第47話



 私は鮫男のフォルネウスと死闘をしていた。

 私は渾身こんしんの力でフォルネウスに頭突きをした。

 フォルネウスは吹っ飛び細長い銅像にぶつかった。跡形あとかたも無くなった銅像を払いけながらゆらりと立ち上がる。


 フォルネウスは右肩から先が無かった。私はチャクラを大量に消失した。フォルネウスは右手を失った。しかし他は健在けんざいだ。


 私はチャクラで防御ぼうぎょを固めていたが、無防備だった首がギシギシときしむ。首がめちゃめちゃ痛い。体当たりをしたようなものだからチャクラで強化していなかった部分が激しい痛みをうったえてくる。


 もう頭突きも体当たりも出来ない。今更恐怖で両足が震えてきた。私の全力は鮫男の悪魔のフォルネウスには通用しなかった。

 悪魔なんだし右腕なんて直ぐに生えてくる。私はフォルネウスに完敗した。





 やばい。林檎を連れて逃げないと。



 いや……私はせめてフォルネウスの足留あしどめをしよう。林檎だけはなんとか逃がそう。





 苦痛にゆがむ顔。私は恐れをしずめるために両足の太腿ふとももを殴り付ける! 痛みが恐怖をおさえる。


 あわれむようなさげすむような眼差しで私を眺めるフォルネウス。

 死のにおいが私の身体にまとわりつく!



  ――――フォルネウスが動く!



 私は必死の思いでチャクラをり込む!


 フォルネウスが空間に溶け込む前にらえなくては! 一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくに気をくばる!


 私は神経をり減らし死に物狂いでフォルネウスへと両手をかざす!



『なんだこれ。風の鉄格子てつごうしか。こんなもので我の動きを封じたつもりか?』


「――――林檎っっ、逃げろおおお!!!」



 無我夢中で私は叫んだ!

 林檎の姿は目視できない。しかし気配は感じる! 割りと近くにいるらしい。美男子の悪魔のセーレの禍々まがまがしいオーラが小さくなっている。


 現状を把握はあくする気力も体力ももう残されていない。私はただ集中する。鮫男のフォルネウスを風の結界けっかいの中にとどめることに専念せんねんした。



「神木くん、もう大丈夫。フォルネウスも手土産にしよう」



 ――――ぞくり……とした。



 林檎の声。鋭利な爪に引き裂かれたような感覚。身の毛がよだつ。

 林檎の冷たい声を耳にした私はその脅威きょういの当たりにして戦意喪失した。


 糸の切れた人形のように私はその場に倒れ込むようにひざをつく。風の鉄格子が霧散むさんする。

 意気揚々としたフォルネウスがえげつないわらい声を上げる。



 私は息切れをしながら重くなるまぶたじ開けて林檎を探す。



 けっこう広い公園にある大木のみきが途中で折れている。不自然なその幹の上に林檎は腰掛けていた。

 林檎が左手で持っているもの――――





 生首なまくびだ。

 悪魔のセーレが口と目から紫色の血を流していた。


 美男子のセーレは長い耳のような触角を切りきざまれたようだ。わずかな痕跡こんせきがある。



 セーレの生首は水のかたまりの中にある。これは林檎の能力なのか。

 あるいは林檎の話に出てきた捕獲するための鳥籠とりかごなのか。

 

 林檎は確か……紫色の狼の悪魔のマルコシアスを『時の砂時計』という『水のたま』に封じ込めると言ったはずだ。


 セーレを閉じ込めている水の塊が『時の砂時計』といわれる鳥籠だろうか。





 林檎……強いな……





 林檎の揺るぎない強さを確信したら気がゆるむ。まだフォルネウスがいる。


 まだ気を失うわけにはいかない。



 歯を食いしばる! ほんの少しでいい!


 林檎の役に立たねば!



 根性見せろ!!!



 うおおおおお! と気合いを込めて私はぐらつきながら起き上がる。ファイティングポーズを取る!



「林檎! すまない! 私はどうしたらいいのだ!?」


小僧こぞう眼中がんちゅうにない! 女あ! どんな小細工こざいくを使ったのか知らねえが、セーレ相手にそこまでするとは大したもんだあ! だがなあ……セーレは返してもらうぜ? そいつがいねえと我は魔界に帰れないのでなあ! 退屈たいくつしのぎに人間界を破壊するしかなくなるんだなあ』



 凄い殺気。ここにきて初めてフォルネウスが雄々おおしい怒気を発した!

 熱風に酷似こくじした空気にされて私は後に数歩よろめく。


 全身がビリビリとする。フォルネウスは強い。今の私では足元にもおよばない。





 どうする。

 今の私になにができる。





 私は林檎に守ってもらうのか?



 好きな子に守ってもらうのか?





 弱いから仕方ない?

 それじゃ修行した意味がないだろ。



 弱い心のままでこれから先、林檎のそばにいられるのか?


 私はそんなに弱いのか?





 それでいいのか!?







 沸々と怒りが込み上げてくる。不甲斐無ふがいない。これから空界に行くんだろ!?







 冗談じゃない!!!




 林檎と肩を並べて歩きたいんだ!!!




 この灯火ともしびが燃えきるまで足掻あがいてやるっっっっ!!!





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