第11話 終わりなき戦場の記憶 竜王ファブニール

 光りに包まれた三人は、気がつくと何処かの城に飛ばされていた。

 城には兵士らしき人達がせわしなく行き来していた。


「どこだここ?転移魔法をかけられたのか?」

 見慣れぬ風景に困惑する三人


「と、とりあえずここが何処か聞いてみましょ?」

 マリエラは立ち上がり、近くの兵士に訪ねた。


「あの、突然すいません、私達なにかの転移魔法に巻き込まれたみたいで、つかぬことをお聞きしますが、ここはどこでしょうか?」


 しかし、マリエラの問に兵士は答えず、見向きもせずに去っていった。


 仕方無しにマリエラはまた別の兵士に訪ねたが、反応はなしで

 まるでマリエラのことが見えていないようだった。


 試しにマリエラは兵士の肩を触ると、何か障壁のようなものが展開されているのか、マリエラの手は弾かれた。


「えっ、なにこれ?」

 マリエラは驚く。

 それをそれを見てメイリンは気がついた。


「わかった、ここは誰かの記憶の風景、現実の世界じゃない」

現実世界ではなく、記憶の世界だとメイリンは言う。


記憶の世界は、干渉することはできないが、鑑賞することができる世界。

ものに触れる事はできないが、見て聞くことはできる。


「記憶の世界・・・そうか、あの髑髏どくろか」

自分たちが髑髏から発せられた光に飲まれたことを思い出した。

だが、なんのためにそんなことを?


「よくみると、兵士のひとたちの服、なんか古い」

メイリンはが指摘したとおり、王侯騎士団のような、プレートメイルといった頑強な鎧というよりは、チェインメイルと青銅の胸当てや、飾りのついた兜など。

どこか演劇などで見る古めかしい格好をしていた。


「昔の兵士って感じだな・・・」

城の中に垂れ下がっている紋章がついた垂れ幕は、ユウラーク王国より遥か以前の紋章をしていた。

「歴史の本で見たことがあるやつ」


マリエラはスマホを取り出すが、圏外になっていることに気づく


「ダメ、繋がらない・・・完全に別世界にいるみたい」


どうやらこの場所は、外の世界と断ち切られているようだ。

だとしたら、どうやって脱出を計ればいいのだろうか。


「一応、記憶の世界は終りがある。これは夢みたいなものだから、いつかは終わる。でもいつ終わるのかはわからない・・・」


それは困った、この世界から出ることは出来ても、いつ出れるかはわからないと来た。

じゃあどうする?


途方に暮れてもしょうがない、三人はしばらく見て回ろうと、城の中を探索することにした。


城の兵士たちは、何かに備えるかのように、大きな矢を運び、槍や盾を運んでいた。

この城の連中は何と戦うのだろうか?

ただの戦にしては、彼らのもつ獲物は随分と大きなものばかりであり。

人が人に向かって射つには、少々大きいように感じる。


ウーノは城の外を見ようと、見張り台から顔をのぞかせた

そこは、荒野であり、別段遠くに敵の軍勢が見るというわけではなかった。

ただ、唯一変わったことがあるとすれば、谷があり、その谷からは煙がくすぶっていることだった。

狼煙だろうか?


メイリンは城にある各部屋を周っていた。

部屋の出入りは、意外と簡単で、どんなに戸が閉じられていても、触れれば透き通るように体がドアをすり抜けることが出来た。


一体誰の記憶だろうか、本当にこれは、あの焼け焦げた髑髏だけの記憶なのだろうか?

