第157話 メイクイーン流おもてなしとノーラのパン屋 9月上旬
<<メイクイーン邸 宴会場>>
「お集まりですかな?」
「あ、お父様。お母様とひいおばあさまも」
「ええ、システィーナ、本当に立派になって」
「システィーナや、骨盤が大きくなったのう。覚えておくがよい。女は顔ではない。もちろん、性格でも無い。骨盤じゃ」
システィーナの家族がやってきたようだ。
ひいおばあさまと呼ばれた人物のヘアスタイルは、金髪のツインテール。お年を召しておられる割には、立派なものをお持ちであった。
「いらっしゃいませ日本の皆様方。娘がお世話になっております。この度はお仕事とはいえ、娘の顔を見せてくれるだなんて、お気遣い感謝いたします」
現われたジャガイモのような肉体を持つ男爵は、最初に出会った時とは異なるコスチュームに身を包んでいた。
それは白い布地で、まるで浴衣のような一枚の布。
「さて、本日の感謝と、それからお祝いも兼ねまして、舟盛を用意いたしました。それでは大将」
「へい、男爵様。おい、オキタ、行くぞ。盛り付けだ」「は、はい!」
メイクイーン男爵は、己の不死身を見せつけるように、薄い布地をゆっくりめくる。
そこに
まるでアルケロンの甲羅の様に隆起した、ホクホクのガチガチが開放される。
バスローブが取り払われると、あたりの室温が、むわぁと上がる。おそらく、3度くらいは上がったであろう。
「今日はどのポージングにしようかのぅ」
男爵はスマイルを崩さず、次々とポージングを決める。
「サイド! フロント! よし、今日は特別だ。バック・リラックスである」
男爵はそのまま船上でうつ伏せになり、背中の筋肉を見せつける。
そして、両腕を下げて、己の尻の下あたりに指を這わせる。
指1本1本の筋肉にも魂が込められる。
僧帽筋、三角筋、広背筋、上腕三頭筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋・・・
「おお、ナイス・マッスルだ。よしオキタ、急いで盛り付けるぞ。ん? どうしたオキタ?」
「アルケロンの甲羅かよ! パンプアップもバッチリね。流石お父様。ん? アキラどうしたの?」
「た、多比良の野郎・・・このこと、知ってやがったなぁああ」
「すっごぉおおおい。どうなってんの? この筋肉」「すごい。なにこの広背筋」
輜重隊女性2人にはすこぶる好評のようであった。
「お前ら、適応力あるなぁ。まあ、珍しいと言やぁそうだけどよ・・・」
・・・
「オキタ。では、刺身を乗せていくぞ。刺身は直接肌に載せると痛むからな。必ず、下にツマ、海藻、大葉を敷くんだ。男爵がポージングを維持できるのは30分が限界だ。急げ」
「は、はい? いえ、はい・・」
料理人2人がテキパキとアルケロンの甲羅の上に料理を乗せて行く。
オキタの目は多少血走っているようにみえた。
「オキタ、あそこに大量のわかめを詰めるんだ」「はい」
「殿部の上には巨大カニだ。そこにある、縦に長いヤツだ」「はい」
「脇の下にはヒラメのお造りを置こう。ヒラメはラメヒーに響きが似ているから、とても縁起のいい魚なんだ。そっちの脇の下はオキタの好きにしていい」「はい」
「オキタ、男爵のチャームポイントはすね毛だ。そこに踊りアワビをお前の好きなように盛り付けろ。すね毛を有効活用してみせろ!」「はい!!」
「じゃあ、お酌は、私達がしましょうかねぇえ」
システィーナにひいおばあさまと呼ばれたツインテの高齢女性が、皆にバルバロ酒を注いで回る。もちろん、子供達にはノンアルコールだ。
・・・
「よし。舟の盛り付けは終わったぜ」
テーブルの上、舟の中には、足の先、指の先まで筋肉を隆起させたバック・リラックスの
漢は船の模型にうつ伏せになり、その周りに刺身やカニ、ワカメや貝類、そして黄色い花などがちりばめられている。まさに、ある種の芸術作品であった。
「じゃあ、皆様や。この家の主人は、今しゃべれる状態ではありませんからなぁ。この、ばばぁが乾杯の音頭を取りましょう。では、乾杯」
「「「「乾杯!」」」」
「わ、私、オキタちゃんのところでお寿司貰ってくる」
「アキラ、もうお寿司行くの? ついでにエンガワ1貫貰ってきて」「うん・・・」
・・・
<<30分後>>
「すご~い。すご~い」
