第50話



 私と林檎は都市から少し離れた広い公園にいる。空は暗いが三日月が出ている。

 私たちは突如として現れた悪魔たちと戦う羽目はめになる。


 私は鮫男の悪魔のフォルネウスと一戦をまじえる予定だ。実は少し前に一度戦っていたがそれは私の完敗だった。

 再度やってきたチャンスだ。今度はボクシングでスポーツマンシップにのっとりこうから勝負するのだ。


 げんにフォルネウスは人間の姿になってくれた。


 私が考え無しにボクシングと言ったせいで林檎に尻拭しりぬぐいをさせてしまう。

 林檎はフォルネウスの注意を頭上高くに放った美男子の悪魔だったセーレに向けている間に、赤い魔法陣からボクシング用品をぽいぽいと持ち出してくれた。


 引っ張って出した代物しろもの窃盗せっとう……げふんげふん!

 少し拝借したっぽいが見て見ぬ振りをする。

 仕方ない。あとでチャクラで元に戻して返しますからお許し下さい。


 林檎さんの犯罪……げふんげふん! いや林檎さんの迅速じんそくな対応のおかげであっという間にボクシングが出来る環境になった。


 恐るべし花村林檎さん。



 しかし問題が勃発ぼっぱつした。今にでもフォルネウスがセーレの生首をゲットしそうなのだ! 危機的状況! どうやって回避かいひするのか!



 林檎がセーレの生首をぶん投げてから三秒が過ぎた。一息零  こぼしながら林檎が自分の右手の指をパチンッと鳴らした。するとどうだろうか。林檎の左手の上に突然セーレの生首が現れた!




 もう林檎さん。チートですね。


 あ、誤解の無いように付け足すが、ゲームとかで使うチートは『イカサマ』だが人に向かって言うと『有能過ぎる』という解釈かいしゃくだ。




 なんだろう。林檎さんの凄さに私の驚くためのパフォーマンスの引き出しがもうないんですけど。どれだけ林檎の言動に振り回されれば免疫力がつくのだろうか。


 私はアフロヘアーのままでボクシングをするのだ。具志堅用○だ。


 あ、なんか勝てる気がしてきた。



『女あ! 何をしやがった? セーレの首寄越 よこせ!』


「神木くんにボクシングで正攻法せいこうほうでの勝負で勝ったら差し上げます。ボクシング用のグローブもシューズもこちらで準備しました。階級さがありますから、僕は神木くんのセコンドに入ります。良いですね?」


『わかった。づらをかかせてやるぜ』



 当事者の私は置いてけぼりで、いかつい髪型をしたフォルネウスといつものツインテールをした林檎が言葉を交わす。



 あ、椅子いすがないじゃん。


 一分間休憩の時に座る椅子が無かった。この一分間休憩を『インターバル』と呼ぶ。

 スタンディングのままで休憩するのか。頭から氷水をかぶったらずぶ濡れじゃん。それでいいのか?

 足元が滑るだろ?


 スリップした時に『ダウン』と勘違いされたら困るんだけど。





 ボクシングルールを手短に話そう。


 だいたいボクシングは『テンポイントマストシステム』制にする。

 これは『採点判定』などで引き分けにならないためでもある。ドローは余りよくない。


 テンポイントマストシステムとは言葉通りに、どちらかに必ず十ポイントがつく。『ダウン』などすると減点をされる。

 ダウンとはリングの床部分……ボクシングでは『キャンバス』と呼ばれるがそこにしずむとダウンになる。




 ダウンは全試合を通して『三回』してしまうと負けになる。キャンバスに足以外をついてしまうとダウン扱いになる。

 『ダウン』とはキャンバスに倒れてから『テン・カウント以内』に立ち上がり、『ファイティングポーズ』を取ることだ。


 レフェリーが試合続行の許可と合図をくれないと、選手二人は攻撃の開始ができない。





 大事なこと言わせてくれ。

 ラウンド終了の合図であるゴングがなったり、選手がダウンしたり、レフェリーが間に入ったりして、試合を止めた時に攻撃をしてしまうと減点されるか、『失格』になる。




 『ラウンド』とは試合中という意味だ。


 階級や経験によりラウンド数はことなるが今回は規定通りに『四セット行う試合で四回戦』だと思う。


 各ラウンドは『三分』ずつでラウンドとラウンドの間に『インターバル』と言う一分間休憩がある。

 そのインターバルがかなり重要なのだ。『セコンド』にボクシングにも戦いにも詳しい林檎が入ってくれるのだ。絶対に勝つだろう!


 そう思うとフォルネウスとの試合が楽しみでしかない! わくわくする!


 やばい。早くやりたくてうずうずしてきた!




 インターバルで使う椅子がないのでリングのコーナーポストに寄りかかるしかないか。

 コーナーポストは『コーナー』と呼び、ボクシングリングの四隅にある柱のことだ。この柱と柱の間に四本のロープが張ってある。


 コーナーの対局部分で『赤コーナー』と『青コーナー』で別れる。赤コーナーがチャンピオンで青コーナーが挑戦者だ。

 ドローになった場合はチャンピオンの勝利になる。


 今回『テンカウントマストシステム』なのでドローはない。



 ボクシングの試合では『KO』か『判定』で勝負が決まる。


 『KO』はノックアウト。敵の選手から三回のダウンを取るか、一度か二度のダウンで『キャンバスに倒れてからテン・カウント以内に立ち上がり、ファイティングポーズを取る』が出来ない場合は『KO』となる。




 色々まだボクシングルールはあるけど割愛かつあいする。あとで私の意識がはっきりとしていたら解説をしよう。


 試合中は自分で『採点判定』するとか器用なことは出来ないからな。自分で採点判定をしても、『ジャッジ』や『レフェリー』が違う採点判定をしたら、それが決まりだ。


 ジャッジは副審判なので『レフェリー』が勝敗の審判をくだすのだ。



 私とフォルネウスはボクシングの準備をする。リングの外で立ったままで、それぞれボクシングシューズをきバンテージを巻きグローブをはめる。




 あ、忘れてるぞ!!!

 大事なものを忘れてるぞ!



「林檎」


「はい♡ マウスピース♡」


「あ、ありがとう。フォルネウスにも渡したのか?」


「一応渡した。でもフォルネウスはいらないって。鮫の歯は立派だもんね。折れない自信があるみたい。遠慮なく自慢の歯をへし折ってやって」


「ああ。わかった」



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