メイリンは城の一室においてある本を見つけた。

記憶世界の本は、手に取ることは出来ないが、手をかざすと本の中身を読み取ることは出来た。


本の中身は日記だった。


1月24日 

『アカサキの軍勢を追い返すことに成功した我々であったが、どうにも敵軍の様子がおかしい。』


「アカサキの軍勢・・・」

アカサキはユウラーク王国より、北にある隣国。

歴史は長い国であり、今がどの時代かはわからないが、少なくとも

1000年以上の歴史はある国だ。


『敵の援軍が来なかったのか、彼らは我々との戦いをあきらめ、早々と退却していった。アカサキ軍にしては撤退が早い。』


1月25日

『アカサキとの戦いを終えた翌日、我々は彼らがなぜ早々に撤退したのか、その理由がわかった。どうやら増援が来る前に、その増援がどこかに消えてしまったそうだ。』

『敵前逃亡をされたのだろう、どうやら今のアカサキの将軍は人徳のないものが務めているのだろう。』


1月26日

『城の直ぐ側に、巨大な亀裂ができ、そこから巨大な噴煙が浮き上がった。』

『地殻変動だろうか、この辺りに火山があるとは聞いたことはない。しかし、できてしまったのは仕方がない、司令官と相談した結果、明日調査隊出し、様子を見させよう。』


1月27日

『調査隊6名のうち、生還者は1名だった。生還者は全身大やけどを負い、辛くも城にたどり着くと、竜王の目覚めが近いと言い、息絶えた。』

『どうやら、我々の近くにはとんでもないものが潜んでいることが分かった。このことを、夕刻ではあったが、早馬で知らせに出したが、明日までに援軍が来るだろうか・・・。』


メイリンはこの日記を読み、震えた

「竜王ってまさか・・・」



マリエラは城の城門近くを見て回っていた

兵士たちは巨大なバリスタを用意しており、マリエラの身長よりも大きな矢を番えつがえバリスタは城の外に運び出されていく。


これだけ多くの兵士たちが、バリスタやらを持ち出して臨戦態勢になっていることに、これから起こりうるであろう戦いに

マリエラは不穏を募らせる。


彼らは一体何と戦うのだろうか?


兵士たちの会話を聞くには、断片的であるが、ある言葉が聞こえてきた。

『りゅうおう めざめ ちかい』


りゅうおう? りゅうおうって、竜王のこと?

マリエラはその言葉を聞いてあることを思い出す。


「竜王、ファブニール・・・」


こどものころ、エルフの森で大人から聞かされたおとぎ話。

『大きな大きな竜の王ファブニール 大地を裂いて火を吹いて お城をまるごと焼き払う 竜の王に敵はなし 竜の王は不死身なり されど竜はいずこかに 竜の王はいまどこに 竜の王は・・・』


たしか、こんな感じのよくわからないお話。

寝る前とかに聞かされた気がする、ドラゴンの出てくる話はいっぱいあるけど

ファブニールはなんだかんで人気のあるドラゴンで、色々とゲームとか漫画とかに出てくるドラゴンだったような・・・。


その時、城を揺らす大きな揺れが起きる。

地震!?

マリエラは杖を地面に突き、体を支える。


見張り台にいたウーノは、地震と共に、谷から黒煙が吹き出るのを確認した。

「なんだ?噴火か?」


メイリンは城の窓から、吹き上がる黒煙を見つめていた

「目覚めたのね、竜王ファブニール・・・」



三人はそれぞれ別々の場所に居た。

しかし、それぞれは目撃する。


黒煙が勢いよく吹き上がり、その黒煙の中心から、黒く、そして赤色の目と血管が浮き出た巨大な竜が現れたのだ。


その大きさたるや、天を衝く山のごとし、黒煙をまとうその姿は浮遊する火山のようでり。

その顔は決して慈悲をもつ生物ではなく、憤怒と恐怖を万物全てに向けていた。


城の外にはバリスタが何体も設置されている、しかし

あの巨大な竜に傷をつけることができるとは到底思えなかった。


兵士たちは号令を受け、竜王に攻撃を仕掛ける。

巨大なバリスタはファブニールへと放たれ、兵士たちは盾を構え、そして弓を放つ。

その全ては、竜王の体に届くも、ただ届いただけであった。


無意味だ。

何一つ意味をなさない。

一体彼らはなんのために準備をしていたのだろうか。

辺りを虚無感だけが通り抜けていく。


竜王の目は、足元の兵士たちを見ては居ない。

竜王はただそこにある、城を見ていた。

いや、城だと認識してはいないかもしれない。

ただそこに石が積み上がっている、それだけのことだろう。

そして、竜王の腹はゆっくりと膨らむと、竜王はあくびをした。


竜王のあくびは、落陽そのものであった。

文字通り日が落ちてきたのだ、夕日が地平線ではなくこの城めがけ。


兵士たちは全て炎に飲まれた。

城は強力な光と熱で、城壁は溶け出す。

そしてその中に居たウーノ達3人もまた、竜王の放ったあくびの業火に飲み込まれるだけだった。

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