第43話 晶視点 晶の夜 6月上旬
◇◇◇
<<時間は少しだけ遡る 晶視点 壮行会当日>>
「晶ぁ。私怖いの。もう異世界なんていやだよぉ」
「いや、えりか、あんた大丈夫? 今さらホームシックにでもかかった? アンタ、彼氏もできたんでしょ?」
私は今、同室の同級生に抱きつかれていた。少しうざい。
時間は、もう夜21時を回っている。学校が終わって、夕食も食べて、ぼちぼ寝ようかと思ってベッドに歩いて向かったところで抱きつかれた。
このえりかは、日本にいた頃からの寮生。ここに両親は来ていない。寂しいのはわかるけど、2年以上親元を離れているんじゃないの? いまさらホームシックなんて。それに、甘えるなら私でなくて、彼氏にすればいいじゃない。
「うん。○○くんとは、付き合ってる。でも、その友達がね」
「どうしたの」
「私の体を、貸せって」
「は? 何言ってるの? それ、先生には相談・・・」
そういった所で、私は頭が真っ白になる。他の人の気配を感じたから。
「もう嫌なの、知らない男子に無理矢理されるの。だから晶ぁ」
やばい! 抱きつかれると、魔術障壁が。
「一緒にしよ? 結構、気持ちいいんだよ?」
「嫌! 離して!」
「今だ!」「おら。口塞げ」「よし、掴んだ。これで。お前そっち押さえつけろ」「おらぁ。はあはあ」
「へへ。良くやった、えりか。お前は俺がシてやるからな。まあ、後で晶ともするけど。先にお前にご褒美な」
「晶ぁ、ごめんね」
「脱げ」「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 ごつ 「脱げ!」「・・・はい」
「むぐぅっ」
伸しかかられた! 一人は馬乗り? もう一人は私の腕を。
「おら」「くそ。動くな」
体のいろんなところを触られる。腰を、私の体に押しつけてくる。顔を近づけられる。首筋を舐められる。気持ち悪い。
ああ・・・私、不良の女になるのが嫌で、この学校に入ったのに。
お父さんとお母さんがせっかく入れてくれたのに。
こんなとこで、知らない男子に。
・・・Dチームのことを思い出す。
私は護身術を習ったはず。
カラテ? 少し違う。
対人戦闘? そうだ。私はあの人に勝った。
とても強かった、あのおじさんに。
あ、こいつ股間に指を入れてっ!!?
脳が真っ赤に煮え
「あ、あ、あ、あ、このぉおおおおおおおおおおおおおチン○ぉぁああああああああ!」
ゴアァーーーーーーーーーーーーーーーー!
「っ! あ、ちぃ! ごぁぁああ、くそ」
「がは。ごほ。ごほ。ごぁ。ごほ」
炎が吹き出す。特にあそこから大量に。
「イェアア、ア! セイ!」
蹴りで足下のヤツを吹き飛ばす。抜き手で横のヤツの喉にたたき込む。
「フゥゥゥ。ハァァァ」
起き上がって
一瞬で頭と体が冷静に。空手って凄い!
部屋の奥に、半裸のえりかとそれに引っ付く男子が見える。
「が、くそ」「この女っ」
組着かれていた男子2人が起き上がる。本気で炎を出したと思ったのに、案外燃えてない。
・・・逃げよう。私には足がある。部屋から脱出。全力で廊下を駆け出す。
「くそ。追うぞ。お、お前大丈夫か?」「大丈夫だ。このくらいは治せる。くそ。あの女ぁ」
・・・・
<<夜の学校>>
走る走る。あいつらでは私には追いつけないはず。
でも、どうする?
ここは学校の寮。ここの知り合いは加奈子ちゃんくらい。でも、あの子の所に行くのはダメだ。
先生のとこ? 場所を知らない。とにかく明るい所へ。
私は裸足。外は不利。
「ごらぁ」「待てやこら」
くっ、案外早い。
!? 向こう! 向こうに人がいる。沢山! あそこにっ。
見えてきた! でも何? この人達。
筋肉、筋肉、筋肉、少年、筋肉、ハゲ、おじさん。おじさん?
