②
翌朝、俺たちがパトカーで降ろされたのは、ある一軒家。そこに降ろされて、俺は少し驚いていた。犯行現場が一軒家だと聞いていたので、塀に囲まれ、瓦屋根の家を勝手に想像していたのだ。しかし、俺の眼前に建つ建物は、立派な洋館だった。一階建てだが、俺には威圧的に感じる。
俺以外の朝昼夕探偵団のメンバーは、洋館だろうが日本家屋だろうがやる事は関係ないと言わんばかりに、今日立ち会ってくれる刑事の後ろに続いていた。その後に続こうとした所で、パトカーを運転していた警察官が俺に向かって声をかけて来た。
「お父様に、よろしくお伝えください」
「……わかりました」
一礼して、俺は他の二人の後を追う。苦みを噛み潰し、飲み込むように俺は足を動かした。家に入ると、まず洋館の応接室に通される。応接室には良く磨かれた木目調の机、そして深茶色の革で出来た重厚な椅子が並べられていた。椅子の数は六つで、その内三つは、不機嫌そうな顔をした人たちで埋められている。
この人たちが、今回の事件の容疑者だ。彼らを囲むように、制服を着た警察官が壁際に四人、立っている。
「ちょっとぉ、こんな朝早くに、何なのよぉ」
三人の不満を代弁する様に、俺から見て右端に座る女性が舌足らずな口調でそう言った。彼女は全身ブランドもので身を固め、甘ったるい香水の匂いを周りに振りまいている。俺たちがここへやって来る途中、パトカーの中で聞いた外見と一致していた。彼女の名前は確か、古岡 志野(ふるおか しの)だったはずだ。
「あたしぃ、知ってることわぁ、ぜぇんぶ喋ったんだけどぉ」
「……古岡さんに同意するのは癪ですが、あたくしも同意見でございます」
そう言ったのは、真ん中の席に座る、上品な着物を着た眉雪の女性。女性なら誰しも、年を取るならかくありたいと思えるような、品を持つこの女性はきっと、濵口 沙代子(はまぐち さよこ)。今回の事件の被害者、濵口 貴英(はまぐち たかひで)の妻だ。聞いた話によれば、濱口夫人は夫想いの良妻として近所では評判らしい。
「必要な事は、もう警察署でお話させて頂いたかと。夫の無念を晴らすためなら、あたくし、知ってる事は全てお話させて頂きますし、協力もさせて頂きます。ええ、それがたとえ、探偵団なんていうよくわからない、それも高校生の集まりであっても。ですが――」
濵口夫人はそう言うと、鋭い目つきで古岡さんの方を睨み付けた。
「朝からこの下品な人と一緒に居るのは、どうにもがまんなりませんっ!」
一方、古岡さんはと言うと、濱口夫人の視線を鬱陶し気に見た後、あからさまに舌打ちをした。一触即発の気配が漂った瞬間、最後の容疑者、左側に座っていた男性が、冷汗をかきながら立ち上がる。
「ち、ちょっと! お二人ともっ! け、警察の人の前ですよ? 落ち着いてください」
気弱でひ弱そうに見えるのが、久利 芳紀(くり よしのり)。よれよれのスーツ姿の彼は言いづらそうにしながら、俺たちの方へちらちらと視線を送って来る。
「そ、それに、よくわからないだなんて。確かに僕も朝昼夕探偵団なんて聞いたことないですけど、そんな――」
「いえ、そういった反応は慣れてますから」
朝昼夕探偵団が活動するのは、基本的に警察官のオヤジから依頼があった時だけだ。今まで事件を解決してきた実績はあるが、それはあくまで警察内に閉じられており、公にされる事はない。そのため、突然探偵団の活動の為に集まってくれと言われた事件の容疑者たちからは、毎回胡散臭そうな目で見られ、そして非難の感情を向けられる。濱口夫人も、協力すると言ったのは口だけで、口調ははっきりと拒絶を示していた。
だから俺も、彼らを見ながらはっきりとこう、口にする。
「大丈夫です。俺たちが必ず、今日中、夕方までには事件を解決します。それまでお手数ですが、少々お付き合いください」
