第12話
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天気は重要だ。洗濯物を干す。畑仕事。朝夕の新聞配達。雨降りなら、新聞の仕事しか出来ない。
台風や大雨だったら、敷地内にある
要するに、家が古いから、念入りに手入れをしないとならはい。畑にブルーシートを被せて、作物を保護したり。納屋が壊れないように、トタン板で補強工事したり。
我が家はテレビがない。祖父曰く、テレビは面白い。だから、働かなくなる。時間がなくなる。だから、テレビに
私と祖父の
私の名前か? 神木空海だ。え? ふりがなだって?
おほん。かみき、そみだ。え?
いや。一人称は『私』だが、れっきとした
うぬぬ。そこは否定しない。いちご、じゃなくて良かったのか。一護、良い名前だ。
「じーちゃん、おはよう」
「おおー、空海や、
ここは私の家。木造住宅。屋根裏部屋を含めたら、三階建てだ。年季が入っているから、ちょこちょこ修理しないとならない。
先月も一階の畑に面した
縁側の柱もしっかりと補強したし、
あー。そろそろ。
昨日の大雨で、
「ああーすまん。朝ごはん食べてから、
「今日の夕方、田中さん
「竹って、田中さんのおじいさんが、所持している山から、
「そーや。たまには空海の
「無理せんでいいや? じーちゃん先月、腰痛めたばっかじゃ」
私は基本、標準語で喋る。しかし、じーちゃんが
私は一階のキッチンで朝食の支度をしている。庭で取れたほうれん草を
朝一に回した洗濯物を干さなくては。洗濯機がうるさいから、夜中に動かせないのだ。
今朝はなんだか、無性に
もう一匹の鮭は、保存食用に、日に干している。今日は一日中晴れらしい。ついでに大根も、日に干している。
「そげど、にゃーもせんと、おらぁ、はよぉくたばってしまうわい?」
(そうだが、なにもしないと、俺は、早く死んでしまうだろ?)
「
「がははは!
「私まだ中二ですが? ほんなら、私は生涯独身貫きますけん、じーちゃんはずっーーと、元気に長生きしてくれや」
「がははは! 童貞やったや、仙人になれるわい。おらぁ、仙人になり損ねたわい! がははは!」
「そうだな。じーちゃんがいるからこそ、私は今、存在してるや。ありがとうな」
「やめれえ! 泣いてしまうわい。ほんにお前にゃ、出来過ぎだ孫や。おらぁ、空海がおるけん、幸せや。ありがとうな」
「朝ごはん出来たけん、食べようや」
祖父は新聞を読みながら、私へと声を投げていた。私は
今朝の
朝ごはんは一日の中で、最も重要だ。
もう一回、言うぞ? 朝ごはんは一番、大切な食事だ。そして、よくよく
朝時間が無くて、しっかりとした朝食が取れないなら、一品だけで良いから、食べるんだ。
『卵かけご飯』! もしくは『納豆ご飯』。肉入り味噌汁かけご飯でもいい。茹で卵を食べるだけでもいい。
『タンパク質』という、身体を作る役割をしてくれる、栄養素をとるべきだ。
その時に、ちゃんと噛むんだぞ。噛まないで食べちゃいかんぞ? 一口食べて、二十回でも良いから、しつこく噛むんだぞ?
「空海は、まだ空飛べんだろ? 海も深く潜れんや? なしてかや? 壁や水面は走れるんやな?」
「空や海の中にいても、何も出来ないや? 不便極まりないわい。それよか、竹を百本背負ったまま、電線を走れる
「
にゃあに、チャクラを使わんでも、『
「その中間。どっちも紙一重に鍛えて、『仙人』になりたい気もするけんど、時間がないがや。死ぬわけじゃにゃーに、そこそこ出来れば良し子さんだわい」
「好きな子が『普通の子』なら、それでも良し子さんじゃわい」
ぶぶぶ……! 私は口の中のものを危うく吐きそうになった。
『好きな子』というワード。そう言われて、脳裏に
林檎が『普通の子』というカテゴリーに含まれるのか。いや、違うぞ。巨大な剣を振り回わすのは、百歩譲って
しかし、『フェンリル』と戦うのはどうだろうか。趣味の
「安心したわい。好きな子はおるんやな。
「それは嫌だ! 認めたくない!!!」
「デリケートなやっちゃな」
(繊細なやつだな)
「じーちゃん
「そげん時間か? もう六時や。空海、時間あるかや?」
「時間よりも、私は『じーちゃんとの将棋』が大事や。気にせんと」
時間はいつもない。忙しい。
しかし、『楽しみ』を
『生活』を
毎日の積み重ねが『私』をつくる。
日々のルーティンを丁寧に
昨日とすべてが同じ今日はない。今日と全部が一緒の明日はない。時間の歯車にならない。
「こんにちは」
「どちら様かや?」
――――――――ずざざざざ! 私は
勢い余って
私もまだまだだ。じーちゃんとの将棋に集中し過ぎて、他人の気配に気付かなかった。
じーちゃんは流石。穏やかな笑みを浮かべて、突然の訪問者に対応している。
「初めまして。僕は神木くんのクラスメイトで、神木くんの恋人です」
「なななななななななななななななんだってええええ!!?」
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