第52話



 私は人型になったフォルネウスとボクシングで戦い始めた。

 フォルネウスはデトロイトというアウトスタイルで攻めてくる!


 私は足のスナップをかせ上体を半分回転させながら小さな左ジャブを連打する! 私のジャブを交わしながらフォルネウスが左フックを放つ! 紙一重かみひとえで私は右手でパーリングをしてなす!


 えぐられるような左フックのひじは高く、それを振り切るような勢いのある右ストレートが飛んでくる! 私は身をかがめて横に逃げる! 即座に対応したフォルネウスから左ジャブを貰う!


 フォルネウスは巨体の割りに細かい動きをして軽快けいかいに足を運ぶ。破壊力のあるフォルネウスの左ジャブをけきれず、私の右頬が歪む! それを受け止めた私は反撃とばかりに、フォルネウスのあごを狙った右ストレートをじ込む!


 そこに合わせるようにフォルネウスから右カウンターで攻撃をされる! 私は残っている左手でフォルネウスにアッパーを繰り出すが、お互いに相手のパンチを浴びて後に吹っ飛ぶ!



 私に入ったのはフォルネウスの鋭い右カウンターだ。左鼻から血がれる。顔がギシギシと痛む。


 フォルネウスは私のアッパーを顎にかすめた。ちゃんと当たれば脳震盪のうしんとうを起こしてKOが出来るのだが、いかんせん威力が足りなかったようだ。


 フォルネウスは口元に流れた血をグローブでぬぐう。フォルネウスの雰囲気が変わる! 今にもわれそうなプレッシャーがかかる!



 やっとやる気が出たようだ。フォルネウスは闘志とうしを燃やしながら私へと突っ込んでくる! 実はインファイターだったのか!



 『インファイター』とは近距離での攻撃に特化したファイターで威力と瞬発力をそなえている。




 私はガードを固める! 両腕も使い口元を守るようにグローブで迎え打つ!

 フォルネウスはジャブとは思えぬ凄まじいパンチを連打する! フォルネウスの威力を殺せずに、私はジリジリと後退する!


 すっかりフォルネウスのリズムに巻き込まれた! 私の背はコーナーにぶつかる! 角に追いやられサンドバッグになっている!



 ――――ちょっとピンチだ!



 左右から様々な角度からフォルネウスのしたたかなパンチが炸裂さくれつする!


 リングコーナーポストが背中に当たる! フォルネウスにタコなぐりをされて私の身体がしなる!



 早くここから脱出だっしゅつしなくては!


 防御ぼうぎょしつつ前に出ないとワンラウンドで勝敗が決まってしまう! そんなことは許されない!



 痛いとか恐いとか執念しゅうねんで負かしてしまえ! こんな雑魚ざこの悪魔なんかに負けてたまるか!


 実はボクシングはしたことがない。私が祖父から学んだのは空手からてとキックボクシングだ。二つの要素ようそがあればボクシングなんて簡単だと思っていた。


 甘く見ていた! ぎゃあ! 助けてえ林檎さあんんん!!!




 いやいや! 甘えるなっっっっ!!!


 私は何でも出来る!

 だから付けでボクシングも出来るのだ!!!


 フォルネウスのわざぬすむのだ!




 私が勇気を振り絞ってコーナーから一歩踏み出すと、そこにたたみかけるような右フックが落ちてくる! 私はそれに体当たりをするようにもう一歩踏み込み、スレスレでわしながら右のフックをお見舞おみまいする!


 私の振り上げた右フックはフォルネウスの鼻先に届く! フォルネウスはひるまない!

 鼻血をかいさず、気のゆるんだ私の顔面にありったけの左ジャブをらわした!


 踏み出した一歩は玉砕ぎょくさいする! 私はまたコーナーでサンドバッグにてる!

 意識が朦朧もうろうとする。キャンバスにしずみそうになるが、それをフォルネウスは許さない!


 ダウンした後に立ち上がる気力をうばうような一方的な暴力。見る見る間に私の顔はれ上がり、自慢じまん視力しりょくも少しぼやけてきた。



 戦う意志いしがボロボロになっていく。



 ガラ空きのボディではなく、必死にグローブで守ろうとする顔面に集中砲火しゅうちゅうほうかだ。

 グローブの隙間すきまからフリッカージャブが飛んでくる。頭が激しくれた。


 薄れる意識の中でホイッスルが聞こえた。

 途方とほうもなく長い三分間だった。



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