第15話 胴体が30mを超えるものをクラーケンとよびます

マーマンの漁村で海上バスに乗ろうとしていた一行は、突如現れたクラーケンにより、足止めを食らうことに。

それならばと、クラーケン退治のレイド募集に参加して、旅の邪魔をするクラーケンを排除しようと決起するのだった。


「クラーケン討伐の集合時間は、明日の朝6時に、海上バスの乗り場に集合だって」


となると、今日はこの漁村で一泊する必要があるな。

幸い民宿は結構あるし、宿自体は困らない。


「となると、何処に泊まるかだな」

マリエラはスマホを指でサッサ、サッサ、と動かし

旅館予約サイトで何処がオススメかを探している。


「見て、ここウェブ予約ならかなり安くなるよ」

確かに、値段は良いが、せっかくなら少し値段を上げてもいいので食事が良い所に行きたいな。


「それならー・・・こことかは?」

「おんせんはないの?」


メイリンは温泉がご所望だ。


「温泉かー・・・となると、ちょっと値は張るけど・・・」


なんだか、本当に観光旅行に来たみたいだ。

ダンジョン攻略中であることをすっかり忘れてしまう。


三人はとりあえず、それぞれの希望通りの宿を見つけ

そこに予約をすることにした。

当日予約であったが、すんなりと予約は取れた。



「さっきも、言ったと思うけど、なんでこんな観光地が普通に成立してるの?今でも信じられないんだけど・・・」


マリエラは、未だにここがダンジョン内であることが信じられないようだ。


「その事だけど、ここが単純に外の海と、繋がってるからってのが、一番大きな理由だろうな。」


以前も話したが、この場所は外の海と繋がった場所である。

ただ、本来の海抜などを考えると、間違いなく海底ではあるのだが。


「ここがマーマンの漁村ってのから分かる通り、本来は人間が住める場所じゃない」


人間の観光客はチラホラいたりもするが、それでも地上世界と比べると、はるかに少ない。

ここが異質な場所であることは明白だ。


「というか、なんで観光客なんてのが来れてるの?みんな、あのダンジョンを通過してきてるの?」

「いや、殆どの観光客は、外洋からの観光客だろ?」


何度も言うが、このダンジョン内の海は、外の海と繋がっている。

そこで、外の世界から、潜水艇などを使い海底を通ってここまでやってくることができるのだ。


「ええー、それって凄く楽じゃない?だったら私達もそうすれば・・・」


「言うて、俺達の住んでる場所から海までの移動とか考えると、結構時間かかるしな」

それなりに掛かることはかかるが、それ以外に

「それに、ここの観光客、北のほうの人達が多いようだし、ユウラーク側からのダンジョン行きの便があるかは、わからん」


実際、このダンジョンの外海に繋がる場所は、ユウラーク側ではなく、北のアカサキに繋がっているので、ユウラークから直接行くことは難しいだろう。


「ふーん、うまく行きそうで、うまくは行かないのね」


3人は、宿のチェックインまでの時間、漁村の観光地をブラブラしながら過ごした。

ソフトクリームを食べたり、マーマンが着てる水に濡れてもすぐ乾く柄物のシャツや塩辛や乾物などを買って、ブラブラと過ごす。


「ところでウーノ、剣ないけど、クラーケン討伐できるの?」


「あっ、そうだ・・・よし、ついでだから観光地で武器買うか・・・」


ウーノは、観光地で売られている、派手な装飾が施された謎のトライデントを買うことにした。

「いやいや、今どき修学旅行の中学生でもこんなの買わないわよ?」

「そうか?俺はかっこいいからこういうの集めたくなっちゃうんだよな」

実用性はともかく、トライデントというのがかっこいい

長物はもつと様になるし、なかなかカッコいいじゃないか~俺と

店の鏡の前でポーズを取る。


そんなウーノをメイリンは写真に撮ったりしている。


代金は、クラーケン討伐時の報酬をメイリンに渡すということで、メイリンに立て替えてもらった。


「よし!クラーケン討伐の準備は完了だな!」


まあ何にせよ、この後は宿に着いて、温泉と食事を堪能し、明日に備えるだけである。



宿はそれなりに大きな民宿で、民宿としては綺麗な作りだった。

民宿の女将さん(マーマン)が着物姿で出迎えてくれた。

取った部屋は2部屋付きで、部屋の窓からは海が一望できる場所ではあった。

まあ、暗くてよく見えはしないんだが。


3人は荷物をおいて、さっそく畳の上に横になると

「ああ~~~」っとだらしない声を上げながらゴロゴロしだした。


「あっ ゴーフレットだ」

メイリンは机の上に置かれた、お茶菓子に飛びついた。

「えっ、これってゴーフレットって言うの?」


メイリンが袋を開けて取り出したる菓子は、薄く焼かれたパリパリのワッフルにクリームが挟まれている、旅館とかで置いてあるお菓子だった。


「これすき」

パリパリのワッフルをあえて外し、中に入ったクリームだけをなめるメイリン。

「ちょっと、はしたないわよ」

とマリエラは言うが、実はマリエラもその食べ方が好きである。


「俺の分はいいぞー、二人にあげる、ああ~飯前に風呂行くかー・・・」


「おんせん!!」

