第43話



 広大な公園の中で私と林檎は、長い耳のような触角しょっかくむちのような尻尾しっぽがある美男子の悪魔と出くわす。

 どうせ登場するなら捕獲したいマルコシアスが来てくれればいいのだが、そうは問屋とんやおろさないらしい。


 少し前にいた藍色のからすの悪魔を退治たいじするために、私は第八チャクラと第九チャクラを使って雷龍らいりゅうを呼び出した。


 しかし巨大な鴉の悪魔は忽然こつぜんと消えたので、雷龍は雨がどしゃ降りの夜空にただよって待機たいきしている。



「林檎、どうするんだ? マルコシアスがいないぞ?」


「悪魔ならどれでもいいよ。交渉する材料があればいい」



 林檎さん考え方がエグいんですけど。


 どう見てもさっきの鴉の悪魔より凄そうな美男子の悪魔が空中から私たちを見下ろしている。



 え!? あいつを生きたまんまで捕まえるのか!?


 それは無理難題じゃないか!?



 背に蒼い六枚の羽根はねがある美男子の悪魔は律儀りちぎに私が落ち着くまで待っていた。悪魔は頃合いを見計らって口を開く。



『はじめましてボクはセーレです。さっきのからすの悪魔はラウスです。前回のマルコシアスもボクらの仲間です。ボクらは魔界に君臨くんりんする『ソロモン王』の配下になります。


 ソロモン王が今回、ボクらに依頼したのは戦いではありません。ソロモン王は一度捨てた我が子を今になって魔界に連れ戻そうとお考えです。


 正直に申し上げてお二人のどちらがソロモン王のご子孫しそんなのかわかりません。ですからお二人とも魔界にお連れします。抵抗をするなら力尽ちからづくで行います』



 なん……だと!?


 私は開いた口がふさがらない。魔界が今どんな現状なのか知らないが、いくらなんでもそれは虫が良すぎるのではないか!?



 魔界で何をさせる気なのか。いやどんな理由があったとしてもここは断固拒否だ!



「断る!!! 都合のいいこまになる気はない。心配しなくても時期が来れば魔界に行く。その時は状況を見て味方にもなるし敵にもなる」


『では交渉決裂ですね。ああ、そうだ。こちらはお返ししますね』



 あおい羽根がある悪魔のセーレは紫色の肌をしている。セーレは虚空こくうに右手を突っ込む。

 何もないように見えた空間は水面みなものような波紋はもんが広がる。異次元なのか異世界なのか……その水面から見慣れたレイピアを取り出す。



 そうだ。そのレイピアは私が藍色のからすのラウスのくちばしに刺したものだ。


 レイピアは宙をまるで歩くような速度で私の前へとやってきた。

 私はセーレとレイピアを交互に見る。セーレはにこりと笑う。


 レイピアに罠があるのか。レイピアは本当に私のものだろうか。五秒間私は考えていた。


 私は悩みながらやや頭上に浮かぶレイピアへと手を伸ばす……



  ――――がしゃんっっ



 私が触れるほんの三秒前にレイピアははじき飛ばされる。

 私のやや後方にいた林檎の左手の人差し指から冷気の矢が放たれたのだ。


 私は唖然あぜんとした。


 林檎からレイピアへと視線を戻すとそこにいたのは五芒星ごぼうせいの物体だった。


 林檎の魔力で氷漬こおりづけにされて動けないようだ。変な形をしているがこれも悪魔だろうか。いやセーレの武器なのかもしれない。



『お見事。素晴らしい素質ですね。彼よりも彼女の方が随分ずいぶんとお強いようですね。では彼女の相手はボク、セーレが致します。彼の相手は任せました』



 暗い空大雨が降る中で紫色の肌をしたセーレは拍手をする。まるで赤子あかごを褒めるような態度で言葉をつむぐ。


 僅かな時間、五芒星の悪魔から意識ががれた。そのすきにセーレがまばたきをして五芒星ごぼうせいを異空間か魔界か、どこかに飛ばした。


 負傷ふしょうした仲間の悪魔を逃がす。六枚の羽根がある悪魔のセーレは頭が切れる。厄介やっかいだ。



 セーレの台詞が終わらぬうちに突如として私の目の前の空間が歪む。水面みなものような波紋から新たな悪魔が出現する!


 私はそいつを無視して、林檎へと攻撃をち出そうとしているセーレへと雷龍をらわす!


 雷龍はセーレに巻き付き身動きをふうじる!

 セーレの顔から笑顔が消えた。




 その間一秒とかからず。私にせまり来る悪魔はさめだった。私を丸呑みしようと鮫がかぶり付く!

 無論避けた。まるでここが海の中のように空間と空間を泳ぎながらするどきばで突進してくる!


 私はセーレを探す。視界のすみに鮫の悪魔をおさめ飛び蹴りを放つ! 鮫は退しりぞくフリをしてとがったビレではたく攻撃を繰り出す。


 セーレは私の雷龍をっている。私のチャクラが取り込まれている最中さいちゅうだ。林檎は食事中のセーレへと氷の矢を降り注ぐ!


 私はそれに便乗びんじょうしてセーレの頭上だけに滝の雨を流し雷龍に放電ほうでんをさせた!


 これでセーレが感電してくれればいいが。





 私は自分の戦いに集中せずに林檎のことばかりを考えていた。

 鮫の悪魔から意識が離れたさいに私はそれを痛烈に感じた!


 私は慌てて目の前の悪魔へと集中する! 鮫が人形に変貌へんぼうしていた!


 かもし出す魔力がセーレと同等くらいある。これはやばい。私はこいつに勝てるのか?


 捕獲するのはセーレだけでいい。仕方ない。林檎を信じよう。



 私は鮫男さめおとこ撃退げきたいだけに集中をしよう。早く終わらせて林檎のフォローに回るのだ!


 私は鮫男をにらえた。



 そうだ。こいつは消し去っていいのだ。簡単じゃないか。



 私は腹の中にうごめく激情にしたがえばいいのだ。



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