第16話
林檎の群青の双眼。まるで宇宙のような深い深い青色。林檎の顔は大真面目だった。
林檎は魔界出身だから、空界が恐くないのか? 今まで、暗殺家業のせいで、恐いも苦しいも身に
いや、違う。林檎だって辛いはずだ。
私と林檎の違いは、覚悟の強さだ。
林檎には叶えたい夢がある。林檎には約束を守るという願いがある。林檎には、立派な使命感があるのだ。
「林檎のお母さんは? 私より、林檎の育ての母が一緒にいる方がいいだろ? 林檎はお母さんと離れて、大丈夫なのか?」
「僕の育ての母は、『ゴモリー』。ソロモン七十二柱で、唯一の女性の姿をした悪魔とされている。僕はもしかしたら、ソロモン王の子供かもしれない」
「そうだとしたら、『ゴモリー』は林檎の産みの親じゃないのか?」
それだったらいいじゃん。
ソロモン王から、林檎を守るために、人間界に逃げてきた。
林檎の育ての父と、再婚した。
まあ、再婚相手が、暗殺者ってのは、どうかと思うが。
ソロモン王は、やっぱり凄く強いだろうな。暗殺者なら強くて、守ってもらえると、考えたのかもしれない。
「僕も母に聞いたことがある。『貴女は、最も高貴な悪魔の子供ですよ。自分に
リリスは悪霊や悪魔って言われてる。エキドナは魔女や亡霊って言われてる。『ナアマ』は悪魔で、『ラミア』は怪物で、『アブラヘル』はサキュバスで。他にも色々あるけど。どう思う?」
うむむ。林檎の産みの親を探す必要があるのか?
私はどうだろうか。
私がもし、海と真魚の本当の子供じゃなかったら? 捨て子だった場合、私は産みの親に会いたいか?
私を捨てた親だぞ? 会いたいか?
信用出来るのか? 一度粉々に砕け散った『親の絆』を、また一から、築いていくのか?
許せるのか? どんな理由があっても、子供を捨てる親は、もう親じゃないだろ?
「リリスって、神様だろう? イヴと同等じゃないのか? エキドナか? ギリシャ神話やローマ神話だな。
ケルト神話、エジプト神話、メソポタミア神話、シュメール神話、色々あるな。大天使のミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル、ルシファーとか、カバラ七十二天使があるな。
実際に、魔界に行った時に、考えれば? まあ、考えるより、感じろ! かな?」
「神木くん、博識なんだ? 正直、ただのおバカかと思ってた」
ぐおっっ!!!
こんなことで
私は腕時計を見る。もう六時半だ。ずっと林檎と話し込んでいる。
私は考えようとした。不鮮明なことを考える。考えるだけで、時間を浪費する。
私は自分が天才だと思うし、私は自分が強運だと思う。
そう、それなら、答えは決まっている!
考えるより、感じろ!
「林檎、私は林檎と行く。じーちゃんに反対されても、行くよ。私にとって必要な試練だと思うし。ま、まあ、まあな、林檎をひとりで行かせるのは、し、しん、親友として。
親友として、なんか、ほっとけないからな! 親友としてな!!! か、勘違いするなよおお!」
「ありがとう。僕が甘えられる存在は、神木くんだけなんだ。ゴモリーは、三年前から行方不明なんだ。甘えて……ごめん」
林檎は涙を
私は林檎の涙と、涙がダイヤモンドに変わったことに、めちゃくちゃ驚く!
「ちょっとだけ、神木くんの背中貸して」
私の背に感じる体温。私は大いに動揺して、石のように固まる。口から泡を吹き出しそうだ!
林檎が私の背に、額を預けている。泣き声は聞こえないが、涙を零しているのだろうか。
背中にいるので、抱き締めることもできない。こんなことなら、直ぐに抱き締めれば良かった!
私の胸は、もどかしい気持ちでいっぱいになる!
考えるから、動けなかった。
林檎を傷付けたくなかった。自分が傷付きたくなかった。だから、林檎を抱き締めたい衝動を抑え込んだ。
私はいつも、誰かを傷付けるのが恐い。
私はいつも、自分が傷付くのが恐い。
このままで、いいのか?
私は私を信じる! だから、誰かを傷付けても、その先にある可能性を信じる。
私の間違いで、誰かを傷付けたなら、素直に謝る。謝っても、傷は癒えないかもしれない。だが、私が今出来ることをする。
私は私を傷付けるものが嫌いだ。だから、私を傷付けるものから離れた。
私が傷付くことで、私は何かに気付く。
いつか、私の傷が、私を守ってくれる。
これから先、私は、人間界、
人間界での、『人間関係』。そして私自身である、『私という生き物』。
そんなことに
私はひとりじゃない。林檎を守るのだ。林檎と支え合うのだ! 私はもう迷わない!
私は、林檎とともに、いつか来る『セカイの
私はレベルアップするのだ!
もっと強く、強く生きるのだ!!!
「神木くんって、不思議。凄く安心する」
「うお!? そ、そうか? 林檎、大丈夫か?」
「神木くん、今の言葉、プロポーズとして受け取るから」
*
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。