第54話 城壁工事10日目~ 手紙の返答 +マ国サイド  6月中旬

「それでなぁ。個室が20部屋もあるんだ。この間まで弟と相部屋だったのに。信じられない」


「そっか。よかったなぁ」


「ああ、その個室はな、全室トイレと洗面所付きなんだ。それに大浴場もすごいぞ~」


「ほぉ。おれの屋敷の改修も頼もうかなぁ。異世界工務店。今度紹介してもらていいか? それにしてもうまいなここのメシは」


今は移動砦で朝食中だ。

昨日、ドネリーに晩ご飯をご馳走したら、気に入ってしまったようだ。朝からこの砦に乗り込んできた。


「紹介する分にはいいぞ。ここと同じ機材も買うんだろ?」


「ああ、買う。それからあの在庫管理もなかなか良さそうだ。真似していいか?」


「ん? 看板のやつか。いいぞ。石切場も助かると言っていたしな」


「助かるぜ。うちもやっと城壁部分の工事に入ったところでな。運悪く軟弱な地盤が見つかってしまってよ。基礎工事が遅れてしまった。工期を伸ばしてもらうという話もあったんだが、ここの工事が終わるのにうちが終わっていないのも外聞が悪い。だが、上物の方もあまりうまくいっていなくてな。少しここで学ばせてもらいたい。うちは明日からクレーン役を倍増することに決めた。しかし、クレーン以外の作業が追いつかない可能性が高かったんだ」


「クレーン倍増かぁ。うらやましいな。うちは俺1人だぞ」


「それが信じられないんだがな。1人でどうやって1日100mとか進められるんだよ。うちは常時10名で明日から20名だぜ? ローテーションで使うんだ。まあ、よい。今日はここで見学させてくれ。うちのクレーン役も連れてくる」


「さて、お仕事開始だ」


・・・・


「あれがタビラのクレーン技術だ。分かったか? うちでもあれを取り入れたい。どうだ?」


「無理です。あんなのできません。一度にあんな数の触手を操るなんて。一体どうやって触媒を上空に設置しているのか想像も付きません。それに何時間やっているんですかあの人。異常です。あと石が大きすぎます」


「いや、おれも見たことはなかったがなぁ。無理なのか?」


「無理です。触手1本で1時間作業したら、その後2時間は休憩を入れないと魔力が続きません。普通は1日5~6時間が限度なんですよ」


「あいつ15時間くらいはやれるとか言ってたぜ?」


「私には無理です」


「・・・そうか」


下からそんな会話が聞こえてくる。


この触手は、触媒にしている植物の茎を手放しても、しばらくはそのままで残る。1分くらい。


クレーン作業は、石を吊り上げてその場に設置しても、石を溶かしたりアマカワの左官作業などで、吊ったままじっと待つ時間が発生する。そういう時は、植物の茎をバリアにひっかけて吊しておくのだ。

バリアは体に合わせて動くタイプと、その場に固定しておけるタイプがある。この場合、その場に固定しておけるタイプを使っている。

なお、その場に固定できるといっても、人や物が近くにないと場を固定出来ない。このクレーン作業で言うと、近くに俺がいる必要がある。


そして1分おきに触手に魔力を供給して維持する。本当は失敗して事故るリスクがある行為だと思うが、ここは魔術障壁と回復魔術がある。なので、今は作業効率優先だ。今のところ、これで事故は起きていない。


そして、今、改善を試みている作業がある。それは、石の巨大化だ。

石は元々巨大な岩盤だが、作業性を考慮して小さく切り出している。これをより巨大にすれば、石を据える回数などが減るのだ。


と、言うわけで、今は、延長5m、高さ3m、幅1mくらいの石を吊り下げている。

重さはよく分からないけど、単位体積重量が2トンとすると、30トンくらいの重さと思う。

これを石切場から直接空輸してきて、今、下で表面を溶かす作業をしている。

石の表面が溶けると、自重でズブズブと基礎部分の石にめり込んで安定する。まだ石が柔らかいうちに側面に別の石をブスっと指すと完成だ。早い。石切場から通算15分もかからずに5mの壁の形ができる。後は仕上が残っているが、その作業はクレーンが必要ない。


