第17話 荒れ狂うクラーケン

ついに巨大なクラーケンを発見した討伐隊であるが、クラーケンの大きさは触手だけで30mは超えていた。

海面に突き出たるは、巨大な柱とも言うべき触手だった。

しかし、ダメージを入れるべき胴体がまだ出現していない。

果たして、クラーケン討伐は成功するのだろうか・・・。



巨大な触手が海面に突き出たことで、水面は大きな波が起こる。

船は波にさらわれ、ぐらんぐらんと揺れる。


なんとか船から落ちないように、メイリンとマリエラはしがみつくが、クラーケンの触手はうねりを上げて船へと向かってくる。


マリエラは本能的に、叩き潰される!と感じた。

しかし、メイリンはすぐさま、水と反発する呪術を展開して、クラーケンと船を触れさせないようにしていた。


船はクラーケンの触手を、するりと抜け去るようにして、ひとりでに動き出す。

触手が水に打ち付けられ、水柱と飛沫が勢いよく上がる。

その飛沫にも反応して、船はすいすいと水面を滑るように動き回る。


とはいえ、乗っている二人はその動きについていくだけで精一杯だった。


「ああっ!ダメ!・・・呪文なんて唱えられない。」


マリエラはこの状況的に、自分だけでも、なんとか落ちないように、しがみつくしかなかった。


対するメイリンは、ロープで身体をくくりつけ、船に身体を引っ張られながらも

なんとか呪文を唱えようとしていた。


「弾かれよ炎、フレイムマイン」

メイリンが発した呪術は、火の魔術で発生させた炎を、空気の層で球体状に集め、それを覆うようにして作る、呪術と魔術の混合技であった。

言うなれば、1mくらいのシャボン玉の中に炎を閉じ込めたものを、その場に浮かべたような感じであった。


船が動くのに対して、シャボン玉は船の動きとは別に、その場から漂っている。


メイリンはフレイムマインを空中に何個か展開すると、即席の機雷群が、辺りを支配していた。


やがて、触手の1本がフレイムマインに触れると、空気の層が割れ、それを燃料に爆発を起こし、触手の1本に大きな爆風と炎を当てることができた。

触手は炎に包まれ、燃え上がっていく。


「やったわ!当たった!!」

マリエラは喜んだ、だが。


巨大な触手の1本に爆風が当り、火柱になったとしても、それはほんのかすり傷でしかなく

触手は少し、焦げただけで、なんのダメージにもなっていなかった。


表面が少し焦げた触手の1本が、メイリンを薙ぎ払うように勢いよく向かってくる。

メイリンはフレイムマインを更に作るべく、詠唱を止めない。


「メイリン避けて!触手が来てる!」


しかし、メイリンは動じていない、メイリンの呪術は、水属性のものを反発させる呪術であり。

いくら、クラーケンが触手を触ろうとも、その触手がメイリン達に届くことは絶対にない、ハズだった。


クラーケンの触手は、メイリンをコバエを払うかのように吹き飛ばした。

衝撃と共に船から投げ飛ばされるメイリン。

宙を舞うメイリンの顔は、こんなはずではという苦悶の表情が見えていた。


アバラを何本か折られ、痛みで息ができない。

更に、海に落とされたことで、海水口中に広がる。


メイリンは竜王により焼け焦げて死んだ、あの時の事を思い出す。


また死んじゃうんだ、しかも今度は本当の死

息ができなくて苦しみながら、私は死ぬんだ・・・


メイリンは身体を動かすことが出来ないまま、ゆっくりと海中に沈んでいく。

目の前からどんどん光が薄れていく、このまま真っ暗の中、苦しまずに死にたい。

メイリンは全てを諦めかけていた。


しかし、そんなメイリンをウーノは直ぐに抱きかかえて、水中で口を塞ぐようにキスをした。


口の中にある、水中で呼吸ができるガムを、舌を使いメイリンの口の中に移動させる。


ガムが口の中に移動したことで、メイリンは自然と呼吸ができるようになるだろう

アバラが折れた痛みも、ウーノのもつ回復作用のある薬草ジュースを水中に撒くことで徐々に引いていった。


メイリンはこれで大丈夫だろう、今度は自分の番だ

ウーノは急いで海上目指して浮かび上がる。


「プハーーーー、ああ、死ぬかと思った」


ガムをメイリンに渡したことで、水中で息ができなくなっていたので

急いで呼吸する必要があった。


海面から覗く景色は凄まじいものだった。


メイリンが撒いたフレイムマインが、クラーケンの触手に何回かぶつかり、爆音と火柱が発生し

クラーケンの触手が怒り狂うように、船めがけて攻撃を仕掛けていた。


「くっ、くるなああああ!!」


マリエラは仕込み杖から剣を抜き、襲い来る触手をなんとか捌こうとする。

しかし、触手の表面には体液が出ており、それがマリエラの剣をうまい具合に弾いている。


船もまたボロボロで、メイリンの呪術が効いているはずなのに、何本かの触手は船に触れることができ、船の船体を削っていく。


海上では絶体絶命の状態が続いていた。



対して、海中は。

水上に気を取られているクラーケンの死角を付いて、マーマン達が接近していた。

マーマン達はそれぞれの得物を使い、一斉にクラーケンの胴体へと突き刺していく。


しかし、巨大なクラーケンの胴に、刺さるは刺さるのだが、いまいち手応えはなく

致命傷をおわすには、いささか得物の深さが足りていなかった。


水中でマーマン達が攻撃を開始したことに気づいたクラーケンは、対象を海上の船ではなく

水中のマーマン達に切り替え、触手を水底に戻していく。


あと1発食らったら船は沈む寸前であったが、これには間一髪助かった。

「引いていった?助かった・・・」

マリエラは緊張の糸がほぐれ、その場にへたり込んでしまう。


水面から様子を見ていたウーノは、マリエラに自分とメイリンを引き上げるように伝える。


引き上げられた、メイリンは意気消沈していた。

著しい体力と精神の消耗で、肩で息をしている。


「マリエラ、お前はまだやれるか?」

ウーノはマリエラに聞いた。


「私はまだ戦えるけど、クラーケンの触手に対して全然歯がたたないのよ・・・」


メイリンも口を開く

「わたしの呪術が効いてない・・・クラーケンの攻撃が、この船に届いてる・・・」


確かに、最初はうまくかわせていたのに、なぜ急に届くようになったのだろうか

マリエラは疑問に思っていた。


「その事なんだが、見ていて分かった気がする。そしてそれが打開策になるかもしれないぞ。」


ウーノはこの状況を諦めておらず、なおかつ反撃の狼煙をあげようとしていた。

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