「男爵様、ここの大腿四頭筋動かしてみてください・・・動いたぁ~~」
「じゃあ、ここは? ここの筋肉は? きゃぁあああ、素敵ぃいい」
「お前達楽しんでるなぁ」
寿司をぱくつく輜重隊のリーダー峠氏は、チームメイトのノリを呆然と眺める。
女性陣2名は、筋肉を箸でつついては反応を楽しんでいるようだ。
しかし、そんな夢のような時間も永遠ではない。
「ん? でこぼこがなくなった」「ほんとだ、へにゃ~となった。何でぇ~」
「お? 限界が来たか。よし、嬢ちゃんたち、船を片付けるから少し待っていてくれ。男爵。一旦起き上がってくれ。まずは水魔術で洗うからよ」
「う、うむ。頼む」
「きゃ~~こっち向いて立ち上がった!」「えい」「逃げたぁ! えい!」「ほら! 動いたぁ!」「ほれぇえ! 上にあがったぁ!」「そこおおお! おわあ! 何か飛んだぁ!」
「うお、箸で掴もうとするでない!」
メイクイーン男爵はあそこを箸で掴もうとする
「皆様方、次は七輪を出しますぜ。まだまだ宴はこれからです」
宴はまだまだ続くようだ。
◇◇◇
<<メイクイーン領 街ブラ組>>
「さて、どこ行こう。一応、1万人以上いるんだろ? ここ」
「そうですね。この国の人は基本的に食事は全部外食ですから、田舎でも飲み屋くらいあるでしょう」
「お? 俺のカンによると、あの店なんかはどうだ?」
「ううん、少佐、あれって飲み屋なのか? 何かの店舗っぽいぜ?」
「ラムさん、立て看板的には居酒屋みたいですね。いや、店名がノーラのパン屋? パン屋が居酒屋なのでしょうかね」
ノーラのパン屋。ノーパンかぁ・・・
「パン屋もやってる居酒屋とみた。こういう専門性があることろは
「なるほど、いいぜ。意義無し」「私に異論はありません」
おもむろに扉を開ける。 カラン! という軽快な音がする。
「いらっしゃい」
店の奥、誰か居る。おや、美人さんだ。
「3名だけど入れる?」
「いいわよ。御飯を食べるの? それともお酒メイン?」
「お酒メインでぼちぼち食事」
「よかったぁ。パンが少なくなってて、つまみだったら問題ないから。席はそこでいい? メニューはそこにあるから、決まったら呼んでね」
超美人だ。こんな街と言ってはいけないけど、人口1万そこらの街の居酒屋の店員には似つかわしくない、とんでもない美人。くせっ毛の赤く長い髪、目も赤い。
歳はそこそこ行ってそうだけど。30歳中頃? よく分からん。
「おいおいおいおい。大当たりじゃねぇか、流石タビラ少佐だぜ。引きが強い!」
「はっはっは。まあ、接客無しの普通のお店みたいだけど。目の保養にはなるな」
「そうですね。確かに美人さんです。注文はどうします? さっき少し食べたんで、つまみ程度ですよね」
野郎3人で大はしゃぎしながら案内されたテーブルに座る。
「つまみはラムさんに一任。酒はワイン」「僕もワイン」「じゃあ、俺もワインだ。お姉さん! 注文いい?」
「はぁ~い」
厨房の奥からパタパタと駆けてくる。
「お待たせしました。ご注文を伺います」
「は? 縮んだ?」
さっきの赤髪赤目の美人さんがやってくるも、明らかにちっさい。
「んな訳無いでしょ! 娘よ娘。で? 注文は何?」
「娘!? そ、そうかぁ。お母さんとそっくりだねぇ」
「よく言われる。特におっさんから」
お母さんと比べると子供の方は結構、つんつんしている。まあ、可愛いしいっか。
ちなみに、ラムさんが聞いたところによると、最初の人がノーラさんで、お昼はパン屋をやっているらしい。
・・・
ワイン3つと適当なつまみを頼んで人心地付く。
「さてさて、1日中索敵すると流石に疲れるな」
「はい、確かに。目が特に。今回は3泊4日ですから大したことはありませんが」
「そうだな。夜は街泊だし、仕事と思えば大したことではない。後は、あの魔石の中でどれだかけ使い物になるかが問題だな」
「まあ、1回目なんだし、気楽に行きましょうよ」
「そうだなぁ。ただ、皆の期待感がもの凄くて。プレシャーを感じてしまう」
これで『魔王の魔道具』レベルの魔石が見つからなかったら、もう一回出撃しないといけないだろう。
「あのぉ~~。あちらのお客さんが一緒に飲みたいって」
さっきのちびノーラさんが戻ってきた。
「あん? あちらって?」
「お!? 綺麗なお姉ちゃんじゃねぇか。もちろんいいぜ。望むところだ」
