第6話 強襲ダイアウルフ

ミゴチの配信を見てほどよく眠くなった三人は動画視聴を止めて寝ることにした。

どのくらい眠りこけていただろうか、カリガリカリガリという音が

樹木の下辺りから聞こえてくるところでマリエラは目が覚めた。


「ん?なによ?」

暗がりでよくわからなかった

こういうときはスマホのライト機能をつけて下を照らした

すると・・・


「グルルルr」


樹木に爪を立てながら、ゆっくりと登ろうとしてくるダイアウルフがそこにはいた


「ギャアアアアアアアアアアアア」

慌てて大声を上げたマリエラ、何事かと起きる二人

そしてマリエラは驚いた反動で樹木から落っこちてしまった


ズチャン!


幸い下は沼地なので落ちても衝撃は吸収された

しかし、辺りには・・・


「グルルルル」

「ウウウウ ワオオオオオオン」


何匹いるかは確認はできないが、いつの間にかダイアウルフの群れにこの樹木は取り囲まれていた。

「嘘でしょ・・・」

泥まみれになるマリエラ、すると、先程まで樹木に登ろうとしていたダイアウルフが

マリエラめがけ飛びかかってきたのだった。


「あぶねぇ!マリエラ!!」

飛びかかるダイアウルをからマリエラを救うため、ウーノもまた飛び出した

間一髪マリエラをかばい、ダイアウルフの攻撃から守ることは出来た。


「ありがとう、ウーノ!」

「いいから気を抜くな!」


すると上から

「これ使って!」とメイリンがマリエラの杖を下に投げた

マリエラは杖を掴むと杖を突き出して先程襲いかかったダイアウルフに向ける

しかし、ダイアウルフは早かった


まずい!呪文が間に合わない!

