第6話



 私はとても優秀すぎる。何故か?

 問題を全て解決するからだ。



 じーちゃんは昨日の夜に無事に帰ってきた。本気でビビったから、ちゃんと連絡するように注意した。


 私は祖父がいなくなったら天涯孤独になる。私は祖父が大好きだ。ずっと元気に長生きしてほしい。



 おっと、その前に自己紹介をしよう。

 私は神木空海かみきそみ


 どうだ? 名からして偉大過ぎるだろう?

 え? 『そみ』ってキラキラネームだって!?

 けしからん! そんな偏見はよくないぞ!



 今の時代は『風の時代』なんだ。個性があって良し。『土の時代』のように耐えて堪えてなどとSMプレイをしなくていいのだ。


 自分に正直に生きるべし! 自分大好き人間がこれからの時代を創るのだ!


 え? 『べし』が古い? 昭和か?

 何を言う!? 昭和も良い時代だぞ!

 いや、私は平成生まれだ。何か?


 まあ、しかし『決めつけ』はよくないぞ。やんわりと柔軟に。クラゲのようにフラフラして溶けてはいかんぞ!



 私は『呪い』に囚われていた。

 『自分が決めた厳しいルール』を守るために嫌な思いを散々した。

 今はもう、『呪い』から解放され『自由』だ。


 昨日と今日で言動が違う! それが『風の時代』の代名詞かもしれない。


 私は自分の道を曲げないように歩いていた。息が出来ないほどに酷く苦しかった。

 それが無駄とは思いたくない。

 苦難を乗り越えたからこそ、視える景色がある。そう、信じる。



「ねえ神木くん、また独り言?」



 私に話かけてきたのは花村林檎はなむらりんご。赤い髪はツインテールで頭の上にはエメラルドブルーのリボンがある。


 今日は木曜日。天気はどんよりと曇っていた。一限目の授業がさっき終わったところだ。午後から雨らしい。


 昨日の夕方から林檎は私のストーカーになったらしい。

 今朝登校したら林檎からいきなり挨拶をされた。びっくりし過ぎてぶっ飛んだ私は壁に激突した。


 なので今は鼻にティッシュを詰めている。鼻血が止まらんのだ。仕方ないだろう! けっして変態ではない!! 断じて違う!!!


 林檎は見るからにスクールカーストの上位層だ。ちなみに私は下位層の末端だ。有り難く『論外』という扱いなのでイジメられずに済んでいる。本当に有り難い!!!


 論外万歳!!!



 はあ。しかし……問題があるのだ。


 今は中学二年生の七月。何故か今週の月曜から花村林檎が俺に眼で圧力をかけてくる。

 これはこの上なくキナ臭い。全力でATフィールドだ!!!



「神木くん? 『底辺ていへん』のクセに僕のこと無視するんだ?」



 林檎が腕組をしながら文句を言う。授業と授業の間にある十分休憩。林檎は私の席の前に佇んでいる。

 

 ちょっと待て。約束はしたが約束の内容に相違があるだろう!?

 林檎が口にした約束は『学校から出たら会話をしましょう』だったはず。しかし今の林檎の台詞は『僕が話しかけたら会話するべし!』に上書き保存されていた。


 た、確かに私は底辺だ。そこは否定しないが『底辺には人権がない!』には同意ができない。



 底辺は安全だ。私は去年中学一年生だった。入学当初はスクールカーストの中位層だった。

 上位層の策略により下位層に転落し散々な学園生活を送った。


 ひたすら我慢した。ひたすら辛抱した。今年の春に中学二年生になった。スクールカーストに怯えながら登校した。



 そこには『空気』という席が準備されていた。普通に私の机と椅子がある。購買部でパンが買えて普通に食べられる。


 ただ『誰とも関わらない』。そのルールを遂行すれば私は平穏に過ごせた。まるで透明人間のようだ。教師も空気を読んで私に全く関わらない。



 私は通路側の一番後の席だ。通路側の窓越しに廊下を進む生徒達からの視線が降り注ぐ。教室の中からもたくさんの視線が刺さる。スクールカーストの上位層の花村林檎が私に関わっている。


 それは由々ゆゆしき事態だ。私は『空気』なのだ。私は自分の席に座ったまま、前にある黒板を見ていた。しかし今は、私の前には花村林檎がいる。私の顔をガン見している。


 私は身の危険を感じ席を立つ。とりあえずトイレに避難するか。あろうことか花村林檎が私の後を追ってくる。ゾンビに襲われるレベルのホラーだ。



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