第84話 野球の練習試合(続き)と今後の話合い 7月中旬
「はいお弁当」
「サンキュー綾子さん。これが全員の分?」
「そう。選手分もあるから」
と、いうわけで、俺と斉藤さんとドネリー達の部下数名で、弁当を受け取りにバルバロ邸までやってきた。
両手に弁当と水筒を抱えてお庭に戻る。
・・・
お昼開始。
バルバロ邸のお庭には、芝生のある日本庭園がある。
そこにみんなで座り、弁当をつつく。選手やお子さん達、中学性も一緒。
ここの芝生は芝刈り機で綺麗に手入れされている。
とても心地いい。
「第一試合、勝って良かったわね。7-2で勝利」
「モルディとエリオットの打撃が凄すぎる」
「まったくエリオットったら。普段はなよなよしている癖に、こういう時はすごいんだから」
「いや~」
「ははは。野球面白いな。おれも1チーム持ちたいぜ。もちろん、おれが4番だ。いや、でも、それだとモルディの真似みたいで嫌だな。う~む」
「昼からは親父チームとの対戦か。彼ら強そうだなぁ」
「一応、ベストメンバーは避けて、おばさん出すらしいわよ。うちとケイヒンチームは女性入りチームだからって」
「そうなのか。バルバロ家チームは女性といっても強打者が3人もいるだろ? 茜ちゃん、お月ちゃん、それからモルディ」
「その代わり、守備が穴なのよ。でも、まあ、うちにはエース武くんがいるから、守備は多少レベルが低くても大丈夫かな? 相手のバッター次第かも」
「以外と強い? バルバロ家チーム」
「そうだ。うちは最強だ」
モルディが御飯をもぐもぐさせながら胸を張る。
「しかしよ、タビラ。結構、貴族連中が見に来ているな。ケイヒンならわかるが、ルクセンやタイガ系のやつらまでいたぜ」
「俺も、たかが野球って思ってたけど。これって、結構注目されてる? ルクセンもタイガも冒険者ギルドが出来たって言ってたし。誰かがパイプを作ってて呼んだのかも」
「ドネリー、これはうかうかしていられないんじゃないか? タビラさ、僕たちに早く紹介してくれないかい? 野球関係者を」
「何の話なのよ」
徳済さんが首を突っ込んできた。いや、気を使ってくれてるのかな? 貴族との話合いだから。
「いや、ブレブナー家とランカスター家も野球に興味があるらしくって。スポンサーとか何でもいいけど、何かに絡みたいらしい。あ! そうだ、徳済さん。高遠氏に顔繋ぎしてよ。俺、あの人とは仕事で少し関係がある程度だし」
「ちょっとぉ、かなり大きな話じゃ無いの。まあ、いいわ。今からなのね?」
「三角商会なら、うちの宴会場を貸し切ってるぞ?」
こいつは、貴族である自分や来客は外で食べて、屋敷は三角商会に貸し出しているとは。まあ、モルディらしいというか。
・・・・・
と、言うわけで、徳済さん、ドネリーにネメアにその取り巻きを連れて、バルバロ家の屋敷へ。中学生含めその他の人はお昼休憩続行中。
「がははは。兄ちゃん、というかタビラ殿じゃねぇか。姉御はいねぇぞ?」
屋敷には目覚ましおじさんがいた。この国に一定数いる、いわゆる小さなおじさんだ。
「あ! 目覚ましおじさん。お久しぶりです。モルディに用事じゃなくて、今宴会場にいる人に用があって。ところで、この屋敷、客間ってないよね。会議室とかも」
この目覚ましおじさん。モルディとの工事現場で、20日間くらいひたすら朝起こして貰った人。
奥さんも一緒に住んでいる。
「あったけど倉庫にしてるな。うちは全て宴会場でするからな。そういうの」
「今は宴会場塞がってるし、困ったなぁ。ちょっと聞いてみるけど、この屋敷で会議が出来そうな部屋ってあったりする? もちろん、宴会場以外で」
