第137話 移動砦で旅行 道中の魔石ハント 8月下旬

ドゴ~ン!


「いやったぁ! 命中!」


「シスさん、あそこにもいます。木の陰に隠れてますね」


「了解ヒューイさん。アキラ、次は貫通弾で行くわ。木ごと打ち抜くわよ!」


「了解。え~つと、これね。はい、入れた!」


「じゃあ、アカネ。合図したら撃って」 「了解!」


「今!」 ドゴ~ン!


「命中しましたね。下に連絡入れます。『マシュリーさん、こちらロングバレル班。魔石を回収する』」


『了解、急ぎ回収せよ』


直ぐにマシュリーから返答が来る。


「よし、フェイさん行きましょう」「了解!」


移動砦の屋上から2人が飛び立つ。


さて、今はシエンナ領を出発し、人類未踏の山脈のきわを北に飛びながらバッファ領に向かっている。ここはかなり人里離れているからか、モンスターが多い。その度に移動速度を緩めて魔石ハントを行っている。


ちなみに、人類未踏と言いつつも、太古から魔石ハントを生業とする人達はいるので、本当にここが人類が足を踏み入れていないエリアかどうかは分からない。だが、少なくとも見渡す限り人口構造物や道などは何も無い。


ハント中、意外にもシスティーナは指示役に徹している。そして、玉入れ役にアキラ、引き金役のもう1人が椅子に座り、3人1組でロングバレルを撃ちまくっている。


引き金役は交代制。

今は希望する子供1人につき、モンスター数匹くらいは仕留めただろうか。しかし、この調子だといつまで経っても目的地には到着しない。


「よし、システィーナ。そろそろ切り上げて速度を上げるぞ」


「ええ~~~もう少し狩りましょうよ。沢山見つかるし。魔石も良いお金になるはずよ」


お金のことを言われると誰も反対しにくい。こんな安全な所からバンバン撃つだけで万単位のお金が入ってくるのだ。


一応、今回ゲットした魔石は全て冒険者ギルドに卸し、売却益は旅費にして、足が出た分は山分けする予定。だから、ずっと指示役をやっているシスティーナに多額のお金が入るわけではない。だからこそなのか、誰も反対せずにずっと魔石ハントをやっているわけだけど。


「タラスクがいました。あそこの岩の陰です! 結構大きかったです」


魔石回収から戻って来たフェイさんが、少し興奮気味にそう報告する。

撤収しようと思っていたのに、また面倒なやつが見つかってしまった。


「鈍亀かぁ。あいつめんどくさいぞ? 無視しない?」


「倒したい! お願い! ね、お願い」


ツインドリルの必死の懇願。心が揺れる。


「じゃあ、これで最後だぞ。ヒューイ、操舵室に指示しろ。それからツツに広域魔術障壁の準備をさせて」


「了解! 『マシュリーさん。タラスク発見。仕留めます。10時の方角に旋回して、ゆっくり前進してください。ツツさん、障壁準備』」


直ぐに指示通りの行動が開始される。うん。訓練の成果が出ているようだ。


「やったぁ! おじさん話わかるぅ。じゃあ、誰が撃つ? ねえ、誰?」


「じゃあ、私」


「ほ?」


よ、嫁ぇえ!? こいつ、飲んでいたんじゃ。

酔っ払い禁止にしておけば良かった。


「奥様ね。了解。この椅子に座って」


「よっとぉ」


少しフラフラしてる? おいおい、大丈夫かこいつは。


「ん~確かにいるわね。タラスクが。奥様、いい? あそこにいるのがタラスク。あいつは甲羅が堅いから、貫通弾で行きましょう。アキラお願い」


「うん」


晶が砲弾をセッティング。


「まだ移動砦が旋回中だから当たらない。銃口があいつの方に向いたら撃ってください」


「・・・」


移動砦はヒューイの指示通りゆっくりと旋回し、移動砦の横面よこつらをタラスクの方に向ける。


「よし、射線が取れた。良く狙ってください・・・今!」


ドゴン! シュ~~~~     パン


遠くで何かに当たる音がする。


「おしい。同じ玉を次々に入れて」


「了解!」


「奥様、照星が合ったら次々に発射してください」


「りょ~かい」


ドゴン!   ドゴン!   ドゴン!


