第162話 オキの行方と多比良八重暗躍開始 9月上旬
<<大使館>>
ラメヒー王国王城内、大使館のサロン室に、ノートパソコンが持ち込まれた。
俺が買ってあげたやつ。
魔王とケイ助教が持っているから自分も欲しいと言って、イセにおねだりされた。
可愛いから思わず買ってあげた。
その結果、俺の貯金がピンチになった。
ちなみに、発電機兼バッテリーも持ち込んでいる。
ダイナモに反重力モーターと市販のバッテリーを繋いだもので、加藤さんが1日で組上げてくれた。
これで反重力魔力を電気に変換することができる。
「多比良よ。お主らが出会ったという変態。ノルンだったかのう。あの後、密偵を放って調べさせたのじゃ」
イセは、マウスとキーボードをカチャカチャと音を立てて操作する。様になっている気がする。
実はあのパソコン、ケイ助教が外字登録してマ国語が入力できるようにしてあるらしい。
最後に、フォルダ中のJPEGデータをダブルクリック。
パソコン操作にもすっかり慣れているようだ。
画面を見るため、俺、イセ、徳済さんでテーブルの片方に寄る。
「これが娘のオキじゃ」
画面には、おっさん1人と女性2人が映っている。
ちなみに、デジカメも買ってあげた。これはそれを使ったのだろう。
女性のうち1人はノルンだ。金髪の推定エルフ。変態と知らなければ目映いくらいの美人だ。
もう一人の黒髪の女性がオキなのだろう。小さくて可愛い。
どことなく晶に似ている。髪型が似ているからだろうか。ストレート黒髪のおかっぱ。オキの方が少し後ろ髪が長い。
そのオキは、こめかみの上あたりの髪の間から、ちょこんと小さな角が生えていた。
「これが・・・角がまだ生えきっていないんだな」
「感想はそこか。だがまあ確かに、双角族を名乗るには角が短い。まだ伸びるとは思うがな」
イセは安心したような優しそうな顔をする。娘の安否が知れて、心底ほっとしたのだろう。
矢印ボタンをカチカチ押しながら、画像データを切り替えていく。
「オキは、どうも人外魔境から流れ出る大河を下ってマ国を抜けたようじゃ。あいつは父親に似て水魔術の適性が高かった・・・」
「大河を下ってって、千キロ以上あるだろうに。凄いな」
画像には、生き生きとした表情のオキの姿が写されていた。笑顔、膨れた顔、笑顔、必死な顔、笑顔、笑顔、怒った顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、いや、この写真を撮った人、絶対オキちゃんのこと好きな人だろう。もしくはイセに忖度しているか。
笑顔のナイスショット率が高い。
「こいつらは、多少変態のようだが、偶然オキを助けてくれたようじゃ。そして、本気で自分たちの仲間として受け入れてくれておる。オキも、自分の進む道を選んだようじゃ」
「いい人に出会えたんだな。ところで、自分の進む道って?」
「料理人らしい。それから冒険者じゃ。お前達、日本人が始めた商売だな」
「そっか。イセの娘が冒険者か。人生どうなるか分からないな。だけど、俺、このおっちゃん見覚えがあるな」
「あん? 変態ノルンではなくか?」
「そうだな。ノルンは確かに変態だが・・・あ、思い出した! 出張料理人の人だ。バルバロの」
「うむ。彼らは冒険者パーティ『出張料理人』を結成しておる。そして、本当に料理人でもあるらしい。いろんな貴族に呼ばれ、その先々で料理を振る舞うのだとか。早く成長した娘の料理を食べたいものじゃ・・・」
イセは遠い目をして優しく微笑む。
「じゃあ、イセはこの状態を許すのか? 現状維持?」
「ああ、そうしようと思う。思えばわしもオキの事を抑圧しすぎたのかもしれぬ。若くして魔王に内定させ、過大なプレッシャーを与えてしまった。娘が何を思っておるか、考えもせずにな」
「そうか。でも、この大将、というか、この地方は舟盛があるんだけど・・・まあ、いっか」
「あん? 何が『まあ、いっか』じゃ。不穏な空気を感じるぞ。その舟盛とやら、詳しく聞かせよ」
「いや、あのな、イセ。お前の娘がせっかく将来の進路をだな。自分で決めたんだ、その門出を・・・」
「・・・いや、なんぞ? その舟盛とは、女体盛り? いや、男女関係無いのか・・・」
イセは俺の感情というか、考えを読んでいるんだろう。じっと目を見つめられる。
「いや、メイクイーンでは、男爵本人が舟に昇ったらしい。ポージングを決めたままな」
少し、出来心でいたずらしたくなってしまった。
「なん、だとぉ。あいつらぁ・・・わしに、情報を全て上げていないな・・・おのれ・・・」
イセが鬼のような形相になる。元々鬼だけど。
「まあまあ、そう熱くなるなよイセ。ああいうのも食文化なんだ。そういうのは否定は出来ないと思うんだ」
怒りだしたイセに少しビビる。
まあ、イセも怒っているのは情報を上げていない部下達に対してであって、男体盛りではないと思う。
「そ、そうか、人の体を器として食事をするのは文化と言い張るか、多比良よ」
なんか、嫌な予感がする・・・
「ああ、俺はそろそろ移動砦に戻るよ。じゃ!」
「やかましいわ、オラァ!」 ゴスウン!
