第164話 ラメヒー王国輸送網構想と多比良八重の扱い 9月上旬

<<タマクロー邸>>


今日の晩ご飯は、ディーと一緒する約束だった。

夕方にタマクロー邸を訪れと、ディー本人が出てきた。


「今日はお前だけか?」


「そうだな。皆用事があったみたい。今、移動砦がドック入りだから、クルー達も実家に帰ったり色々と」


「そっか。まあ2人だけというのもそれはそれでいいか」


ディーとの会食は結局2人だけになってしまった。


「秘密の話もできるしな」


ディーは、少しだけ嬉しい顔をした。


・・・


屋敷に通されて、2人で会食。ゆったりしていて、これはこれでいいと思う。

軽くお酒も入る。


「それでな、親父が外務卿に内定した。後は叙任式を待つだけだ」


「そっか、選挙に当選したんだな。おめでと」


「選挙といっても、根回しさえすればほぼ確実に当選する世界だからな。でも、これで日本国との外交に臨める体制ができると思う。やっぱりタマクロー家は影響力が違うからな」


「そっか。その辺は俺には分からない世界だな。ところで、『パラレル・ゲート』の『ゲート・キーパー』の準備状況を聞いてみていいか? ディーに聞くのもスジが違うと思うけど」


明日は日本人会だし、少しでも情報を仕入れておかないと。


「その『ゲート・キーパー』は外務卿の管轄になった。だから、親父が任命することになる。今調整中だと思うが、ここだけの話、タマクロー家の空間魔術士を選ぼうとしているみたいだ」


「ほう。まあ、こういうのは縁故の方が良かったりするしな」


今回は、魔術の能力は別に高くなくてもいい。身元がしっかりしている人がいいし、今の日本人組織に身元調査なんてできない。タマクロー家の縁者なら、信頼性があっていいだろう。


「空間魔術士自体とても珍しい。それ限定で捜そうと思うとかなり限られてくる。今回はたまたまタマクロー家にいたからな。最適だろう」


「そっか。そういえばさ、魔王がサイレンに来る必要があるんだけど。その辺はどうなんだ? 『シリーズ・ゲート』は対外的にまだ秘密だから、正式に入国することになると思う」


実は、先に『パラレル・ゲート』を創っておいて、入り口だけサイレンに移すという作戦もあるにはあるが、こういうことは段取も必要ということで、魔王がサイレンに来ることになった。


なお、これはマ国の都合もある。

要は、『パラレル・ゲート』はマ国が管理しているぞ、というパフォーマンスだ。


「は? そうなのか? 魔王が来るのか。入国自体は問題ないとは思うが、大国の国家元首が来るとなると、歓待をどうするかだな」


「ああ、そういうのはいらない。というか苦手らしいんだよ。そういうの」


「そっか。魔王の件は親父に投げよう。そういえば、『パラレル・ゲート』は、冒険者ギルドの2階に創るんだろ? その建物な、冒険者ギルドから購入の伺いがあったそうだぞ」


「そうなんだ。不動産を探していたはずだけど、結局冒険者ギルド本部になったのか。購入の許可は出そう?」


「大丈夫だろ。以前、日本人に不動産の所有を認める判断を出している。費用も準備出来ているようだしな。断る理由はないと思う。ただ、ゲート位置は暫定措置なんだろ?」


「そう。今回のは暫定措置。うまくいけば、数日で完了かな。その後は政府同士で話し合って欲しい」


「うまく国交が開始できることを祈っているよ。それとだな、お前にも知らせておこうと思って。が、ガイアのことなんだがな」


ディーが少し気まずそうに話題を切り出す。ガイアの気持ちを知っていて俺と会っているんだもんな。まあ、今日は仕事の話ばかりだけど。


「ガイア・・・そういえば、あいつのパートナーになろうとしてたやつはどうなったんだ? タマクロー家でも何か動くとか言ってたっけ」


「そうだ。何だ? 何も知らないのか?」


ディーはじっとこちらの目を見てくる。

何だよ。


「いや、何のことだか」


「そうか。あいつはお前達日本人を神聖グィネヴィア帝国に売り渡した一味の1人だったんだ。国軍が古城に到着した時にはすでに瀕死だったらしいぞ。あそこを潰されて」


「は? そうなのか。ひょっとして拉致しようとした日本人に討ち取られたってそれか。クリスが死なないように介抱してたやつ! それで、そいつはどうなったんだ?」


「身柄は牢屋の中だ。子爵位は剥奪。ヤツの財産は国家が一旦没収した上で債権者などに分配される。日本人への慰謝料などに回されるそうだ」


きっと新興貴族だから、沢山資産を持っていたんだろう。


「じゃあガイア問題は片付いたと」


「当面はな。だが、あいつのパートナーになる権利が売買されていた以上、また買いたいと思う奴らが出てくるだろう。だから、タマクローとしては移動砦1基を軍に寄付してだな。そこにガイアを艦長として押し込んだ。そうすれば魔道兵として戦場に立つことはないからな」


