第39話



 私は仕方なく海に潜ってワカメをる。水中で自慢の手刀しゅとうを繰り出したが、浮力のせいで威力が半減していた。それでもワカメがとれたからいいが。


 手に持っている緑色のワカメ。口の中に入れるには抵抗がある。躊躇ためらいながらワカメに噛みついた。弾力だんりょくがある。さっぱりとした塩味。予想外に美味しいワカメだった。



 まるで仙人せんにんが食べる豆のようだ。いや海なので仙女が食べる聖なる葉っぱだ。


 私はワカメをもしゃもしゃ食べながら移動する。コイツは消えずに砂浜に腰かけたままだった。白みを残した薄い青空をぼんやりと眺めていた。

 私はワカメを頬張りながらコイツの隣に座った。大股おおまたを開いて肩の力を抜く。私はリラックスしていた。


 ワカメを食べて見る見る元気になる。そんな私を横目に一瞥いちべつし、コイツは空を見上げたままで話しかけてきた。



『君は忘れてしまうけど、忠告だけはしておくよ。今の状態で君が帰るとチャクラはすべて閉じたままになる。


 最低限、第七チャクラだけは開いてないと聖域である修行をする場所には辿たどりり着けない。君は神聖な空間で第八チャクラ、第九チャクラ、第十チャクラ、第十一チャクラ、そして第零 ぜろチャクラを覚醒かくせいさせないとならない。


 空界くうかいがどんな場所なのかは知らない。だけどチャクラが閉じたままで通用するとは思えない。


 君のお祖父さんは無茶するのが好きだからね。きっと無理やり君の精神世界に入ってくる。そして僕と戦って『君の第七チャクラ』をじ開ける。禁忌きんきに触れた代償だいしょうは重いんだよ。


 君はそれで良いのかい? 君はまたお祖父さんに甘えて助けてもらうのかな?』



 最後の台詞でコイツが私を見詰めてきた。試すような強い視線。


 私は口内のワカメを乱暴にのどの奥に流し込む。最強ワカメパワーで私は元気百倍だ!

 私のには闘魂とうこんがゆらゆらと燃えていた。



『第二ラウンドに突入しようか』



 私はわくわくしながら言った。飛び起きてボクシングよろしく、自分の左右のこぶしをぶつけた。

 コイツはくちびる三日月みかづきにした。緩慢かんまん仕草しぐさで立ち上がり私から距離を取る。


 恐いんですけど! 普通にできんのか!?



『おい! ハンディくれよ。時間も無いしツケといてくれよ。今度来た時は君とのんびり遊んでやるからさ! 私のメンタルが強くなればこの世界に生き物が増えるんだろう? ひとりは寂しいよな。どんどん強くなって動物も増やしてやるよ。そしたら君はひとりじゃないだろ?』


 不敵に笑ったコイツに内心ビビりながら、私は取りつくろうように大きな声を出した。



『僕は何回君の介抱かいほうしないといけないのかな? 早くしないとコンサート間に合わないよ? 死ぬ気で来なよ? 僕は一歩も動かないから一発でも僕に攻撃を当てたら、君の第七チャクラだけは解放してあげるよ』


『言ったな! 言質げんち取ったからな!』


『はいはい』


『返事は一回!』



 コイツはげんなりとした面持おももちで、自分のひたいをやれやれと押さえる。

 私は不思議と恐怖心が消えていた。あるのは勝気かちきだけだった。


 考えることを放棄ほうきして感じるままにコイツへと攻撃を放った。



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