第9話 王侯騎士団

「ひとつよしなに」

そう言って男はイスに腰掛けた。


この男こそが、王侯騎士団を束ねる騎士団長。

カスミンである。


異彩を放つ風貌からは想像はできないが。

紛れもなく騎士団の団長であり、かつてウーノが所属していた傭兵師団付け焼き刃の団長でもあった。


「お久しぶりでござんすな~」

「おめーも変わってねーな」


「おい!団長だぞ!あたしは団長だぞ!なめてもらっちゃ困るよ」

「ああ、失敬失敬、んでカスミンさあ」

「なんじゃいコラ」


「おまえなに・・・結婚したの?」

「ウイ」


「あのードックカフェで働いてる子とずっと付き合ってたの?」

「狙ってた子ね 付き合ってはないのね」

「式あげたの?」

「プリケツ式はぶち上げ、海の外かいのがいで」


「オメーーーよーーー、めんどクセーんだよお前との会話はよおおお」

「失礼ぶっこき」


まったくもって話につていけないメイリンとマリエラ。


「失礼しました、あたくしがカスミンでございます。」

「こいつは王侯騎士団の団長だよ」


ウーノは二人に王侯騎士団の団長であるカスミンを紹介した。


王侯騎士団 東大陸神聖ユウラーク王国の配下の騎士団である。

しかし、当時のカスミンは王侯騎士団に属してはいなかった。

かつては傭兵師団 付け焼き刃の団長であり。


数々の戦場でその武勇を讃えられ、傭兵師団ごと王侯騎士団に吸収され、現在は騎士団を束ねる長にまで上り詰めた。


そして、その傭兵師団でカスミンと共に戦った盟友こそが、ウーノであった。


「そういえばバヤシスは元気か?」

ウーノはカスミンに訪ねた。バヤシスは王侯騎士団の副団長であり、付け焼き刃の頭脳だった。


「バヤさまですか?あいかわらずですな」

バヤシスはカスミンの右腕として共に戦場を駆けた戦友トモであり、付け焼き刃を王侯騎士団入へと参入させた張本人である。

大変頭のキレる男であり、腕も立つ傑物であったが・・・

膝を負傷し、そのことから戦場からは一歩引くようになった。


それからバヤシスは副団長として影からカスミンを支え、付け焼き刃に属していた傭兵たちを王侯騎士として育て上げ、今日の発展に尽力した。


「それはそうと、なんでまた騎士団の駐屯地に?ロケーションですか?」

「ロケーションではない、普通にダンジョンをショートカットするために来た。」


ウーノは事の経緯を説明する。


「スマホを落とした?」

「そう、だからそれを取りに行く」

「ええ、ええ、わかりますよーええー。あたしもね、エロパソもってますから、もしそれを失くしたと思うと同じ気持ちでさあね」


「えっ?お前結婚したのにまだエロパソもってんの?」

「まあそれはそれなのよ!パラちゃんと縁切ってるからもう外に遊びいけないからね、だから自分磨きは許して蝶よ」


「まあ、とにかくあれですよウーノさん、事前に言ってくれれば通しますから」

「いや、お前と話したくないから・・・」

「なんてこと言うんだ!!あたしと一緒に苦楽をともにした中でしょうが!」

「ほとんど苦だったけどなあ・・・」


「じゃあわかりましたよ、今回はここを通しますよ。そして反則金も免除しましょう。団長権限でチャラーーー!」

「やっぱ、持つべきものは友だな・・・」

「さっきまでの態度はなんなんだよ!!これは借りですからねウーノさん」


カスミンの独断により、禁止区域に入ったことは見逃された。

しかし、ウーノはあまり喜んでいるわけではないことをメイリンは見抜いていた。

ウーノは傭兵師団付け焼き刃が騎士団に編入された時。

騎士団の所属になることに反対し、団を抜けている。

そのことで騎士団側と揉めたことがあり、以後ウーノは騎士団とはあまり関わらないようにしていた。

それが今回のことで、なおかつ騎士団のトップと再び関わりを持ち、罪の免罪をさせてしまったことを本人は快く思っていないだろう。


だが、ウーノは自分とマリエラを巻き込んでしまい、二人を罪人にしたくないという一心で今回はカスミンに借りを作ったのだということをメイリンは察していた。


「ではウーノさ、しゃん、おかえりください!!」

「ああ、かえ・・・まって、今、噛んだ?」

「何言ってんだよ、噛むわけ無いだろうが、大事な別れの時に・・・」


「あ、そう・・・噛んでない?」

「失敬だぞ君!噛むわけ無いだろ!!」


ウーノは周りにいる団員を見渡した

「今の会話、録音とってる人いる?ちょっとチャレンジしたいんだけど・・・」

「チャンレンジでもなんですればいいだろ、噛むわけないんだから!」


すると、今までの会話を録音していた団員が前に出る。

団員はスマホで一連の会話を録音していた。


「準備できたみたいなんで、ちょっと聞いてみましょうか?」

「流したまえ」


スマホから該当の部分が流れる。


『ではウーノさ、しゃん、おかえりください!!』


「おめー噛んでんじゃねーかよ!」

「なんだよこいつーーー最後の最後でー、最初 さ まで言えてるのにそのあと言い直そうとして噛んでんじゃねーかよー なんだよこいつキメーなーー」


カスミンは自分が噛んだことを他人事のように振る舞う


「これはもう・・・複ビンですね」

「いや、まって・・・複ビンは、さあー・・・」

「いやなの?複ビンは?」

「まあ、ほら、この程度だったらさあ・・・複ビンはちょっとさあ・・・」


「じゃあ嫌なんですね・・・わかりました・・・複ビンはしません!!!じゃあこれで俺たちは帰りますんで。」

「やらないとは言ってないのよ!!」


「お前なんなんだよ!複ビンすんのかよ!」

「やりたいかやらないかで言ったらやりたくはないですよ、でも」

「じゃあやりません!!!やりたくないことはさせません!!」

「だからやらないとは言ってないのよ!!!」


なんだよこいつらという空気が流れるも、昔からの二人を知っている団員は

終始笑いをこらえながら見ていた。


「じゃあやりますよ、ペン、ペンね?」

「おねがいします・・・スゥーー」


ウーノはカスミンの頬をすばやく往復ビンタをする

「うっ!」


「じゃあ、これで帰りますんで・・・」

「くぅぅぅぅぅぅ・・・・・」



こうして三人は謁見の間を後にした。

王侯騎士団の要塞を出ると、駐屯所の敷地内にあるものを発見した。


「ちょっと見て!マッカズあるじゃん!!」

マリエラは指を指して近寄る。


この施設内は騎士団管轄ではあるが、本来はダンジョンの地下四層にあたる場所であり。

そう簡単に地上に戻れる場所ではない、しかし、団員の士気向上のためにと地上でよく目にするファストフード店やコンビニなどは敷地内の騎士団員限定ではあるが出店が許されている。


「よく見ると他にも色んなお店あるじゃん!」

「まあ、ダンジョンの天井ぶち抜いてるからな、飛竜とかに運ばせれば物や人は運べるし・・・というか、王侯騎士団専用の転移装置とかあるんじゃないのか?」


「ええー!それってずるくない!?それじゃあそれ使えば簡単にダンジョンの下層にいけるじゃん!」


「まあ、一般の冒険者には開放しないって点ではだが、別に冒険目的で騎士団はここに来てるわけじゃないからな」


「とりあえず、おなかすいた・・・ウーノ、マッカズ入ろう・・・」

メイリンに促されると、三人は1日ぶりの食事をするために、ファストフード店マッカズに入った。



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