「そりゃあ、姉御の部屋だ。あそこは広いしな。和室だから床に座れるぞ」
「モルディの私室? それって、使っていいもの?」
「いいんじゃねぇか? 別に」
「ちょ。ちょっと大丈夫なの? モルディベートさんはバルバロ辺境伯家の長女なんでしょ?」
「まあ、彼ら同級生同士だし。いいんじゃない? 畳の部屋みたいだし」
「がははは。姉御の部屋には掃除に入るがな。何もないぞ?」
そういえば、移動砦の時のモルディの部屋にも何も無かったな。
「では、そういうことで。俺、高遠さん呼んでくる。後はよろしく頼むよ」
「あの、僕はちょっと、トイレを貸してもらっていいかな」
宴会場に行こうと思ったら、ネメアがトイレに行きたいらしい。
「ネメ、トイレならここの先にあるぞ」
「分った。行ってくる」
「・・・
「ま、まあそうだけど、何で聞くのさ」
「トイレの使い方、分るか?」
「いや、分るでしょう。普通に。行ってくるよ」
「そうか、いや、済まなかった。知っているのならいいんだ」
「??」
・・・・
俺は皆と別れて1人宴会場へ。
そろっと宴会場を覗くと見知った人が。
「武くん。武くん」
「あ、多比良のおじさん。どうされました?」
昼食中の武くん発見。声を掛けると、廊下の方にまで来てくれた。
「お父さん呼んできて」
「父ですか? 分かりました」
これで俺のミッションは、ほぼ終了。
・・・
「多比良さん。どうされました? お昼にまた」
高遠(パパ)が四つん這いでこちらに寄ってくる。お昼だというのに少しお酒が入っているようだ。
まあ、気持ちは解る。
「高遠さん。今、ブレブナー家とランカスター家の人が来てまして、ご紹介したいと思いまして」
「ええ? それは是非是非。お酒、あんまり飲んでなくてよかった」
「実は、今日、野球観戦しに来られてて。野球に興味を持たれたようで、チームを持ちたいとか、スポンサードの話とか。今、徳済さんが相手してます」
「え? そんな話に? わ、分かりました。野球部の監督も連れて行きましょう」
高遠さんが、仕事モードに切り替わった。
・・・・
で、高遠氏と親父チームの監督を連れて、2階のモルディ部屋へ。
「連れてきました。俺のミッションは完了ですね」
「へぇ~。バルバロ家は、応接間も和室なんですね。広いし」
高遠氏が適切な感想を述べる。ただ、ここは応接間ではなくて家主の自室。だけど、それは今更言い出せない。
「いえ。まあ、出来たばっかりで調度品もありませんけど、話くらいはできますので。その辺でごろごろしてください」
何故か俺が言い訳する。
「では、紹介から始めましょうか」
紹介が終わったら、俺はこの会議から抜け出すつもり。
・・・・
紹介後、俺は退散。このままこの会議に参加したら、この大会運営委員とかの何かになりそうな気がしたから。
俺は野球組織の幹部とかになるつもりはない。
その辺は当事者同士で話合って欲しい。
そういうのはあまり得意ではないし、正直、そんなに魅力にも感じない。
「あなたは最後まで残れば良かったのに」
ついでに徳済さんも抜け出してる。
「こういった話し合いは得意じゃない」
「ふ~ん。そういえばさ、ついでに聞いてみるけど、石拾いの方はどうなってるの?」
「あの珍しい石かぁ。一応、現場のトメと小田原さんには見つけたら取っておくように頼んでおいた。それを持ってくるだけじゃだめ?」
「だめ。私が拾いに行きたいのよ。だから、飛んで連れていって。これが成功すれば、貴方、色々と連れて行ってくれそうだし」
石切場までは、トカゲ騎乗で片道3時間くらい。行って行けない距離ではない。ただ、あそこは恐竜とモンスターが出る領域、というのがネック。