カウンターに座るお姉さんが手を振っている。
ラムさんが即座にOKしてしまう。まあ、ラムさんが相手するならどうでもいいや。
だけど・・・ええつと、どこかでみたような人だが。
「おうおう。受けてくれて感謝するよ。私も一人で暇してたからな」
「いやいや。俺たちも男3人で寂しいところだったんだ。大歓迎だ」
まさかの逆ナン? 初めての経験だ。持つべきモノは、イケメンの連れだな。
お店のカウンター隅でぼっち呑みしていた女性が、自分のコップを持って歩み寄ってくる。
金髪ストレートでナイスバディ・・・だが、あの体付きには見覚えがある。
「まさか・・・お前はノルン!」
「あん? 私を知ってんの? 余所物ぽかったから知らないと思ったんだけどねぇ。どっかで襲った?」
「何が『襲ったか?』だよ。見境ないのかよ。半月くらい前にバルバロ邸で襲ったじゃねぇか」
「おん? あそこには確かに入ったけどねぇ。お兄さんだったっけ? もっとごっつい人だったような気がするねぇ」
明らかに嫌がってんのに、この女はかまわず俺たちのテーブルに座ってくる。しかも俺の隣に。いや、嫌がったから来たのかもしれない。じゃあ、喜ぶ? ううん。扱いが難しい女だ。
「いやいや、改めまして。私はノルン。普段はバルバロに住んでる。あ、ここのお店は私のダチの店。まあ、ゆっくりしてって」
ノルンはテーブルに座ると、笑みを見せる。変態と知らなければ、とても幸せな気分になれただろう。
「タビラさん、知り合いかい? ツツ、お前も知ってるのか?」
「ええ、前回バルバロ辺境伯領に行った時に少しありまして」
「そうか。世間は狭いぜ」
話しているうちにワインとつまみが運ばれてくる。
「まあまあ、過去の事は忘れなよ。人類皆兄弟じゃあないか。ああ、思い出したよ。口や顔では嫌がるくせに、あそこだけは元気だった人だ。いやいや、いたいた。うんうん」
「お前なぁ、忘れろと言った瞬間に過去を思い出してんじゃねぇ。まあ、俺はびっくりしただけでもう何とも思ってないけど。あの時の、そのごつい方の人。あの後泣いてたんだぞ。エルフはあんなことしないって、うわごとのようによ」
「なあ、少佐、あんたこの女性に何されたんだ?」
「レ○プ」
「はぁ? 嘘だろおい・・・」
「あんたには未遂でしょ。でも、エルフ・・・かぁ。エルフの話はバルバロのギルマスに聞いたけど。私からしてみたら、自分たちの理想を私に重ねないでってこと。私は私で精一杯生きてるだけよ」
「ああ、そうなのか。まあ、エルフはいなかったってことか」
「まあ、耳は長いしとがってるよ。ほら」
ノルンは髪を掻き上げてちょっとだけ耳を見せてくれた。確かにとがっている。そして長細い。
「だけどねぇ。何? 歳をとらなくて、超絶美人で、おっぱいが大きくて、後は魔術に長けていて? そして何故か日本人に恋をする? 訳が分から無いねぇ」
「美人でおっぱい大きいのは当たってない?」
「え? そお? うふふん。少し自慢なの。おじさんもあの時もうちょっとで触れたのにね」
「何言ってんだよ。触ろうとしたら逃げたくせに」
「あ、やっぱり触ろうとしてたんだ」
「そりゃ、寝てるときにおっぱいがいきなり目の前に現われたらなぁ」
「くっ、僕という護衛が付いていながら寝床まで突破されるとは。無念です」
「まあまあ、ツツさんだっけ? 経験が違うのよ経験が。それにしても、双角族かぁ。それも2人」
「確かに俺達は双角族だけど、どうかしましたか?」
「いや、この辺境じゃ珍しいじゃない? ところでさ、聞きたいことがあるんだけど、双角族って、マ国のどっち?」
「双角族の領土がマガツヒかマガライヒのどちらか、ということを聞きたいのなら、マガツヒの方だな。我らの故郷はジマー領という。王都ハチマンのすぐ近くだ」
「そうなんだね。マガライヒの方にはいないのかい?」
「基本的にはいないはず。
「ふぅん。そうなんだ」
「どうか、したんですか?」
「いや、最近マガライヒから来たという角の生えた人に会ってね」
「ああ、角が付いていても双角族とは限りませんよ」
「え? そうなのかい?」
「はい。魔族も龍人族も角がありますしね。彼らならマガライヒにもいますよ」
「そうだったんだ。まあ、大したことじゃないさ」
魔王が魔族で国王が龍人族だったか?
