第53話 城壁工事9日目 ブレブナー家来襲 6月中旬

モルディの魔術マッサージのおかげで体調もバッチリだ。

昨日はお酒も控えたし。


ガン!ガン!ガン!


「ほれぇ。起きろ! ほれぇ。起きろ! ほれぇ。ほれぇぇぇ!!」


このおじさんのモーニングコールにもだんだん慣れてきた。モルディの家臣らしいが、小汚いおっさんにしかみえない。身長小さいし。


朝からモルディに世話を焼かれて仕事に取りかかる。


今日も順調だ。


今日はトメもこちらに付いてくれたので、かなり仕事が早い。


トメは、ここの近くの石切場の権益を持つ子爵家の長男で、石切場を仕切りながら、ここの工事も手伝ってくれている。結構な働き者なのだ。この間まで不敬罪で捕まっていたけど。


「ぴぴ~~~~! ぴぴ~~~~! ぴぴ~~~~!」


「!」 敵の来襲を知らせるアラームだ。


「全員手持ちの石を降ろせ! 一旦砦側に逃げろ!」


現場に指示を出す。

そのまま飛んで砦の屋上へ。

ここには冒険者ギルドから雇っている警備員がいて、モンスターを警戒してくれている。

日本人4人と現地で雇った人1名の5人ペアだ。


「どうしました? 敵襲ですか?」


「あちらの方から何かが走ってきます。恐竜かもしれません」


指された方向をみる。


「いや、アレ、騎乗トカゲじゃないか? 大きいけど。人が乗っているような」


「もう少し近づかないと解りませんが、そうかもしれませんね。まっすぐこちらに来てますし」


・・・・


「おらぁ~~!」「出てこい! バルバロのポンコツ女!」「だからお前は嫁に行けねぇんだよ!」「ひゃっはぁ~」


知らない人達がうちの移動砦の周りを大きい騎乗トカゲに乗って、ぐるぐる回っている。


「あれはブレブナー家の家紋ですね。多分、嫡男で現場管理人のドネリー氏だと思います」


「そのドネリー氏がどうして?」


「例の手紙ですが、そのことと何が関係があるのかもしれません」


「また男爵の娘があいつの妹を殴ったのか?」


「おりゃぁ! 誰が性病じゃこらぁ! 出てこいモルディベートォ!」


「・・・トメ、あの手紙はどうしたんだ?」


「え? タビラさんが処理なさったんじゃ。朝から片付いていましたし」


「いや。俺じゃない。朝から片付いていたしな。あのテーブル。てっきりトメが出したもんだと」


「「・・・」」


「モルディは何処に行った?」


「今日はサイレンの屋敷に帰るとか。何でも屋敷の改装の検査があるとかで」


「・・・あいつ・・・」


「あの、多比良さん、俺たちモンスターは対処しますが、貴族のもめ事には介入しませんぜ」


「ああ、手は出さないでくれ。お~い。お前達、モルディベートは不在だ。帰ってくれないか」


「なんだてめぇは。モルディベートの男か?」「いや、それはないか」「だな。それはない」


「でだ、お前が今の責任者か! とりあえず降りてこい」


・・・・


そこには、ひときわガタイのいい男が立っていた。


190cmくらいはあろうかという長身、垂れ目のハニーフェイス。レの字の揉み上げ。そして胸毛。ジージャンっぽい上着を直接羽織っているため、もじゃもじゃの胸毛がはみ出ている。なんか、アメリカ人のミュージシャンにこんなやついた気がする。