この工法は、1時間で20m、10時間の作業で200mは進むポテンシャルを秘めた工法なのだ。


今日は石切場の方の進捗が悪く、過去最高タイの記録で終わった。


6月17日の進捗、石積み120m。

残り施設延長1140m、残り日数12日。


◇◇◇

<<城壁工事11日目 6月18日>>


次の日の朝。

娘に宛てた手紙の返答が来た。


『お父さんたちは、ラメヒー王国にいます。

それで、缶チューハイと缶ビールを買ってきてくれないだろうか。

お金はお父さんの部屋の「艦隊娘の全て」という本の間に挟んでいます。


お酒買ってくるの大変だったんだからね。

まだお父さんなのか信じられませんが、今はこのやり取りを続けます。

今度からはノートの方を使いましょう。』


350ml24本入りの箱が4つ、テーブルの上に積み上げられている。


「・・・届いた」


中身もある。こんな物、俺の空間魔術で創造出来るはずない。これ、この不思議空間は、多分、本物の日本のあの部屋に繋がっている!?


よくよく考えると、娘にとっては、父を名乗る物からの謎のメッセージと、置いたお酒が消えているという怪現象に遭遇しているわけで、かなりのホラー展開だろう。


俺はノートの方を開いてみる。


1ページ目 中央に折り目が付いている。


桜子

このノート、届いていますか?

届いていたら何か書いてください。

お父さんは右側に書いてね。


これはショートメールの要領なのだろう。


娘のメッセージの右下に


ノート届いています。

お酒ありがとう。大切に飲みます。

ノートの横に、こちらのお金を置いておきます。

届いたらそのお金がどういった物か書いてください。


こんなもんか。ついでに、こちらの世界の物が向こうに送れないかの実験を試みる。ゴミ箱の前に置いた空き缶入りの麻袋は、麻袋を残して缶だけ消えていた。


俺は1000ストーン魔石を1つテーブルに置き、補充されたお酒を冷蔵庫に満載して部屋を出た。


6月18日の進捗、石積み150m。

残り施設延長990m、残り日数11日。


娘からの手紙のことであまり仕事に集中できなかったが、新最高記録を達成した。


◇◇◇

<<城壁工事12日目 6月19日>>

さらに次の日。

メッセージノートの返答が来た。


『ノート届いています。

お酒ありがとう。大切に飲みます。

ノートの横に、こちらのお金を置いておきます。

届いたらそのお金がどういった物か書いてください。


ノートは届きました。

そちらのお金という物はどこにもありません。

そちらの様子を教えてください。』



来たな。返事どうしよう。


長文書いてみようか。いや、少しずつ、俺が俺だと理解していくようなやり方がいい。

後、向こうの情報も聞こう。これが俺の不思議魔術である可能性もまだ考えられる。相変わらず、俺そっくりな汚い字だし。


とりあえず、


『お金はそちらに行かないみたいだな。

こちらは多分、異世界にいます。

そちらの様子も少しおしえてください。

それから、お父さんの釣り道具をこの部屋に入れてみてください。』


こんなもんかな?


書くだけ書いて、仕事に戻る。


6月19日の進捗、石積み170m。

残り施設延長820m、残り日数10日。


このまま行けば、工事の方は問題なく終わるだろう。

後はブレブナー家の方でバイトするかな。というか、バイトしていいんだろうか。まあいいや。


俺は、手紙の件で、何度も思考の海に沈みそうになる。寝付きも悪い。早くこんな仕事終わらせて、ゆっくり温泉に浸かろう。あのサウナ、俺、未だ使ってないんだよなぁ。


◇◇◇

<<マ国サイド イセ視点>>


きぃ~い。

サウナの扉を開ける。

中からむわぁとした熱気が出てくる。


わたし達は、今日も誰かのアナザルームに来ていた。ここの持ち主を特定するのがその目的だ。だがしかし、目の前に温泉があるのに見逃すわけには行かぬ。ラメヒー王国には温泉はおろか風呂さえ無いのだ。


