第158話 魔石ハントと温泉発見 9月上旬
<<メイクイーン 移動砦>>
朝、自室から出て、さっとシャワーを浴びる。
操舵室に行くと、オルティナがキャプテンシートに座ってログか何かを確認していた。
「おはよう」
今日はいい天気だ。少し伸びをする。まだ少し眠たい。
「おはようございます艦長。今日も良い天気ですね。魔石ハント日和です」
「確かに。ところで、皆戻ってる? システィーナと晶は?」
「まだです。今は早朝ですから。久々の故郷です。ゆっくりしているのでしょう」
「そっか。確かにまだ早い。俺も散歩してこよう」
何だか朝がすがすがしくて、散歩をしたい気分になった。
まだ朝6時くらい。出発は7時だから一回り出来るだろう。
・・・
ちゅちゅちちちちち
ここにも雀がいるようだ。
ツツと一緒に街を散歩する。
「ツツ、ちょっと聞いてみるんだけど、昨日はどうなった? ノルンを見張ったのか?」
「はい。百鬼隊ではなく、密偵を放ったみたいです。彼ら、明け方には帰りましたよ。デジカメを持っていましたね」
「デジカメか。イセにはノートPCもあげたんだったな」
「そうですね。蓄電器と発電機に反重力モーターを引っ付けたヤツとセットで。諜報部としては、とても助かっているらしいですね」
「そうか。一応、結果を聞いてみてもいいか」
「私もまだ詳しくは把握しておりませんが、何かしらの情報は掴んだようです」
「そっか、これ以上は首を突っ込まないでおこう。ん?」
朝の街を散歩すると、子供達が遊んでいる風景に出会う。元気いっぱいの子供他達が走り回ったりして遊んでいる。
だが、あの男の子、ズボンはいて無くない? 小さいアレがぴょこぴょこ揺れている。あっちの女の子は、下しかはいてないし。少しだけ膨らみ掛けている年齢なのに、かわいそうだと思ってしまう。
「なあ、何か変じゃないか? 何で服着てないんだ?」
「ああ、ラメヒー王国の田舎じゃよくある光景らしいです。特に、最近は古着が高騰してまして。なんでも手直しして新古品として売り出すのが流行ってるらしくって」
「日本の針子連合の人がやっていることだな。リサイクル品だから良いことしてるって思ってたんだけど、こんなところでその弊害を見てしまうとは。ああ、だからシスティーナが古着を大量に持ち帰ってたのか」
「ラメヒー王国は布の生産がほぼゼロですから。すべて輸入品です。ここは国の最果てですから、布は高いのでしょう。行商人も少ないでしょうし」
「そっか。今度来る時に何か運んでやるかなぁ」
「そうですね。もうすぐ冬が来ます。何か送ってあげるのもいいかもしれません」
ツツと感慨にふけりながら朝の街を歩く。
おや、昨日のお店の前に、綺麗な赤髪のノーラさんがいる。看板を出しているところのようだ。流石パン屋さんは朝が早い。
彼女はズボンをはいており、綺麗なお尻のラインが見えてぐっとくる。
「おはようございます。ノーラさん」
「あら、おはよう。今日出発するんでしょ?」
「そうですね。でも、明日にまた来ます」
「そうなの。この街は旅人も少ないから新鮮だわ。またうちに食べに来られるんなら、先に一報入れておいて。お料理取っておくから」
ノーラさんはさっぱりとした気持ちいい笑顔を見せる。また来ようと思った。
「ひょっとして、パン焼けてます?」
