第5話 暗い穴の沼で見るVチューバーの配信は最高だな

直径100mを超える巨大な穴を前に、三人は穴の底を覗き込んでいた

わずかに天井からの光が穴を少し照らしているが

それでも穴の底は暗く見ることは出来なかった。


「さあ、この穴を降りるわけだが・・・メイリン、持ってきたよな?」

「もちろん、みんなの分ダンキで買ってきた」


メイリンはマジックカバンからゴソゴソとなにかを取り出す

取り出したのは・・・


「でっかい合成ソーセージ」

「せんきゅー」


500ミリペットボトルくらいの大きさのソーセージを

それぞれに渡すメイリン


「ね、ねえメイリン?このソーセージどうするの?まさかここで食事するの?」

マリエラが困惑しながら尋ねると、ウーノはこのソーセージの梱包を口で外すと

「食うのは俺達じゃねぇよ、とりあえずマリエラも外しとけ」


よくわからないが、言われるがままソーセージをの梱包を剥く

しばらくすると、何かの気配を感じた。


「おっ、来たぞ」

ウーノが穴の周りから何かが来るの見つけた。


穴から這い出てきたのは、大きさにして2mは超える巨大なクモだった。

しかも出てきたのは3匹。巨大なクモが三人の前に現れた


「いやあああああああああああああああ」

マリエラは杖を手に取るとクモに向かって突き出す

「お、おいやめろ!」

「ダメ!マリエラ落ち着いて!」


「モンスター!モンスター!クモ、クモオオオオオ」

落ち着けとなんとかなだめるウーノとメイリン


しばらく奇声をあげて取り乱すマリエラ

ようやく落ち着いたころ、ウーノが説明する

「いいかマリエラ、このクモは敵じゃない」


この大穴から這い出てきた巨大クモは

もともとは下の層に住んでいたモンスターであったが

何かと冒険者達に遭遇するたびに次第に人間に慣れていき

いつしか冒険者地に餌付けされてこの大穴周辺で

冒険者から餌をもらうために住み着いた大蜘蛛達なのである。


「だからこいつらに敵意はない、こいつらはこのソーセージが食いたくて来ただけだ」

クモたちは8つの目を輝かせウーノ達を見つめている

餌くれるの?くれるの?と言わんばかりである


「というわけだから安心しろマリエラ、わかったか?」

「・・・退治しなきゃ・・・害虫を」

「だからチゲーって言ってんだろ!あとクモは益虫だ!」


「そ、それで・・・このモンスターをどうするつもりよ?」

とりあえず落ち着きを取り戻したマリエラはウーノに尋ねる。


「ああ、このクモに乗ってこの穴を降りる」



それからマリエラを説得すること2時間

ようやくマリエラを納得させクモに乗ることにした。


「おねがい、メイリン、私を気絶させて・・・それか殺して、下についたら生き返らせて」

「そんなに嫌わなくても、この子たちかわいいよ?」


「かわいくない」

「おいそうにソーセージたべてるよ」

「たべてない!」

「いや食べてるだろ!」

ウーノが突っ込む


「なあマリエラ、別にこいつらは襲ってきたりはしない、安全だ。」

「しかもお腹と足に毛が生えててそれがフサフサでかわいい」


「そのフサフサの毛が最悪なのよおおおおおおお」


とりあえずマリエラの口を布で塞ぎ

クモに糸を出してもらい、マリエラを縛り強引に担ぐようにして

大クモの背中にのる3人


「はぁーなんのために有料アプリ使ってここまで来たのに、なんでこんなことで足止めされなきゃなんねーんだよ」

「でも時間かけてここまできてもマリエラはここでゴネるはず」

メイリンの言うこともそうだ、まあ最初から時間かかるところを短縮できたことは

出来たんだ、ここからの巻き返しを計ればいい。


「それじゃあさっそくクモのエレベーターで出発ー!」

「おー!」

「ンーー!ンーーーー!!ンンンンンン!!!」




クモはお尻から糸を垂らしゆっくりと穴を降りていく

下へと降りるにつれてどんどん暗くなる。

そして穴の底からは、土のくさい臭いが広がってくる


ウーノは臭いが鼻につくため眉をしかめる

メイリンはクモのフサフサのお腹に顔を埋めながら降下を楽しんでいる

マリエラは気絶していた。


こうして三人たちはダンジョンの2層へと降り立つのであった。



第二層 足引き沼地のダンジョン


地下に広がる大洞窟、高さは上の層よりあり、天井には特殊な苔が生えており

それはほのかに光っていた。

言ってしまえばこの層は永遠の夜空である。

そう言われれば少しは良さそうに感じるが、辺りを漂うは土の腐った臭いが漂う。


そう、ここは広大な沼地が広がっている。

迷宮は外側から中央を目指すが、沼地は逆になり中央から外側を目指す。


我々が目指すは沼の北側、沼地を歩いていけば今日の夜中、もしくは明日の朝には北側へと着くはずだ。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


