第90話 日本人会総会7月下旬の部 7月下旬
<<日本人会総会 いつものホテル>>
「さて、日本人会総会を始めるぞ。今回から総会の方は簡潔に報告のみ。その代わり専門部会の時間を増やしていく予定だ。今日は、いつものメンバーと、先生方にも入ってもらっている」
今日は、日本人会総会。6月までは週一で開催されてきたが、今後は2週間に1度になる。そのうち、総会は月1になっていくんだろうと思う。
「まずは三角商会からだな。こちらは、ケイヒンに支店を出すことが出来た。ケイヒンとサイレン間の行商はすでに開始している。冒険者ギルドと連携して、経費もかなり安く押さえることが出来ている。今後、海洋都市国家ホゲェとの中継地点であるルクセンや、マ国との中継として王都若しくは国境都市ラインにも支店を出そうと考えている。取り扱い品文句も結構増えた。新商品に関しては、専門部会で発表しよう。それから、お酒の方も、専門部会で、ここでの詳しい話は省略する」
お酒の件、実はそろそろ商品が出ると言う話を聞いた。ただ、三角商会の歯切れが悪い。今度聞いてみよう。
「次は冒険者ギルドだな。こちらは、ルクセン、ケイヒン、タイガ、王都に支店を造った。仕事の範囲が格段に広がった。そして、人数もどんどん増えている。特にハンターズギルドの関係者や、戦争孤児がかなり冒険者になってくれた。冒険者はギルドの従業員というわけでは無いが、ギルドの規模が大きいと、色々とやりやすくなる。彼らの身の安全が課題だが、戦闘行為だけでは無く、バルバロ邸の庭掃除や、『ラボ』の手伝いなど、非戦闘系の仕事も増やしていくつもりだ。支店の話だが、今後は辺境都市バルバロと国境都市ラインを考えている。というか、この国の伯爵領クラスには全てに支店を置きたい。以上だ」
ホントに報告だけだな。まあ、時間も短いし。
「では、工務店です。バルバロ邸のお庭の改修はほぼ完了しました。代わりに、ブレブナー家やランカスター家からの案件もいただいており、引き続きまとまった受注量は確保できております。あと、工務店に所属する数名と針子連合の数名が合流して『ラボ』を開設しました。ラボさんからの話は担当者からどうぞ」
今回から、『ラボ』が独立した組織として参加している。ちなみに、俺は工務店の所属のまま。
仕事が未だに城壁工事だし。冒険者もやっているけど、あちらは組織的な貢献は何もしていないし。
「『ラボ』の代表者となりました加藤です。副代表が元針子連合の佐藤になります。我々は新商品を扱う部署として、タマクロー家の屋敷の離れを借りて研究や切子の生産。新製品の開発などをしております。製品の内容は機密もありますので、ここでは言えません。切子の方は、貴族様にかなりの数を買っていただいております」
「ちょっと。切子が欲しいって方がいらっしゃるんだけど。日本人価格でなんとかならないかしら?」
「いえ。割引は値崩れの原因になりますので、いたしません。切子の販売も、今は大型案件と新製品開発が入っておりまして、お受けできません」
切子人気だな。タマクロー家が結構な数発注したはずだけど、まだまだ需要を満たしていないらしい。
「次は針子連合ですかな。我々は組織を完全に2つに分けましたよ。汎用品を生産する生産部隊と、新商品を扱う開発部隊。開発部隊の方は、『ラボ』と一緒にタマクロー家の屋敷で働いておりますよ。汎用品の売り上げは順調。新商品の方は受注生産品も受けておりまして、大忙しです。以上ですよ」
今日の発表者は副会長のおばあちゃん。確か
針子連合は、貴族向けの商品から子供達のスポーツ用品の制作まで大忙しだ。
報告には、無かったが、『工務店』『ラボ』『針子連合』には、タマクロー家の戦争孤児やご家族合計50名近くを抱え込んでいる。彼らは勤勉で、生き生きと仕事をしているらしい。これから、この3つの組織は伸びるだろう。
「次は商工会議所からの報告ですね。商工会議所は、床屋、飲食などの開店の他、大貴族のお抱え料理人も出ております。各店舗も順調です。冒険者ギルドの方から、非戦闘系の人材の紹介を受けまして、我々のお店で働いて貰っています。今後、人材が育ちますと、チェーン店などの展開も想定されます。特に飲食店各種は、地元の方にも好評いただいておりまして、食文化も浸透してきております」