断言した俺を、容疑者たちは驚きと嘲りの表情で見つめていた。濱口夫人が、最初に身を乗り出す。
「そんなこと無理に――」
「ではまず、今回の事件の概要を振り返ってみましょう。間違っていたら指摘してください、刑事さん」
「わかりました!」
刑事、そして壁際に立つ警察四人が、俺に向かって敬礼する。今度は容疑者たちの顔が、純粋な驚愕の色に染められた。それを見て、毎度のことながら、俺は内心溜息を付く。
この場の主導権が、本当に高校生である俺たち、朝昼夕探偵団にあるという事を容疑者たちに知らしめるために必要な手順だと、理解はしている。してはいるが、毎回毎回このタイミングで、俺の脳裏には親の七光りと言う単語が一瞬、ゲシュタルト崩壊する程溢れ出すのだ。まぁ、それを言うのであれば、この朝昼夕探偵団の活動自体、その七光りの後光のおかげで成り立っていると言えるのだが、それを今論じていても仕方がない。
俺は気を取り直すように咳払いをすると、予め暗記していた内容を口にする。頭の中に詰め込んだ荷物を、丁寧に取り出す様に。
「今回の被害者は、濵口貴英さん。この付近の大学の教授として長年勤務され、数年前から総合化学メーカーであるポニーケミカルカンパニーの製品開発にも協力されていた。そうですね? 濵口沙代子さん」
「え、ええ、そうです」
濱口夫人は、慌てた様に頷いた。
ポニーケミカルカンパニーは、マスコットのデフォルメされたピンク色のポニーが目印の化学メーカーで、格安のサランラップがヒットしたのを足掛かりに、業績を伸ばしていた企業だ。このサランラップは、安いのに密着率が高く、それでいて剥がしやすい事が主婦に受け、ヒット商品になったという。最近では大学研究機関向けの研究開発に力を入れていたと聞いているが、その協力者の一人が、今回の被害者だったというわけだ。
「夫は研究の傍ら、ポニーケミカルカンパニーと一緒に、その、何とかという機械を作っておりましたわ」
「機械じゃなくて、『エアージェネレーター』よぉ、お・ば・さ・ん」
古岡さんが馬鹿にするように、そう言った。
「今はそれを改良した『ネオエアージェネレーター』をあたしぃたちは頑張って売ってるんだけど、ぶっちゃけ、上手くいってない、って、その辺りは、おばさんにはわからないかぁ。掃除機も炊飯器も洗濯機も、ぜぇんぶぅ機械に見えるんだよねぇ。ダメよぉ? 旦那のやってる事ぐらい把握しとかなきゃぁ。じゃないと、どこでヤッてるかわかんないじゃなぁい?」
「この――」
「ぼ、僕と古岡さんはポニーケミカルカンパニーの営業で、度々に濱口先生のこの自宅に伺って、『ネオエアージェネレーター』についてご意見を頂いていたんです! ま、まぁ、毎回持ち運びは、僕の仕事でしたが……」
濱口夫人が立ち上がる前に、久利さんが慌てて立ち上がってそう言った。しかし、掻き消えた濱口夫人の声を、俺の耳は確かに拾っている。
彼女の口は、泥棒猫と、そう言っていた。
他の人に何かを言われる前にと、堰を切ったように久利さんは言葉を紡ぎ続ける。
「ね、『ネオエアージェネレーター』っていうのは、任意の化学物質を気体として生み出せる、実験の補助装置の様なものなんだ。き、君たちも理科の実験で水上置換法とか、下方置換法とかやらなかったかい?」
「あははっ! そう言えばそんなのもやったっけ?」
すると突然、俺の隣で声が聞こえる。見ると、朝昼夕探偵団のメンバー、昼顔 椿(ひるがお つばき)が嬉しそうに俺の背中を叩いていた。
「水の中に瓶を突っ込んで、化学反応を起こして発生させた気体を集めたんだよね? 竜兵。ああ、懐かしいなぁ」
学校指定の男物のブレザーを着た椿を、同じく学校指定のセーラー服を着た葵が俺から引き剥がすように引っ張っていく。
「ちょっと、椿さん! 竜兵さんの推理を邪魔してはいけませんっ!」