そのトカゲ騎乗を徳済さんは嫌がったため、俺が飛んで連れて行くことに。ただ、反重力魔術は生き物には効き辛い。なので、色々と準備が必要となった。
というか、その準備物は、只今『ラボ』で研究中だったりする。
「一応、安全装置の方は出来そうだって。反重力魔石を応用した魔道具。徳済さんの準備はどう?」
「私の方は万端。動きやすい服に、フルハーネスを針子連合に発注したわ。後は受け取って調整するだけ」
「じゃあ、そろそろ行けるのかな? 今度ラボで調整しましょっか」
「オーケー。楽しみにしてるわね」
この件に関しては後日対応予定。
ん? 何か、遠くで叫び声が聞こえる。
「・・ぎ・・・ひゃ・・ああ・・・いいぃ・・・・・・」
「ねえ、徳済さん。何か聞こえない?」
「そうねぇ。この声、ネメアさんじゃない? さっきの会議にいらっしゃらなかったのが気になってたんだけど」
「そう言われると。トイレに連れて行ったんだった。何やってんだ? ちょっと見てくる」
・・・
「お、ひょぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「・・・おい、何やってんだ? ネメ」
トイレに行くと絶叫しているやつがいる。声からしてネメだ。
「お、おおお、ひょお~~、タビラ? タビラかい? 凄いな、これ、このトイレ。バルバロ家のトイレがこんなだったなんて知らなかったよ。僕、まだもう少しここにいるよ」
「使ったのか、お尻の穴を洗うヤツ。気持ちは分らんでもないが、それ、あまりやり過ぎない方がいいと思うぞ? それは工務店に発注したら買えるからよ。今日は、ちゃんと仕事しろよ」
そういえばこいつもポンコツだった。あれから一体、どれだけやってたんだよ。
俺はネメを無理やりトイレから引き剥がし、ドネリーに引き取ってもらった。
ネメはこのトイレをいたく気に入り、絶対に注文するとか言っていた。そのあとドネリーも試して絶賛してたとか。
・・・・
午後からは、親父チーム対バルバロチーム。ドネリーとネメアは向こうチームの応援席に移っている。
お昼の時の顔合わせで仲良くなったんだろう。
その代わり、ケイヒンチームがこっちに来て応援してくれてる。ケイヒンチームは午前に親父チームにも負けたから、2敗0勝が決定。
で、今はすでに5回裏だったりする。
「う~ん。こりゃ厳しいか? 5回裏7-3でバルバロがビハインド4点」
「そうねぇ。残念だけど、監督の力量もあるわね。こっちは所詮素人だもの。実質の監督はうちの息子だし」
バルバロ家チームの実質監督は徳済さんの息子、颯太くんだったらしい。
「バルバロ家チームは、取れる戦略が少ない。打線が良いから点は取れるけど、ピッチャーが捕まったらもうおしまい。守備力の差でやられてしまう」
解説好きの斉藤さんが解説してくれる。
「まったく、子供相手に容赦無いわね。三角会の人達も」
「あのおばさん軍団も結構やるね」
「そうね。守備もバッティングも無難だわ。バッティングに関しては、やっぱり監督の采配がいいわね」
「ああ、3アウトチェンジか。この回0点。システィーナが泣きそうな顔になってるな。大丈夫か? あいつ」
・・・・
「ま~け~た~。9-8かぁ。最後追い詰めたんだけどなぁ」
「残念。でもいい勝負。エリオットくんいいわね。育つわよ。あの子」
「ああ、システィーナが泣き出した」
「まあ、この世界、スポーツがほぼ無いらしいから。負けるのもいい経験じゃないかしら」
「俺もそう思う。特にシスティーナなんかさ。あいつ、力でどうとでもなるって思ってそうだもんな。負けるのも確かにいい経験だ」