ヘッドバットぉ・・・
「ザギィ、今日はご馳走じゃ。魚介類を多めに用意せよ」
「わかりました」
・・・・俺は意識を失う直前、不穏なセリフを聞いた気がした。
・・・・
「・・・う・・・ううん・・・は!? 寒むっ! いや、動かない。なんだこれ・・・」
両手両足が動かない。何かで固定されてる?
「起きたか。では、いただきます!」
「「いただきます」」「わ、私もいただいていいのかしら」
「遠慮するな、多恵」「はい」
「ひゃぁ! なんだ? どうなってる?」
頭もあまり動かせない。仰向けに寝せられて、体を固定されている。そして、俺の周りには俺の体のイセ、徳済さん、ザギさんにジニィがいる。
「こりゃ、動くな。盛り付けが崩れる」
「何? こ、これは・・・」
俺の目の前には双丘。これはイセのおっぱいだ。
大事な所はつまや刺身が乗っており、様子を窺えない。
双丘の谷間の先には、
下を向くとヤツと目が合ってしまう。
両腕や脇にも何かの切り身が乗っている。
そう、今、俺はイセの体に入っていて、おそらく全裸で寝かされている。そして、土魔術か何かで固定されて、体の上に料理を並べられている。
こ、これは・・・まさか、強制女体盛り・・・
かつて、俺も誰かにしたような気もするが、今回、俺は何も悪いことはしていないはずだ。どうしてだ。
俺の顔をしたイセが凶悪な表情を浮べている。イセが俺の体に入ると、どうも表情が凶悪になる気がするのだが。
そのイセが、フトモモ辺りにある食べ物を箸でつつく。少しくすぐったい。
「うむ。うまい。これはなかなか。今晩も楽しみじゃ」
「ごめんなさい。おじさん。いただきますね」
「おじさぁん。私も」
ザギさんとジニィも俺の体に乗った食べ物を箸でつつく。少しこそばゆい。
「まあ、これも経験よね」
徳済さんも足のすねあたりの何かをつついて食べている。
「ちょ、おまえら・・・まあ、これはイセの体だしな。いっか。じゃあよ。ほら、ジニィ、あそこに乗っているあのカニをくれ」
「これですか? いいですよ? はい、あ~ん」
俺はジニィに女体盛り名物のカニを食べさせてもらう。
「ふむふむ。ラメヒー王国にはこういう楽しみ方があったのか。これは侮れぬな。まさに文化よ。まさか、これを盛り付ける職人が商売として成り立っておるとはな。そして、オキがそれを目指しておるとは。ちゅ、ちゅる」
イセが直接食いしだした。
いろんな所を舐められながら食われていく。
声が出そうになるのを必死に我慢する。
「・・・これは、よいものだな。多恵、今日は付き合え」
「はい。イセ様」
「ザギィもな。ジニィはどうする?」
「私はぁ。今度直接して貰います」
「そうか。よし、このまま温泉に運ぶぞ。舟を温泉に浮べて続きを楽しもうぞ。多比良も寒そうだしな」
「了解です」
イセが変なところで優しい。刺身が痛むだろうに。
皆して俺が固定されている土台を持ち上げようとする。
「お、おい、おまえら、ちょっと待て、せめて酒を飲ませてくれ」
「駄目じゃ、酒を飲んだらトイレに行きたくなるだろうが。おお、そういえば。酒と言えばバルバロ地方には文化的な飲み方があるようじゃ。もちろん、それも試すぞ」
「はぁ!? おいちょっと待てよ。お前、下とか手入れしていないだろ。どうすんだよ」
「
「あ、はい。どうぞご自由に」
長い夜になりそうだ・・・
◇◇◇
<<日本居酒屋>>
カラン!