個人的には、『魔王の魔道具』を軍が導入すれば、そんな魔力回復のためのパートナーなんて不要になる気がするんだけど。

まあ、パートナー制度が不要になったらなったで、ロマンスが無くなるのもどうかと思うけど。個人的な意見だが。


「そっか。ところで、今度のスタンピードはライン領の近くだって?」


「そうだ。それもある。ラインはマ国との国境だ。なので、今回はマ国との共同戦線になる。楽勝だろう。だから我が家も安心してガイアを移動砦隊に押した。最初は兵を出すのを渋っていた貴族家もこぞって、売り込みに来ている。まったく現金な奴らだ」


「そうか。ますますガイアは安泰か。良かった」


実際、本当に良かったと思う。


「本当はお前が貰ってくれるのが良かったんだ。あいつ、お前の事がよ・・・」


「ま、まあ、そう言うなよ。しょうが無いだろ。ディー」


この歳になって、一回り以上歳下の女性が好意を寄せていると言われても、少し困ってしまう。嬉しくはあるんだけど。付き合いたいかと言われると違う気がするのだ。


「そっか。貰うというのは気が早い話だけど、よき友人でいてやってくれたら嬉しい。まあ、10月の頭にはスタンピード討伐隊結成式と出陣式がある。パレードでサイレンの大通りを通過するんだ。特等席の屋上レストランがあってな。すでに貸し切りの予約を入れてある。一緒に飯を食べようぜ」


何だか楽しそうだなそれは。


「ほほう。分かった。楽しみにしておく。それからな、移動砦用の『魔王の魔道具』の準備が出来たぞ。もう少ししたら俺達マ国に遠征するから。移動砦の準備が出来てるなら、早めにラボに持ってきておいた方がいい」


「おおそうか。早速手配しよう。これで、主要都市間の大量輸送構想が現実のものとなる」


「その大量輸送構想、タイガの伯爵代行からも聞いた。ライン、タイガ、サイレン、バルバロを結ぶんだっけ?」


「ああ。ラインとタイガ間はタイガ伯爵、タイガとサイレン間はランカスター、ラインとサイレン間はブレブナー、サイレンとケイヒン間はタマクロー、そしてタイガとバルバロとサイレンの間はバルバロが受け持つ事になった。ラインはマ国のスバルと外交交渉中だ」


「なるほど。俺もメイクイーン領に行ってさ、服とか満足に着れない人達を見ると、この国の物流事情が良くなるようにと願っているよ」


「そっか。これからは、輸送艦による大量輸送によって物流事情も良くなるさ」


「そうだな・・・だけど一応忠告しておくと、インフラは一度整備されると止められないからな。大量輸送を開始して、いきなり止めたら影響が計り知れない。下手すると餓死者が出るぞ」


「そのあたりは我々の腕の見せ所だろな。輸送艦の数を増やし、整備拠点も造って、各拠点に荷さばき所も整備しないとな」


「なるほどね。ところで、『魔王の魔道具』の親機はどこに配置するんだ? 子機は各輸送艦に取り付けるとして」


「そうだな。親機を1つの都市に固定させると不公平感がでる。効率的に魔力を集めて子機に補充を・・そのための空路は・・・」


テーブルに地図を出して酒の肴程度に議論が開始される。


「せめて10基あればこことここと・・・というか、空路は被らせた方がいいと思うぞ。故障したらどうするんだよ・・・」


「なるほど、空路独占ではなく・・・」


ディーと2人で夜遅くまで輸送網談義をしてしまった。国造りの黎明期に立ち会えたような気分になり、意外と楽しかった。



◇◇◇

<<大使館>>


徳済多恵と多比良城一味が去り、少し静かになった大使館のサロン室で、百鬼隊のラムがイセに呼び出されていた。


「さて、多比良はサイレンに帰ったぞ。話があるのだろう? ラムよ」


議題は、ラムがサイレンの居酒屋で仕入れてきた情報。いや、仕込まされてきた情報について。

ふかふかの椅子にドカっと座ったイセに、立ったままのラムが説明を開始する。


「はい。まさか奥方からあんな話が出るとは・・・」


・・・


「ふむ。整理すると、桜子を始め、異世界に来た600人の日本側の残留家族を守るための枠組みを作りたいということか・・・その見返りに奥方の実家である道場がマ国に協力する。さらに我が国の軍師と会いたいと。ついでにスキンヘッドと知り合いになったということか」


「ええ。スキンヘッドやサクラコさんのことはともかく、奥方のご実家を協力者と認めるか否か、それから軍師との面会ですが・・・」


「個人的にそのお目々ぱっちりのスキンヘッドも面白いとは思うが。まずは、桜子の防衛。これはすでに百鬼隊の中に桜子親衛隊を結成している。いずれは日本に行かせ、桜子を守ってやろうと思っていたところだった。実家の道場とやらも密偵に調べさせよう。基本的に前向きに考えてよいと思う」


「そうですか。親衛隊のヤツラには私から話を通しておきましょう」


「折を見て桜子の元には『パラレル・ゲート』を設けよう。多比良も理解を示してくれるだろう。他の日本人達の面倒を見る話は、道場の規模や協力姿勢次第じゃ。だが、あちらにいる日本人協力者は、現段階でとても貴重だ。義理ではあるが多比良の親族でもある。協力体制を築くに越したことはないだろう」