この近距離で飛びかかられればマリエラの攻撃呪文はでは間に合わない

「よけろ!マリエラ!!」

そう叫ぶも、ダイアウルフはすでにマリエラの首元めがけ飛びかかっていた


ズザシュン


血管が切れ、血が吹き出す音が聞こえた


あっ・・・終わった・・・マリエラを助けることが出来なかった。


「マリエラアアアアア!!」

ウーノは叫び、倒れるマリエラの元に駆け寄った

しかし、そこに倒れていたのは・・・


首を切断されたダイアウルフの死体だった。


「うるさいわね、いちいち叫ばないで・・・」


声のする方に目をやると、マリエラが立っていた

マリエラは目をつぶり、神経を集中させながら杖を構える。


「お、おまえどうやって・・・」


「しっ!三匹向かってきてる」

そう言うと、暗がりから三匹のダイアウルフが飛び出してきた

万事休すか!と思いきや、再びダイアウルフの体は無残にも切り刻まれてしまった。


まだいる。

まだ私達の周りを大勢の群れが取り囲んでる・・・。

そう感じるマリエラは、一歩、また一歩と前に歩む。


そして杖を構えながら、ふーーーと深く息を吐く。


ヒタ・・・ヒタと沼地を歩く音が幾重にも聞こえてくる。

だが相手は様子を見ている


先程までの仲間が斬り殺された事を警戒してか、ダイアウルフも攻めあぐねている。

均衡を崩すならここしかないと踏んだマリエラは、群れの中枢に目星をつけ

そこに向かって走っていく。


足は沼地にとられ、ズボズボと音を立てる

とても走っているようには見えない。


すると、マリエラの周りで様子を見ていたダイアウルフがマリエラめがけて向かってくる

今度は背後からだ。


マリエラの後ろから2匹、そしてそれに合わせて正面からも2匹

完全に囲まれていた。


「こいよ、獣」


そう呟くとマリエラは杖を握りしめた、そして・・・


一瞬の光が弧を描き輝いた。

マリエラの周りには、力なく崩れ落ちるダイアウルフ4匹の死体が転がっていた。


「アオオオオオオン」

この様子を見た群れのリーダーは、直ぐに仲間に引くことを命じた。

リーダーの遠吠えを合図に、三人を取り囲んでいた殺気は消えていった・・・。


「マリエラ・・・おまえその杖・・・」

マリエラの杖は魔術師が使う魔術用の杖ではなかった。

それは、仕込み杖

刀が隠されていた仕込み杖だった。


「もう獣は去った、大丈夫だ・・・ふう」

マリエラも緊張の糸が解けて、文字通り杖を突きながら歩いてくる。


「だ、大丈夫か?」

「なんとかね・・・」


「マリエラ、お前魔術師じゃなかったのかよ?」

魔術師よ・・・まだ魔術なんてロクに使えないわよ」




剣聖マリエラ


東の大陸に面する北の国とのはざまに位置する、エルフの森に、剣の天才が居た。

エルフはあまり鉄の剣を使う事はないが、東の大陸のエルフは違っていた。

剣を極めしエルフの族長は、自身の剣技の全て一人のエルフに教え込んだのだ。


その剣技を教わったエルフの少女はやがて森を出奔し

東の大陸へと向かった。


やがてその名声はエルフの森、強いてはその周辺に、そして東の大陸に響き渡る。


だが、少女には悩みがあった。


「せっかくエルフに生まれたのに魔術の一つも使えないなんて・・・」

これが世間のエルフの仲間たちが少女に向けた視線だった。


彼女の人生において、剣の名誉はエルフにとっては重要なことではなかった。

その事を悟った彼女は、いつしか剣をとるのをやめ

普通のエルフになってみようと決意し、魔術の路に歩むのだった・・・。



「剣聖マリエラ、聞いたことない?ウーノ?」

メイリンは得意げに言う

まるで自分のことかのように


「もうやめてよメイリン、その名前で言うの」

マリエラは恥ずかしがりながらメイリンに言う


剣聖マリエラ、東の大陸に現れたエルフの剣士か・・・

そうか、だからか・・・ダンキで剣について詳しかったのは

名前は聞いたことある、だが、戦場で会うことはなかったろう

剣聖の名が轟く頃には俺もう既に・・・


「あれ?ウーノ?」

「どうしたのウーノ?」


ウーノは前のめりに倒れ込んだ

彼の背中にはマリエラをかばった際にできたダイアウルフの牙によって綺麗に斬られていた。


「えっ・・・ウーノ?ウーノ!」




気がつくと俺は樹木のハンモックで寝ていた

だが、ユルユラとそしてドシンドシンと動いていた

よく見ると、樹木が移動していた。


はて、これはどういうことだろうか・・・

すると、チャポン チャポンとう音も聞こえてきた


「あっ 気がついたねウーノ」


「メイリン・・・樹木が動いてる・・・」


「ごめんね、揺れるから起きちゃうよね」


それもそうだが、時々チャポンチャポンという音が聞こえていた

すると、樹木の上で釣り竿を投げているマリエラが見えた。


「マリエラは何してるんだ?」

「あれはね、この木を誘導させてるの」


誘導?どういうことだ?


「あのね、ダイアウルフを見て気づいたんだけどね。」


メイリンはダイアウルフに囲まれている時、あることに気づいた

それは、ダイアウルフが動いている時、樹木が反応しだしたのだ。


なぜダイアウルフに反応したのか?メイリンは観察を続けた

するとある事に気がついた。


ダイアウルフは沼地の水面を走りだすとチャポンと音を立てて揺れだした

そしてその水面の揺れを感じて樹木が動いているのではないかと。


そしてメイリンはスマホを取り出し、このダンジョンの樹木について書かれている

wikiを見つけた。


『このダンジョンの階層に住むダイアウルフは沼地をさっそうと移動するために

足の裏に自然の祝福による加護を受けている。

モンスターは時折自然の力を身につける種が多くいる。』

ダイアウルフは沼地を歩くための加護を身に着けていたのだった。


ただ静かに移動する場合は水面に揺れは起きないが、勢いよく飛び出せば水面が揺れる

その水面の揺れを樹木は感知して動いているのだ。


なぜ樹木はそれに反応するのか、それはダイアウルフが水面を揺らす時

それは狩りをするときだからだ、ダイアウルフが仕留めた獲物の残骸から栄養を獲るため樹木は動いているのだと。


「って書いてあったんだよね。」


へーー、wikiってそんなことまで書いてあんだなー。


「それで、沼地の水面を揺らせばそれに樹木が反応するんじゃないかって」

「それでマリエラは釣り竿を木の上からチャポンチャポンしてるわけね・・・」


背中の傷は二人が手当してくれたのか、少し痛むがまあこの分なら大丈夫だろう。


しばらくの間は樹木に乗りながら移動する

これなら当分は安全だろう。


そう思うと、俺は再び眠りに落ちていった。

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