第7話 異世界の夜 5月上旬

・・・眠れない。


宿舎に案内され、家族3人、ベッドで就寝中。


だが・・・


「がははははは」「そうそう、あははは」「お前さー」「あん、あん、あん」「ちょ、おま!」


ここの建物、窓も扉も無い。音が筒抜けだ。総石造りだし。


眠れないので、窓のそばに座ってぼ~っとする。


ちなみに、嫁と息子は眠った。


窓から頭を出す。同じように窓から頭を出している人がいた。彼も眠れないのだろう。


あと1杯だけ飲むか・・・

俺は晩酌をするべく、部屋を抜け出してひたひたと歩く。ここは2階、ワイン瓶置き場は1階だ。


ここには、ベッドが4つある部屋がずらっと並んでいる。その全てに扉は無い。足音を立てると迷惑がかかるため、忍び足で歩く。


階段の先から声が聞こえる。


「あん、ちゅ、はぁ。ソウタぁ~~。あん、異世界にきて、ちゅ。良かった~」「はあ、あかねぇ。いきなりどうした? んむっ」「だって、日本にいたらこんなことできない。んむんっ」「まずいよ・・・」「・・・男なら、覚悟決めろよ。ん、ちゅ」「あかねぇ、俺っ。お母さんに、トイレって言って出てきたから、そろそろ」「そっか。じゃあ、トイレ行くぞ」「ふぇえ?」


ふむ。中学生が連れションか。ほのぼのとした風景だ。一応、回り道をして行こう。そして頑張れ、ソウタくん。


というか道が分からない。適当に行くか・・・曲がり角を適当に曲がる。


「こりゃ! ここは通行禁止だ」


「げ? あ、はい。ごめんなさい」


曲がった先に兵士がいた。


「何処に行こうとしておったのじゃ?」


「ワインを取りに。晩酌をしようかと」


「・・・付いて参れ」


危ねぇ。話の分かる兵隊さんで良かった。でも、この兵隊さん、子供兵か? 身長が俺の鎖骨くらい。頭の上にはふさふさの髪飾り。体が細い。


てくてく歩くと、ワインコーナーに到着。まだ結構残っている。

俺は小さめの瓶を1本手に取る。


「ありがとうございました」


「帰りは分かるかの?」


「大丈夫です」


「・・・ではの」


子供兵は踵を返す。


夜の王城にひるがえるはシングルドリル。


ここは少し明るい。なので、今気づいた。あの頭のふさふさは飾りではなくて髪の毛だ。頭のほぼ真上で括った超ロングの髪の毛。それが途中からロールしている。


いいもん見たな~。俺は気分良く、部屋に帰って晩酌して寝た。



<<その頃の日本人達>>


◇◇◇

<<三角重工関係者>>


「高遠さん。人数集めは抜かりなく。メンバーは100名に迫る勢いです」


「助かる。私は今から、学校側と今後について会議だ。日本人会の立ち上げとその組織の内容について詰めないとな。我々はラメヒー王国による拉致被害者のようなもの。出せるものは出してもらわないと。それと、帰国後のことも考えなきゃならん。魔力もそうだが、素材関連も地球にないものが発見されてみろ。我々はこの分野で世界に一歩も二歩も先駆けることになる」


「ええ、会社に莫大な利益が舞い込むでことでしょう。頑張りましょう」


◇◇◇

<<シングルマザーの集まり>>


「ねえ、今朝の教頭の話。交渉がどうとか、覚えてる?」


「ん? ある程度のコミュニティの代表者は国との交渉に入って良いとかいうやつ?」


「そうよ。それでね、女性だけでこの世界に来た人達って、とても弱い立場だと思うの。魔力といってもよく分からない。出力とか射程って、多分、戦いのことだと思うし。女性にいきなり戦えって無理じゃない? それで、同じ立場の人達と団結したいと思うの」


「そうよねぇ。戦いなんて大人の男の人だけでやってって感じ。こちらは子供の面倒で精一杯っての」


「それでね。生活保障とか便宜? とかの権利が、両親揃ってこちらに来た人と同じとかになると納得いかないの。そのあたりの声を届けて行きたいなって」


「ええ。賛成。私も知り合いに声をかけてみるわ。結構いると思う」


「一緒にメンバーを集めましょう」


◇◇◇

<<医療関係者>>


「あの~、確か、中央病院皮膚科の先生ですよね」


「はいそうです。あなたは確か旦那さんが歯科医の・・・」


「はい。先生、”生物魔術”のお話で少し。その魔術とやら? それを使えば、虫歯くらいなら治るみたいなんです。詰め物とかではなく、根っこが残っていれば、にょきにょきと生えてくるらしいんです。信じられません」


「歯もですか。実は、皮膚くらいなら魔術で再生できるようですね。骨や神経、血管の接合も魔術で可能だし、内臓の一部には組織の再生もできるものがあるとか。風邪みたいな感染症もかなり治せるようです。お肌のシミだってほら、試しに色素に魔術をかけたら薄くなったんですよ」


