第123話 バルバロ辺境伯領へ 移動編 8月下旬
起きた。
昨日もひどい目にあった。
3人が代わる代わる俺の体に入って、ディーの体に入った俺を攻め続けるとか。
ディー自身が異常に興奮していたし。
ディーは、男の体になれるのがとても嬉しいらしいのだ。
だからと言ってあんな・・・徳済さんもノリノリで・・・
それはそれとして、今日はバルバロ辺境伯領への移動日だ。俺がミスると大事故になるから気を引き締めないと。
・・・
<<サイレン バルバロ邸の庭>>
「このベルトをここにはめて、この植物の茎は触手の触媒なんで、このバーを降ろしたら魔力を通して触手で自分の体を固定してください。安全装置は魔力量の確認をして、ベルトに確実に装着してください」
高速輸送艇の乗客は、前田さんとラブレス商会のミドー氏。それから、冒険者ギルドの日本人がもう1人。プラス俺の護衛のツツだ。
移動砦訓練場の横に高速輸送艇を出して出発準備。
全員のセッティングと安全確認はバッチリだ。
「済まんね多比良さん。何から何まで」
「いえいえ、前田さん達は、今回お客様ですから」
お金はそこそこ貰った。2日間の稼ぎとしては十分だ。
「これだけで食べていけそうだよなぁ、多比良さん。バルバロまで1日とかマジで半端ねぇぜ」
「じゃ、浮上しますよ。準備はOK?」
「「「「OKです!」」」」
「浮上!」
高速輸送艇が4人と俺を載せて上昇する。
それを追いかけてフェイさんとヒューイも上昇。
いつもは女性が多いけど、今回の女性はフェイさんオンリーだ。
十分上昇した位置で、フェイさんとヒューイが輸送艇に掴まる。それを確認して周りにバリアを展開させる。
これまでは大型ステルス爆撃機をイメージしていたが今回は違う。
戦闘機の模型を娘に買ってきて貰い、勉強したのだ。ただ、俺の反重力魔術、音速は超えないため、そこまで戦闘機の後退翼にこだわる必要は全く無い。単にかっこ良い形がいいだけだ。
「バリア展開!」
F-2戦闘機っぽい翼が出現する。
「発進。加速する」
「「了解!」」
前進開始。あの大型爆撃機の翼よりスムーズだ。
・・1時間後・・
「お! あれだ! あれがケイヒンだ。港があるだろ!?」
あれがケイヒンか。確かに、陸に切り込みが入ったような湾がある。
天然の良港というやつだ。その湾奥には街がある。それから海の上には沢山の船。
「了解! 速度と高度を落とす! 揺れに注意」
「「了解!」」
速度と高度を落とす。サイレンからケイヒンまで400キロのはず。出発から1時間くらいで到着。
バリアの形は、前回の大型爆撃機モデルより今回の方が楽だった気がする。
あのエイみたいな巨大な翼は無駄だったのか? まあいいや。過ぎたことは。
一応、ケイヒンは飛行で入ってもいいという連絡は受けている。でも、用心して速度を落とす。
さらに・・・
「では、旗をお願いします」
「分った」
冒険者の人がタマクロー旗とバルバロ旗を立ててくれる。これで多分、いきなり攻撃は無いだろう。
ゆっくりと街に近づく。
「フェイさん! 大丈夫そうだ。見張りにご挨拶を!」「了解!」
フェイさんがケイヒン防衛隊の見張り櫓に挨拶するために、先行して飛んでいく。
・・・・
<<ケイヒン伯爵領 港街>>
「じゃあ、俺たちは冒険者ギルドの支部に行ってくる。多比良さんは観光でもしておいてくれ。時間になったらギルドに来てくれれば」
「了解。じゃあ、お昼過ぎにギルドに行きます」
ケイヒンには無事に入れた。
そして、ここ冒険者ギルドのケイヒン支部で2手に別れる。
前田さん達は冒険者ギルドへ。俺たち4人は暇になってしまった。
「街をぶらぶらするか。なんか欲しいものとかあるか? お土産とか」
「お土産ですか。特に思い付くものとかは・・・」
「そういえば、3人とも独身で、恋人無しだっけ? いや、ツツは婚約者がいるのか」
「私、そろそろ欲しいのですが、恋人」
意外にもフェイさんが恋人募集中発言。
フェイさんは鳥の羽根が生えた種族で白鳥みたいなカラーリング。とても美人と思うのだけど。
フェイさんとヒューイはお似合いなのに、眼中にないのかな?
