・早乙女 梟SIDE

 熱い熱い熱い体が熱い体が融ける熱い熱い体が溶ける熱い熱い熱い体が解ける熱い融ける体が溶ける熱い解ける!

 熱の痛みと蒸し返すような暑さで、私の意識は朦朧となる。脱水症状にも似た虚脱感。それでいてフルマラソンを走り切った後のような、ある種爽快感を伴う脱力感で、私の意識は曖昧模糊となっていた。しかし、それでも、私の目はある一点に向けられている。

 満身創痍。右腕は綺麗に切断され、下半身も消失。まだライフがぎりぎりゼロになっておらず、SWOW上にログインし続けているのが不思議なぐらいの、あるプレイヤーキャラクターだ。硝煙をその体から立ち上らせ、それでもなお左腕で体を起こし、そのキャラクターは私の方に顔を向ける。瀕死でありながら、それでもその目に灯る意志の強さから、私はそのキャラクターのプレイヤーが誰なのか、理解した。

《……令恵ちゃん、だよね?》

 思わず実名を呼んでしまうが、別に構わないだろう。令恵ちゃんたちの攻撃を受けた時、葛西臨海水族園付近に存在するプレイヤーキャラクターは存在していなかったし、もし彼女たちの様に水中に潜っていたとしても、Poliucos_132-134(私)の体が隕石の様に落下して生まれた、無作為に炸裂させ続けた狂暴な暴力の前に、絶滅しているはずだ。

 Poliucos_132-134(私)がこれ程までに破損してしまったのは、偏に私のミスだ。『アイギス』と体を同化させたため、破壊された『アイギス』のダメージが他の装備品にも伝播。結果破壊と破滅と潰滅の三重奏に見舞われ、猛火と烈火と劫火に見舞われて、今の様な窮状に陥ってしまっている。この状況でライフが残っているのは、奇跡的と言ってもいい。

 しかし奇跡的であれ何であれ、それでも私は生き残っている。だからこそまだ辛うじて繋がっていた左の砲門で、令恵ちゃんたちを攻撃する事が出来たのだ。

《梟、ちゃん……》

 令恵ちゃんが、弱々しく喘ぐ。体に残る熱で、ダメージをまだ受けているのだ。それは私も全く同じで、身動きが取れないのも、二人一緒だ。

《ここ、は、シー、ウィン、ド?》

《そう、だね》

 私たちが今いる場所を確認する様に、令恵ちゃんが言葉を絞り出す。その声は、もはや断末魔に等しい。そんな今わの際にいる彼女に、私は言った。

《勝……たよ……》

 主語は言わない。言わなくても、誰の目から見ても、私の目で見なくても、結果はわかっている。

 私がログインしてから、後三分。三分経てば、私がログインしてから一時間経つ。当然、たっくんに変更された時刻は、移動する電車の中で元に戻している。そして腕を動かす力がもう残っていない私でも、私のライフは、後五分以上は確実に持つ。だから、三分経てば、私の勝ちだ。

 他のプレイヤーがSWOWカフェや、他のREDGカフェから、今からログインする事も出来なくはない。でも、この場所に移動するには、どんなに早くても五分はかかる。

 この場所に直接ログインするプレイヤーがいるかもしれないが、葛西臨海水族園で待機していたとしても、Poliucos_132-134が落とされるような状況を想定できるはずがないし、出来たとしても、プレイヤーが令恵ちゃん以外残っていないSWOW上の江戸川区の状況を、把握する事なんて不可能だ。瀕死の私たちが葛西臨海水族園のシーウィンドで横たわる。そんな決着、一体誰が想定できると言うのだろう?

 それなのに。

《聞――え――?》

 もうライフがゼロになり、ログアウト寸前の令恵ちゃんは、どうしてそんな風に笑えるのだろう? そしてどうしてこのタイミングで、自分の残る頭部と左腕の装備品を変換し、一番弱い、しかし確かに武器となる装備品(ハンドガン)に変えるのだろう?

 その答えは、今私の目の前にある。

 新たなプレイヤーが、ログインしたのだ。

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