第15話



 私は仙豆せんずを食べた。


 いや、流石に仙豆は所持してない。私は林檎を放置して、キッチンまでっていく。枝豆を食べる。私は心が衰弱すいじゃくしていた。


 まだまだ。つぼから梅干しを取り、口に含む。梅干し食べて、すっぱ……!!!


 まだまだ、復活出来ない。牛丼食べたい。



 私は只管ひたすら、梅干しを食べる。狂ったようにらう。泣きながら口に頬張る。


 自分がなにに、泣いているのか。

 自分が何に怒り、何に悲しみ、何に胸を痛めているのか、読み取る。



 自分の気持ちの整理をしよう。


 私は、私の感情を無視して、自分の言いたいことを言う、林檎に怒っている。


 私は、私の感情を優先して、林檎に優しく出来ない自分が情けない。不甲斐無ふがいない自分がみじめで、悲しい。


 私は林檎が好きだ。しかし、林檎は私を見ていない。林檎の心の中には海がいる。

 私は林檎と相思相愛になれなくて、苦しい。林檎への気持ちが成就じょうじゅされなくて、胸が痛い。



 わかった。私は自分の感情に気付いた。

 もう大丈夫だ。自分をすべて許そう。みにくい自分を、認めてやる。

 それも自分。それも私。


 私は私だ。感情が歪んでも、私は私だ。


 私は梅干しを自棄食やけぐいした。咀嚼そしゃくした。泣いて、咀嚼という運動をした。それはストレス発散になった。



「林檎、すまない。私は冷静になった。すまん、もう一度、一から話してくれないか?」


「わかった。僕もごめん。神木くんに頼り過ぎた。困ったら言って? 僕は神木くんと、支え合って生きたい。よろしく」



 私は戦意喪失していたが、復活した!

 梅干しパワー凄えええ!


 私はスーパーマンだ! よし、よし!

 迷走するのはおしまいだ。気合い入れろ!




 私は居間に戻って座る。丸いテーブルの上の湯のみに、緑茶を注ぐ。緑茶の温かさ、緑茶の香り。リラックス効果抜群だ。


 林檎に動作で、緑茶を勧める。私は右手の指先を揃えて、林檎に腰かけるように促す。



「今すぐに、林檎が解決したいことはなんだ?」


「僕の依頼は、『マルコシアスの生捕いけどり』。依頼主は、空界の女神。名前はミキと名乗っていた。偽名かもしれない。空界の女神という証拠はない。だけど、この依頼を成功させたら、僕を人間界と空界を繋ぐ架け橋として、認定してくれるらしい。


 マルコシアスを『時の砂時計』という『水のたま』に封じ込める。それが完了したら、僕は生きたままで、空界に行ける。空界で試練を乗り越える。無事に終わったら、空界と人間界を行き来できるパスポートが貰える」


「ミキって、神酒みきか?」


「そう。もしかして、神木くんの家族?」


「ああ。『神木神酒かみきみき』。ばあちゃんの名前だ。私の両親が海界うなさかにいるなら、行方不明のばあちゃんが空界くうかいにいてもおかしくないな。色々とじーちゃんに聞かないとはっきりしない。どうする?」


「直接、空界の女神ミキに聞けばいい。だから、神木くんは、僕とマルコシアスの捕獲作戦を決行すればいい」


「そーなりますか。それってさ、私も『空界に行って、試練受けて、パスポートをゲット』で合ってる?」



 私はハードボイルドを気取って、スマートに情報を処理する。いきなり硬派なのも、どうかと思って、茶目っ気を出してみる。右手の親指を立てて、ウィンクをする。



「あは♡ 神木くんって……オモシロイね?♡」


「そっっ! そこでは! 恐い微笑みぢゃないだろおおお!」


「あは♡ だって、神木くんが調子に乗ってて、イラッ♡ ってしたから♡」


「何言ってんの!? 私はいつも全力で調子に乗ってますけど!!! つーか! 林檎さん! いつも君はそこんとこ、スルーするだろうが! なんで今だけ、冷たいツッコミするんですか!?」


「神木くんはイカさないでいいの。ヘタレのまま、ちょっとおバカなままでいい。だって、格好良くしたら、他の子が、神木くんを好きになっちゃう。神木くんがスケコマシになったら、僕……瞬殺しちゃう♡ わかった?♡」



 林檎さんは可愛い声を紡いで、可愛い笑顔を浮かべていた。


 林檎さんは静かに右手の拳に力を入れる。そして、林檎さんの右手の親指は、下を指していた。

 右手の親指が上を向く。右手の親指は立てたまま。緩慢な動きで、林檎さんは自分の首を一線する。



 つまり、私が他の子と、仲良くすると、瞬殺されるってことですね。

 私は私の首から上が木っ端微塵になる映像が脳裏に過ぎった。



「心配しなくても、私は……」



 いかん! 危うく告るとこだった!


 いや、林檎に好きと伝えていいのか?



「問題がある。空界に一度行ったら、暫くは人間界に帰れない。神木くん、一年は最低かかると思う。太子たいしくんと離ればなれになる。耐えられる?」


「え? 今すぐじゃないよな?」


「今すぐ、だよ? マルコシアスを魔界から誘い出して、水のたまに入れる。それが合図。空界の女神ミキが現れる。そのまま、数年は空界にいるよ?」


「一年って言っただろ?」


「最低一年はかかる。どれほど困難な試練か、わからない。ミキの話では、五年かかっても、空界と人間界への行き来ができるパスポートを入手できないモノもいるって。空界の試練で、命果てるモノは多いって。神木くん、死ぬかもしれない。本当に、僕と一緒に、空界に行く?」



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