ふむ。確か、綾子さんと祥子さんの日本居酒屋が商工会議所入りしたと聞いた。連携取っていくなら、組織に入っておいた方がいい。
良い選択だと思う。特にこんな右も左も分らない世界ならなおさら。日本人護送船団方式で連んでおいた方がよいだろう。
「お次は診療所かしら? うちは順調。でも、医師の数には限りがあるから、いきなり手を広げるのは難しいわね。今は、論文制作のために、語学勉強中。以上」
徳済さん、もはや美容魔術の話すらしない。
「次は学校からですね。皆さん、順調に勉学に励んでおられます。もうすぐ1学期が終わり夏休みです。ここに来て初めての長期休暇となります。皆様、どうか子供達と一緒に過ごしてあげてください。それから、体育教師の目久美先生から一言ご挨拶があります」
教頭。久々に見たな。頭髪がさらに薄く・・・
「目久美です。今日はご挨拶というか、お礼に。バルバロ家のお庭に立派な競技場が出来あがりました。この国には、体育という考え方がありませんでした。しかし、日本人達とふれあううちに、スポーツの素晴らしさに気付く方も出てこられております。また、一度は解散した部活動も再開の動きがあり、大変喜ばしい事です。これから、魔術を使用したスポーツなど、新しい競技が生まれることでしょう。私も、この国の体育の発展に貢献できればと考えております。以上です」
目久美先生、協会に入ってから生き生きしている。もう大丈夫のようだ。良かった。
「では、発表は以上か? シングルは何かあるのか?」
「ふん。馬鹿にしないでよ。シングルマザーの会よ。私達、ワックスガーという貴族と仲良くなったわ。今は10名くらい屋敷でお世話になっているの。次は子爵家の夜会の予定もあるわ」
「そうか。ところでだな、シングルマザーの会で心労を煩っていた方がいただろう?」
「ええ。居るわ。ケアが大変なのよ」
「彼女、復帰して働かせて欲しいって、うちに相談に来たぞ」
高遠氏が爆弾発言。
「彼女はうちの売店で雇うことになった。少しずつ、ここの社会に慣れていきたいそうだ」
「ふ、ふぅ~ん。私達のケアが適切だったってことでしょう?」
「彼女は1日千ストーンで過ごしていたと言っていたが、どういうことか説明して貰えるか?」
「ギルマスの前田だ。うちの所の冒険者と、寝たヤツが居るだろう。寝たことを奥さんに言うといって、脅されて、金品を巻き上げていたらしいじゃねぇか。そいつは、奥さんに半殺しになった。これ以上は脅しは効かない。以上だ」
「工務店にも居ましたが、もう色仕掛けは効きません」「商工会議所にも居ましたが全部あぶり出しました。これ以上の脅しは無駄です」
「そういうことだ。それとだな。どうもネズミ講と見られる活動が確認されている。調べたら、この国でも犯罪と見なされるケースがあるようだ。これは独り言だがな。『止めておけ、潰されたくないならな』以上だ」
「え~。教頭です。はい。学校でもネズミ講とみられる集金活動が確認されております。こちらでもネズミ講は許さないつもりです」
「な、なによ、みんなして。ネズミ講なんて知らないわ」
「ふん。今はいいだろう。日本ならともかく、ここではグレーな話だからな。だが、最初の話は? なんで、心に傷を負って働けない人に補助金が渡っていないんだ?」
「それも知らないわよ。でも、補助金はシングルマザーの会に一任されていたはずじゃない!」
「一任は、配るのを任せていたんだ。分配を任せていた訳じゃ無い。お前達、1人5000ストーンとして配った補助金を横領していたな。心のケアが必要な方も居なくなったし、もう補助金はいらないだろ。判決を取るぞ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。すぐには無理よ。食べて行けない人も出てくるわ」
「この国には日雇い即払いの仕事も沢山ある。仕事しろ。若しくは魔力を売れ。ここからの補助金は今日から無しだ。仕事がしたい人は、日本人会に来い。仕事を斡旋する」