その言葉に、俺は心臓を氷柱で刺し貫かれた様な衝撃に襲われる。
「何だい? 葵。やいているのか?」
「だ、誰がですか!」
「で、どっちに?」
「だから、誰がですかっ!」
二人のやり取りを尻目に、俺は暗い思考へと沈んでいく。
俺の推理を邪魔してはいけない。
それはつまり、自分の推理は、犯人が誰なのか(Who done it)の担当、朝比奈葵の推理は終わっているという事なのだろうか? 事件についての情報量は、俺と同じパトカーの中で聞いた分しかないはずなのに。
残念ながら、今の俺には何の閃きもない。俺の担当分の推理は、まだ完了していない。この時点で、犯行動機(Why done it)の検討なんて、全くついてはいなかった。俺の胸中に、焦燥感が募っていく。
なら、もう一人、俺以外の朝昼夕探偵団のメンバー、椿の推理の状況はどうなっているのかと横目で見ると、それと同時に古岡さんが口を開いていた。
「あらぁ、きみぃ、イケメンねぇ。年上のおねぇさんとかきょーみなぁいぃ?」
「あ、あははは……」
椿の笑顔が、ぎこちなく歪む。まぁ、それも仕方ない事なのかもしれない。
俺は頭の中を切り替えるために、小さく首を振る。しっかりしろ、俺。葵が天才である事は、既に知っていたはずだ。だから俺も、必死になって考えろ。そうしなければ、俺はこの天才のように真実にたどり着けないのだから。一歩で踏破できない道のりなら、万歩歩いて辿り着くしかない。
俺は久利さんへと話しかけた。
「二酸化炭素は、水上置換法でも、下方置換法でも集められるんでしたっけ?」
「え、ええ。水に溶けにくく、空気より重いですから。水素は水に溶けにくく、空気より軽いので、水上置換法か、上方置換法で集められます。で、でも普通、水に溶けにくい気体は、水上置換法で集めるのが普通ですね」
「では、一酸化炭素を集めるのも、普通水上置換法なんですか?」
「え? え、ええ、そうですが。それが何か?」
「いえ、濵口貴英さんの死因は、一酸化炭素中毒だったものですから」
そう俺が言い終わるよりも少し早く、濱口夫人が勢いよく立ち上がっていた。そして古岡さんを指差し、ヒステリックな声を上げる。
「やっぱりこいつよ! この売女が、その何とかって機械で夫を殺したのよっ!」
「……いい加減にしないとぉ、名誉棄損で訴えるわよぉ?」
「なですってぇぇぇえええっ!」
「お、落ち着てください奥さんっ!」
今にも古岡さんに飛びかかろうとしていた濱口夫人を、久利さんと控えていた警察官が押しとどめる。喚く濱口夫人を落ちつけようと、久利さんが彼女の振り上げた腕を押さえながら口を開いた。
「だ、駄目なんですよ、奥さん! 『ネオエアージェネレーター』では確かに、一酸化炭素も生成できます。で、でも濱口先生の書斎にある『ネオエアージェネレーター』だけでは、死亡推定時刻がおかしなことになるんです!」
そう、そうなのだ。今回の事件は、そんな簡単なものではない。そんな簡単な事件であれば、オヤジが俺たち、朝昼夕探偵団に事件解決の依頼をする事はないのだ。
久利さんが、この事件の不可解さを、改めて興奮冷めやらぬ濱口夫人へ説明する。
「じ、事件当日、僕と古岡さんは、『ネオエアージェネレーター』を持ってこのお宅へお邪魔しました。ぼ、僕が『ネオエアージェネレーター』を持って事件のあった先生の書斎へ、奥さんに入れて頂いたお茶を預かって移動しました。その間、古岡さんと奥さんは、この応接室にいらっしゃいました。そ、そして僕と話して疲れた先生は眠ってしまい――」
「……そう、そうね。あなたがこの女に電話をして、あたくしたちを書斎に呼んだ。そして、見たのよ」
濱口夫人がこの女と言ったのは、もちろん古岡さんの事だ。その濱口夫人からあの女呼ばわりされた古岡さんが、今度は噛みつくことなく、当時を思い出すように言葉を作る。
