第4話 魔力判定 5月上旬
魔力判定、開始。
判定作業は、1度に1人ずつ。
作業台は全部で9セット。この中学校は3クラス×3学年なので、合計9クラス。1クラス1セットのようだ。
先生達が順番に案内してくれる。先生は、各クラスに担任と副担任2名、生徒は男女合わせて26名だ。保護者を合わせると、この列はざっと70名弱いる。
最初に担任の先生が判定を受ける模様。多分、実験台になってくれたんだろう。
立ち見は自由らしく、テーブルの周りを人が囲む。プライベートとかどうなんだろう。見られるのは恥ずかしい。
先生が大きく透明な球体を両手で抱え込む。すると、その球体に色彩豊かな模様が浮かび上がる。
「では、3分お待ちください」
判定官の女性が砂時計を裏返す。どうやら時間がかかるものらしい。というか、この世界は砂時計があるようだ。
・・・3分後
「え~とぉ、属性は、風がメインで火が少し入っていますね。射程が5に出力が5,拡散が3、魔力伝導性は、5です。それから、ええぇ? こちらはすごい! 魔力の回復速度は8です」
「これってどのくらいなんですか? 数字とか」 先生が質問を入れる。
「”属性”は、そのまま、風属性が得意な魔力パターンですね。火もそこそこの才能があります。ちなみに、ここで示されなかった属性の魔術も使用できないわけではありません。効率は落ちますけど」
「「「へぇ~~」」」みんな興味津々だ。
「数字の方は、数が多いと効果が高く、最大10です。射程は遠くまで魔力を操ることができます。出力は一度に魔術につぎ込める魔力の量を示します。術に魔力を沢山使うと効果が高くなります。拡散は、魔力の爆発力といいますか、一度発動した魔術がどの範囲まで広がるかを示します。魔力伝導性は、魔力の受け渡しなどをする際のロスの少なさを示します。これが高い人は、他の人から魔力を受け取ったり、逆に渡したりする際に効率がよくなります。魔力回復速度はそのままですね。数値が高いと早く回復します。あなたの場合は、戦い方で言うと中射程の単体攻撃型ですね。広範囲の攻撃は苦手としますが、その代わり魔力回復速度が速いので、手数で勝負できます。総合的な数値としては、Bランクです。結構高いですね」
頭が痛くなりそうだったが、担当官の女性はちゃんと説明してくれた。よく見ると、胸元がV字に開いた服を着ていて、少しだけ膨らんだ部分まで地肌が見える。ガン見しておく。
「B? なんですか? それは」
「我が国が誇る『ハンターズギルドランク』です。Aが一番高く最低はEですね。ランキングの平均値はCに設定しておりますので、あなたは平均より高いということになります」
「へぇ~。そうなんですね」先生は少し嬉しそう。
先生が席を立ち、次の人へ。人数的にこれが後70回の繰り返し。長い。
今は副担任が判定中。我が家は、彼から7人目くらい。さっきかかった時間は6分くらい。だから、後40分くらいは待ち時間? 結構ヒマだ。
待ち時間が長いと、緊張が解ける。周りでおしゃべりが始まる。
トイレの案内があった。かなりの数が立ち上がってどこかに案内されていく。
広場の出入り口には兵隊さんが立っており、勝手にうろつくことはできない。
お! 娘に似た女性兵士さん発見。まあ、どうでもいいけど。
嫁が息子の頭を撫でている。判定結果は気にするなと言っているようだ。周りでは同じような光景がみられた。
ふと、隣のお下げの子『木ノ葉』ちゃんが目に入る。この子は、親御さんがいないらしく、不安気だ。
木ノ葉ちゃん。息子のガールフレンド。たぶん。
他の判定会場からは、時々歓声が上がる。お祭り騒ぎだ。
ガチャ祭りの感覚? いや、違うか。
そんなことを考えていると、木ノ葉ちゃんの番に。係の人に促され、球体を掴む。
3分後・・・
「こ、これは透明の無属性!? 広域魔道障壁向けのパターンです。少し水と土が入っていますかね。綺麗な色です。射程は8で出力が7,拡散が8。え~っと、伝導率と魔力回復速度は9。最高レベルじゃないですか! うわ~このレベルの広域魔術障壁持ちは貴重です。ランクは文句なしのAです」
と、担当者の女性が興奮した感じで説明を入れる。声が大きい。プライバシーの侵害だと思う。
「木ノ葉、やったじゃん」
なんと、我が息子の志郎が木ノ葉ちゃんに声を! 学生時代、モテなかった父としては、とても感慨深い。
木ノ葉ちゃんがぱあぁと笑顔になる。周りのおっさんたちが癒やされる。
「シロくん、ありがとう」木ノ葉ちゃんが答える。
