第46話



 私は赤い目が六つある銀色の悪魔のフォルネウスと対峙たいじしている。

 いざ戦闘に入るかと思いきや、背ビレには針のようなものが無数にあるフォルネウスは顔を引きくような大口を開けて大笑いを始めた。



『ひひひひひ! お前ただの人間だな! めちゃめちゃ弱いもんなあ! セーレ! 女を連れて帰るぞ! 用無しの餓鬼がきっていいよなあ!』


「二重人格か。り……彼女も人間だ!」


『はっは! 我に嘘は通用せん。我は第六感が優れているからな! かまをかけてやったのさ。ソロモン王と全く関係ない人間なんぞに配慮する必要はあるまい』



 林檎は人間じゃない? そうなのか?



 林檎はなんて話していたかな。ちょっと記憶が曖昧あいまいなんだが。



 林檎が前に言っていた台詞は……

 『ソロモン王の子供かもしれない』

 『魔界の捨て子』

 だったよな。



 えーと……つまり林檎は半分悪魔かもしれないってことか?

 いや魔界にいたんだし純正の悪魔かもしれない。


 そうか。林檎は自分が人間だ、なんて言ってないし。私は大事なことを聞き逃していたんだな。




 まあいいや。林檎が好きな気持ちは変わらないし。

 あ、でも問題があるなあ。


 現状を見てもどう見ても私が林檎より弱いということだ。

 これじゃいかんなあ。



 どうにかしないといけないなあ。




 とかなんとか、私がちらっと考えていたが鮫男さめおとこの悪魔のフォルネウスは無遠慮に戦いを始めた!


 鋭い連打のパンチをお見舞いしてくる! 私がパンチを避けたのを見計らってどこかに隠れていた鮫の尾ビレが出現する!


 尾ビレは空間の歪みを利用して、鮫男のフォルネウスとは分裂し連携れんけいプレーで動く!



 フォルネウスの尾ビレは的確に私の急所を狙ってくる! せっかく私がチャクラで創ったリングも活用する暇がない!


 私はひたすら動き回る! 呼吸する間すら与えない連続攻撃が炸裂する!

 私はリングの床に手をついて舞うように宙に飛び上がる! 近距離戦では私に勝ち目がない!



 鮫男のフォルネウスはボクシングスタイルで攻撃をしてくる!

 私はルチャリブレというプロレスによく似た舞台芸術と呼ばれるアクロバットな飛び込み技で挑むつもりだった。


 だからちょっと無理して現実世界に私のチャクラを使って異空間のパズルを組み立ててリングを創ったのだ。

 しかし現実はどうだ? 全然役に立たない。早急にリングの形状維持を解除する。無駄な労力だった。


 私は命のやり取りの経験が圧倒的に少ない。


 手探りで悪魔と戦うしかない。




 私の身体を囲うチャクラはリングと相性が良いように改造したままだ。

 前方は強度に特化したバリアを創り、後方はゴムのようなバネをまとっている。


 チャクラで身体能力を上げた私の攻撃がフォルネウスにくのか。そもそも私のチャクラが通用するのか。






 やばい。私は林檎の足手あしでまといだ。




 フォルネウスとどうやって戦う!?


 私は焦る! 呼吸が乱れる。精神が荒れる。




 次々とフォルネウスがスナップのかせたジャブを繰り出す! それは私の目の下をかすめる! 身体が一瞬恐怖で震えるが叱咤しったし足を踏ん張る!

 フォルネウスは左手を前に出し、腕を曲げた状態で体を回転させながらフックを打つ! 私は身をひねりそれをしのぐ!


 私が海老反えびぞりで避けた刹那、フォルネウスは右奥の腕を曲げた状態で巻き込むようにフックしてきた!

 私は器用に膝が地面すれすれのリンボーダンスをしてかわす! 私の額の薄皮がけて血がにじむ。


 ほんのすきにフォルネウスから離れるがそこを狙って、空間から急に飛び出た鮫の尾ビレが私の両足首のくるぶしを切りきざもうとする!


  

 危な! 足を殺られたらおしまいだ!



 私の靴裏が剥(は)がれる。鮫の尾ビレをふせぎきれずくつ犠牲ぎせいにした。


 私は力の限り逃げ回るしかない! を見て反撃したいのは山々だがフォルネウスの動きを見定めるだけで手一杯だ!

 フォルネウスを手札てふだを見極める! それが出来るうちにフォルネウスに大きなダメージを与えなければ万事休ばんじきゅうすだ!



  吸血鬼のような鋭いきば鉤爪かぎづめがあるフォルネウスの心理作戦にますますはまっていく。


 焦燥しょうそうられる!


 じりじりと体力がうばわれる。思考力が低下していく。





 くそっっ! どうするっっ!?




 冷静になる時間がほしい!



 ここは木の多い自然公園だ。ジャンプしながら木を上手く使ってルチャリブレでやってみるか!?


 接近戦でプロレスわざを仕掛けたら私がぱっくりとそのまま喰われないか!?




 ええい! やるしかない! 他に何も思いつかんっっ!!!



 私は自分の全身をおおうチャクラを移動させる!

 バネの作用は全部両足裏に貼り付かせる! 強固なガードは頭と顔と足全体だけにまとう!

 フォルネウスに心臓を一突ひとつきされたら私は瞬殺だ。それでもけるしかない!





 一矢報いっしむくいる!


 死んでも一撃いちげきだけは当ててやる!





 私はボクシングで攻めてくる鮫男の悪魔のフォルネウスからなんとか距離を取る!


 る! フォルネウスをかこうように木を軽く踏んでジャンプを繰り返す! ぐるぐると回りながら速度を上げる!




 この速さでフォルネウスに勝てるのか?

 目視されていたらどうする?

 手のうちが知られていたら?





 ――――いや! 迷うな!




 例え見透みすかされていても、もうやるしかない! 私は意地いじを見せる!




 私は覚悟を決めフォルネウスに突っ込む! 大砲たいほうのようにフォルネウスの喉をつぶすつもりで頭突きをする!

 空気をくような音。私の頭を目がけて尾ビレが攻撃してきた!


 がしかし! 尾ビレが四散しさんする! 屈強くっきょうな頭のバリアにはじけ飛んだのだ!


 喉潰しをすんでのところでフォルネウスがけた! 私はそれが狙いだ!


 私は身を丸め回転させ、私の両膝をフォルネウスの首にからませる!

 勢いを殺さないままバック転をするように、足をひねりながらフォルネウスをぶん投げる!



 目標は細長い銅像がある場所だ。槍のように刺さってくれればラッキーだ!


 私はフォルネウスの後を追う!


 私はターゲットをロックオンする! 気持ちはミサイルだ!


 両足裏に付けたバネを使い空高くにのぼり竜巻のように回転しながら落下する!


 視界にフォルネウスを捕らえる! フォルネウスは若干じゃっかんよろめきながら粉々に砕けたコンクリートから出てきた!

 そこにとどめのスクリュードライバーを繰り出す!!!







 いや単に強烈な頭突きをしているだけだが。




 ――――ずごおおおんんんっっ

 



 凄まじい音がした。耳が痛い。当たれば私の勝利。外せばフォルネウスの勝利。



 どちらの運が勝るのか。



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