「・・・それで?」


「おれは、ドネリー。ブレブナー伯爵家の嫡男だ。隣の工事現場の代理人をしている」


「俺は多比良城。日本人だ。ここでクレーン役をやっている」


レ型揉み上げ野郎が、少し目を見開く。

こいつって、オルティナの兄だよな。多分。オルティナ・ブレブナー、かつて尻叩き大会で倒した美人さんだが、少し百合っぽかった人だ。


「なんで日本人がいるのか知らんが、モルディベートを出せ。かばい立てすると、お前も一緒にぼこぼこだぜ?」


すこし頭に血が上りそうだ。


「落ち着け、一体何があったんだ? お前たちも工事で忙しいんだろう?」


「あいつ、おれのこと性病だったと言いふらしているんだ。許せねぇ」


「それはひどいな。あいつ、もう少しで帰ってくるから、それから話ししてくれない?」


「おい日本人。おれと勝負しな。おれが勝ったら、あの機械をもらう。お前が勝ったら何か望みを聞いてやる」


「アレだったら1台100万だ。買えばいいだろう。それから、望みなんて無い」


「意外と乗ってこないな。だが、おれのムシャクシャが収まらねぇ。お前らぁ。手出し無用だ。一騎打ちだぜ!」


いきなり長めの十手を引き抜いて走ってきた。こいつら兄弟は頭に血が上るのが早すぎだ。

俺ら2人の後ろには、作業員達が集まってにらみ合っていた。巻き込むワケにもいかない。


「仕方が無い。俺がなんとかする。みんなは下がれ。というか仕事しろ!」


「勝負は障壁が割れるまで。助太刀は無しだ!」


ふむ。ちゃんとルールを設定しての決闘か。


俺は後ろに飛んで距離を離す。


周りの作業員達が走って俺ら2人から距離を取って、観戦している。仕事をする気は無いようだ。


俺は腰から護身用の植物の茎を引き抜く。

この植物の茎は白黒模様の蛇皮を巻くと、触手の性質が変わる。色々と試行錯誤をするうちに発見したのだ。


植物の茎から黄金に輝くメイス状の触手が現われる。

これが俺の武器。


「おりゃぁ!!」


何かハルバードみたいな形をした兵装を振り回してきた。


遅いので後ろに滑って避ける。


そのまま弧を描くように滑り間合いを詰める。

空を飛ぶと簡単に倒せそうだが、空より地上の方がまだ間合いはつかみ易い。

それに空を飛んだら、絶対に『卑怯だ!』と言ってきそう。


「くそ。はえぇ!? 貴様卑怯だぞ!」


結局卑怯と言われた。


「シィ!」 けん制で肉薄してみる。


「おらぁ!おらぁ!おらぁ!」 ぶぉん!ぶぉん!とハルバードが宙を切る。


ガキィン! 3発目は少しだけ受ける。


よし、こいつの攻撃は俺のバリアを破けない。多分。

植物の茎に魔力を通す。


「セィ!」


バキィン! よし、効いた。ヤツの魔力障壁がきしみを上げる。



「セィ!セィ!ハァ!」 バキィン! バキィン!


「うおおおおおおお」


効いてる効いてる。俺の護身用触手は、反重力魔力をたたき込むと先っぽの太くなっている部分が重くなるのだ。打撃力は相当だと思う。


「ほれぇ!」


バコン! 今度は触手を両手で持って振り抜いた。


「もういっちょ!」


バコン! フルスイング!


「くそ。早ぇえし、重めぇ」


結構堅いなこいつの障壁。でも、そろそろいいだろう。アレをぶち込んでやる。


「セア!」 バコン!


よし、ヒビ入った!


「よし、行ってこい!」


そして、ヤツの股間に必殺の水魔術をお見舞! この間の中坊戦で味を占めてしまったのだ。


「ん? ごぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああーーー!!」


決まったか?

股間の周りに水がうようよしてて気持ち悪い。


「貴様、おれを舐めるなよぉ。おらぁぁ~~~~~~~~~~~~!」


股間の水が消える。


「こんな物、とっくに卒業したわぁ。消す技も、マスターしている」


「くっ!」


まさか、まさか、こいつ、水魔術のハード・ユーザーか。散々この技を自分にかけ続けてきた猛者の可能性がある。


水魔術では分が悪い。後は殴って完全に障壁を割るしかないか。

そういえば、スタングレネード・・いや、あれは貴重品と一緒に温泉に置いてきている。しまったな。


「おらぁ」とりあえず叩く。


バシン!


「ほれぇ!ほれぇ!ほれぇ!ほれぇ!ほれぇえええ!!」


かけ声を小さいおじさんのモーニングコールっぽい声にしてみる。


バシン!バシン!バシン!バシン!バシン!バシン!


相手もハルバードを振り回すが、こちらのバリアは破れない。

滅多打ちにする。


「ぐぅ。ゴラァ! くそ!」


結構頑張っている。

バコン! バリバリ~~~~~~~


こいつの障壁、途中で回復するな。固いし。だが、コツを思い出してきた。


バシン!バシン!バシン!バシン!


バコン! バリバリ~~~~~~


障壁の一部が割れる。だんだん簡単になってきた。


「ぐっ貴様ぁ!」


バキン!


よし、ハルバードを落とした。 後は・・・


「ほぉうれ。ほおうれ」


障壁を触手で絡め取り引き抜く。そして、両手持ちでケツをフルスイング。


バン! 「アッ!」


ケツを押さえて倒れ込んだ。変な所に当たったか?


・・・・


「いや、済まぬ。頭に血が登ってしまってな。あの女とは学園時代からの知り合いでな。ついイラッときてしまったぜ」


「モルディが何をやったか知らんが、まあ、襲撃するのはよくないぞ。ここはタマクロー家の工事だし」


「済まぬな。あの女に少し灸を据える程度で良かったんだ。この移動砦の主はおれも知ってたさ、手を出す気は無かった」


俺たち2人は、移動砦の談話室に移って、駄弁っていた。


「まあ、あいつが帰ってきたら煮るなり焼くなりすればいい」


「いや、おれは負けたしな。それはもういい。それにしても、おかしいと思っていたんだ。あのぽんこつ女の工事がいきなり進み出したと聞いてな。日本人が付いていたとはな。しかし、お前はよくあんな女の下で働いているな」


「あいつ、昔からぽんこつだったのか? 俺、ここにきてまだ10日経っていないけど、相当なぽんこつだぞ? あれ」


「ああ、あいつは10歳の時からの知り合いでな。その頃からやばかった。そのくせテストの点数と力だけは誰にも負けなかった」


「え? あいつ頭いいの? それから怪力だったのか。知らなかった」


「おれが教えてやろう。あいつのぽんこつ具合を・・・」


俺たちは仕事をさぼって語り合った。


モルディがどれだけぽんこつなのかを。


そして、俺たちは仲良しになった。

後、工事を少し手伝ってやることにした。


・・・・


「ただいま~帰ったぞ! おおクレン殿。うちの屋敷がすごいことになっていたぞ? すごいな日本人。ん? お前ドネリーか? どうしてここにいるんだ? ん? ん?」


「「ふっ」」


俺とドネリーは、帰ってきたモルディを見て優しく微笑んだ。

その目は、『かわいそうに、馬鹿なのだな』と語っていた。



6月16日の進捗、石積み60m。

残り施設延長1260m、残り日数13日。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る