「ハァハァ。おじさん? おじさんなの?」
おじさんの近くに寄る。お酒を飲んだときの、お父さんの匂いがする。
「オラァ。待てやコラァ」
もう追いついた。こいつらも身体強化を使っている。絶対。
「なんだこいつらは。ああん?」
「お、こいつDランクのおっさんじゃん」
「おい晶。こっち来いよ。お前の友達もいるんだぞ? だからよぉ」
「おいぃ! おっさんよぉ。手を出すなよ。殺すぞ? こいつはオレの女になんだよ!」
「このおっさん、ザコのやつじゃん。俺らなら楽勝だろ。ほら晶。こっちこい」
おじさんと筋肉たちは、みんな無表情。
どうすんの? これは何?
おじさん、怒ったら怖いのよ? お前らやばいよ? でも、こいつら、あたしの、くそ。でも、く、ああ、助かる。これで私は助かるんだ。
「助けて。おじさん」
その瞬間、おじさんが消えた。
「オレのぉ~~~ア・キ・ラになんばしょっとかぁぁぁ!!!食らすぞぬっっしゃぁあ!!」
え? 私はおじさんのものだったの? 娘的なナニカという意味よね。たぶんね。うふふ。
「「あ。あ? あ? ア、アア、アアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」
その直後、強姦魔2人が雄叫びを上げた。
あ、私知ってる。私だって、このくらい。股間は男性の急所。攻撃されるととても辛いらしい。
水の塊が2人の股間の周りにまとわりついて、うようよと
でも、これって痛がってるの? まあ、私には無い臓器だから? 辛さは分からないけど。
そういえばおじさんって、水の魔術使えたんだね。
「お、おじさん。大丈夫?」
我ながら何という言葉だろう。おじさんを心配してどうするのだ。意味不明だ。
「ふぅ~。俺は大丈夫だが、晶、なんだ? 襲われたのか?」
「・・・いや、襲われたけど。いや、そうだけど。何なの? 一体なんなの?」
「タビラ。知り合いか? 説明を、簡潔に」
「こいつは晶。日本人の中学生。俺の知り合い。あいつらに襲われて、逃げてきた。そしてコレ」
頭に手をぽん、と置かれて説明された。概ね合ってる。
む。でも、私とおじさんは単なる知り合いなんだ。そうなんだ。というか何? この異常に美形な美少年は。
「はぁ~。日本人同士の暴行未遂事件か? この辺は結構ナイーブな問題だからなぁ。はぁ~タビラよ、落ち着いて話がしたい。その娘と一緒に来れないか? それとトメ、学長に屋敷に来るよう伝えてくれ。その後は、この坊主どもの処理を頼む。オレたちはタマクローの屋敷に戻るぞ。強制労働者は宿舎に戻れ。貴族と言っても今は模様入りだ」
「「「押忍!」」」
「お前たちはどう動く? 提案せよ」
「・・・小田原さんは、先生? いや。徳済さんに連絡を付けてくれないか。あの人なら、悪いようにはしない。先生の方は、学長さんに任せよう」
「分かった。タマクロー邸に連れてくればいいんだな」
「ディー。ひとまず、今打てる一手はこれだけだ。俺たちは、この辺は素人。頼もしそうなヤツに来て貰う」
「それでよい。ところで、あいつらはどうするんだ? 痛いんだろう? アレ」
「ん? のたうち回っているだけだ。痛くは無いはずだぞ? 今のことろは」
「「ア、ア、ア、アアギャァァァアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイイイ!」」
「・・・そろそろ痛くなってくるかもしれんけど」
「お前、あいつらに何やったんだよ」
美少年がジト目でつぶやく。
「必殺の水魔術だ。洗浄魔術の練習していて編み出した。使うとこういう風になるから封印してた」
あれ、やっぱり水魔術なんだ。
「んふふ。あいつら、私が持ち帰ってもいい?」
やたらマッチョな女の人が変なことを言い出す。
「やめておいてやって! また強制わいせつ罪で捕まるぞ?」
おじさんが意味不明なことを言う。
「この水魔術、結構自分にかけて遊ぶ若者、多いんですよね。調整ミスするとこうなります。ところで、タビラ殿? これは、後どのくらい持つのですか?」
モヒカンの人がシャベッタ。
