第163話 魔石の鑑定結果とイセのマークⅡ試乗 9月上旬

<<大使館>>


「おはよダーリン! 帰って来たわよ~どう? 寝起きの1発してあげよっか」


・・・何だ? 朝っぱらから、昨日はなかなか寝せて貰えなくて疲れているのに。


「あ・・・ん?」 うまく声が出ない・・・


「はぁあ!? イセ様、失礼しましたぁ? いや、ここは客間よね」


糸目だな・・・一人漫才しやがって。


「なんじゃ? 朝からうるさいな」


ベッドの下から俺の体のイセがひょっこり現われる。

こいつ、寝相が悪くてベッドから落ちていたのか。風邪引くなよ?


「あ、ダーリン。え? なんでダーリンとイセ様が一緒の部屋で寝てるの? それも全裸で」


「あん? そりゃ、こういうことだ」


俺の体に入ったイセが、イセの体に入った俺に覆い被さってくる。おいおい、何考えてんだよ。


「あ・・あの?」


「脱げ。お前もこっちに来い」


「はい、仰せのままに・・・」


糸目がゆっくりと服を脱ぎだした。



・・・・


長かった。朝っぱらから何をやってるんだよまったく・・・


と、言うわけで、皆で少し遅めの朝食をいただいている。体は返して貰えた。


「あの、魔石鑑定の件ですが、昨日のうちに完了しております。これがリストです」


糸目は顔を真っ赤にしながら書類を渡してくれた。


朝の一件が恥ずかしかったらしい。意外だ。


「ええつと、総数108個、千年物2個(タラスクとゴブリンシャーマン)、700~900年物12個(鬼ヤドカリ)、500年前後20個(鬼ヤドカリ2,巨人8,ゴブリン10)、100~400年物55個、その他は100年未満と。ほぼ予想通りだな」


「ううむ。3泊4日でそれか。初回とはいえすさまじい成果じゃ」


「鬼ヤドカリ狙いが効いたか。あいつ狩りやすかったからな。1匹につきゴブリンが数匹付いていることもあるし。それから、あのゴブリンシャーマンがまさかの千年物だったとは」


「なんじゃ? そのゴブリンシャーマンとは」


「いや、魔術を放ってきた固体がいてだな。ネーミングは俺だけど」


「なんと、油断は出来ぬということじゃな」


「そうそう、これらの魔道具化はどうなるんだ? 加工費もタダと言うわけにもいかんだろうし」


「今、500年物以上の魔石は全て魔王城に預けてあるわ。魔力変換装置にするための心臓部はもう量産出来ているみたいだから、加工はすぐだって。属性とその数を教えて欲しいって。それから、魔王様はお金はいらないとはおっしゃられていたけど?」


「千年物の2つはもちろん『親機』だな。タラスクをゲート用にして『子機』は空間で2つ。ゴブリンシャーマンの親機は伝統貴族の移動砦用に使用するとして、反重力魔力の『子機』として鬼ヤドカリ12個すべて使おう。それから、俺の移動砦に付けている『親機』の『子機』が欲しい。艦載機の増産用。ひとまず500年物クラスの魔石は反重力子機を10個、空間子機を10個。100~400年物のうち上物20個を属性保留の『子機』に。属性は後で検討しよう。それから、お金はタラスクの分は、日本円を用意する。日本で好きなものを買ったらいい。その他はどうしよう。魔石で払う?」


糸目が必死にメモをとってくれる。


「了解。朝食いただいたらもう一度魔王城に行ってくるわ。報酬も聞いてくる。この『魔王の魔道具』は、移動砦と高速輸送艇への取り付けは私でも出来そうなの。子機の属性の付け方とか不明な点もあるから、その辺の質問とかもしてくるわ」


