第5話
「林檎、君はマジシャンだったのか。なかなかびっくりしたぞ。心臓が一度粉々に
「あは♡ 学校でもそれくらい堂々とすればいいよ♡ 仕方ないから僕が神木くんのこと、守ってあげるよ♡」
真夏の晴れ渡る空と
どうせ汚れているから、まあいいかと思い私は地面にあぐらをかく。先程まで我が家には木造りの門があったが林檎に壊されてしまった。そのお陰で外から生温い風が吹く。
林檎の緑色のワンピースの
「何を言う? 私は
「昭和の考え?
林檎は敷地内にある大きな石の上に腰を下ろす。足をぴったりとくっつけているから、残念ながらスカートの中は見えない。
「違う。家事が出来る男児は魅力的で、仕事の出来る女子は
花村林檎。髪は肩につくくらいの短さで、器用に頭の上でツインテールにしている。鮮やかな赤い髪にはエメラルドブルーの大きなリボンがあり、やたら目立つ。
小顔に不似合いな大きな
いつぶりだろうか。私が誰に興味を持つのは。
去年の今頃は地獄の真っ
負けないように歯を食いしばりながら毎日登校した。今でも寝ると悪夢に襲われる。ふとした時にフラッシュバックを起こし私を
私は立派な
林檎も私を
私は
「じゃあ? 赤ちゃんを産めない女性は?」
「
それは
私はじっと林檎を睨む。私は林檎のことを全く知らない。どうやって林檎を信用するか。
林檎の雰囲気は不思議で真意をはかるのは難しい。何か理由があって私に近付いたに違いない。
林檎の瞳から
私の知らないところで、林檎を傷付けていたのかもしれない。林檎はその恨みを晴らすために暴君を
「『背景に色々』って?」
「例えばだぞ? 少女時代に暴行されてトラウマになり男性恐怖症になった。他にも女子校ばかりに通い男性との接点がなく育つと女性を好きになる。とかな」
久しぶりだ。祖父以外とこんなに長く会話をしたのは。変な
緊張のどきどきなのか心配のドキドキなのかわからない。ただ私の
林檎の顔を見るのがどうしても恐くなった。じわじわと恐怖に
押し寄せてくる不安を振り払うように私は空を眺めた。今日は
『
こう言うとまるで祖父が
ありゃ? そーいえば、じーちゃん今日は家にいないのか? いつもならそこの畑で仕事をしている時間だ。
私は立ち上がり、周りに祖父がいないか視線を巡らせる。
「『選べる立場』ってなに?」
「まずは選べない立場。子供が欲しいけど授からない。男運が最悪で結婚が出来ない。それを
結婚したいとプロポーズをされてもその女性にとっては、『今は仕事が一番』だったら結婚しないだろう。また結婚しても『夫婦で一生仲良く恋人のようにいたい』と考えて、子供を作らないと選択することもある」
「『男性が責任と義務を果たしても家庭が崩壊する』って、具体的に教えて?」
「
話を戻すぞ。『夫は大金をくれる。生活の保証はされる。証明書類の記入や手続きをする。子供の行事に参加する』それで、最低限の責任と義務は果たしているかもしれない。林檎、この家庭は幸せだろうか?」
時間と言えばもうちょいしたら、私は
じーちゃんどこ行った? スマホ見たけど連絡ないじゃん。
じーちゃん心配だな。たまにギックリ腰やるからな。探しに行くか?
私は林檎に声だけで答える。林檎を見ずにキョロキョロと庭を探したり、玄関から「じーちゃん!!」と叫んでいる。
「どうかな。価値観はそれぞれだし。まあ、僕は小さな頃は話を聞いてほしかったな」
「その通りだ。『コミュニケーション』がないだろ? 夫は外で浮気して妻はワンオペ育児だ。熟年離婚まっしぐらだ。『話し合い』そして、『協力』することだ。夫婦仲が良いと絶対に子供に優しく暖かく出来るだろう。家庭も幸せらしい。
『子供第一』という
「ねえ、
「うぬぬぬ。私も途中から何の話をしていたのか、わからなくなった」
「あは♡ 神木くんって独り言が多いよね」
「は? これは独り言だったのか?」
「神木くん、僕の名前、覚えたかな?」
「林檎だろ?」
いつまでも林檎と喋っている時間はない。林檎が立ち去るように
そうしたら何故か、林檎は凄く嬉しそうな表情を
そうか。林檎は容姿だけなら、めちゃめちゃ可愛いんだな。すとん……と私の心の中に何かが落ちてきた。
「神木くん、忙しいみたいだからまた明日ね♡ バイバイ♡」
嵐のような林檎が去って行く。残ったのは林檎に壊された我が家の門。私は溜息を吐いた。
忙しい私に仕事が増えた。夕刊をマッハで終えて、じーちゃんを
夕食後にじーちゃんと
それから門の残りを完成させる。勉強や家事をして寝る。夜中に起きて
毎日慌ただしく忙しい。生まれて死ぬまで一生勉強だ。学校に通わなくなっても学ぶことは山程ある。
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