「後1時間くらいだ。コレは一度発動してしまうと、止まらない」
「それでは、生物魔術で声が出なくなるヤツがありますので、それをかけて放置します。多少干からびると思いますが、死にはしないでしょう」
モヒカンの人が何だか怖いことを提案している。
でも、死ぬことはないのね。安心。
「ふん。目覚めたら、そいつらは賢者だ。さて、晶、とりあえずな。今日はディーの世話になれ。ディーは、信頼出来る貴族だ。いいな?」
「・・うん」
本当は、部屋に残った同室の子も気にはなった。でも、あいつは私を売った。放置だ。
「ぎゃははははは。賢者、賢者ぁあああ!!」
何かおじさんの意味不明な発言が、つぼに入った女の人がいた。
・・・・
<<タマクロー邸>>
「多比良さん! 晶ちゃんはどこなの?」
「あ~ここ。徳済さん。すみませんね。こんな夜中に」
「いえ、いいのよ。むしろ一番に頼ってくれて、いや、それで? 晶ちゃんはどうなの?」
「落ち着いてると思う。事情の話は聞いてます?」
「ええ、日本人中学生による、暴行未遂でしょ? 私は散々警告していたのよ。この状況。ほんと、先生たちは当てに出来ないわね。事なかれ主義だから。ま、今はそのことはいいわね。晶ちゃんと話をしてくるわ。女だけの方がいいでしょ?」
「ああ、頼んだ」
「任されました」
・・・・
がちゃ。ドアが開く。廊下の話は聞こえてた。
私は男子に襲われて、おじさんに助けられて、その後、貴族の人のお家で保護された。今はベットのある個室で横になっている。
最初は”どうでも良い”と感じていたことが、今になって襲ってくる。
体を触られた不快感と恥ずかしさ。同室の子を見捨てた罪悪感。おじさんたちに迷惑をかけてしまった申し分けなさ。自分の無力感、そのほか諸々。毛布に丸まりながら、廊下の会話を聞いていた。というか、おじさん、ドアの向こうにずっといたのね。部屋の中のソファに座ればいいのに。
「晶ちゃん。私は分かるわよね。徳済よ」
「はい。徳済さん」
「落ち着いてはいるようね。いい? あなたの心と体が、一番大事なの。まずは、質問に答えて。答えにくいかもしれないけど。嘘はダメよ。後悔する。いいわね?」
「はい。大丈夫です」
・・・
そして質問が始まった。質問にはちゃんと答えた。嘘も隠し事もしていない。
なぜならば、私は処女を守った。あいつらなんかに、犯されてはいない。
何も恥ずかしいことはない。
秘密なのは、あそこから出した炎がすごい威力だったことだけ。
「そう。頑張ったわね。もう一人のお友達も、心配いらない。いいわね?」
それから、私はストレスの解消法。呼吸法とか、睡眠が大事とか説明されて、今日はここで寝るように言われた。
明日、また徳済さんとおじさんが、この屋敷に来てくれることになった。
本当に申し分けない。
でも、助かった。おじさんと徳済さんは、なんだか私のお父さんとお母さんみたいだ。とても安心する。
本当の両親とは全く違うけど。それでも。私はそんな妄想に浸りながら、眠りについた。
◇◇◇
<<タマクロー邸 多比良城視点に戻る>>
「終わったわよ・・・聞こえてないでしょうね」
「聞こえてない。半分寝てたし」
まあ、晶が処女であることは聞こえてしまったが、それはしょうがない。
「まあいいわ。私は、明日の日本人総会は欠席して、こちらを処理する。晶ちゃんだけじゃなくって、そのお友達とか、それから男子グループの対処も必要のようね。先生たちだけに任せるわけにはいかないわ。学校には私の息子もいるのよ。貴方、明日はどうするの?」
「俺も朝からここに来るよ。日本人会の方は、専門部会に出る予定にはしていたんだけど、参加するかはここの時間によるかなぁ」
「そう。それではまた。明日、この屋敷で落ち合いましょう」
「はい。落ち合いましょう」
「・・・貴方はどうするの?」
「ディーに会ってから帰る。・・・ごめん、本当は送りたかったけど」
「いいのよ。じゃあね」
徳済さんと別れて屋敷の廊下を歩く。ディーと会うために。
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