店の前には、小麦か米粉の焼けた美味しそうな臭いが漂う。
「焼けてるわよ。もちろん焼きたて」
「少し買っていこうかな」
買いすぎると常連さんが食べられなくなってしまうかもしれないし、ほどほどに買ってお店を後にする。
・・・・
「あ、戻って来た。もう皆揃ってるわよ」
「おうシスティーナ。戻って来たか。どうだった? 久々の実家は」
「久々に弟達と寝たわ。古着もみんな喜んでたし」
朝からツインドリルをばっちり決めているシスティーナがまぶしい笑顔を見せる。
そのまま一緒に3階の操舵室に。
「艦長、お戻りですか。ご予定に変更はありませんか?」
「ああ、オルティナ、変更はない。今日は、ここから南西に移動して海を目指す。その後、頃合いをみて北上。タイガに行って一泊だ」
「はい。じゃあ、準備でき次第、上昇します」
「了解」
そのまま屋上に登り、街の景色を見下ろす。
『移動砦上昇します。揺れに注意せよ』
艦内放送が入る。その後、ゆっくりと移動砦が上昇を開始する。
男爵家の屋敷の屋上に視線を向けると、沢山の人が見えた。
「あれは?」
「あれは私の家族よ」
「家族かぁ。何人いるんだ? あれ」
「兄弟だけで19人。後、お父様とお母様、それからお妾さんとひいおばあさまもいるわ」
20人兄弟か。貴族って子沢山だなぁ。まあ、穀倉地帯で食べ物もあって、お妾さんもいたらそうなるのか。
「いよぉ~う。多比良さんよ。ちょっと話があるんだがなぁ・・・」
ゾンビみたいな人が現われた。
「うお、どうした? 峠さん。顔色が悪いけど、飲み過ぎた?」
「それもある。飲んでも飲んでも減らない不思議な酒があってだなぁ」
「なんですかそれ。まさか、この辺の地方に伝わるワカメ酒もどきじゃあないでしょうね」
「・・・多比良さん、知ってる?」
「まあ、2度ほど。1回目はそんなでもなかったけど、2回目はなかなか減らなかったなぁ。アレは継ぎ足されていると知った時にはもう遅い。飲まないと失礼にあたると思って、結局最後まで飲んでしまう」
「同士よ! そして友よ」
峠さんにガシィと抱きつかれた。
「いや、まさか昨日、出たんですか?」
「ああ、ひどい目にあった。いや多比良さん、ひょっとして知ってた?」
「いや、知ってはいなかったけど、バルバロで出てきたし、ここで出てきてもおかしくはないかな」
「そうか。最初は舟盛だったしよ。あれ、衛生的にどうなんだよ」
「舟盛りも出たのか。男爵も頑張ったなぁ」
あれ、出張料理人を呼ぶから高そうなんだよね。誰が舟に上がったのか想像したくないけど。
「まさか、多比良さんも経験が?」
「まあ、バルバロでね。前田さんも一緒だったけど?」
「そうか。みんな同じ経験してるんだな。まさか、前田さんがバルバロから帰ってきて元気が無かったのはアレが原因なのか。そうか、素っ裸のビルダー舟盛にババアの強制ワカメ酒を食らえば元気もなくなるか。そうかぁ・・まあ、これも冒険か。よし。落ち込むのは止めよう。気持ちを切り替えて魔石ハントだ!」
一応、念のため、舟盛やお酒はモルディとその妹達だったことは伏せておこう。
・・・・
<<人類未踏の地、飛行中>>
「いた! でも、また巨人ね」
「サクッと倒そう。あの位置だったら大した手間はない」
「了解!」 ドガン!
