⑥
「もーしもーし! 葵、大丈夫?」
椿さんに呼ばれ、私は現実へと、高校一年生の私へと戻って来た。
「あははっ! なんだか、考え事をしていたみたいだね」
「……ええ、少し、昔を思い出しまして」
「昔、ねぇ」
そう、昔の話だ。一人の埒外の存在が、ただの男の子に救われるという、そんな話。
一時期、竜兵さんの事を、自分と同じような能力者だと疑った事もあった。自分と似たような境遇なのではないかと、疑った事もある。もしそうであれば、自分の懊悩を分かち合える存在になってくれるのではないかと、期待していた。
でも、そうではなかった。彼は、ただの普通の人間だ。それを知り、やはり自分の様な存在はこの世で独りしかいないんだと、絶望したこともあった。でも、その絶望はもう、越えていけるものだと、竜兵さんが教えてくれている。
そう、私は私の世界を、救うことが出来るのだ。私の両親が、願ったように。それは、竜兵さんが傍に居てくれる限り続くだろう。
いや、私が竜兵さんの傍に居ようと、誓ったのだ。思えばあの日、帰り際に竜兵さんを引き留めたのは、私のファインプレーだったと思う。流石に墓デートは実現しなかったが、あそこで接点がなくなっていたら、今の私たちの、朝昼夕探偵団の結成はなかったのだから。
「なんだか難しく考えてるみたいだけど、空回りしてない? 竜兵は、ちゃんと葵の事も追いかけてくれると思うよ?」
「……だと、いいのですけれど」
そう言いながら、私は私以外の埒外へ視線を送る。
竜兵さんが私のかけがえのない存在である事は、当然のことだ。
一方で、椿さんは、得られないと思っていた、埒外の存在である。椿さんの力を私も理解できないが、私の力を、神通力を椿さんが理解できない。油断ならない相手ではあるあるのだが、同じような特殊な力を持つ者同士でもあるのだ。
誰にも理解される事のない、埒外と埒外。独りと独り。ひょっとしたら、竜兵さんと出会う前に、もし私と椿さんが出会っていれば、共犯と言う歪んだ関係ではなく、親友の様な関係になれたのではないだろうか? と、そんな事を思ったりもする。
しかし、現実はそうはならなかった。それは所詮、詮無き事である。
「それじゃ、ボクは伝える事は伝えたから、明日はよろしくね!」
そう言って椿さんは顔の表情を取り戻し、教室から去っていった。
私も、コップの中の紅茶は、もうなくなっている。そして待ち人は、今日は来ない事が確定していた。ならば、私だけが一人、ここで待ちぼうけを食らう理由はないだろう。
帰り支度を済ませると、明日の朝竜兵さんに会えるのを楽しみにしながら、私は自分の教室を後にした。
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