「そうそう、温泉よ!せっかくいい値段の宿選んだんだから、温泉行くわよメイリン!」


「なら先行っておいで~俺は少し寝てる~~はぁーーい草の臭いに癒やされるぅ」


ではお言葉に甘えてと、メイリンとマリエラは温泉へと向かう支度をする。

温泉は民宿内にある。


脱衣所にて、服を脱ぐ二人

メイリンを見ると、華奢な体に、ほんの少しだけ胸が膨らんでおり、体にはところどころ傷ができていた。

今回の旅でできた傷ではなさそうだが、それなりに冒険者としては経験がある肉体をしている。


そんなマリエラをメイリンは見て思った。

長身からなる均整の取れた身体、腹筋がついており、綺麗に割れている。

胸も胸筋というよりは、ふんわりとした乳房がちゃんとついており、エルフの薄い肌に羨ましさを感じる美しさがあった。


「おお~ひろい」

浴場は広く、木製で出来た湯船がいい味を出していた。

湯船は透明のお湯が張ってあるが、触るとほんのり、ぬめりけがある

普通のお湯ではなく、含有成分が含まれているちゃんとした温泉であることが肌で感じ取れる。


まずは湯船に入る前に身体を流し、それから足を入れて、ゆっくりと腰を下ろす。

「ああ~~~」

「はぁ~~~」


ここしばらくの冒険の疲れが、身体の中から湧き上がり、そして滲み出ていくような心地よさに、二人は気絶してしまいそうだった。


「ひさしぶりのお風呂だー」

「ダンジョンの第二層はとんでもなく臭かったから、シャワーか水浴びでもしたいとずっと思ってたんだよね」


二人は、ここまでの思い出を語る。


当初の目的は、ダンジョンの1層でゆっくり魔術を練習しながらダンジョンを下っていくつもりだったが

特に、そういった事もできず、急行軍をしてダンジョンを進むことになるとは。


しかし、短い急ぎ旅だけど、色々とあったなぁ

ウーノはよくわかんない奴だけど、実は王侯騎士団のトッtプと仲良かったり

メイリンは呪術のプロで、大地に嫌われる呪いとか、あんまし聞いたこと無いようなの使えるし。


旅の思い出に花を咲かせてはいるが、マリエラは内心気になっていることがあった。


「ね、ねえメイリン、ずっと気になってたんだけどさ、そのー・・・ウーノとは付き合ってるの?」


マリエラは単刀直入に聞いた。


昨夜もそうだが、二人の距離感は妙に近い。

信頼しあってる仲間にしては、更に一歩踏み込んだ関係のように見えた。


「元旦那」

「ああそうなんだ~いやー私もそうなんじゃないかってうすうす・・・」

一瞬沈黙が流れる


「えっ嘘!!元旦那!?えっ!メイリン結婚してたの!?」


マリエラがメイリンの顔を見ると、うっすらと広角がヒクヒクしているのが分かった


「騙したわね~!!」

「あはははは ごめん~」





「ウーノとは昔からのつきあいでね、わたしが5さいくらいの頃から、かな」


メイリンの家はそれなりに良い家だったらしく、ウーノの家と家族ぐるみでの付き合いがあった。

両家とも関係は良好で、いずれ二人は結ばれると、メイリンですら思ってたらしい


「でもねー・・・ある日ウーノが親御さんと反発しちゃって、家飛び出しちゃったんだよねー」


それからウーノは実家を勘当され、傭兵になり、騎士団と経て、現在の冒険者へと移り変わっていった。


「まあそういうわけで、私とウーノの関係は、ウーノが勘当されてからご破産になってしまったというわけ」


「な、なんか、結構色々ふくざつな事情があるのね・・・あまり聞くべきじゃなかったかしら?」


「いいよ、別に、それにウーノが距離が近いのはわたしもそうもってるから」


いろいろと話を聞き、長く湯船に浸かりすぎた。

長風呂しすぎたねと言い。

そろそろ、でないとのぼせてしまいそうだった。


「さいごにもう一つだけ聞いていい?ウーノの事、メイリンは好きなの?」


「でなきゃ、一緒に旅なんてしないよ」


ごもっともな事が聞けて、マリエラはこれまでのモヤモヤが晴れたようだった。



温泉から上がり、部屋に戻ると

食事の準備が始まっていた。


机には漁村ならではの舟盛りなど、海鮮料理が運び込まれてきていた。


「すげーーー!めっちゃ新鮮なやつじゃん!」

生きの良い魚の刺身がきらびやかに輝いて見える。

とにかく、値段をあげて正解だったなと胸を張って言える料理が運ばれてきていた。


さっそくスマホで写真を取るメイリンとマリエラ

すると、マリエラはあるものに気づく。


「うげ、なにこのウネウネうごいてるやつ・・・」

「そちらはスキュラでございます」

料理を運んでくれた女将が説明してくれる。


「スキュラ?」

「はい、こちらの海で取れた、スキュラの活造りです」


「おおー、捌かれてもまだ動いてるじゃん!」

「新鮮でおいしそう」

ウーノとマリエラは目を輝かせてウネウネを見つめている。


いやいや、本当にこのウネウネ食べれるの?

すごく不気味なんですけど・・・


「ちなみにですが、こちらのスキュラは、胴体が30mを超えますと、クラーケンと呼ぶようになります。」


「えっ・・・ク、クラーケン? ええええ!これと戦うのー!?」

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