移動砦からのロングバレル砲撃で瞬殺。
「よし、峠さん、フェイさん、任せていい?」
「「了解」」
輜重隊チームとフェイさんが高速輸送艇で魔石回収に出かける。
「あ? 火球!? 下から」
「なに!? モンスターが居たのか?」
地上から炎が打ち上げられ、高速輸送艇の方に飛んで行く。だた、空を飛ぶ
お返しとばかりに高速輸送艇から魔術の槍が投擲される。あれはフェイさんだな。
「多分ですけど、今のはゴブリンですね」
「何? ゴブリンって魔術が使えるのか?」
「マガライヒの言い伝えでは、そういう個体もいたそうですよ」
マガライヒといえば人外魔境の方だな。
「なんと、ゴブリンシャーマンがいるのか。最初からシャーマンだったのか、長く生きて魔術を扱えるようになったのかはわからないけど。あんなのがいるんなら、空で静止するのは危険だよな」
「そうですね。下方の警戒は少し厄介ですね。森の上空はなるべく高く飛んだ方がよさそうです」
先ほどのゴブリンシャーマンに、フェイさんが突撃していくのが見えた。
・・・・
「あ! あの岩の陰から砲撃光。広域魔術障壁用意」
ヒューイが警戒を促す。ただ、こちらは地上100mくらいを時速200キロ近くで飛んでいる。そうそう当たるもんじゃない。
魔術の発射スピードはそんなに速くない。ランチャーでも放物線が見える程度だ。
これが火球だったらもっと遅い。
今の砲撃は全く当たらなかった。逆にこちらが相手の位置を知ることになる。
「タラスクです。あの岩に挟まっていますね」
確かに、森の中にある岩と岩の間に、巨大なカメが挟まっているように見える。
「まさかとは思うが、あの岩に挟まって動けなくなったとか?」
「あり得ますね。どうします? 移動砦から砲撃しますか?」
なんというのんびりしたモンスターだ。
「いや、動かないんなら、俺が岩を落としてタコ殴りにしよう。移動砦はタラスクの背後に回って。輜重隊チームも出撃。周りを警戒して」
「「了解!」」
移動砦から飛び立つ。その間、移動砦は旋回してタラスクの背後に回る。ヤツは後ろには攻撃できないのだ
俺は森の間にあった適当な岩を触手で掴む。
この大きさだと、300トンくらいか?
良い感じに先を尖らせた状態にしてタラスク上空に移動する。この岩に挟まったタラスク、かなり大きいのではないだろうか。
後ろの高速輸送艇から歓声があがる。
狙い良し。ここで、触媒である中指の輪っかに供給する魔力を切る。前は触手用の植物の茎を手放していたけど、今の触手はそれが出来ない。
もの凄い勢いでとがった岩が落下していく。
ガガン!ガラガラ・・・
今回は甲羅の中央に命中。しかし、まだしゅわ~とならない。
古城キャンプの時は、首を吹き飛ばしても死ななかった。相変らずしぶとい。
「よし、タコ殴りだ」
「よっしゃ任せろ」
相手にはもう攻撃をする手段がない。高速輸送邸から攻撃魔術がバンバン飛ぶ。
そのうちしゅわ~となる。
「ひゅ~~~それにしてもすげえ威力。あいつの防御力も質量攻撃にはかなわないか。魔石回収はどうする?」
「1個だし俺が行ってくる。周りの警戒お願い」 「了解!」
反重力で地上付近に降り、魔石を回収する。かなり大きい。
ここの狩りはこれにて終了。
・・・・
「おお~海だ。海が見える」
移動砦の屋上でモンスターを捜していると、地平線の先がブルーになる。
「確かに、あれは湖なんかじゃありませんね。海でしょう」
「海にはモンスターはいないんだよな」
「はい。いませんね」
「何でだろう」
「僕の考えですけど、海には人がいないからじゃないですかね」
「なるほど。人類の天敵は人類がいないところには出没しないのか。でも、それはそれで不思議ではある」
「まあ、モンスター学は学校で研究されているくらいですからね。詳しくは専門書を読むしかありません」
「専門書ねぇ・・・あ!? アレはなんだ?」
うっすらと、煙のような何かが立ち昇っている。アレは・・・温泉街でよく見かけるアレなのでは?