3連射は2発外して1発命中。


だけど、タラスクは1発当てたくらいでは死なない。あいつは殻が固いし体力もある。胴体の上に数百トンの石を落として体の半分を潰しても死ななかったのだ。


「くっ、タラスクが火球の準備をしていやがる。何て射程が長い個体だ」


屋上にいる冒険者の人があせる。


「まあまあ落ち着いてください。こちらの魔術障壁はあいつには壊せないはずです。大丈夫です」


システィーナがめちゃくちゃ落ち着いている。さすがはスタンピード討伐戦の英雄。

でも、俺もこっそりバリアを張る。


「ああ、そうだな。でもあまり気分が良い物ではないよな」「そうですね」


ドゴン! ドゴン! 次の2連射は1発命中。


だんだん近寄ってきたから当たりやすくなってきたようだ。そうこうしているうちに、タラスクの口から火球が生み出される。


ドオン!


「来たぞ!」


一瞬で移動砦が蛍光紫の輝きに包まれる。


ゴン! 一瞬、魔術衝撃内の空気が圧縮された感覚が伝わる。


「おお、弾いたな」


余裕な感じではある。さすがはツツ。


「さあ奥様、どんどん撃って!」


ドゴン! ドゴン! ドゴン!


3連射は2発命中。


「当たったぁ。にょほほほほほ」


「その調子です」


「おらぁ~~~~」


ドゴン!  ドゴン!  ドゴン!

ぼこぼこ当たり出す。


「よし、首がはじけ飛んだ。アレでもう相手は主砲を撃てないはず」


甲羅もかなりはじけ飛んでいる。


「マシュリーさん。白兵戦開始します。私が飛んだら、タラスク周りを旋回していてください」


『了解』


「システィーナさん。奥様、ここからは白兵戦で十分です。私とフェイで行ってきます」


今日のヒューイは3割増しくらいでイケメンだ。


「そうね。分かったヒューイさん。奥様、砲撃は終了です」


「わかったぁ~。いよっし!」


嫁がご満悦だ。最後の方かなり当ててたからな。


フェイさんとヒューイが移動砦を飛び立って、首のないタラスク上空に到達する。

今のタラスクには攻撃する術がない。上空から槍の投擲でボコボコにする。というかあのタラスクはあれでまだ死んでいないらしい。やはり、モンスターは普通の生き物ではないな。


しばらくすると、タラスクがしゅわ~となった。やっと倒したか。


2人がすかさず魔石回収のためにタラスクに突っ込む。


「終わったな。これでおしまいだぞ、システィーナ」


「うん。楽しかった!」


シングルドリルの美少女が満面の笑みを向ける。


「お、おう」


少し恐縮してしまった。ほんとに俺というヤツは。


「お母さん、凄かった」「よゆ~よゆ~」


大団円というやつか?

息子と母親のコミュニケーションが見れてほっこりする。


余韻に浸っているとフェイさんとヒューイが戻って来た。小さめの夕張メロンくらいの魔石を抱えている。これはそこそこ大きいのでは?


「よし、バッファに行くぞ! ヒューイ、マシュリーに連絡お願い」


「了解!」


「きゃ~~~凄い魔石、魔石ぃ~~すごいおっきい・・・」


「うるさい、糸目。これは売って山分けだからな」


「分かってるけど売るまで私に貸して。ちゃんと管理するから」


これを借りて何に使うんだよ。こいつは。だけど、確かに誰かが管理しないといけないのも確か。このサイズは下手したら1千万クラス。


「よし、売るまでの管理はお前に任せる。だけど無くすなよ。いいな」


「ありがと。大事にするわって、え? 痛たたたた・・ちょっふぉ、だへ?」


「にょほほほ・・・」


酔っ払った嫁が糸目のほっぺたを後ろからつねり上げている。

何してるんだこいつは。


「お、おいおい。ちょっと・・・まあ、いっか」


糸目だし。何か恨みでもあったのだろう。


「お母さん、先生に何してるの?」「ちょっと、奥様?」「あ、あんた、八重さん止めなよ」


「ホレェ!」「あ痛たぁ!」


ちょっとしたカオスになった。


・・・・

<<古城 湖畔上空>>


山奥に大きな湖があって、少し遠くに石積みのお城が見えた。

キラキラときらめく湖の輝きと森をバックにした古風なお城は、とても美しく見えた。


湖畔に良い感じの開けた平地があったのでそこに着陸する。

時間はすでに16時くらい。

魔石ハントのせいで予定よりかなり遅れてしまった。

今からすぐに御飯の準備をしないと。

本当は釣りをしたかったけど、諦めよう。いや、夜釣りに行くか。うん。そうしよう。


「やっと着いた。湖畔のレジャー時間は省こう。魔石ハントは、アレはアレで皆楽しんでいたしな。よしとするか。で、バーベキューだけど、クリス、ここでいいのか?」


「向こうのお城がミッチェルっすね。ここならあそこを使っている人達にも迷惑にはならないし、森からも距離があるし、見通しもいいしで、バーベキュースポットとしてバッチリっす」