「私は婚約者と妹がいますから、何か買って帰ろうと考えています。ただ、ここでは無くてバルバロで買おうかなと」
「ツツって、妹がいたのか。きっと美人なんだろうなぁ。お前イケメンだしな」
「美人と言えば美人ですかねぇ」
「おや、装飾店がある。寄っていくか。いや、ケイヒンは近いし別にいいか。ここでは消え物か? 何か買い食いするか・・・お? 烏賊焼きがある。こいつは海のイカなのか?」
「どうでしょうね。ウミイカは大きく固いですが、稚魚の時は小さくておいしいです」
「なるほど。ウミイカの稚魚だったら買ってみよう」
・・・
4人で買い食いすること数時間。ぼちぼち前田さん達と合流することに。
「いや、屋台で買い食いもいいですね。あのウミイカの稚魚も柔らかくておいしかったですし」
「そうだな。対してアルケロンの卵はまずい。なんだよあれは。誰が売り出そうと考えたんだよ」
「確かに、あれはちょっと。卵を丸々混ぜて飲み物にしただけのものでしたし」
「いくら栄養があると言われてもあれは無いですよね」
「火を入れても固まらないからって、液体で出すなよなぁ」
「魚の塩焼きとかおいしかったですけどね」
「そうだな。まさかアジがアジという名前でこちらにもあるとは。まあ、イカもそのままの形だし。思えば人間もほぼ同じ形してるもんな。異世界とはいえ、進化は同じなんだろう」
「そうですね」
4人でほっこりしながら冒険者ギルドに戻る。
カラン!カララン!
扉を開けた時の音がサイレンと一緒だ。お揃いなんだろうか。
「あ、多比良さんですね。マスターがお待ちですよ」
日本人の受付嬢が対応してくれる。
「いやいや、俺から出て行くよ。もう時間だしな」
奥から前田さんが出てきた。
少しだけ冒険者ギルドで何かイベントとか起きないかと期待したんだけど、とても平和だった。
まあ、どうでもいい話。
・・・
午後からの移動開始。今はもう上空。
「いやぁ~~早いですねぇ。ほんとうに。今までは数日かかってたんですよ。この辺まで」
「まあまあ、ミドーさん。こんなことも滅多にありませんから」
下を見ると、海沿いにポツポツと街が視認できる。ほぼ全て漁村だと思う。港を中心に発展した街だ。
そして、あの四角いやつは水田だろう。この辺りは米が主食なのだ。ちなみに、この海を挟んだ向いの国であるリン・ツポネス国、いわるゆリン国も米食だ。
上空からは、海の先にリン国の大地も見えている。
・・・飛行して約1時間。
「よし、そろそろ高度を落とす。衝撃注意!」「「了解!」」
高度を徐々に落としてひたすら前進する。
「そろそろどうだ? バルバロ領は見えないか?」
「この街道の先で間違いありません。もうすぐです」
「了解、もう少し速度を落とそう。それから、ツツ、一応、魔術障壁の準備を!」
「了解!」
・・・
「見えました! アレです。あれがバルバロ辺境伯領です」
「了解。地上すれすれまで降りる。それからは歩く速度で進む。旗を用意せよ」
「了解!」
高速輸送艇にタマクロー旗とバルバロ旗が掲げられる。
これでいきなり攻撃は無いだろう。
街道をとろとろと進む。
街道を進むトカゲ騎乗の人や竜車に乗っている人達からぎょっとされる。
「おお、これがバルバロかぁ。すごい城壁だ」
目の前にそびえ立つは、15m級の壁。
サイレンの城壁高さは、居住区が10m、農業区が5mだった。
迫力が違う。
「ここは、辺境伯ですからね。もともとはリン国との戦争に備えた街ですから」
ミドーさん、鼻が高そうだ。
「すごいなぁ。こんな辺境にこんなものを。ラメヒー王国を見直したわ」
商会のミドーさんと駄弁っていると、あっという間に城門に到達する。これ、降りた方がいいんだろうか。
一応、戦闘機型のバリアはまだ展開したままだ。
おや? 城門の人達、こちらに敬礼していないか?