うむ。高遠さん容赦無し。でも、シングルマザーの人も大半は貴族家にお世話になれているようだし、いいよね。働けばいいわけだし。
「ただし、セーフティネットは別途整備する。傷病者や、妊婦、失業者などだ。だが、お前達は失業者ではない。いいな」
すぐに投票を開始。いつの間にか全体投票から代議員制になっていた模様。
判決は”可決”。シングルマザーの会への補助金は、7月一杯で無くなることになった。
「まあ、私はどうでもいいわ。困るのは他の人だもの」
こいつは組織の代表の自覚が無い。いや、資格が無い。
「あのぉ~。おひとつよろしいでしょうか」
俺は気になっている事を言うことにする。コミュ障の俺でもこれだけ知り合いがいれば、なんとか話せる。一応、サラリーマンを長年やってきたのだ。
「・・・何よ」
「貴方のお世話になっていらっしゃるところ。ワックスガー準男爵でしたよね」
「そうよ? それがどうかしたの?」
下に見られている態度。逆にお前の何がそんなに偉いんだよと言いたい。まあ、いいいや後で幹部に相談しようと思ってたんだけど、ここで言うことにする。
「バルバロ邸の隣のアパートは、ワックスガー準男爵が所有する不動産でして。今、私はそこに住んでいます。家族で」
「だから何なのよ」
「その屋敷で、日本人中学生を含む男女が夜な夜な淫らな行為をしています。煩くて寝れませんので、私は引っ越すことにしました」
「は!? 多比良さん、それは本当ですか?」
教頭と目久美先生が驚愕の顔をする。彼らも大変だ。
「本当です。うちに来て聞いて見ますか?」
「いや、その、それは・・・」「はい。必要あらば、お伺いします」
しぶる教頭、男気のある目久美先生。
「で、何が私に関係あるのよ」
「彼ら、バルバロ邸に住まわせろと言って来ているらしいのですよ。それで、家主がずいぶん不快を感じられています。いや、敵対関係にあると言ってもいいでしょう」
「な、何だと!? バルバロ家が怒ったら大変なことになるぞ!」
「そ、そうだ。謝罪、いや、もう二度と顔を合わさせないようにさせないといけない」
今、バルバロ家に嫌われると、グランドが使わせて貰えない。というか、あそこは辺境伯。本当は大貴族。怒らせたらいけない貴族には違いない。
「なによ。バルバロなんて、知り合いの貴族はみんなバカにしているわよ。どうでも良いわよ。というか、知らないし、そんな話」
「知らないのならいいのですが、じゃあ、独り言いいますね。私は私の家族や知り合いに危険が及ぶなら、それを排除します。相手が未成年であっても。それから、私があのアパートを出るのは声が不快だから、だけではない。物理的に潰れるのが嫌だからです。バルバロ家に、柱を折られて」
しぃ~~んとなる。
みんな絶句。何故?
でも、これは俺なりの優しさ。
だって、アパートを引っ越すのは決定事項。モルディはああ見えて芯は硬い。やると言ったらほんとにやりそうだ。後は、あの中坊達が更生してくれることを祈る。
「じ、じゃあ、総会は終わるぞ。今から専門部会だ」
・・・・
ふぅ~。専門部会の部屋は何処だ?
俺は今まで新製品開発部会にしか出ていなかったが、実は色々な所からお声がかかっている。
体は1つなので、全部は出れないけど。
個人的に酒造部会のお酒がどうなったのか気になっているんだけど。
とりあえず、今回は『新商品開部会』と、『商域拡張部会』に参加。
廊下をキョロキョロして歩く。
バン! バチィ 誰かに背中を叩かれる。だが、それは俺の魔術障壁ではじかれる。
このパターンは、徳済さん。
「多比良さん、かっこよかったじゃない」
やっぱり徳済さんだ。
「いや、しゃべっただけなんだけど。なんであそこでしーんとなるのか」
「は? 貴方は何も分ってないのね。まあ、いいわ。『商域拡張部会』の方は私も出るから、部会が終わったら、お昼一緒しましょ」
「分った。ロービーで」
「いや、『商域拡張部会』の方が後だから、待ち合わせは必要無いわよ。じゃね~」
そういやそうだった。徳済さんとは一旦別れて後ほど合流予定。
日本人会、専門部会、開始。
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