型だな。あいつの大きいヤツは動きが速くて。体当たりと電撃を使ってくるから移動砦は不利なんだ」


「なに? 空母だと? 怪魚か。ううむ。結構な大きさだな」


「どうしようメイクイーンの時は諦めたけど。今はファイター2機あるし」


「だけど、スマイリーさんはいません。あいつを怒らせてもし倒せなかったら、この付近の人の街に被害が出かねません」


「ん? ここはグ国じゃ。別によいではないか。倒せなかったら逃げればよい。誰も損せぬぞ?」


イセが辛辣なことを言う。


「いや、グ国でも一般人は・・・そんな悲しい顔をするなよイセ。まあいい。多分だけど、あいつは少しあの時の個体より小さい。殴り勝てるだろう」


俺がグ国に同情したのが少し残念だったのだろうか。


「作戦を聞こうか」


「前に倒した長寿の空母型怪魚は、かなり耐久力があった。砲撃で何発も貫通させてもなかなか死ななかったほどで。前回は弱った所をスマイリーが魔術兵装で切った。今回スマイリーはいないけど、この触手なら殴り勝てると思う」


中指にはめられた乳白色の輪っかを見せる。


「・・・わしが出ようか? お主の体で」


「いや、俺が行く」


一瞬、女に行かせられるかって言おうとしてが、止めておいた。言ったら怒られそうだ。


「そうか。では、勝ってこい」


「おう」


「おじさん。私も行く」


そう言うのは、ファイターでスタンバイのジニィだ。


「そうだな。ファイター2機でずたずたにしてやろう。一応、マルチロールも3機出て貰おう。羽虫を焼き払わないと」


・・・・


俺とジニィはファイターで飛び立つ。ジニィ機にはジニィと百鬼隊の人。俺の機体の前座席にはフェイさんが乗った。


通信機の類いは何も付けていないので、2機の間で会話はできない。

手信号とかも何も決めていない。まあ、何とかなるだろ。


彼我の距離がぐんぐん短くなる。


「大きいですが、あの時ほどではないですね」


「うん。一回り小さい。いける」


出撃後、俺とジニィは申し合わせた様に敵空母よりさらに上空にいた。


そして、敵空母型の水平方向にいるマルチロール3機が砲撃を開始する。


「砲撃開始しましたね」


弾種は榴弾。敵空母型の表面でボンボンと爆発している。


「羽虫はアレで落とせるだろう。結構ウザいからな。あれ」


「目が赤くなった。襲って来ます」


敵空母型が十字砲火中のマルチロールに向けて突進していく。それに気づき、マルチロール3機はバラバラに逃げる。


「マルチロールの方に食いついた。よし、急降下攻撃。衝撃注意」


ファイターの頭を真下に向けて一気に降下する。


両手の中指にはめた謎物質で出来た指輪に魔力を通す。

赤い触手が出現する。


「ぶっ叩く! おおりゃあ!」 ぐんぐん肉薄。


シュッバン! 落下のすれ違い様、敵空母の胴体を触手で叩き付ける。


結果を見ずにすぐさま機体を水平移動に戻して離脱。


距離を取ったところで敵空母の方向を見ると、もう一機のファイター・ジニィ機も大きな触手を出して空母を切りつけている。俺の赤い触手と違って青く長い触手だ。

俺のがヒートロッドなら、アレはハイパービームサーベルだ。


後で生息地を聞いておこう。


俺達が離れると、回避運動をしていたマルチロール3機が再び砲撃を開始する。


ナイスな連携だ。


「お!? あいつ、胴体がちぎれそう」


砲撃と触手攻撃2発で瀕死状態だ。


「ですね。後は砲撃で倒せるんじゃ・・・」


「いや、下からジニィ機が斬りかかっている。危ない!」


「でも、あらかじめ障壁張ってます。バリアもあるし、榴弾なら耐えるんじゃないでしょうか」


砲撃が飛び交う中、蛍光紫を纏った小さな機体が下から上に突き刺さる。


「いや、度胸があるというか・・・」


そして、ハイパービームサーベル。


「あっ!? ちぎれた」


「マジかよ。いや、あんな巨体でうねうね動いていたら、相当な負荷が掛かっているだろうし・・・しゅわ~ってなった」


魔石を回収するためだろう、ジニィ機が再び空母級の中に突っ込んでいった。


「俺達はそのまま周りを警戒しよう。魔石はジニィに任せて」「了解」



・・・・

<<移動砦>>


「うふふん。はい。魔石です」


移動砦に戻ると未亡人達の大歓声を受けた。


そして、ジニィがドヤ顔で取った魔石を渡してくる。

ちなみに、今回の魔石の成果は、誰が倒したとか関係なく、とりあえず全部一緒にして最後に分けるという約束になっている。


「これは千年モノに近いと思う。かなり大きい」


「そうだったら嬉しいですねぇ」


「ご苦労だった。これでファイターの実戦での有用性も証明されたな。見事だった」


