第13話




「で、出たなああ! 妖怪めっっ! じーちゃんをって、パワーアップしようなんて思うなよおおお!!! 魂胆丸見こんたんまるみえだあああ!」


「空海、そりゃあないわい。今どき、小学生でも、好きな子にそんなこと言わんぞ?」



 恐ああああああああああああああああ!!!


 じーちゃんの背後から、私を見る林檎の群青の双眼が血走ってるう!!!

 私のことを、ゴミや虫のように扱ってくる! な、なんて、恐ろしい女子だ!


 私は両手を合わせて、どこかにいるであろう、神様へとお祈りをする。


 ――――くわばら、くわばら! 悪霊退散あくりょうたいさん



「お祖父様、神木くんをお借りして、よろしいですか?」


「ええや。女性への接し方をちゃんと教育してなくてや。すまん。気を悪くせんでや」


「ええ、大丈夫です。僕は花村林檎と申します。お祖父様のお名前をおうかがいして、いいですか?」


「林檎さん、おらぁ、神木太子かみきたいし。今後は『太子くん』と呼んでくれ」


「太子くん、ご心配にはおよびません。僕が責任を持って、神木くんが紳士になるように鍛えます」


「がははは! 気の強いお嬢さんがや! ところで、林檎さんに年の離れたお姉さんか、お母さんの女兄弟で、独身さんはいないかや?」



 祖父の悪い癖が出た。ばあちゃんが行方不明になってから、じーちゃんは変わった。プレイボーイになってしまった。


 若くて綺麗な女性に目がないのだ。まあ、確かに。祖父の年齢は知らないが、見た目だけなら、三十代なのだ。正直な感想として、かなりのイケメンだ。


 年金を貰っているから、七十歳以上だろうが。祖母は更に年上だった。私が三歳くらいに、祖母はいなくなった。


 まあ、祖父が面食めんくいなのは仕方ない。なんせ、ばあちゃんがめちゃくちゃ別嬪べっぴんさんだったからな!



 でも私は知っている。

 祖父はいまだに、祖母を溺愛している。


 祖父は、よく祖母の写真を見ている。白黒の写真のアルバムを抱きしめたり、数枚あるカラーの写真に話しかけている。


 とてもいとおしそうに語りかけている。


 私に隠しているつもりらしいが、知っている。私はそれを見て、目頭が熱くなる。



 祖母が失踪しっそうした時に、私はまだ三歳だった。祖父は幼い私を残して、祖母を探しには行けなかった。


 私には、祖父しかいないのだ。


 祖父は、私をとても大切にしてくれる。



 私の存在のせいで、愛する祖母を探せないまま。祖母がいなくなって十年になる。




 だから、私は…………。


 祖父が再婚してくれたら、嬉しい。


 勿論、祖母のことは大好きだ。



 私は祖父にたくさんのおんがある。絶対に祖父を幸せにするんだ。祖父は私に優しい。


 私は祖父に、優しいだろうか?



 そろそろ、祖父に、『ばあちゃんを探していいよ』って、言ってあげないといけない。


 だけど、まだ。



 まだ。


 その勇気は、私には、無い。




「僕の姉は今年三十になります。母の妹が今年で四十になります。どちらも独身です。遊びで付き合うならいいですが、二人とも曲者くせものです。本気にならないで下さい。傷付くのは、太子たいしくん、貴方あなたです」


「そうか? 名前は?」


「姉は、花村楓はなむらかえで。母の妹は、雪村六花ゆきむらりっかです。こちら、二人の電話番号とアドレスです。くれぐれも、身体の関係だけで、終わらせて下さい」


「がははは! 用心深いな。まあ、本気になった時は、その時に考えるがや」


「僕は忠告しましたから。太子くん、自分に嘘をつくと苦しいだけです」


「がははは! 林檎さん、鋭いやー。林檎さんも嘘をついてるわい。程々ほどほどにせんとな」


「わかりました」



 私がひとりでトリップをしているに、林檎は祖父へとメモを渡す。


 私は見た!!! その紙に、林檎の連絡先も載っていた! なんのつもりだ!?


 また林檎の陰謀いんぼうに乗せられるのか!?


 いや、実は、林檎がイケおじフェチかもしれん。



 ――――は!!?



 も、もしや、私はただの当て馬なのか?




「神木くん、行きますよ」


「やだ! 私は忙しいのだ! 私に構うな!」


駄々だだこねない。さくっと動く。それとも、また、腕を抜かれたい?」



 ひええええええ! 恐いよ恐いよ!


 私は祖父に助けてと視線を送る! しかし!



 祖父はもうすでにいなかった!!!


 ゲームオーバー! ジーザス!!!



 神よおおお!!! 私を見捨てたのかあああ!?


 私は居間に面した縁側に立ち、晴れ晴れした青空を眺める。両手は天へと高く伸ばして、助けを懇願こんがんする。



「時に林檎さん、林檎さんの瞬間移動は、重量とか関係ないレスか? 私、学校が終わったら、竹を百本運ばないといけないレス。レスキューを求めていいレスか?」


「僕に何のメリットがある?」



 気を取り直し、現実と向き合う。私は林檎の足元へ目線を落とす。


 何故か? そんなん、林檎さんの眼が恐いからに決まっておろう!!!

 いつ、刺されるのかと、ヒヤヒヤしている!



 け、けして! 林檎の美脚びきゃく見惚みとれているわけぢゃないからな!



 祖父は玄関から出て行く。そう言えば今日は、月に一度ある、町内会の集まりの日だった。


 しかし、それにしては、やたらめかし込んでいたぞ? ありゃデートぢゃないか?



「林檎さんは、私の恋人、なのレスか? 林檎さんは私の側にいたいのでは? それとも、単に私は、林檎さんのプロレスの相手レスか?」


「神木くんの、夕方から夜までの時間を、僕にくれるなら、考えてもいい」


「無理だ。私は色々忙しい」


「神木くんは、僕とデートしたくない?」














 ん? 今なんって言った?



「は? なんって?」


「僕とデートしない?」


「違うぞ? 『神木くんは、僕とデートしたくない?』って言ったぞおおお!!! 何の謀略ぼうりゃくだ!? わかったぞ! フェンリルとの戦いに、私をえさにする気だろおおお!!? そんな上手い話があるわけない!」


「あは♡ 神木くんのくせに、スルドイね♡」



 出たああああああああ! 絶対零度ぜったいれいどの悪魔の微笑み。


 私は涙目になった。しかあしっっ!

 私の黒髪はサラサラのままだ! 小さなアフロヘアーにはならなかったぞおおおお!



 耐久がちょびっとだけ、出来た。ミジンコ程度にな。


 え? 鳥肌になっている? ふっ……!


 気のせい! 気のせいだ!!!



「神木くんのせいで、マルコシアスが逃げちゃったんだ。おびき寄せるの大変だったんだから。また魔界に帰って、もう出て来ない。それじゃ、僕の依頼主が納得してないんだ」


「ちょい待ち。まさか、林檎。君の家業かぎょう陰陽師おんみょうじとか、言わないよな?」


「違う。僕の家は『暗殺一家』だ。兄弟が多くて、誰が跡取りになるか、争っているんだ」


「お、お家騒動いえそうどう!? 林檎、実は男とか!?」


「僕は正真正銘しょうしんしょうめい、女だよ。それとも、神木くんって、ホモなんだ?」



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