第13話 出戻り、そして大海へ

焼け焦げた髑髏が光り、洞窟を閃光が照らした時。

ウーノは、自身の首に紐をくくりつけた状態で戻ってきた。


竜王の炎が身を焼く寸前で、ロープで首を吊り、意識を失うことで

なんとか死の体験をスキップして戻ってきた。


マリエラとメイリンはすぐにウーノを回収すると

一目散で洞窟から離れるのだった。




ウーノが目覚めると、洞窟の入り口にまで戻っていた。


3人は、この数時間で、かなりの体力を消耗していた。

ウーノは、この洞窟を抜けることには、自分たちには無理だと悟った。


「すまない、みんな・・・ここは引き返す」


一度来た道を引き返す。

行きはよいよいの道であったが、帰りは結構な上り坂の道であり

体力を消耗した自分たちにはかなり、キツイ道のりである。


メイリンとマリエラは杖を突きながら、はぁはぁと息をしながら道を登る。


ウーノは先程、髑髏に向かって剣を投げてしまい、たぶん、洞窟内のどこかに剣を置いてきてしまった。


今更あの洞窟に拾いに行きく気力もない。

もし、髑髏の近くに落としてたと思うと、絶対に拾いたくない。


結局剣は一度も使わずにダメにしてしまったなぁ

こんなことなら、もっと安いやつにしておけばよかった。


程なくして、メイリンはその場から動けなくなっていた。

自分も含め、体力の限界だ。


「今日は、道半ばだが・・・ここで休もう」


その提案に誰も反対はしなかった。


道は斜面が急になっているが、三人はそれぞれ、道を縦一列に陣取りながら、仰向けになって倒れた。


「はぁー はぁーーー」


今思い出しても泣きたくなる。

というより、メイリンはまだ泣いている。

まったくもって散々な成果だった。


何も得られるものがなかったどころか、むざむざと帰ることになるとは

一体どのくらい時間を無駄にしたのだろう、このあと、この道を登り、二股の場所まで戻るとなると

結構な時間かかるだろう。


そこからまた、もう一つの道に行くとなると、だめだ何も考えたくない。


今は体を休めよう。

精神の疲弊を回復させるには、寝るくらいしかないだろう。


あまりにも疲れているせいか、食事すら摂る気力がない。

手を伸ばせば、カバンの中にマッカズの持ち帰りの品がある。

だが、もう体が動かない。


狭い道にメイリンのシクシクと泣く声が聞こえる。


ウーノはなんとか体を起き上がらせ、足元の方で泣いているメイリンに近寄る。


「メイリン・・・ごめんな、ほんとうにごめんな」


メイリンに覆いかぶさるようにして、ゆっくりと抱き寄せる。

ウーノの声を聞いて、メイリンはウーノにしがみつく


「もうお前を傷つけない、お前を悲しませない・・・メイリン、ごめんな」

ウーノは横になりながらメイリンの頭を撫でる

メイリンはウーノの胸に顔をうずめながら、声を殺すようにして泣く。


「メイリン・・・このまま帰るか?辛いのなら、帰還の呪文を」

そういいかけた時、メイリンはすぐに答えた

「ヤダ・・・ここまで来て帰るのは、それはそれでムカツク」

メイリンのこういう負けず嫌いのところは昔から変わらない。

意地になる所が本人の長所でもあり短所だが、そんなメイリンに甘えてしまう自分が情けない。


「もう少しでダンジョンの最下層だ、それまでもう少しだ。なんなら時間をかけてもいい・・・」

「だいじょうぶ まだがんばれる」


「ほんとうか?がんばれそうか?」

「だいじょうぶ・・・だから、もう少しこのままにして」

「ああ、寝るまでこうしててやるよ」



そんな二人をマリエラは下の方から覗いていた。



えっ?ナニ2人とも・・・そういう関係だったの?

というか、私、ウーノとメイリンの関係全然知らないな・・・

たしか、昔からの知り合いとか言ってたけど、なんか知り合いなんて雰囲気じゃないじゃない。


というか、ここで今からおっぱじめるような雰囲気さえあるんですけど!

えっ、するの!?ダンジョンの通り道でおっぱじめっるの!?


『あらら、私はおじゃまかしら~』とか言って退散したほうがいいのかしら

いや、それ以前に冒険する仲間がいるのに、なにをイチャついとるんだこら!って言って

ウーノを殴ったほうがいいのかしら?


いや、でも二人がそういう関係なら、私が口出しするほうが野暮だし


ていうか、マジで気まずいんですけど!



二人は程なくして眠りに落ちたが

マリエラは逆に気になってすぐには眠れなかった。




三人は10時間ほど眠りこけてしまった。

そうとう疲れていたのか、目が覚めても、倦怠感が抜けず、軽い頭痛などの不調をそれぞれがもっていた。


だが


「腹へったあ・・・・・・」

ようやく食欲が湧いてきた。

眠ることで、体力はなんとか回復することが出来たようで

空腹感も正常に働きだした。


マッカズで買ったハンバーガーをそれぞれ食べ始める。


食事が終わると、今後について軽いミーティングを始める。


「昨日は散々だった、そしてみんなを危険な目に合わせたことを謝る。すまなかった。」

ウーノは頭をさげて、パーティ全員が全滅しそうになったことを侘びた。


「それで、今後のことだけど、もしこのままダンジョンの最下層に向かうのが嫌なら、帰還の呪文なりで返ってもらっても構わない。」


昨夜メイリンにも訪ねたが、改めてみんなの前で話すことにした。

マリエラはどう思っているのか、聞く必要があった。

そして、マリエラが帰りたいと言うなら、メイリン含めて帰還してもいいと、思った。


するとマリエラは

「私は、残ることにするわ、せっかくここまで来たんだもの、むざむざと帰るなんてごめんよ。」


マリエラもまた、最後まで残ることを誓った。


ウーノは、この3人でまだ旅を続けられることに安堵した。


「そして、これからなんだけど、時間に関してはもう、無理に急ぐことは止めようと思う。」


ウーノは、変にタイムリミットを設けることで、仲間を危険に晒すことはしないと

ここで宣言した。

この三人でなんとしてもダンジョンの最下層にたどり着く、そのためには

なるべく安全策を取ると誓った。


マリエラもメイリンも、ウーノの考えに賛同した。



話し合いが終わり、再び道を上に上にと登っていく。

これは結構な登山だなと、入り組んだ道を登る3人。


どのくらい経ったかはわからないが、途中で休憩をはさみつつ登り、ようやく二股の道へと戻ることができた。


「ああ、疲れた・・・ここが折り返しかー・・・」


昨日二手に分かれた場所まで戻ることが出来た3人は、ここで選ばなかった方の道に進むことにした。


この道もまた、下りの道になっているが、先程までの道とは違い、緩やかな下りの道だった。


歩き始めて、1時間も経たぬうちに、何やら変わった臭いがしてきた。


それは洞窟では味わうことの出来ない、臭い。

道の先からわずかに風が吹いてきており、それはまるで潮風のような・・・


いや、これは潮風の臭い、磯臭さだ。


3人は足早に進むと、驚きの光景を目にする。



「う、海だあああああ」


道の出口は、地下世界に広がる広大な海原へと繋がっていた。

そこは、砂浜があり、波打ち際がザザーンと音を立てる。まるで外の世界の海そのものだったが。

唯一の違いは、天井があること、洞窟の天井が、暗く辺りを包んでいる。


そう、ここは夜の海のように暗く、静かな海である。


ダンジョン 大五層 大海原


この海を超えた先に、ダンジョン最下層への道がある・・・。

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