「了解。任せた」


糸目は少し嬉しそうな顔をした。魔道具好きとしては楽しいのだろう。


「なあ、多比良よ。魔王への報酬は、日本円の他にマ国ストーンが良いじゃろう。高速輸送艇マークⅡとやらをわしが買い取りたい」


「そっか。『ラボ』も売り出す気でいたし、相談してみよう。500年物以上が20個で、100~500年物が55個あるから、うちの魔石だけで5~10機は造れる。今度、用途を教えておいてくれない? マークⅡは、反重力発生装置8個を使う『ファイター』と、4個の『マルチロール』がある。『魔王の魔道具』を取り付ける数も用途で違うと思うし」


高速輸送艇マークⅡの『魔王の魔道具(子機)』は、最低でも2個(動力の反重力とボディ用の空間)使用する。だけど、プラスアルファで子機を付ければ、砲撃用に火とか夜間戦闘用の雷とかいろんな用途に使用することができる。


「ふっ、調整に関してはマ国の魔道具士に任せよ。購入は、2種類あるんなら両方じゃ。それから『魔王の魔道具』は付けなくて良い。こちらの在庫で賄おう。それから、今日わしも乗ってみたい」


「了解。1機ずつなら、今俺が『ラボ』に発注している分から先にそちらに回そう。試乗もいいぞ。俺も乗ったけど、なかなか楽しかった。自分で制御するより楽だし」


「ねえ、おじさん、それぇ、私でも運転できる?」


ジニィが久々に口を挟んできた。


「ジニィも練習したら出来ると思う。多分、ザギさんでも大丈夫」


「私も空を自由に飛んでみたい! 楽しみにしとく」 「私は別に乗らなくても・・・」


「ジニィはドッグファイト用の『ファイター』かな」


「何で私を見てドッグファイトを想像するかなぁ。まあいいけど」


ジニィは空中格闘戦が似合う気がしたのだから仕方が無い。

古城で魔王の背中にしがみついていた姿が忘れられない。よほど飛びたかったのだろう。


「よし。それでは、糸目は魔王城に行く。わしらはマークⅡの試運転。多恵はどうするのじゃ?」


「私はバイクでここに来ましたから。冒険者も王城で待たせていますし、朝刊に目を通したらバイクで帰りますわ」


「そうか。では早速行動開始じゃ」


イセのやつ、乗りたくてうずうずしているんだろう。結構子供っぽいヤツなのだ。



・・・・

<<移動砦 王城近くの荒野 マークⅡ試乗中>>


「イセのやつ、帰ってこないなぁ。何やってるんだ? もうそろそろ1時間だぞ」


俺達はイセの試乗のため、移動砦に乗って王城外の荒野に来ていた。

イセは高速輸送艇マークⅡ『ファイター』にジニィを乗せてどこかに行ってしまったっきり、なかなか帰ってこない。


暇なので、荒野上空に停止させている移動砦の屋上で、輜重隊の人らと駄弁る。


「いや、多比良さん。いきなりあの人連れてきてビビったぜ。どういう関係なんだよ」


「ツツやラムさんのボス? マ国にはお世話になってて。今度の『パラレル・ゲート』もマ国の世話になるしな」


「そういう話ではないんだけど。しかし、凄い迫力だったな。ナイスバディだし」


「そうだな。態度とケツの太さはマ国随一らしいからな」


「ぶはあ!」


「あなたたち、後でイセさんに怒られるわよ」


輜重隊女性陣の突っ込みを受けながら地平線の見える荒野を眺める。

完全に何処にもいない。いや、見えなくなっているだけだとは思うんだけど。


今は仕方がないので、上空の移動砦にて、ポケェとイセの帰りを待っていた。


「ねぇ。あれ、もう1つあるんでしょう? 捜してきたら? 外国の偉い人なんでしょ? ここでもしもの事があったらどうするのよ」


「そうだなぁ。もう1機といっても旧式の魔石抜きだけど。俺なら運転できるから行ってくるか。ロングバレルは邪魔なんで外して」