「分かりました」


「さて、最後に軍師か・・・これは理由は聞いておらぬか?」


「はい。そう上司に伝えろとだけ・・・その時の感情的には、今言うかどうか少し迷っていたことと、家族を守りたいという決意以外は何も読み取れませんでした」


「ほう。邪な考えは無いのか? それから怒りの類いじゃ」


「ええ。私の能力ではそうです。戯れ言でもないと思います」


「奥方は、ツツからは普通の女性だとしか聞いておらぬ。だが、我らはすでに多比良を仲間に引き込むと決めたのじゃ。奥方も基本的には仲間として捉えるべきじゃ。日本人達が異世界に帰ると、必ず『パラレル・ゲート』の帰属の話が出てくる。権益を持つ多比良の、その親族に目が行くのも時間の問題。先手を打って多比良の家族を守るは理にかなっている。軍師の件は、奥方にも何か考えがあるのだろう。情報収集も軍師の役目、会わせてやっていいだろう」


「よろしいのですか? 高度な精神感応持ちを事前に面会させなくて」


「よい。何故だがそれは意味が無いような気がするのじゃ。何らかの方法で、我らの能力や内情を知っている気がする。それにな、そういう不思議なヤツは軍師の好みじゃ。面会の場を設けてやれ」


「はあ。このことは多比良さんには言わなくていいんですか?」


イセは少し悩む。


「う~む。まだ言わずともよい。あちらも旦那に伝えておらぬのだろう? 何か考えがあるのだろ。それにしても・・・奥方か・・・いずれ、決着を付けねばならんな。わし、やりまくってるからなぁ・・・欲望のままに」


イセは少し遠い目をする。

ラムは何も答えることが出来なかった。



◇◇◇

<<早朝のラボ>>


次の日。


朝風呂を済ませ、『ラボ』に泊めてあるマイ移動砦を出ると、糸目が何かを見上げていた。


「おはよ。うおお!? なんだこれ。移動砦が沢山」


「あ、ダーリン。朝からこれなのよ。後からラインとタイガも来るって」


マイ移動砦の空母改装の様子でも見物しようと思って外に出たら、見知らぬ移動砦が4基も泊っている。


「そ、そうか。魔道具の話は昨日したとこだけど」


「早速来たみたいね。どうする? 先にこっちやっちゃう?」


「加藤さんと相談しよう」


・・・・


『ラボ』の応接室で緊急会議を開くことに。


狭い部屋に俺、糸目、加藤さん、それから各家の担当者1,2名参加している。狭い。バルバロ家からはアルティが来ている。モルディの妹でそっくりなんだよな。


「では、『魔王の魔道具』の取り付けは可能だと。しかし、ついでに頼もうとしていたトイレや厨房の改修は少し待って欲しいと」


「そうです。今、多比良さんところの移動砦も改装に入っておりまして。魔道具の方は糸目さんと、『ラボ』の他の人間で対応可能ですから」


「そうであるか。急な話で申しわけ無かったが。改装とはあの変な木材を使った屋根のことか? 何をしているかは知らぬが」


「今しか出来ないのは私が関係する魔道具関連だけだから、トイレとかは少し待って貰えばいいじゃない」


「そうか。日本人の造るトイレや厨房は人気が高いと聞くから是非にと思ったんだ」


「ありがたい話ではあります。ですが後数日は手が空きません」


水周りの改良自体は工務店である程度はできるはずだが、移動砦の改造は経験者が限られているらしい。


「高速輸送艇マークⅡシリーズもあるからなぁ。俺もそれ持ってマ国に行かなきゃならんし」


「仕方が無い。少し待とう。どのみち輸送艦に改装するのに少し時間が掛かるからな。すぐに交易を開始するわけではない」


「タイガの整備工場もまだ完成しておらん。急ぐこともあるまい」


何とか理解をしてくれたみたいだ。


「では、数日はここの『ラボ』に移動砦を置いておくぞ」


「じゃあ、早速魔道具から行くわよ。ダーリン、鬼ヤドカリの使っていいんでしょう?」


「いいぞ。鬼ヤドカリは輸送艦用で。じゃあ、俺は日本人会に出席してくる。後は任せた」


俺はさっさと糸目達に任せて用事を済ませに行くこと。


・・・


「とんだところで時間を食ってしまった」


今日は日本人会だと言うのに。

ツツと2人で歩く。


「みんな今回の事業の重要性が分かってるんですよ。国が中央集権化を望む中で、自分たちの立ち位置を確立しようと必死になってるんです」


「そっか。ルクセンとケイヒンが仲間はずれな気もするけど。ま、俺もそこまでお人好しじゃない。その辺は自分たちで調整するだろ」


ツツと駄弁りながらバルバロ邸まで歩く。今回の日本人会はバルバロ邸の宴会場で行われる。その日本人会の中で日本人帰還事業の進捗確認が行われる。


さて、日本人600人の帰還、そして第1世界と第2世界の実質的なファーストコンタクト。これは成功させなければならない。


久々の日本人会が始まる。

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