「いらっしゃい。あら、八重さん。お一人?」
「祥子ばんわ。一人。あら?」
「ああ、ラムさんが来てるわよ」
「おお、奥方ではないですか」
ラムやツツは、
ラムは空が飛べ、『シリーズ・ゲート』のキーを預けられているのをいいことに、サイレンに来ていた。もちろん、祥子に会うために。
ちなみにツツは、フィアンセの元へ。
「その節は。主人がお世話になっております・・・ご一緒していい?」
「え?」
「じゃあ祥子。アワビの鉄板焼とマティーニ頂戴」
八重は日本居酒屋に入ると、露骨に嫌がるラムを無視してハイカウンター席の隣に座る。
「了解。先にお酒出すわね」
「ま、まあいいけどよ」
ラムも強引なお誘いを断り切れなかったようだ。
・・・
チン! 「乾杯」「おう」
「で? 何か話があるんでしょう?」
祥子は八重のカクテルを作ったあと、厨房に下がっていく。それを見計らい、ラムが本題を促す。
「そ。基本秘密にしていてくれない?」
「まあ、話をするのはいいけどよ。秘密にするかどうかは内容次第だぜ?」
「それでいい。べらべらしゃべらないでっていう意味だから。そろそろ『パラレル・ゲート』が繋がるね」
「そうだな・・・時間の問題だろう」
「貴方達、すでに独自のゲートを持っているのでしょう?」
「そうだな。なんだ? 旦那から聞いていないのか?」
「あの人、その辺、秘密主義だから。まあ、でもね、『パラレル・ゲート』が旦那に由来していることは何となく解る」
「黙秘」
「極一般的に考えて、そんな人間、どこの組織も放っておかないでしょ。私はね、守りたいだけ。家族を」
「返答は控えさせてくれ。独り言なら、聞いてやるよ」
カラン・・・2人のみが座ったハイカウンターに、グラスの氷が崩れる音が響く。
双角族は、人の思考をある程度読むことができるが、それには個人差がある。このラムという男は、こういう場では、せいぜい感情の種類程度しか解らない。もちろん、この双角族の能力は、本来の用途、戦闘中に”次に動かそうと考えている体の場所”などが分かるのだが、ここではそんなものは役に立たない。
「私の娘は桜子。マ国としては、旦那を味方に付けておきたいのでしょう? それならば、桜子を守らなきゃ。でね、私の実家はちょっと変わった武道場。マ国は、諜報は得意でも、さすがに異世界での物品調達や現地の協力者を得るのは、単独では限界があるはず。私の実家だったら、日本での協力者になれる」
「それで?」
「協力が可能。そのことを、あなたの上司に伝えて。行動を開始するのは、別に日本人帰還事業用の『パラレル・ゲート』が出来てからでもいい。桜子、いや桜子以外も同じ。異世界に関わる日本人達を守る枠組みを作りたい。それに協力してくれたら、道場が貴方達の味方になる」
「ふむ。まだ、ありそうだな」
「ふん。意外と鋭いね。いっか。言っちゃお」
多比良八重は、目の奥をじっと見つめてくる双角族の男を見つめ返し、こう言った。
「『軍師と会いたい』そう伝えて」
その双角族の男は、思わず目を背けてしまう。
「ふぅ~~あんたら一族は、面白いのが揃っている。いいぜ」
「料理が出てくる。食べましょ」
厨房の奥から独特の臭いを放つ料理が近づいてくる。
最近入手出来るようになった、新鮮な海産物を使った料理だ。
「そうだな。俺もマティーニを頼もう」
カラン!
「いらっしゃい!」
新しいお客さんが来店したようだ。
「ああ! 祥子さん祥子さん、今入ってきたやつ。あいつもここに呼んで」
「は、まあ、言うだけ言ってみる」
入って来た男は、スキンヘッドでお目々がぱっちりしていた。
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