「え? 何です? モンスターがいましたか?」
「いや、海岸ベタのあそこ。湯気が出ていないか?」
「湯気? 何だって湯気? いや、まさか温泉?」
「そうだったら嬉しいが」
「いや、しかしタビラさん。天然温泉は有毒ガスが出ていたりしますから、うかつに近づかない方がいいですよ」
「う、一理ある。よし、この場所は記録しておくぞ。こちら屋上、操舵室聞こえる?」
『はい、何でしょう』
「ここの位置を記録せよ」
『了解。理由は何です?』
「温泉がある」
『了解』
よし、これでまたここに来れる。記録といっても、どこからこの方角に何キロ、その後この方角に何キロ、といった感じの簡易的な記録だけど。まあ、ここは海ベタなんで、最悪、メイクイーンからずっと海岸線を飛べば再発見は容易だろう。
ところで、時間はもうお昼。今、交代交代で昼食を取っているところだが、そろそろ転進するかな。
「よし、そろそろ北上しよう。タイガに向かおう」
「「了解」」
・・・・
海から北上すると直ぐに山岳地帯に入る。山岳地帯ではモンスターの発見は容易ではなく、今は巡航速度を上げて飛行している。
その状態で、小一時間くらい経過しただろうか。
『こちら屋上。大至急方向転換せよ。 3時の方向へ進め』
オルティナを休憩させるため、今は俺がキャプテンシートに座っていた。
そんな時に、屋上からただ事ではない通信が入る。
「移動は了解。理由を聞いて」 「了解。理由を述べよ」
『巨大な空母級がいます』
「は? マジか。一旦離れよう。俺は屋上に行く。オルティナを呼び戻しておいて」
・・・・
「何でよ、なんで戦わないの!? あんな大物滅多にいないわ!」
「まあまあ、シスさん。艦長が戻るまで待ちましょう」
俺が屋上に行くとヒューイとシスティーナが口論していた。
「戻ったぞ。巨大空母だって?」
「はいそうです。確認できたのは、『あいつ』と同等かそれ以上ですね。百鬼隊総掛かりでも旗色が悪いです」
「まじかよ。迂回して逃げるぞ。戦わない方がいい」
「え? おじさんまでどうしたのよ。空母級なんて良い的よ。ここには私達しかいないし、暴走させてもそんなに危険じゃないじゃない」
「いやいや、システィーナ。俺達は一度巨大空母と戦ったことがある。その時の経験を踏まえての判断だ」
「は? そんな話聞いて無いわよ」
「多比良さん、あんなのと戦ったことがあるのかよ」
「長寿モンスターは、特異能力を身につけていることがある。俺達が戦ったのは、雷撃してきた」
「え? そんなの出会ったことも聞いた事もないわよ」
「そりゃ、下手すると1000年以上はずっと、誰とも遭遇していなかった訳だからな。知られていないはずだ。しかも、触手で殴っても、ロングバレル数十発を当てて頭や体を貫通させても死ななかった。それからあいつはかなり素早い。あの時は高速輸送艇で戦ったんだが、今は動きが鈍い移動砦がいる。防御面で不利だ」
「な、そんな。その時はどうやって倒したのよ」
「弱った所を近づいていって魔術兵装で切った。切った人物は今回のメンバーにはいない。あいつに有効なのは、100の兵士より1人の英雄なんだ」
「そんな」「そんな顔するなよ。あいつは消えてなくならない。準備を整えてまた来ればいいだろ」
「くっ、そうね。分かったわ。待っていなさい。今度来るときは絶対に仕留めてやるわ」
「そうそう、その調子だ」
とりあえず、今回の目的は大物狩りではなく、長寿モンスターの魔石を入手すること。あいつは桜子が来れる時まで取っておこう。そして、この空域の位置も記録。
その後、山脈を飛び越え湿地帯に到着。山岳地帯の深部はモンスターを見つけにくく、効率が悪かった。やっぱり、山岳地帯の裾付近を飛んだ方が効率がいい。残りの2日はその作戦で行こう。
その後の湿地帯でのハントは鬼ヤドカリ1匹だけだった。
・・・・
「大河に出ました。少し西寄りだと思います。タイガは川に沿って東です」
「了解。今日のハントは終わり。タイガに行ってゆっくりしよう。ヒューイ、指示お願い」 「了解!」
今日はモンスターからの砲撃が2度あったし、巨大空母級は出るしで少し疲れた。
なので、魔石ハントは終了。タイガの街を目指すことにした。
・・・・
タイガの街を目指し、川沿いに進むこと約30分。
時々、噂のスーパーサウルスを見かけた。長い首を使って、大きな木の葉っぱを食べていた。
そして、意外と早くタイガの街が見えてきた。
ここには何回か来たから俺も見覚えはある。
とはいえ、一応、アルセロールを水先案内人として屋上に呼んでいた。
「見えたけろ。タイガの街けろ。システィーナ、タイガ旗の掲揚よろしく」
「わかったわ、アルセロールさん」
今は夕方、平野のタイガの城壁が、西日に照らされ美しく
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