呼び方がタビラでもなく、シロウでもなく、まさかのシロくん。
おっさんは、少しほっこりする。
次は多比良志郎、こと、シロくんの番だ。
シロが球体を掴むと光り出す。少しだけ紫がかった不思議な光。いわゆる蛍光紫だ。
木ノ葉ちゃんの光と少し似ている。
「これも無属性! ほんの少し雷が入っています。ほぼ純粋ですし、広域魔術障壁向けのスペシャリストになれますよ。射程は6で出力が8,拡散が9,伝導は6です。魔力回復速度は8ですね。ランクはAです」
意味がよく分からない単語が出てきた。褒められてはいるようだ。
冷静に考えると、優秀過ぎる数値を出すとやっかい事が舞い込む気がする。ま、今は息子も喜んでいるので、俺も素直に喜ぶことに。
「やったな! 志郎」「志郎ちゃん天才!」「シロくんもすごいね」
一通り、褒めちぎる。ギャラリーも少しどよどする。
さて、次は俺か嫁。ここは俺から行くか。
少しお腹が張り出すが、中身が無いのでぶちまける心配はなし。
名前を聞かれたので、普通に答える。担当者がメモる。
目の前の女性が球体をきゅっきゅと拭いて元の位置に戻す。この女性は結構若い。胸元の膨らみ、張りのある感じがとてもよい。球体を見る振りをして、谷間を見つめる。さっと、胸元の衣類を直された。
「こちらを両手で触れてください」
どきどきしながら、球体を両手で掴む。しばらく経つと、色と模様が浮き出てきた。
濃い色だ。息子や木ノ葉ちゃんのような透明では無い。
黒と茶色とか黄色と金が混じった色。
これは・・・まるで泥水。
さっきのが純粋な子供の色なら、こちらは汚い大人の色だ。
いや、まだ色は安定していない。蠢いている。
色がぐちゃぐにゃと混じり合う。最終的に黒色はつぶつぶに。見た目がかなり気持ち悪い。
これはどこかで見たことがある。
そう、あれは俺が子供の頃、雨後のあぜ道にできていたアレ。
記憶が蘇る。土手の水たまりに、産み付けられたカエルの卵。目の前の黒いつぶつぶは、カエルの卵に酷似していた。
「・・・・・・・・・・・属性は、土?」
おま、疑問形? 疑問形だよね、今の。
視線を谷間から顔に移す。目をそらされる。
「射程は1で、出力、拡散もほとんど確認できません。伝導率もすごく悪いです。魔力回復は皆無に等しいですね。少し、この装置の設定を変えたら数値が出るかもですが、後ろの方も控えてますし・・・」
俺は、後ろの筆記担当が全ての項目にしゃ、しゃ、しゃ、と、全てに1を書き入れるのを見た。
「壊れてるんじゃない?」
「壊れていません。こういう方も、たまにいらっしゃいますよ?」
い、いるのか! オール1! お会いしてみたい。
「あ、あの、私のは戦い方でいうと、どんな感じがよいのでしょうか」
「いや、解りません」
「この黒いつぶつぶは何でしょうか」
「申し分けありません。わかりません」
「「・・・」」
しばらく見つめ合う。判定官は、今度は目をそらさない。
「わかりました」
長居すると後ろの人に悪い。椅子から立ち上がって、嫁と交代。
「ふふ。お父さんの気持ちわるい」
なぜか息子が楽しそうだ。
ギャラリーから暖かい目で見られながら退場する。
俺はこの視線の正体を知っている。『こいつには負けないだろう』という安心と侮辱が両立した目。少し悔しい。
さて、次は嫁の番。俺は自分の結果を記憶の端に追いやって、嫁の水晶をのぞき込む。
赤と白の輝き。甘密が少なめのストロベリーかき氷のような色。
「火と雷が半々ですね。射程は7で出力4,拡散が2です。ですが、伝導が1。え? 回復速度が10? 10って私は初めて見ました。最高ランクの数値ですが、総合的には、Cランクです」
おおう。なんだかピンポイント爆撃かスナイパーみたいなのを想像してしまった。
そして何だ? 伝導が1? そして回復が10。この、なんというか『私の魔力は誰にも渡さない、誰のものも入れさせない』という意思が感じられる。
「では次のかた~」
戦い方の論評は省略するようだ。質問に答えていたら、いつまで経っても進まない。
こうして魔力判定は淡々と進められていく。
はぁ~。少し疲れた。確か、お昼ご飯があるって?
家族の魔力判定が終わったので、お昼ご飯を探しに行こう。
頭の中で、オール1土魔術士の戦い方を考えてみた。
何にも思いつかなかった。少しいじけそうになった。
異世界に来たから、少し楽しみにしてたのに。チートを。
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