見た目で分かりそうな気もするけど。
「ちなみに、イセ様の前の旦那様はマガライヒ出身だったんですよ」
「へぇ~そうなのか。一応、国際結婚だったんだ」
「そうですね」
イセといえば・・・
「ここで言っていいのか分からんけど、オキの方はそっちに行ったってことはないよな」
「オキ様が行方不明になったことは秘密ではありません。手配書を作って各所に配布していますし。その手配書は当然マガライヒの方にも行っています。あちらから何の連絡もありませんので、少なくともオキ様はそちらにはいないはずです」
「そっか、どこに行ったんだろうなぁ」
「ん? オキ? どなただい?」
「双角族の総本山、ジマー家の御姫様です。先日家出なさいまして」
「へ、へぇ~~・・・」
「・・・どうなさいました? ノルンさん?」
ツツがノルンの目をじっと見つめる。まるで、目の奥をのぞき込むように。
何かあるんだろうか。
「い、いえ、何でも。ところでさ、あんた達、どこから来たの? 辺境じゃ余所の人と話をする機会もめずらしくてさ。話を聞かせてよ」
・・・・
その後、意外なことにノルンと楽しく飲んで、まったりして別れた。
あの
「ラムさん・・・彼女・・・」「ああ、分かってるぜ。移動砦に戻ったら本国に連絡を取る」
「何か知ってそうだったな」
「はい。マガライヒとラメヒー王国は、大河で繋がっています。オキ様が川を下ってバルバロ辺境伯領に渡った可能性はあります」
「だが、あのお姉ちゃんから悪意は感じねぇぜ」
「そうですね。調査は穏便に進めましょう」
◇◇◇
<<メイクイーン邸 輜重隊チーム>>
「がははは。そうですか。日本人もなかなかやりますなぁ。がはははは」
「いえいえ、男爵様も結構なお点前で」
こちらの宴会はまだ続いていた。
舟盛は片付けられ、その後に出てきた七輪焼きも平らげ、筋肉談話で盛り上がり、そろそろお開きモードになってきた。
「ねえ、お父様、私とアキラは先にお部屋に行っていい? アキラに弟達を紹介したいの」
「しかし、お前・・・」
「まあまあ、中学生は日本人達にとっては子供です。もう夜も遅いですから」
「トウゲさん、話が分かるわね。じゃあ、行きましょう、アキラ」
「う、うん。じゃあね。オキタちゃん。また会おうね」
「はい。お元気で、アキラさん」
晶は、開始からずっとオキタのいる寿司カウンターの前に座り、ずっとおしゃべりをしていたようだ。
とあるおっさんに忘れ去られたかわいそうな晶の、唯一のオアシスがオキタであった。
すっかり仲良くなったようである。
・・・
「おい、男爵よ。日本の方も明日はまた仕事じゃろうが。こちらも早めにお開きにした方がええ」
「そうだな
「祝い酒?」
「そうですじゃ、日本の
「なるほど。いただきます」
「
「ああ・・・準備万端じゃ・・・」
そして・・・
「・・・な・・は・・・がぁ・・・はっはっはっ・・・」
「ちょっと、峠君大丈夫!? 呼吸がうまく出来てないよ?」「な、何て破壊力・・・何てこと、いや、これはまさか?」
そして・・・
「さあ、飲みなされ・・・」
とっぽとっぽとっぽとっぽ
デルタ・ゾーンに酒が注がれる。もちろん、布はある。あるが・・・
「駄目よ? 峠君。ちゃんと飲まなきゃ。これはお祝いなんだもん」「そうね。これは風習なんだもの。否定はよくない」
女性陣2人はニヤニヤしながら、
「お、お前らなあ・・・どうしよう、どうしたらいい?」
「どうなされましたかな? まさか、冒険者ともあろう者が臆されましたかな?」
「ご、ごごおおお~~~いったらぁ~~~」
辺境の地、メイクイーンの夜に漢の叫びが響き渡る。
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