第26話




「神木くんはポチにならない。僕の家族で、呪詛じゅそに詳しい人がいる。今、この瞬間から、神木くんに危害を加える人には、神から鉄槌てっついくだるから。一度しか言わない。わかった?」


「は? 何? 鉄槌? 馬鹿じゃん」



 林檎の眼は本気だった。常人には見えない速度で、私をポチ呼びした男子生徒の頭が、つるっつるのスキンヘッドになる。


 林檎がふところから出した折りたたみナイフで、男子生徒の頭をつるっぱげにしたのだ。使ったナイフは、折り畳みまた胸元にしまわれた。



 一部始終を目撃した私は笑いを堪えた。


 何故だろう?


 さっきまで恐ろしかった男子生徒が、肌色の頭になっただけなのに、もう恐くはなかった。



「はああああ!!? 俺の髪がない!!?」


「日頃の行いが悪いから、いざという時に、守ってくれる神がいない、のよ。わかった?」


「ふざけんなしっっ! どんなトリックだ!?」



 私をポチ呼びした男子生徒が、林檎の両肩を掴もうとしていた。私はそれを見過ごさない!


 林檎と男子生徒の間に入り、男子生徒を軽く足で払いける。男子生徒は派手にぶっ飛び、教室のドアを越えた。教室の外の廊下の壁に、後頭部を強かにぶつける。鼻血を出したまま、そのまま失神した。



「あは♡ 神木くんって、強いんだね♡」


「ありがとう、林檎」



 私は林檎に微笑む。胸に込み上げるこの気持ちは、なんだろうか。涙が出そうで、我慢した。凄く嬉しかった。


 林檎はとびきり可愛い笑顔で、私の腕に絡みついてきた。めちゃめちゃ可愛い。



 駄目だ。幸せ過ぎて、私は泣いた。しくしくとすすり泣く。林檎は隣で、ハンカチを出して、私の涙を拭いてくれた。



「ねえ、神木くん?」


「なんだ?」


「僕ね、神木くんに、お願いがあるの」


「……それ、恐いやつですか?」





 ちょっと待った。


 林檎さん、さっきのスキンヘッドは、林檎さんのこまだったんですか!?


 持ち上げといて、落とす!!!





 私をおとしめるための、林檎さんの策略だったんですか!!?


 私の気持ちを返してえええ! もうお嫁に行けないっっ! 私の純情を返してえええ!



「あは♡ 恐くないよ?♡ はい♡ チケット♡」


「なんのチケット?」


「僕、アイドルしてるんだ。日曜日にコンサートあるから。絶対に来てね?♡」


「え? 嫌だ。行かない」


「コンサートに来ないと殺す♡」



 にこにこ笑顔の林檎さん。だけど、眼だけは血走っていた。林檎さんの本気を感じた。



 こ、これは、やばい! なんとしてでも、コンサートを拒否したい!!!


 そのコンサート、絶対にやばいやつだろおおお!!!


 ど、どうにかして、コンサートを辞退しなくては!





 ち、チケット!


 チケットを紛失してしまえばいいぢゃないかあああ!!!



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