「出して・・・」

「あのさあ、マリエラ・・・」

「出せ」


マリエラは沼地にズボッと嵌っていた。

下半身は膝上まで浸かり、徐々に沈んでいく


「早く引き上げて!!沈む!沈んじゃう!!」

「なんでいきなりお前は飛び出すんだよ!」

「うるせーよ!!気がついたら目の前にクモいたんだから逃げるに決まってるだろ!」

「だから敵じゃねーって何回も言ってんだろ!」


沼地のダンジョンについたマリエラは目が覚めた時に、大クモの顔を間近で見てしまった

それに気が動転して沼地を走り出してしまった。


「おねがい!このままじゃ底なし沼に嵌って死んじゃう!!」

「別に底なしじゃねーよ、まあハマると動けねーけど」

「いいから出してー!お願いー!」


叫びながら懇願するマリエラ、それとは反対にメイリンは落ち着きながら呪文を唱えていた。


メイリンは杖で自身の足を軽く叩くと、まるで沼地の上を滑るように

沈むことなく歩くことができた。


「いまたすける」

メイリンはマリエラの沈んでいる足に杖を当てるとマリエラの体は

ぴょんと吐き出されるように飛び出してきた。


「ひゃ!」

勢いよく飛び出され尻もちをつくマリエラ、しかし


「あれ?沈まない・・・なんで?」

よく見ると沼の表面がマリエラを避けるようにして広がっていた

そしてうっすらとだが、マリエラは沼地の表面を浮いていた。


「じゅじゅちゅ」

「えっ?なんて?」

「・・・じゅじゅつ」


これは呪術師のメイリンが為せる技

5大元素のうち、土に嫌われる呪いをかけることで

沼地から嫌われ、体が沼に触れることがなくなるのだ。


「メイリン、俺にもかけてくれー」


ウーノにも呪いをかけ、三人は沼地を突き進むのだった。



沼地は常に真夜中のように暗い。当たり前だがここは地下世界なのだ

日の光は届かない、しかし、怪しい植物はは生えている


天井には苔がはえそれが光、星空のようであった

うっすらと空の光が届く沼地は、細長い根を足のようにして立ち上がる樹木が

群生していたりもする。


天に輝く大きな光の苔が方角を示してくれている。

三人はその星の輝きを目指し、北へと向かって歩くのだった。


「ねえ、さっきからさあ・・・木が動いてるように見えるんだけど」

「見えるんじゃない、動いてるんだよ」


樹木は沼地を歩き移動する、そして樹木は徐々にであるが三人の周りに集まってくる。

「まるで森の中を歩いてるみたいだな・・・」


「ね、ねえ大丈夫なの?襲ってこないの?」

「襲ってはこねーよ、まあ俺たちが死んだらその養分吸いたいから集まってるんだろうけど」


「ちょっと!」

マリエラ声を荒げた

すると、三人の周りに集まってきた樹木が、徐々に彼らを囲んでくる


「ほら!やっぱり私達を襲おうとしてる!」

「だいじょうぶ、樹木はおそってこない」

メイリンがなだめる


「なあ、メイリン今って何時だ?」

スマホを取り出し時間を確認するメイリン


「夜の8時」


そっか・・・結構歩いたのにまだそんな時間か・・・

考えてみれば今日はダンジョンをソロ攻略して、それから直ぐに

ダンジョンに潜ったから、全然休めてないんだよな・・・

まあ、マリエラを上の階でなだめてたからその分時間とられてるから

でも・・・その分休めてはいるか・・・


気がつくと足取りも重く、疲労感がどっと乗っかってくる気がした

そして、足は沼に引き込まれるかのように重くなっていく・・・


「えっ、足が重い?」


気がつくと足がふくらはぎまで沼に浸かっていた。


「ウーノごめん、呪術の効果が切れてきてる」

「ちょっ、ちょっとどうするのこれ、また沈んじゃうの!?」


「メイリン、呪文の掛け直しを」

「だめ、これは呪いだから、呪いを連続でかけるのは良くない・・・」


そうか、仕方がない

今日は十分進めたほうだ、今日はここが潮時だろう

「わかった、みんな今日は一旦ここで休もう」


その提案に、メイリンもマリエラも承諾した。



沼地での休み方は簡単だ。

寄ってきた樹木に捕まり、彼らの上で休めばいい。


なるべく大きな樹木を見てけて三人で一緒に枝の上に腰掛ける。

もってきた寝袋を紐で縛り、枝にくくりつけハンモック代わりにする。

足についた泥を洗い流すために、あえて沼地の泥を救いそこに呪いをかける

それは土が嫌われる呪いを水にかけることで、そこには泥が抜けた水だけが残るのだ。


その水で洗うと、泥はキレイに落ちていく

そして枝の上で三人はそれぞれハンモックにぶら下がるのだった。


「とりあえず明日は早めに起きることにしよう、なるはやで・・・」

「わかったアラームかけておく」

「りょ」


本来なら食事を取りたいのだが、この沼地に漂う悪臭にやられ

食欲が一向にわかない・・・

せめて何か口に入れようと思うが、やはり手は動かない


水はかろうじて飲めるが、それでも体力が回復できるかは運だろう。


このまま寝ようにも、本来ならまだ寝る時間には早い

まだ微妙に目が冴えている。食事でもして腹が膨れてれば寝れるのかもしれないが

腹は空かないし・・・


ウーノはうなだれるように目をつぶっていると、何やらにぎやかな音がかすかに聞こえてくる


どうやら二人のスマホから流れてくる音だった

「えっ?何してんの?」

「配信見てる」

「同じく」


二人が見ているのがなにか尋ねると

「わたしはホラライブのミゴチの配信見てる」

「あっ私も」


「ミゴチすき」

「みごちおもしろいよねぇ」


メイリンとマリエラは二人して言う


「おっ、俺も・・・」


「俺も35Pなんですけどおおおおおおおお!!!」


そう言って三人でミゴチがマグマに落ちてあちゅあちゅする配信を見た

今日一日の疲れが取れたようだった

ありがとう、みごち・・・スマホ取り戻したらスパチャ投げるからね・・・



「あちゅあちゅあちゅう ああああ全ロスしたにぇ!!」

暗い沼地にVチューバーの悲痛な叫びがこだました。

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