「そうね。それがスポーツの偉大さの一つ。さて、と。撤収しましょうか。宴会の前にお風呂に入りたいわ。行きましょう」
「「了解」」
観客席のベンチから立ち上がり、汗を流しに向かう。急がないと込みそうだ。それに宴会楽しみ。なんと、嫁も参加するし。
「あの。タビラ様。ご主人様がお呼びです。ついて来ていただけると助かります」
びくっ! とした。
後ろに誰かがいた。
この人は確かディーの執事、ベガスさん。ダンディーアラフィフ(推定)。
「ん? ベガスさん。どうしました?」
「私達は先に行ってるわね。宴会場で会いましょう」
徳済さん達はさっさと銭湯に行ってしまった。
「は、はい。行きましょう」
ここはベガスさんについて行かざるを得ない。
ベガスさんの後ろをてくてく歩く。
・・・・
ついて行った先には、超不機嫌なディーが待っていた。
「タビラよ~~。なんでこんな楽しそうなこと黙っていたんだ? んん?」
「いや、ディーよ。今日のは練習試合なんだ。こんなのにお前を呼んでもだな」
「バルバロにケイヒンがチームを組んで戦ったそうじゃないか・・・ああん?」
「ああ、ランカスターにブレブナーも参戦したいんだと。楽しみだな」
「がぁ~~~~~混ぜろ! オレ達も混ぜろ!」
「俺は監督でもなんでも無いんだよ。そういえばルクセンやタイガ系の貴族も視察に来ていたらしいぞ?」
「うわ~~~。乗り遅れてるぅ。おい何とかしろ。何とかしてくれぇ~~~」
「今からだったら、どうなるんだろ。俺が動くとしてたって、工務店や針子の人達のお子さんに経験者を募るしかないかな。でも、モルディやエリオットも結構戦えてたから、こっちの人でも練習すれば強くなると思うぞ?」
「よし、うちも野球に参戦だ。タビラ、少し顔貸せ」
「はぁい」
今日は日曜になのに。まあ、ディーにはお世話になっているし。
・・・・
ここに来てタマクロー家も参戦。普段はバルバロ家と一緒に練習し、大会の時だけ2チーム作れないかを検討中。
「他にはぁ! 他にはないだろうなぁ。全部吐け!」
「ええ~つと。弓道大会。ゴルフ大会。パシュート大会。バイクレース。トカゲ競馬、競竜? 辺りを考えているらしい」
「うぐぐ。全部知らない。ベガス! 情報収集だ!」
「御意」
「ディーも失敗することはあるんだなぁ」
「何を他人事のように。お前は今日、ここに残れ。オレと飯だ。絞ってやる!」
「マジかよ。今から打ち上げなのに・・・」
宴会楽しみだったのに・・・
「うぐぐぐぐぐ。オレも行きたい。でも、関係者じゃないし・・・余所で物を食べたら怒られるし・・・」
ディーは案外孤独なヤツなのかもしれない。
「しょうが無いヤツだ。解った。今日はお前に付き合ってやるさ」
「ほんとかーーー! いや、でも、悪いしよ・・・」
「遠慮するなよ、ディー。余所に食べに行けないお前に同情してて。今日は俺と飲もうや。それに・・・秘蔵の酒を、持ってきてやる」
「ま、まじかよ・・・タビラ・・・・お前っていいやつだな・・・」
ディーがぷるぷると震えている。これは感激しているのか?
まあ、ディーとサシというのも悪くない。今日は、アレを飲ませてやろう。焼酎を。
実は俺は最初チューハイからの焼酎派。洋酒は死蔵してたけど、焼酎は秘蔵のやつがある、今日はそれを開けるとするか。
あいつらとは昼飯も食ったからいいだろ。今日は打ち上げはあきらめて、ディーと飲むことにした。
打ち上げには嫁が参加するし、旦那はいいだろ別に。
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