第21話 ああ、これで帰れるんだ・・・

ウーノは顎が外れそうになるほど、口をポカンとあけてしまう。


手にもつスマホには、『着信あり メイリン』と書かれていた。

ウーノはどうしてこうなったのか記憶を掘り返す。


―――――――――


「たぶん、ここが上から見てた場所・・・かな?」

ウーノはピラミッドの頂上から見えた、鬱蒼と茂る森に隠れてあった遺跡を訪れていた。


このダンジョンでは一通り探索を終えていたため、荷物はほとんど整理していたが。

それでも、これから気まぐれで見つけた遺跡を最終探索するため。

ウーノは今一度荷物を整理していた。


カバンの中身は良いとして、問題は剣などや盾などの装備だった。


ここまでで戦闘もこなしたため、剣はボロボロ、盾も膝当ても壊れる寸前。

この状態で探索は危険なことは百も承知であるが、それでもふと気になったこの場所は。

何故か惹きつけるものを感じた。


きっと何かお宝があるかもしれない!そうウーノの直感が伝えていた。


よし、何かあったらすぐに帰還しよう。


そのためにも、帰還の巻物だけはすぐに使えるように取り出しておこう。

ウーノは帰還の巻物を手に取り、ズボンの右ポケットに入れた。


・・・・・・。

うーん、なんかいまいち収まりが悪いな。


ポケットに手を入れると、ウーノのスマホが入っている。

普段は右のポケットに入れているため、この場所はスマホ専用の場所となっている。


「うーん、今はすぐに使えるように巻物を入れておくほうが懸命だろうな。」


そう言ってウーノはスマホを取り出し、巻物をポケットに入れ、プレートメイルの普段使わない収納場所に、スマホをしまったのだ。


――――――


ああああああああああああああああ

思い出した!そうだ!しまう場所がないから、普段使わないここに入れたんだ!!

それで、遺跡の中を2時間位探索したけど、大したものがなくて

結局それで疲れたから、巻物使って返ったんだった・・・。



「も、もしもしメイリンさん・・・」

ウーノは見つけたスマホでメイリンに通話をかける。


「あっ!ウーノ!よかった!!見つかったんだね」

「あらよかったじゃない!おめでとうウーノ!」


スマホのスピーカー越しに二人の祝福の声が聞こえる。


「ええ、本当、見つかってよかったです・・・はい」


スマホが見つかったにもかかわらずテンションの低いウーノの声を聞いて。

メイリンはなにかに気づく。

「ねえ、ウーノ?何かあったの?」


メイリンの鋭い質問に、ウーノは心臓がえぐられる思いだった。


「あっ、いえその・・・」


ウーノはなんて説明しようか迷ってるその時だった。


「ちょっとウーノ!!危ない!!」


スマホからマリエラの気迫のこもった声が聞こえる。


「危ないって、何がだよ?」とウーノは後ろを振り返ると。


すぐ近くまで飛行するグリーンドラゴンが近づいてきていた。


「マジかよ!!!」


ドラゴンは大口を開けて、ウーノに噛みつこうとする。

ウーノは咄嗟に前転して、ピラミッド頂上から、一段下まで落ちることで間一髪回避することに成功した。

もし、マリエラの忠告がなければ、危うく食べられていたことだろう。


「ウーノ大丈夫!?」

メイリンとマリエラの声がする。


「大丈夫だ、ただドラゴンはまだこっちを狙ってるな」

ドラゴンは、ピラミッド頂上を旋回しなから、ウーノを狙いすましていた。

だが、背面を開けた頂上から、一段下の石壁にしたことで、ドラゴンも迂闊に突っ込んではこれなくなっている。


とはいえ、ドラゴンも策がないわけはない。

大きく口を開けると、ドラゴンはウーノめがけて炎を吐き出した。


「その手は読めてる!」

ウーノはすぐに、ピラミッドを伝い、反対側へと走っていく。

これでドラゴンが追いかけてこない限りは、炎に当たることはない。


ドラゴンは炎を吐きながらウーノを追う。

ウーノが隠れた場所に首をまわすと、そこにはウーノの姿はなかった。


肝心のウーノは、ピラミッドをパルクールでもしてるかのように、ピョンピョンと下っており。

ドラゴンが見つけた頃には、既に中腹より下まで下っていた。


「メイリンすまん!一旦ピラミッドの反対側でお落ち合おう!」


「わかった、無理しないでね」


「無理なんてできるかーーー!あっやべ!こいつめっちゃ早いじゃん!!」

そこでウーノとの通話は切れた。


メイリンとマリエラはすぐに、ピラミッドの外周を走る。

空を飛ぶドラゴンを警戒しながら、なんとか見つからないように、そしてウーノが無事で居ますようにと祈りながら。


ようやくピラミッドの反対側に出た頃には、ドラゴンは再び空へと舞い戻っていた。

これはウーノが逃げ切れたのか、それとも食べられたのか・・・


メイリンは恐る恐る、スマホで通話をかける。


「お願い、出て・・・」


すると、スピーカーから着信に出る音が聞こえた。

「メイリン、今何処だ?ドラゴンは平気か?」


その声を聞いて、メイリンはほっとした。

「それはこっちのセリフよ、ウーノ今何処なの?」


「今は、森の中にある遺跡に向かって逃げたんだけど、そこからだと見えないか?」

「森はあるけど、遺跡は見えないわね・・・」

「なら案内するから、そのまま来てくれ」


メイリン達は、ウーノに通話越しに案内されるまま森の中に入る。

森に入ってから、そんなに経たずに、すぐに石造りの建造物が見えた。


ちょうど、そこの前でウーノは手を降って立っていた。


「ウーノ!」

メイリンは駆け寄り抱きついた。


「ははは、大げさだな、そう簡単にやられるかよ。」


まあ、肝を冷やしたことは事実だ。

「ぶじで何より」


「へぇー凄いわねこの遺跡」

そんな二人を気にせず、マリエラは遺跡の方にご執心だった。


マリエラが見惚れるその遺跡は、古代の寺院なのか、不思議な生物の石で作られたイミテーションが装飾として壁一面に飾られている。

これが何を意味するのかはわからないが、なにか魅力的な雰囲気を醸し出していた。


「だろ?俺も気になってここに入ってみたんだよ」

ウーノは自分がここに立ち寄ったことを話す。


「それで、結局なんもなくて、帰還の巻物で返ったってわけ」

その話を聞き、マリエラは肩を落とした。


「そうなんだ・・・なんかありそうな雰囲気いっぱいあるけど」

「それがなんもないんだな、壁にはこんな感じの装飾はいっぱいあるけど」


もしもマリエラが考古学者なら、きっとこの遺跡そのものがお宝だよ!

と言うのだろうが、あいにく学術的な価値が3人にはさっぱりわからなかった。


「どうする?入って見学していくか?」

ウーノの提案に、とりあえずせっかく来たし、見て行くことにしようと、3人は遺跡内部へと足を踏み入れた。


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