第30話




 チャクラを開くのは久しぶりだ。それだけ平和なのだ。チャクラを練るのはどうやっていたか。


 祖父から『チャクラ』を伝授されたのは、確か小学一年生の時だ。なんか、一言では言い表せないのだ。難しいことを色々やったはずだが、正直に辛かったことしか、覚えてない。


 大好きな祖父から、地獄のようなしごきを受けて、トラウマになった。またあれをやるのか。気が重い。今更だが、逃げたくなった。



「空海、止まれ」



 祖父の言葉に応える。途中から電線すら無くなって、ひたすら岩肌を登った。やっと頂上に着いたと思ったら、今度は渓谷けいこくだ。


 祖父は一直線に川の上を走る。川には時折、大木が流れたり、ワニのような魚が口を開く。ピラニアのような獰猛どうもうな小魚たちが跳ねて襲ってきた。


 祖父の目の前に突如として、まるで龍のような滝が現れる。しかし、祖父はそのまま、滝の中に潜る。私も後に続く!


 龍に視えた滝の奥には、細く険しいトンネルがあった。こんな細いトンネル、大荷物を持ったまま通れるわけ……



「あ! 私手ぶらだああああ」


「忘れとったんか。おらぁに珍しく反抗して、持ってこんのやと思ったわい。まあ、それで近道が出来たがや」


「え!? 今から取りに帰る!?」


「もうええわ。じゃがな~、育ち盛りの空海にめしを食わせんのわにゃ〜。まあ、ええわい」



 水の中を通ったのに、祖父はちっとも濡れていない。加えて私は、すっかり水浸しだ。


 私は自分を過信していた。祖父の強さに近付いたと思っていた。しかし、現実はどうだ? 祖父の足元にも及ばない。




 私は、こんなに、弱かったのか。




「がはははは! なにを悄気しょげとる。これから出来るようになるわい。心配すんなや〜」


「じーちゃん、私は林檎より弱いか?」


「聞いてどげす? 他人と比較して何を得る? 愚行ぐこうじゃわい」


「私に努力する価値があるのか?」


「自分の価値は、自分で決めれ! 甘ったれ! おらぁ厳しいぞ! 無駄口立たずに死ぬ気でやれえ!」




 そうか。


 そうだな。前を向いて、歩くしかない。



 前を向いて、歩くと、自分で決めたんだ!



 考えるな。感じろ! 私は自分を感じるのだ。チャクラの感覚を思い出せ!




「空海、壁を抜けれるか?」


「えええ!? 無理じゃっっ」


「な〜や? 第七チャクラまで教えたがや?」


「いや! 第七チャクラ? 使ったことないや!」


「しゃあない。一から、簡単に行くぞ? 本来なら、こんな場所では使っちゃならんのだが。おらぁ無駄な殺生せっしょうはしたくないが、仕方ない。空海! おらぁの声に、集中しろや? え見開いて、ちゃんと感じろや!」



 祖父の顔つきが変わる! それは仙人せんにんそのものだ!


 祖父のオーラが虹色から金透明きんとうめいになる。そして、金透明からゴールドオレンジに変わった。


 ゴールドオレンジ、それは太陽の色だ。

 祖父は仙人から、神に、なったのか!?




 トンネルの入り口を塞いでいた龍の滝は、水をすべて失った。先程まで揺蕩たゆたっていた川の水も無くなる。渓谷にあった木や花も色を消して横たわる。


 辺りに広がるのはれた荒野こうやだけになる。


 それは、異常な光景だった。さっきまで生きていたものが、すべて死んでしまったのだ。



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