イセとジニィだから大丈夫だとは思うんだけど・・・


・・・


と、いうわけで、俺とツツで捜索開始。


高高度まで上昇し、イセが飛んで行った方向に進むこと15分。


いた? 下の方に小さな粒が不規則に動いているのが見える。


そんなに遠くには行っていなかったようだ。


「アレだろうな。降下するぞ。ツツ」「はい」


高速輸送艇マークⅡ『ファイター』と思しき粒に向かって急降下を開始する。


「イセぇ~~~~~帰ってこぉ~~い」


聞こえているか分からないけど、一応、大声で呼びかける。


「た~~び~~ら~~か~~。びっくりしたわ~~~」


向こうも何か言っている。

とりあえず、急降下から水平飛行にシフトさせ、空中停止して待つ。


すると、イセも器用にマシンを操ってこちらに横付けしてくる。


「急に空から降ってくるやつがあるか! プテラノドンかと思うたぞ」


「いや、すまん。戻りが遅いんで心配になったんだ」


「そうか。心配を掛けておったのか。ついつい夢中になってな。よし、戻ろうか」


・・・


移動砦に戻ると先にイセが着陸する。


そうすると、もう殆ど屋上にはスペースがなくなってしまう。


俺が降り難いことに気付いたイセとジニィがマークⅡを担いで隅の方に動かしてくれる。


空いたスペースに慎重に着艦させる。おニューのファイターに傷を付けたくないし。


しかし、屋上に艦載機2機を駐めるとかなり狭い。この問題は今度の改装で解決予定ではある。飛行甲板の増設によって。


「よっと。やっぱり狭いな。すぐにガレージ用のアナザルームに入れよう」


「そうじゃな。移動砦自体、艦載機の運用を想定しておらん」


「ああ、今度、飛行甲板を装着するからこの問題も解決する見込み」


俺達の着艦を確認した移動砦が、ゆっくりと進路を王城に向ける。


「飛行甲板だと?」


「そ。操舵室屋根の平場を利用する」


「そうか。色々と考えておるのじゃな。少しよいか? 多比良よ」


「なんだ? 改まって」


「これは、やはり兵器じゃ。魔石ハントならばまだよい。だが、人に向けられた時は脅威になるだろう」


「それは何でもそうだとは思うけど」


「よいか? この世界での対人戦の主力は歩兵と騎乗トカゲ兵だ。それからごく少数の飛行部隊だ。そして、移動砦は制圧部隊にして邀撃機インターセプターじゃ。万全の状態でこいつの侵入を許すと、ほぼその地域は占領されてしまう。それだけ倒すのが難しいとされている」


「これはその戦術を崩すと?」


「そうじゃ。移動砦で艦載機を運び、隙を見て発艦。高速で飛び回り、敵航空隊と移動砦をクリアする。後は、1機でも艦載機が残れば、こちらから一方的に撃ちまくれる。しかも、今までのような個人で反重力魔術を使いながら、空戦して空爆まで行うような燃費の悪さもない」


「4人乗りだからな、これ。頑張ればもっと大勢乗せれると思うけど」


「反重力は使えぬが、強力な爆撃魔術を放てる魔道兵はごまんといる。そいつらが空の上からひたすら攻撃し続けることが可能になる」


「航空爆撃か。第2世界でも未だに強力な攻撃手段のはず」


「人が単独で空を飛べる第1世界よりも、そうでない第2世界の方が空を使う戦術の研究は優れておるのかもな」


「う~む。向こうの世界にはモンスターがいないからかな? こちらの世界は基本的にモンスターと戦うために戦術が練られているところがある。広域殲滅系の魔術とか。街を城壁で囲うとか。で、モンスターって、3000年間変わっていないんだろ? 第2世界ではずっと人間の間で戦争ばかりしているから。そういった技術競争が進んでいったんだろう、と考察してみる」