「・・・あふぅ~」


思わず、だらしのない声がでる。ここのサウナは最高だ。水風呂も完備。すでにサウナと水風呂を5往復くらいしている。


サウナと水風呂を往復すると、体中の汗という汗が噴きだす。そのうち、その汗が全くべたつかなくなる。

皮膚の中の老廃物が全部出て行った気分になる。そして、体中がとても気持ちよくなる。


わたしは熱々のサウナの扉を閉じて、考えに浸る。


しかしおかしいのぉ。ここの入り口は、ザギィを使ってずっと見張っておったのに、いつの間にか部屋が増えておる。狭い部屋に大量の家財道具も入れておった。なんぞ隠匿の魔術でも使うておるのかのう。そういえばジニィのヤツはどこに行った。またマンガの最新作を読み直しておるのか? あいつは、よほどマンガが気に入ったと見える。


マンガの最新作・・・前作は元々この国の大衆演劇を題材としたものだった。それに多少の脚色をして、エロシーンを入れ込んだものだった。


しかし、その最新作は、どうも実在の人物をモデルにしてあるようだ。

あの勇者と剣士、それから自称聖女としか思えない造形の人物が出てくる。

最初は勇者と自称聖女のラブラブシーン。ウブな男子に無知な女子の2人。だが、そこに現われる剣士。剣士と勇者の禁断の恋。男性同士の性交シーンがこれでもかと精密に描かれる。

そこに現われる謎の中年男性。このこってり油ぎっしゅな中年男性が失恋に落ち込む自称聖女に追い打ちをかける。


無理矢理するのだ。何度も何度も。極太のあれで。最初は縛り付けて無理矢理。そのうち馴染んできて自称聖女も感じるようになる。それから、異物を入れて勇者と食事に行かせたり、恋敵であるはずの剣士と無理矢理させられたり。でも自称聖女は徐々に中年男性の変態性を受け入れて、喜びを感じるようになる。


ラストは中年男性と自称聖女の秘め事が勇者にばれて、中年男性と勇者が決闘するシーン。


結果は中年男性の圧勝。勇者はあえなく中年男性と自称聖女2人に同時に犯されることに。


こんな物語を考えて、自分の妄想に止めるのではなく、それを作品として表現するとは。一体、どういう頭の中身をしているのか。恐るべし日本人。


おや。もうこんな時間か。そろそろ寝るか。

わたしはもう1度水風呂に浸かって寝ることにする。


・・・・


水魔術でさっと水気を取り、風と火の魔術で髪を乾かしながら、玄関前の部屋に入る。

ここは、床に細い植物の茎を張った部屋で、素足で歩くとざらざらして気持ちがいい。


「はぁはぁ。おじさぁん。ああ、すごい。すごい。おじさん。こんなだったなんて。はぁはぁ」


「おい。ジニィ。お主まだやっておったのか。早く寝ろ」


こいつは、マンガの新作に好きなキャラがいたらしく、何回も読み直している。今はこの部屋でごろごろと寝転んでいる。


「だってぇ。私の変なおじさんがぁ。こんな本の中で、こんなにぃい! 大活躍をぉ。でも、何故か局部を黒いインクで塗りつぶしてあるんですよね。これ。残念です」


「ん? それは”モザイク”というらしいぞ。生々しい表現を不快に感じる人もおるから、その配慮だそうじゃ」


「でもぉ。私はぁ、おじさんの、ここ、見たい」


「ああ。これはの。ここに魔力を通せば。ほれ、消えるようになっておる。そういう特殊なインクで書いてあるらしいぞ?」


「ぴゃぁ~~~~~~~~~~~~キマシタワァ~~2度おいしい~~~~~」


「うるさい。わしは寝るからな。風邪引くなよ。それとその皮を巻いた植物の茎、ちゃんと洗って返しておけ」


わたしは護衛をアナザルームに残し、大使館に戻ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る