「あのさ、ミドーさん。あれって、うちら歓迎されているのかな?」
「・・・は、はい、そうだと思います。私は軍人ではないのでよく分からないのですが、明らかにこちらに向けられた礼ですね」
「こちらも返礼してみよう。俺とフェイさん、ヒューイだけでいいだろう、敬礼!」
バッと3人がタイミングを合わせて敬礼する。
敬礼の格好のまま城門までさしかかる。このまま通過して良さそうだな。
城門は無事通過。そのまま脇道に逸れて地面に着地する。
「よし、到着。お疲れさまでした」
最後緊張したけど無事到着。
「おお、本当に1日で着いた。すごい。今から物件を見に行く時間すらありますよ」
「よかったな。バルバロ辺境伯への挨拶はどうしよう。ばらばらに行くのも失礼かもしれないし」
「そうだな。一緒に行こう。多比良さんが良ければ下見も一緒に・・・うん? あれはなんだ? 人だかりが出来てる」
確かに人だかりが出来ている。その先には柵があり、何かやっているようだ。見世物でもあるのだろうか。近づいてみる。
「ゴラァ! 今日は公開むち打ちの刑だコラぁ!!」
「は? 公開で刑の執行してるのか。どういうこと? しかも、あの人女性だ。上半身裸でかわいそうに」
見ると、上半身裸にされた女性が両手を上に吊るされて、その豊満な乳房が民衆にさらされている。見ていてあまり気分がいいものでは無い。女性は、うなだれた頭と長い髪の毛で顔が見えない。
「ゴラァ! こいつは、妻子のいる男性の自宅に忍び込み、寝込んでいる男性に無理矢理性行為を行った罪に問われている。こいつの罪名を読みあげる。強制わいせつ! 刑は鞭叩き10回だこらぁ!」
「は? どういうこと?」
「はあ。ラメヒー王国の軽犯罪の量刑は、ほとんどが罰金、強制労働、若しくは体罰なんです。ほとんどの人は、罰金か強制労働を選びます。どちらも拒否するとあのように、公開鞭打ちの刑などに処されます」
「しかしよ。昔からよくマンガとかであるけど。本当は、権力者に無理矢理されたのに、それが奥さんにばれて、苦し紛れに襲われたと嘘をつかれてさ、処刑されるかわいそうな人とかいるじゃんよ。あの人、相当美人だぞ。男を襲う意味がわからねぇ。くそが。胸くそ悪いぜ」
「いや、前田さん、彼女、確か・・・」
「では、ノルン。行くぞ。くらぇええええ!」
ひゅん! バシイイイ!!
「ぐ、ぐふうううう!」
ノルンと呼ばれた女性は猿ぐつわを咥えさせられていて、叫び声すらあげられない。いや、痛みで舌を噛むのを防いでいるのかもしれない。
「けっ、行こうぜ多比良さん」
「あ、ああ。しかし、いい形だな・・・」
ひゅん! バシイイイ!!
2発目が打ち込まれる。
衝撃で形のいいおっぱいがぶるんぶるんと揺れる。
「いや、多比良さん。アレは虐待だ! 行こう」
「いや、実は、俺、今彼女と目が合ってまして。何だか、とても嬉しそうな顔をしている気が」
ひゅん! バシイイイ!!
「い、いけません。あいつはノルンです。レ○プ常習犯です。ああして公開刑を選んで、自分の刑の執行を見に来た男を物色しているんです。目を合わせたら、次の標的にされます。目を見たら駄目です!」
「え? めっちゃ見られている・・・けど」
ひゅん! バシイイイ!!
「目の形が、三日月のように・・・」
「逃げましょう。ここにいたら危ない」
「は? まじか。アレは不幸な女性ではなくて、本当の性犯罪者。男性の敵。あ、俺も目が合った。目が合ったぁ。ヤバイ。多比良さん、逃げよう」
「に、逃げましょう。急げ。おいヒューイ、ツツ、大丈夫か?」
「・・・目が合いました。あれは、変態です。やることしか考えていない。いや、少し違いますね・・・嫌がる男性とやることしか興味がない!」
「まじか、ツツが言うんなら間違い無い。真性の変態じゃねぇか。急げ」
「ヤバイヤバイ」
ひゅん! バシイイイ!!