個人的には魔術という万能が存在しているから、科学が発展していないんだと思う。その必要がないというか。


「そうだな。今、第2世界の情報は収集しておるし、そのうち、軍事的なものも分かってはくるだろう。それでだな、多比良よ。ものは相談なんだが」


「どうした? この技術ならおおっぴらにしないし、外国に売るつもりもないぞ?」


移動砦の屋上で風にあたりながら、イセは少し何かを決意したような顔をした。


「次の魔石ハントにはわしらも付いていく。戦いぶりを見物させてくれ」


「そんなことか。別にいいけど。うちの移動砦1隻か?」


「これは足が速い。1隻がよいだろう。場所はグ国の近くの人類未踏の地にして欲しい。今、近場よりあいつらの国の周りを優先させておる。魔石を渡さぬためにな」


グ国側から狩っているのか。まあ、そうなるよな。


「そっか。3,4泊くらいならいいぞ。今、日本人帰還事業の方でもいろいろとあって。抜けるにしてもそのくらいが限度だと思う」


「よい。では4泊5日の工程としよう。そのうち魔王の準備もできるだろう」


「ただ、出発は・・・そうだな。この移動砦も今日から改装に入って、日本人会に参加してその後かな? そのころには高速輸送艇の改装も済んでるだろ」


「わかった。準備が出来たら大使館に来てくれ」



・・・・

<<サイレン ラボ>>


試運転を終えてイセを王城に送り届け、糸目と合流してから、サイレンの『ラボ』に直行。


「と、いうわけで加藤さん、移動砦を改装してください。それから、マークⅡの追加注文もあるんですけど」


これでようやく移動砦をドック入りさせることが出来る。


「ははは、そんなこともあろうかと、部品はファイターもマルチロールも共通にしている部分が多いですし、実はある程度数を制作しているんですよ」


「さすがは加藤さん。じゃあ、初代高速輸送艇も下取りに出しまして、うち用にファイターを2機、マルチロールを4機。それから、マ国がファイターとマルチロールを1機ずつ買いたがっています。『魔王の魔道具』なしでいいんで。準備できます? それから、自分たちである程度メンテができるように、糸目にも手伝わせます。いろいろと教えてください」


「了解です。多分間に合います。飛行甲板の取り付けと、それから副操縦桿の屋上への取り付けと合わせてやっておきます。準備はできてますからすぐに済みますよ。魔石もほぼ均一なものをこんなに沢山」


「ええ。反重力発生装置用に預けておきますね」


「分かりました」


さてと、これから約束していたディーと会食して、明日は日本人会だ。

その前に、移動砦は動かさないから、クルーに伝えないと。


・・・


俺は操舵室に行き、クルーに改装の事を伝える。


「と、いうわけで、今日これからと明日はオフだ。オルティナ。お前達はどうするんだ? 飯でも連れて行ってやろうか?」


俺がそう言うと、オルティナは一瞬だけマシュリーと少し目配めくばせし、申し分けなさそうな顔をする。


「私とマシュリーは久々のオフなので、実家に顔を出してこようと考えているんです。御飯は今度連れて行ってください」


「そっか、ドネリーやネメアによろしく。それから移動砦用の魔石の準備が出来たって伝えておいて。ここに持ってきたら改装できる。糸目がいるときしか出来ないから急いだ方がいいかも」


「まあ! ではマ国に行く前までに移動砦を持ってこさせますね」


ついでに他の2人にも聞いてみる。


「フランとアルセはどうするんだ? この移動砦は残りのメンバーに任せて大丈夫だけど」


移動砦には『ラボ』のメンバーと糸目、フェイさんにヒューイが残る。


「私は姉のところに顔を出してきます」 フランはモルディに会いに行くと。


「私も兄の一人がサイレンの領主館に勤めているので、そちらに顔を出してくるけろ。移動砦の話もしないと」


「了解。じゃあ皆、移動砦の改装が終わるまでは自由で」


「了解。でも、すぐに戻ってきますよ。私はここが好きですから」


オルティナが嬉しいことを言ってくれる。


皆で、移動砦をもう一度見上げて解散した。

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