「……あの時、せんせーは、普通に寝ていた」
「そ、そうです。あの時先生は、確かに生きてました!」
「そうね。久利さんが私たちが書斎に入った後すぐに扉を閉めて、あたくし、夫が寝ているのを確かめました」
「確かめたっていうかぁ、あれだけ大きないびきしてたら、誰も死んでるなんて思わないでしょぉ? 久利も、『ネオエアージェネレーター』を入れてたスーツケースみたいな鞄、ちょっと離れた所でいじってたけど、聞こえてたでしょぉ?」
「え、ええ、聞こえてましたよ。そ、そして何より――」
書斎の窓は、開いていた。そして先生は、窓の近くで寝ていた。
久利さんの言葉に、他の二人も頷く。
そう。それが、この事件の最大の不可解な点。一酸化炭素中毒は、酸素よりもヘモグロビンと結合しやすい一酸化炭素が原因で起こる。酸素を血液に取り込むよりも、一酸化炭素を多く取り込んでしまう事で起こる中毒だ。一酸化炭素は当然、空気中に含まれている。しかし通常、一酸化炭素の量が中毒を起こす量よりも少なければ、中毒は起きない。
わかりやすく言えば、換気などをしていれば、そうそう一酸化炭素中毒になんてならないのだ。
例えばそう、窓を開けて換気をしているとか。
今回の事件現場である、書斎のように。
俺は質問を口にした。
「その後、皆さんはどうされたんですか?」
「せんせーが寝ちゃったら、やる事ないし、帰る事にしたんだけどぉ。久利と一緒に」
「……あたくしも、玄関へお見送りに」
「そ、そうです。玄関から出て、帰宅前に古岡さんが会社へ帰宅の報告をするため、二、三分、一人になりましたけど」
「ほら、ごらんなさい! 犯人は一人しかいませんっ!」
「だぁからぁらぁ、あたしぃじゃないって言ってんでしょ? 大体、せんせーの死亡推定時刻、あたしぃが会社に電話をかけてた時間でしょぉ? あたしぃに犯行、無理じゃなぁいぃ?」
「だからあの機械を使えば――」
「で、ですから、奥さん! 今も先生の部屋に置いてある、事件当日僕らが持ち込んだ『ネオエアージェネレーター』では、古岡さんが電話中に一酸化炭素中毒になる程の一酸化炭素を生成するのは、無理なんです! せ、せめてもう一台あれば、いや、難しいかなぁ。二台あっても、その空間が密閉されているのが前提条件となりますし。書斎の窓が、横すべり出し窓が空いていたら、絶対に出来ないんですよっ!」
他の気体なら、まだ一台で部屋を満たす事は出来るかもしれませんけど、と久利さんは小さく言った。
横すべり出し窓とは、ホテルなどにあるような、窓が斜めに開き、窓が全開にならないようになっている窓の事だ。この横すべり出し窓は、全開に開けれる窓より、換気能力は劣る。それはそうだ。極端な事を言うのであれば、窓をなくした状態に出来る窓と、窓を五分の一だけ開けれる窓、どちらの換気能力が高いか比べるようなものなのだから。答えは自明だろう。
しかし、この横すべり出し窓であっても、今回の事件では換気能力は十分だっと言える。死亡推定時刻は、古岡さんが電話をしていた二、三分の間。三分以内に人間が一酸化炭素中毒になり死亡する条件は、空気中の一酸化炭素が、全体の一・二八パーセントにも膨れ上がる必要がある。ちなみに、二、三時間で軽い頭痛が起きる時の空気中の一酸化炭素の濃度は、0・0二パーセントだ。如何に日常の空気中の一酸化炭素の濃度が低いか、わかるというものだろう。
確かに、あの部屋で一酸化炭素を生成出来る、『ネオエアージェネレーター』は存在していた。
しかし、もし横すべり出し窓が開いている状態で一酸化炭素中毒になるというのなら、その書斎に入った久利さん、濱口夫人、古岡さんに異常が出ていないとおかしいのだ。