「よ~し。護衛部隊は周りの危険物チェックを。それ以外は晩ご飯の準備をするぞ~~」


「「「了解」」」


「はいはいはい。みんな運んでね~」


綾子さんが中学生みんなに食料やら食器やらを持たせている。


「自分は土魔術でテーブル造ってきます」


土魔術士、小田原さんも出陣。相変らずお目々がぱっちりしている。


・・・

<<移動砦 操舵室>>


とりあえず、無事に到着させた初陣のクルー達をねぎらう。


「みんなお疲れさん。何のトラブルもなく来れたな」


「はい。ありがとうございます。とりあえず、肩の荷が下りました」


「明日の朝まではこの移動砦は動かさないからな。ただ、お前達には食事もここで取って貰うことになる。それから、ごめんだけどお酒は控えて欲しい」


「はい。それは当たり前ですよ。今から交代で仮眠を取ります。私が最初に寝ます。先にお風呂に入ってきますね。マシュリー、後は頼むぞ」「はい、お姉様」


オルティナがキャプテンシートを立ち上がる。流石に少し疲れというか、安堵感が漂っている。


「じゃあ、俺は屋上に行ってみる。操舵室は任せたぞ。マシュリー」 「はい。お任せください」


見回りがてら屋上に行く。そこには見張りの冒険者1人とシスティーナがいた。


「システィーナか? 子供達は下でバーベキューの準備だぞ」


「そうだけどさ。ロングバレルのメンテしなくちゃ。今日一日頑張ったもんね」


「そうか。ふと気になったんだけど、これって量産はできないのかな」


「量産? それは分からないけど、これは金属を加工するのが難しくって、今ではもう造れないって聞いた」


「ふむ。逆に金属加工ができたら量産はできるのか」


「魔道具の部分は結構単純だと思うけど。私は魔道具士じゃないから詳しくは分からないわ」


そっか、今度ディーに聞いておこう。


「お前は学生なんだから、コレが好きなら魔道具のこともよく勉強しな」


「なによう。分かってるわよ。でも、そっか。日本人の金属があればロングバレルの自作も夢ではないのか・・・うん。私、勉強頑張る」


巨大な金のツインドリルが、西日を受けて美しく輝いた。


◇◇◇

<<旅行代理店ザビエル一行>>


「はい。着きました。ここがバッファ領ミッチェル城でございます。長旅お疲れ様でした。では、私達は夜会の準備をしてまいります。それまではこの城でごゆるりとおくつろぎください。ただし、お城からは決して出ないでください。外はモンスターと恐竜がいますから、とても危険です」


「「「はぁ~い」」」


日本人50人が竜車から降りて、ぞろぞろと古城に移動する。


・・・


「は~やっと着いたな。それにしてもずっとお母さん達と一緒だったからよ。その、溜ったよな」「そうだな。俺はもう爆発しそうだ。とりあえずトイレ行ってくる」「ふん。俺は水魔術のお姉さんの技の時に一瞬で処理してるぜ」「おお、お前テクニシャンだな」


・・・


「うう~~ん。腰が痛い。流石に4日間も揺られてるだけだと疲れるわ。お部屋で寝ていようかしら。でもせっかく来たのにもったいないわね。外は危ないらしいし。あのツバメプロデュースの人達と遊んで来ようかしら」


「そうね。どうせここには温泉もお店もないんでしょ? なら遊びは男くらいよね。行きましょ」


・・・


「ようやく、着きましたな。古城に」


「そうね。後は宴を開催するだけ」


「私達はザヴィエルさんと宴の打ち合わせをしてまいります」


「任せたわ。私はツバメと遊んで来る」


「はい。お任せください、ヘレナ伯爵夫人」


・・・


「ちょっと、おばあちゃん達大丈夫?」


「グヘヘ」「ケケケ」


「こらこら、あなた達、そっちは森ですよ。ああ、イネコさんなら大丈夫ですよ。何時いつにもまして元気ですよ」


「ふがふが」


「え? なに? 近づいている? そうですか。それはようございました」

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