「ぐ、ぐふううううふふっふふふふふ」
鞭うちの音から逃げるように刑場を後にする。思った以上にバルバロ領はやばかった。
・・・
「ここが、ギルド支部候補の物件です。いかがでしょうか。元々居酒屋でしたが、改良すればいけるんじゃないかと」
気を取り直してみんなで不動産巡り。俺達は関係ないけど、何となく一緒について行く。
「おお、いいじゃないか。ここのカウンターを受付にして、厨房も少し残して食べ物出したりしてな」
「2階が無いのはどうなんだ? ギルドといえば、やっぱり2階の特別室だろう」
「そうだなぁ。後は竜車の駐車場が近くに無いな」
前田さん達が意見を言い合う。俺たちは部外者なので口は出さない。
ここは城下町の目抜き通り、立地はなかなか良いのではないだろうか。でも確かに少し狭い。
ところでここは結構人通りが多い。バルバロの人々は高身長が多く、フランもモルディも女性にしては大柄なので、これは土地柄なのかもしれない。
ただ、服装はどこか垢抜けていない感じ。バルバロ出身者はサイレンに行くと田舎者とバカにされるらしいけど、それはこの辺が関係しているのではなかろうか。
ラメヒー王国は、繊維類はほぼ輸入に頼っている。サイレンはマ国やエンパイアから最新の布や服が手に入るが、ここバルバロではそうではないのだろう。色あせたり、つぎはぎのある服を着ている人もいる。
だけど、ここはそこそこ温暖な気候で稲作に漁業が盛ん。食料が豊富だからか、人口は結構多い。この街だけで他の伯爵領並の15万人いる。もちろん、バルバロ領の周辺には寄子達の子爵や男爵領があるので、全部合わせたら相当な数になるだろう。
大河で他の領地とは隔離されていることもあり、どこか異国情緒が漂う街なのである。
「多比良さん。我々は次の物件に移動しますが、どうされます?」
「そうですね。一緒に行きますよ。携帯もないし。辺境伯への挨拶は一緒に行くんですし」
・・・
「ここが次の物件です」
「おお。広い。造りも丈夫そうだ。ここは元々何だったんだ?」
「リサイクルショップですね。広いですし、竜車を止めておく場所もあります。目抜き通りからは外れてしまいますが、その分、賃貸料もお安いです」
「ふむ。内装はイチからだが、場所的にも広さ的にも問題ないな。2階もあるし」
・・・
「決定でいいんじゃないか、前田さん」「そうだな。こっちの方がいい」「では、こちらで手続きを進めますね」
ふむ。色々確認した後、冒険者ギルド支部はここに決まりそうだ。
「お願いするよ。細かい話はこいつと打合せてくれ。俺はバルバロ辺境伯に会いに行かないと」
「そうですね。では、私達はここでもう少し打ち合わせしてから宿に行きましょう」
「了解。では、多比良さん行きましょうか、お待たせですね」「了解」
俺たち一行と前田さんでバルバロ邸へ向かう。場所は知らないけど、多分、中央の一番大きな屋敷だろう。
・・・
前田さんとバルバロ辺境伯の屋敷へ向かう。
「決まって良かったですね。バルバロも田舎と言われていた割に結構発展してますし」
「そうだな。少し垢抜けてない感じはするけど、それもまたよし」
「そういえばお土産買ってくる約束してたんだった。まあ、明日でいっか」
「ここのお土産って、なんなんだろう」
「俺のところはお酒と腐り豆をリクエストされてますね」
「へぇ~っと。着いたな。多分ここだろう」
駄弁りながら歩くとすぐに着いた。一番大きな建物だし、多分、ここだろう。
「ですね。ごめんください。日本人の多比良という者です。バルバロ辺境伯との面会を希望します。紹介状はこれです」
中から出てきた人に、タマクロー印と目覚ましおじさんの紹介状を渡す。
「は! タビラ殿、お疲れさまです。ですが、ここはバルバロ軍の総司令部です。辺境伯様は屋敷にいらっしゃいます。よろしければ案内いたしましょう」
「そうだったんですね。お願いします」
「では、私について来てください。タビラさん達の来訪は連絡を受けています」
「え? そうなんですね。私のためにわざわざ。通信機を使ったのでしょうか」
「そうですね。機密事項にあたるのではっきりは申し上げれませんが」
「なるほど。だから城門で敬礼されたのか。そんなに警戒する必要はなかったかな?」
・・・
「着きました。ここです」
「・・・ここ、ですか」
何かここだけ農村。いや、日本の田舎にあるような立派な家屋。
総平屋造りのお屋敷だ。だけど、なんだがつぎはぎだらけ。無計画に増改築を繰り返たというか。
「では・・・」
案内の軍人さんは去って行き、農村屋敷の前に俺たちだけが残された。
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