だが、この三人は、容疑者たちは無事。そもそも、書斎にある『ネオエアージェネレーター』だけでは一酸化炭素中毒を起こせない。
つまり、今回の事件はこう言う事だ。
本来、中毒が起こるような環境ではないのに。
それでも、濵口貴英は死んだ。
彼だけが、一酸化炭素中毒で。
つまり今回の事件の容疑者として集められた三人は、濵口貴英を生きているのを最後に見た三人なのだ。
その三人が、
「そもそもさぁ、あたしぃを犯人に、無理やりしよぉとしてる人がぁ、一番怪しいぃんじゃないのぉ?」
「……何ですって?」
「そもそもさぁ、おばさん、せんせーが死んでるのに気付いたのぉ、死亡推定時刻の二時間後なんでしょぉ? もし本当ならぁ、どれだけ自分の旦那に興味ないのよぉ。それにこういうのぉ、第一発見者が、一番怪しぃもんじゃない?」
「ち、ちょっと、古岡さん!」
「あ、そう言えばせんせーが死んでるの最初に見つけたのって――」
「……言うに事欠いて、この女はっ!」
警察官に引き離され、濱口夫人と古岡さんが別の部屋へと連れて行かれる。残った容疑者は、何故か申し訳なさそうにしている久利さんだけだ。
「……なんだか、人間関係って難しいですね」
「そ、そうですね……」
高校生の俺に言われたくない台詞だろうが、久利さんは俺の言葉に反応してくれる。気弱そうだが、根は優しい人なのだろう。弱々しい笑みを浮かべながら、彼は言葉を紡ぐ。
「ぼ、僕も付き合っていた人がいて、プロポーズしようと、思ってたんです。でも、その矢先だったんですよ……」
そこから先の話は、それこそ高校生の俺たちにするような話ではないだろう。別の話題を切り出そうとした俺よりも先に、何と葵と椿が身を乗り出していた。
「……それで、お付き合いされていた人と、その後は?」
「あははっ! 気になるねっ!」
こいつら天才なのに馬鹿なのかっ!
あの会話の引き方をしたのであれば、ある程度その結末は楽しい事にならないのは自明だろうに。かくして久利さんの口から零れた言葉は、俺の想像通りのものだった。
「……ふ、振られて、しまいましたよ。も、もう、自分は、あなたには相応しくないって」
「まぁ……」
まぁ、じゃねぇ!
「い、いつも、僕、こうなんです。な、何かしようとした時には、手遅れで……」
「あらぁ……」
あらぁ、じゃねぇっ!
本当に、どうしてくれるんだよ、この空気。俺たちを連れて来てくれた刑事も、すげー驚いた顔してるぞ。
「そ、そろそろ、二人の様子を見に行きますか?」
「そ、そうですね。ぼ、僕も古岡さんたちが心配ですし」
そう言って、久利さんは警察官に連れられて、応接室を後にする。
俺はそれを見送ると、天才(大馬鹿)どもに振り向いた。
「葵と椿は、どうする?」
「……そちらは、お任せします」
「あははっ! ボクらは事件現場でも見て来るよ! いつも通り、葵と二人でねっ!」
「……わかったよ」
朝昼夕探偵団は、分業制と言われている。
犯人は誰なのか(Who done it)推理する、朝比奈葵。
どうやって犯行を行ったのか(How done it)推理する、昼顔椿。
そして、何故犯行に及んだのか(Why done it)推理する、俺、夕城竜兵。
この役割分担の性質上、俺は容疑者から離れるべきではない。いつどこに、犯人の心が、犯行動機が垣間見えるのかわからないからだ。だから俺は、容疑者たちの話を聞く必要がある。
でも、他の二人は違うのだ。
「では竜兵さん。行って参ります」
「あははっ! まった後でねーっ!」
丁寧に一礼する葵と、快活に笑う椿の後姿を見送って、俺はすぐに久利さんたちの後を追った。
がむしゃらにやる以外、足掻き続ける以外、凡人の俺が真実の道を踏破する事は、出来ないのだから。
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