「そうだな。触手の他にも手数を増やしたいとこだけど。その辺は今後の課題だな」


実際、ファイターと触手の相性は良い気がするけど。


「マルチロールもあの十字砲火はかなりの火力じゃ。あれで爆撃も夜間戦闘もできるんだからいいな」


イセも興奮気味だ。


「空母型もう1体発見! アレも大きいです」


「なぬ?」


「まじかよ。ジニィ、その機体の魔力は大丈夫か?」


「まだ全然余裕です」


「わかった。じゃあ、もう1戦行くか」「はぁ~い」


空母の巣に入ったようだ。



・・・・・

<<夜 バーベキュー大会>>


「いや~、凄かったよね~」「ぎゃはっ、これならうちらでもあいつらと戦える」「流石イセ様だ。あんな道具を調達してくるなんて。これであたいもあいつらに」


ここには未亡人が50人くらいいる。流石にこれだけいたらかなり姦しい。今日はお酒も出ているし。


今はすっかり日も落ちて、山の木々が開けた岩場に移動砦を止めて皆で食事を取っていた。


「今日はタビラさん、その、か、カッコ良かったです!」


「いや、フランありがとう」


「まあ、フランったら。今日は旦那様にかわいがって貰うのかしら? あら、私でもいいんですよ?」


「おいおいマシュリー。こら、自分でおっぱい揉むな」


今日はBBQ方式で立食中。一応、アルセと糸目とオルティナは、ごめんだけど艦内待機中。途中で交代する予定だけど。


「だってぇ。なかなか呼んでくださらないんですもの。あ、呼ぶときはお姉様と一緒がいいです。2人同時にかわいがってください」


「あ、あの、旦那様、私もいつでもOKです」


「お前達は何を言ってるんだよ」


「だってぇ、サイレンにいるときとか、色々と邪魔が入るじゃないですかぁ。ここにいる日本人は輜重隊の人達だけですし。もう、旦那様の貞操観念とか法律とかは、ラメヒー王国かマ国のものでいいと思うんです。というか、私達タダでさえ行き遅れなんですから。それに、タビラさん、私達が実家に帰るのを止めたじゃないですか。それって、そういうことですよね」


「うぐ。あの時は確かに格好つけた。確かに」


「じゃあ、今晩は私とお姉様とフランです。はい決定です」


「おいおい。決定ってそんな」


「だって、アルセと糸目にはしたじゃないですか」


「ふぁ? 何だって?」


「え? だって、アルセは処女を奪ってもらったって。糸目は寝起きの奇襲が成功したって言ってたし」


いや、全然身に覚えがないぞ。いや、糸目はある。俺ではないけどヤッテた。寝起きの奇襲かどうかは置いておいて。でも、アルセは? まさかな・・・


きょきょろとイセを探す。あいつは勝手に女を作ってくる。ユフイン夫人とか。


「探しておるようじゃの」


真後ろにいた。


「イセ、聞きたいことがあるんだが」


「なんだ? お前はアルセロールの処女を奪っただろうが。あの糸目はお主、最中にずっと抱きしめておっただろ。少し妬けたぞ」


いや待て、体が入れ替われるって、秘密事項だっだよな、確か。良いのか? こんな際どいこと言って。

というか、アルセロールの処女を奪ったって何だよ。


「なあ、多比良。この女達はもう、仲間としてお前のところに来ている。裏切ったりはせぬ。お前も心を許せ。そして体もな。責任を取れ」


イセは、俺の肩にポンと手を置いて、とても凶悪な表情をする。

『仲間に引き込むために肉体関係を持て』と言っているような気がした。

しかし、俺にできるのだろうか。


「よし。多比良、もう少し酒を飲め。そして、お主の日本人的貞操観念と法令遵守、それとこの女達の色気、どちらが勝つか勝負じゃ。言っておくが、わしはかなり手加減しておるからのぅ」


「え? イセ様、今日タビラさんを襲っていいのですか?」


「襲え」


「うふふふふ。私のおっぱいの威力を試す時が来ましたわ」


まずい、マシュリーはゆるふわ系の巨乳美人だ。


「あ、あの! 私も、ついに、ついに男がぁっ!」


「お待たせ。やっとログの整理がおわりました。何の話です?」


オルティナまでやってきた。


「あ、お姉様。今晩、旦那様が夜の相手をしてくださるって。一緒にしましょう」


「ほんとか!? ついにか。待ちました」


「さあ、タビラよ。飲め。これはカクテルというらしいな。軽く酔えるぞ。厨房の双子が作っておる」


あの双子は、祥子さんにカクテルの作り方を学んで作れるようになったらしい。未成年なのに。


「じゃあ、今晩は・・・」


「「「3人とも!!!」」」


・・・・


その晩、俺はとても柔らかくてほかほかの肉塊に押しつぶされる夢を見た、気がする。

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