「あら。とても興味深いお話ね」


医師同士の会話に、細身の女性が割って入る。


「あ、あなたは確か徳済会の」


「ええ。父が会長を務めておりますわ。それよりも、先ほどのお話。ここの魔術で再生医療ができるということなのかしら?」


「まだ聞いた話ですがね。ですが、生物魔術による再生医療は、マンガみたいに万能なものではないですね。体の仕組みなど、医学的知識がないとまともな治療はできないでしょう」


「なるほど・・・それでね、先生。皮膚の再生は可能なんでしょう? ならば、美容に役立てられないかしら」


「そうですねぇ。再生がどのように起こるかによりますので、今はなんとも」


「魔術再生によるシワやたるみの改善。シミ、そばかすの消失。それどころか赤ちゃんみたいな肌に再生させる。それが可能になれば素晴らしいわ。歯も治るようですし」


「は、はあ」


「医療関係者で、コミュニティを立ち上げましょう。さっき、外科の先生もいらしたわ。看護師や薬剤師、医療事務の方も来ているみたい。診療所で仕事をしながら、美容魔術の研究。研究はさっそく今日から始めましょう・・・若返り。すばらしいと思わない?」


「なるほど。夢が広がります」


「そうですね。私も若返るのなら、もう一度・・・」


◇◇◇

<<異世界エンジョイ勢>>


「お昼のは絶対ドワーフだよな!」


「ああ、確定だろう。それと、あの女性はエルフの可能性がある。耳が髪の毛で見えなかったが、とても美しかった」


「ほう、獣人とかいないかな? リアルメイドさんはいたけどね」


「お前はケモナーだったよな。獣人か分からんが、お昼に知り合いが角のある人を見たと言っていたぞ?」


「なに? その話、詳しく話していただけますかな?」


「ええ、お昼のトイレ休憩の際に、迷った振りして、監視の目を盗んで逃げだそうとしたヤツがいたんですよ。すぐに見つかって連れ戻されたそうなんですが。その時に見たと。こめかみの少し上のあたりから、にょきっと角が生えていたと」


「ほほう。それは楽しみになってきましたなぁ。モンスター娘には目がない物で」


「そういやハンターズギルドはあるって聞いた。冒険者ギルドとかあるのかな」


「古都に着いたら好きに仕事していいんだろ? そういうの探してみっか」


「あなたも好きねぇ。そういうの」


「お前だって好きだろ」


「まあね~」


◇◇◇◇

<<ママ友ゲーマー達>>


「くそ。今イベント中だったのに。ああ、周回がぁ~~~」


「昨日、じゃぶじゃぶしてやっと星5つキャラをカンストしたのに。もう最悪」


「はあ。ここにはネットもないしね。あのゲームも卒業かなぁ」


「私達、もうアラフォーだしさぁ。そろそろネトゲも卒業、卒業! いい機会じゃん。止めるに止めれなかったけどさ。ここの世界にも楽しいことあるって」


「楽しいことって何よ。私達専業主婦だしさ」


「メシは、ラメヒーが準備してくれるって言ってるっしょ。時間はたっぷりあるって。まずは、この世界の物語とか、童話とか? 何かインスピレーション感じるのないかなーって思ってね」


「情報収集ってわけね。楽しいもの、あるといいなぁ~」


「それでさ、どうせヒマだしさ。ネットが無いなら、久々にアレ再会しない?」


「アレ? ひょっとして学生時代の薄い本制作?」


「インスピレーション感じる何かがあればね。どうせヒマだし。御飯もお風呂も国が用意してくれるし。子供の学費はタダ」


「うちらにとっては理想の環境かも。ネット以外に何か探そうか」


「では、情報収集からレッツらゴー!!」


「「「おーーー!」」」


◇◇◇

<<中学生たち>>


「ははは、あいつDランクだったらしいぜ? 俺はAランクな」


「ちくしょう、俺はBだ。でも、出力は高いから戦い方次第だろ」


「それよりもさ、龍造寺先輩見たか?」


「ああ、あの先輩凄いよな。こう、おっぱいがさ」


「ああ、やべ、俺またトイレ行ってこよ」


「ぎゃはは。お前トイレで何やってやがんだよ! まあ、俺、親と一緒の部屋だから、いつかお世話になるかも」


「さっきの水魔術で我慢できなくなって。あ~、あんな彼女欲しーなー」


「彼女かぁ。お前誰が好きなんだよ。例えばよ」


「ん、そうだな~。胸は龍造寺先輩。顔は1組のあいつかな~」


「ほう、そこ来たかぁ、じゃあ、俺はなぁ・・・・」


「こらぁ! お前ら早く寝ろ!」


「「「はぁ~い」」」


・・・・


こうして、異世界初の夜は過ぎていった。

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